・18 「魔空戦弾」(上)(下) 門田泰明

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・18 目からビーム!! 【小説】・「魔空戦弾」(上)(下) 門田泰明(1996、光文社文庫) [amazon]

・目からビーム!!
ひたすらに脱力ものの1冊。1985〜86年に、1巻、2巻としてトクマノベルズから刊行されたものが文庫化された。が、そのような事実は光文社文庫版には書いてない(ひどい)。

雑賀コンツェルンの総帥、雑賀与四郎は、企業内クーデターにあってその座を追われ、生死に関わる心臓病を患っている三十五歳の息子・呑龍(どんりゅう)と二人、ひっそりと暮らしていた。
ある晩、呑龍は不思議な光球から老人の声を聞き、そこから怪光線を浴びて不死身の身体に変身した。
だが、それを報告すべき父親は何者かに殺された後だった。

父殺害の謎を追って、超人間となった呑龍の戦いが始まった。

「UFOから不思議な光を浴びて、目から怪光線を出せるようになった男が怪人と戦う」という小説があると聞いたのは、本書が最初に刊行された年の翌々年だったと思う。 「もうほんとにしょーもないんだよなー」的な口調で語られていた。みんな笑った。私も笑った。
また、作者の門田泰明は「特命武装検事・黒木豹介」シリーズ、略称「黒豹シリーズ」[amazon]が有名だが、同シリーズは同時にトンデモなシリーズとして名前を聞いてはいた。

通常、トンデモない小説は読後の徒労感がたいへんなことになる場合があるためほとんど手を出さないのだが、何ていうんですかねー、刊行後十数年経って魔がさしたっていうんですか? 読んでしまいましたよ。

たいへんでしたわ。とにかく、ツッコミが千億回は入れられるが、同時に「入れてどうする」とも思える話だった。

・上巻
呑龍は父の死の謎を追うが、その過程で、通常の人間よりははるかに強靱な肉体を持ち、目も鼻も口もなく額に銀色の目玉みたいのがひとつあるだけ、という怪人たちと戦うことになる。
呑龍は時速百キロくらいのスピードで走ったり、目から光線を出して敵をやっつける。傷ついても、青い汗が出てそれを浴びるとすぐに治ってしまう。

呑龍は、父の元秘書であり愛人である女性を愛するようになる。その娘(つまり呑龍の腹違いの妹)は、生まれつき耳が聞こえなかったが、彼の青い汗を耳の中に入れたら耳が聞こえるようになった。

……もうここらであらすじ書くのヤメ。呑龍はその超能力は大味だわ、事件の捜査も大味だわ、捜査しているうちにすぐ後をつけられるわ、敵の超人間も実に面白味のないやつだわ、目から怪光線は出すわ(しかも色違いの)、何というか、風情としては手塚治虫以前、あるいは手塚治虫大活躍時に、手塚以前のセンスしか持ち合わせなかったマンガ家のダメダメな部分を凝縮するとこうなると思う。
暴かれる真相も、あまりの新味のなさに思わず本を取り落としそうになった。

夢の中で逃げ回って目が覚めたときのような徒労感を感じる1冊。

・下巻
まあ、最初のうちは下巻の方がまだマシではある。

雑賀呑龍は、亡き父を放逐した重役たちをどうにかしてやっつけ、自分自身が雑賀コンツェルンのオーナーにおさまっていた。ちなみに、どうやってやっつけたのか、単に「創業者の息子」でしかない彼がどのように残った重役たちにカリスマ性を誇示しえたのかの説明はほとんどなし。
彼は愛艇「シードラゴン」に乗り、一人大海原を航行していたが、房総半島沖で、体長5メートルくらいでものすごい水の渦を起こすことができる謎の海獣たちと出会う。そいつらが暴れ回り、海辺のホテルを破壊したりしてわーわーどんどんやる。
その謎を追って、いろいろ調べる呑龍。
調べているうちに、大量のダイヤモンドを積んだ船が不可解な沈没をしていることを知る。
呑龍は、その捜査に向かう。
ここまでは、前回と似たような展開。

で、沈没船を調べるために海底に潜る呑龍。当然、超人なので酸素ボンベなどは持たないで素潜りだ。
6000メートルもの海底にたどりつくと、そこには沈没した船と、巨大海底ドームがあった。ドームの下は、北海道に酷似した地形と都市があった。
(ここから、話がわけわからなくなってくる)

どうにかしてドーム内に入った呑龍。そこは、男女がみんな全裸で暮らしている謎の村だった。
わけがわからないまま村の長老の世話になり、そこから出ていく呑龍。どんな魔術か、あっという間に東京に戻るが、そこは地上の東京ではなく海底の東京であった。
自宅に戻ると、死んだはずの父も母も生きていて、自分は北海道で遭難して死んだことになっていた。
どうやら、自分がたどり着いた海底の村は、海底人の死者が住むところらしかった。

それでまあ細かいところは忘れたが、冒頭にあらわれた海獣とは違う魔獣が現れて、街を暴れ回ったりするのと戦う呑龍。魔獣があらわれると、時空がゆがんでそこらじゅうの人がファックしたりする。
魔獣を追って不思議な世界(最初に行った村とは別)にたどりつくと、そこは血の池地獄で、魔獣が海底人をさらってきては血を流させ、それを溜めて血の池にしているところであった。
海底人の地獄みたいなところだが、苦しくて自殺するとさらに虚無の世界に落とされてしまうという。

呑龍は、肉弾戦でガッコンガッコンに魔獣をやっつけ、地獄の人々(海底人)を解放する。
しかし、その海底人の中に、海底人類の陰謀に気づいているやつがいて、そいつは仲間の海底人に殺されてしまう。
ちなみに、呑龍は彼を青い汗を使って生き返らせてやろうとはしなかった(ひどい)。

ここでやっと、6000メートルの海底にドームをつくって住む海底人が、ドームをつくるのにダイヤモンドが必要なのでそれを積んだ船を襲って沈没させたとか、地上世界を模倣して海底世界をつくっているからこんなに地上とそっくりなのだとか、ドームの維持ができなくなったので地上を攻撃しようとしていることなどが明らかになる。

ちょっと待て。じゃあ呑龍そっくりの男がいたというのはどういうわけだ?
私が読んだかぎりでは、説明、なーし!
しかも、作者が忘れてしまったわけではなく、何度も当初の設定を思い出すかのような描写が出てくる。しかし、それを承知の上でどんどん話が進んでいく。
あげくにはつじつま合わせのために、呑龍そっくりの男は海底に二人いたことになってしまう。なぜ二人いたのかの説明はなし。

呑龍は一人でがっつんがっつんに戦って、自分の両親とそっくりの人がいようが知人とそっくりの人がいようが「地上を征服しようとする海底人は許せん!」ということで、ドームを破壊して海底国を壊滅させる。
そんな深海のドームが壊れたら、ふりかかってくる水圧はものすごいものだと思うが、呑龍は超人なので何とか助かった。

海底人の軍隊はすでにドームを離れて(テレポーテーショ装置ンみたいのを使って)、魔獣のエネルギーを人間に注入して、海獣に変身できる生体改造人間(要するに、冒頭に出てきた海獣はこいつら)や超兵器を使って東京を攻撃していた。

地上にあがった呑龍は、その超人的な力で自衛隊でもかなわなかった地上にあがった海底人たちも一人で全員ぶち倒して、めでたしめでたし。

ちなみに、呑龍に超人的な力を与えた光の謎の説明はなし、
なぜ海底に人が住んでいるのかの説明もなし、
その彼らがなぜ人間までそっくり地上人の模倣をしていたのかの説明もなし、
なぜ海底人のあの世みたいなものが出てきたのかの説明もなし。

あって見落としている可能性もあるが、とにかく読み返す気がしないし読み返しても仕方がないと思う。
このテキストの冒頭、「まだ上巻よりマシ」と書いたが、読んでいくうちにその感触がつじつまの合わなさによって徐々に裏切られていく過程は、どんな表現を使っても表現しきれない。っていうか、こういうつじつまの合わなさというのは何なんだろう。気が狂う。
(03.0918)



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