断片


魔人ブウ  「魔人ブウ」の近くには、オタクの世界では有名な古本屋やグッズショップが軒を連ねるビルがある。
 客の多くはそのビルで買い物をしたあと、重い紙袋をぶら下げてやってくる。
 店にはドレスコードがあり、頼もしすぎるくらいにふくよかな人物しか入店できない。入口には体重計が置かれ、100kgを超えた客は最初の指名料がフリーになる特典が用意されている。
 店は地下にあるのだが、一旦4階まで階段を登ってからでないと入れないという無駄な構造になっている。というのも、客の心拍数を上げてゼイゼイいわすためである。
 心拍数を上げさせるのには二つの狙いがある。
 動悸の高まりを恋と錯覚してしまう、いわゆる「吊り橋効果」によってテーブルについたキャバ嬢に対してときめいていると錯覚させるというのが一つ。
 もう一つの、より重要な狙いは客を汗臭くして女の子を嫌がらせるためだ。
 地下なのでただでさえ湿気が多いし、空調も生ぬるい。そこへもってきて体温の上がったデカブツが次々とやって来るので酸っぱい匂いがする。
 夏など、フェイクファー仕上げのソファはじっとり湿っているし、汗ばんだ肌が触れ合ったりするとぬるぬるしてたまらない。
 おまけに一階はラーメン屋なので、ドアが開く度にとんこつとサバ節のにおいが入ってくる。
 酒のアテにも揚げ物だのホッケだのピザだのキムチだの、居酒屋みたいなくどいメニューばかりが並ぶ。
 甘い飲み物だけはやたらとキンキンに冷えている。それはお客様に大量の糖分をむりなく補給していただくための方便で、ぬるくなったらとても飲めないくらいのガムシロップが混入されている。
 楽しくおしゃべり、などという雰囲気はほとんどない。客はモノを喰ってたり、黙っていたり、ゼーハーしてたりむーむー言っている時間がとても長い。
 すべてのテーブルで会話が途切れてしまうこともしばしば起こる。
 するといつも変わらない「ユーロビート ベスト vol.8」のジャストでせっかちなビートが脅迫的に響きわたる。
 たいへん居心地が悪いのでしょうがなく喋りはじめるのだが、話題はほとんどない。
 ごくまれにオタク的な趣味を持つ女の子がいて、共通の話題で盛り上がったりする瞬間もないではないが、盛り上がったところで場内アナウンスが別の席へ移動するよう促される。
 キャバ嬢はいちおう店の用意した衣装を使ってコスプレをしているのだが、これが中途半端でパチモノくさい代物で、オタクの心をささくれ立たせずにはおかない。その衣装について長々と文句をたれる客は後を絶たず、トラブルのタネになっているのだが一向に改善されない。
 評判が芳しくないとはいえ、いちおうコスプレではあり、コスプレならなんでもいいというカメラ小僧の客も時々はやってきて、場違いなフラッシュを焚いてひんしゅくを買ったりもする。
 店は倦怠感が支配している。人数が足りていないから、皆毎日出ずっぱりで疲弊してもいる。従業員も女の子もやるせない雰囲気にどっぷり浸り、心のなかで「ブーデー、きしょい、オタク、きもい」と繰り返している。
 今日も、キャバスケが客の逆鱗に触れてしまったらしい。肥満のため内臓をやられているらしく顔色が妙に赤黒い男が濁音で罵り、女の子はあうあう言って回りに助けを求めている。
 マネージャーがなんとか客にとりなし、女を支配人室に連れて下がったが、運悪く、そこにはオーナーがいた。
 「魔人ブウ」は彼が利潤度外視でこしらえた地獄だ。金は他のチェーン店で稼ぐ。この店はただ趣味のためにある。
 支配人室のスモークガラスを通して、フロアでの不始末を鷹のような目で見ていた彼は、娘に責め始める。
「あの方はいいお得意さんなんだよ!それをなんだ、おまえはよう!」
 怒鳴り付け、至極まっとうかつ苛烈な説教を始めたが、遊びでやっている店なので従業員が不始末をしようが、売り上げが落ちようが本当はどうでもいい。
 娘はしおらしい顔をして下を向いているが、反省などうわべだけなのはよく分かっている。心の中では「こんなアホな店で働いてられっかよ」と思っている。
 一瞬でそれを見抜いたオーナーは説教もそこそこに、異言を吐きちらしながら、持っていたステッキで娘をつっつきはじめた。
 嫌な客、おかしなオーナー、つらい仕事。しかし彼女たちには逃げる術はない。
この店にいるのは、他の店でのバンスがふくらんで、にっちもさっちもいかない女ばかりだ。それに、やり手のオーナーは水商売の世界に圧倒的な権力を持ち、暴力団とのつながりも深い。逃げるなら命がけだ。
 オーナーはもう娘のことはすぐに忘れた。リノリウムの床の上で軽快なタップを披露しながら、名高いキャバレー王、福富太郎時正に思いを馳せる。
 福富太郎時正。キャバレーチェーンで巨万の財を成した立志伝中の人物。水商売に携わる者すべての憧れといってもいい。
 その彼の伝説のザナドゥ、元祖「魔人ブウ」。気まぐれに作られた地獄。
 福富の謎の失踪にはキャバクラ「魔人ブウ」が深く関係しているといわれている。
 曰く、あまりの待遇の悪さに怒り狂った従業員による反乱劇の結果であるとか、福富が従業員を恐怖で支配するために用意した爆発物の誤爆であるとか。あるいは、「魔人ブウ」にたちこめる暗黒の気が魔物を呼び、福富は頭から喰われてしまった等。
 そんなゲンの良くない店をわざわざ模しているのは、いつかは福富を越えたいというオーナーの意志の現れなのだ、と解されている。
 けれども、迷信深い同業者にいわせれば、「魔人ブウ」こそはキャバレー神の祭壇であり、そこで行われる営業活動はすべて儀式である。やがて魔人が現われて、選ばれし光の戦士であるオーナーに神通力を授け、キャバレー神の栄光をこの地上に顕すだろうということだ。その時すべての者は癒され、もはやキャバクラに行ってつまらん思いをして、心の平安を乱されることはなくなるのだという。

文字の果  彼の画家としてキャリアは、彼が最も愛したモデルの死とともに終わった、と一般には言われている。確かに連作「K」は、モチーフへの愛がまざまざと伝わってくる佳作であり、そのモチーフがいなくなってすぐ、彼は巨大な喪失感を抱えて中央画壇から去った。
 多くの人が、彼のことを終わったと考えたとしても無理のないことだった。
 けれども、彼は創作意欲を完全に失ったわけではなかったし、連作「K」以後にも作品を残している。
 ひどく落ち込み、さして強くもない酒をあおり続け、別荘にとじこもって廃人同然の暮らしを続けていた彼は、思わぬきっかけで立ち直る。
 宿酔の最中に彼は一冊の本を偶然手にし、読み始めた。
 アルコールに浸された脳は、ひどい調子だったので、何度も同じ頁をいきつ戻りつした上に、書いてあることはほとんどなにも理解できなかった。
 何日も何日も、彼は酒を呑みながらその本を読み続けた。どこまで読んだのかもすぐ忘れてしまい、最初から読み直したりなどしたので、いつまでたっても読み終わらなかった。
 そのうちに、素面の時にもその本を読むのが癖になった。
 読むというよりは眺めるという方がより適切かもしれない。すでに本に書いてある内容を理解しようとは思わなくなっていた。
 そのかわりに表現したい、という意欲がもどってきた。そこにはかつて「K」に取り組んだ時に似た情熱があった。不健康な生活も改めた。
 100号のキャンパスに、得意の厚塗りで陰影深く表現されたのは、文字だった。ひときわ大きな「ふ」の字を中心に配置された数々の文字。背景は彼が滞在していた別荘からの景観だが、よく観るとそこにも小さな文字が無数に描かれている。
 それは暗号なのかもしれない、と疑ってみた者も何人かいたが、解読したという話は聞かない。
 彼は、以前の彼と遜色ないペースで次々と作品を仕上げていった。いずれも「ふ」の字を大きくあしらった作品で、無題だった。
 作品ができたという話を聞いて、付き合いのあった画商がやって来た。しかし、作風の変化を受け入れなかったので、取引はならなかった。
 それでも彼は平気だった。さらにペースを上げて描いた。
 理解を超えて本を眺める内に、彼は文字のイデアを発見したのだ。文字列を積分して意味をなさしめるかわりに、彼は微分した彼なりの真髄に至った。
 彼にとって文字はもはや記号ではなかった。人間と同じかそれ以上だった。
 愛すべき文字。唾棄すべき文字。象形文字の出自を越えて、今そこにある文字の形が彼に訴えかける。本の頁をめくる度、文字たちの織り成すドラマが彼の前に現れた。
 そして「ふ」の字に恋をした。だから、恋人に接するように、「ふ」の字を巡る思いを自分のできる最高の方法で現わしたかった。
 「ふ」「ぬ」「濤」「張」「。」様々な文字、様々な記号。
 それらを望ましい場所に配置し、ふさわしい彩りを与えてやる。キャンバスの上に自由な大きさ、自由な角度で配置される文字たち。行儀正しく格子状に置かれるよりも全然素敵じゃないか。それに油彩の質感は、印刷の黒いシミなどとはもちろん比べ物にならない。
 文字と彼との蜜月は、彼が困窮の果てに病死するまで続いた。

ガルガン  半島南部の住人は、祭り好きなことで知られている。
 7月も半ばを過ぎると、神社や寺を中心としてあちこちでお囃子が鳴り、山車や御輿が往来を我が物顔に通る。
 私たちの町では、毎年8月になるとこの半島で一番大きな祭りが催される。
 海岸沿いの国道は通行止めになり、両脇に夜店が軒を連ねる。
 街路に吊るされた白熱灯で照らし出される夜店をしきるのは愛想がよくていなせなヤクザ者たちである。老人が店番つとめるこの界隈の商店街ではついぞ聞かれない威勢のよい声がしきりに発せられる。
 闇が深くなる夜7時くらいになると、花火が夜空を彩り始める。
 港町なので皆、海岸に机や椅子を並べ、酒を呑みながら夜空を見上げる。
 空気を震わす大音量と、街灯に照らされた硝煙が始まりの合図だ。
 時を同じくしてフラメンコが流れ始める。どういうわけかこの町を挙げてはラテンフレーバーを導入する気運が高まっており、駅前の街作りからして南欧風にしようと試みている。
 フラメンコだけではあきたらずサンバが続く。サンバで練り歩きつつ、野球拳をするのが本場とは全然違うところだが、これは当然ながらフラメンコよりもはるかに盛り上がる。
 賑々しい雰囲気に誘われて、祭りに足を運ぶ人の数は普段の人口の5倍からだ。海岸通りから溢れた人の波は、あまねく路地へと拡がっていく。
 モータリゼーションの影響で、普段は、歩いている人はほとんどいない。特に若者となると、全くと言っていいほど見掛けない。
 若者たちは自動車に棲んでいるに違いなく、狭い道路に合わせて軽自動車に住んでいる若い女性たちがこの夜はいっせいに歩き出す。
 海辺の湿った空気は昼間の火照りを後生大事に抱え込み、明け方近くまで離さない。
 どろりとした闇は服から露出した肌を淫猥に撫でる。
 祭りの夜のことはすべてなかったことになるので、すごいことになる。
 情熱にまかせて、名も知らぬ相手と束の間のアバンチュールを楽しんでもいいし、横恋慕している相手に思いを遂げてもいい。誰からも愛されない変わり者を気まぐれに構ってやったっていい。
 人混みの中ではぐれてしまった恋人たちも心配することはない。すぐに別の恋人が現れる。
 遙か昔には、ギルガメッシュとエンキドゥという若者が町中のあらゆる女性と少年を犯して回ったといいつたえられている。
 無論それはきわめて稀な例であり、だからこそ伝説となっているのだろう。
 広く知られているように生殖の見地からは女性の方が遙かに強壮である。
 昆虫を先祖に持つこの近辺の住民においてはそれは顕著で、行為の果てに相手の男性を食い殺してしまうのも珍しいことではない。

めしや  昼の営業は午前11時から午後2時と、味も素っ気もない看板に書いてある。
 引き戸を開けるとすぐそこが座席だ。
 席といっても三坪ほどの店だから、カウンターにスツールが7脚あるだけ。私は左利きなので、他の客がいなければ左端の席に座ることにしている。
 早目にいけばまず満席ということはない。
 カウンターの中の主人は「はい、らっしゃい」と言いながら、忙しく準備をしている。
 昼飯のメニューは鯖味噌定食しかないのだが、一応「鯖味噌一つ」と注文する。多分注文しなくても、「何になさいますか」と聞かれることなどないだろう。
 壁に張ってあるお品書きは夜の営業用だ。冷奴とか枝豆とかそんな感じ。もちろん「鯖味噌」も短冊の一つに書いてある。つまみの種類はそれほど多くない。酒も、ボトルキープの棚には焼酎しか並んでいない。
 カウンターにはあらかじめ盆が置いてあり、その上に箸。待つほどもなく、そこに作り置きの小鉢が一品と冷奴が登場する。
 小鉢の内容は日によって違う。冷奴は、バットに入れた大きな塊からスプーンで二、三片えぐり取って供される。薬味はかつお節とネギとおろし生姜で、主な成分は醤油だと思われるタレがかかっている。
 豆腐を食べ終わる前にご飯と味噌汁と香の物が出てくる。
 ご飯はちょっと大きめの茶わんに盛られている。茶わんはごく薄く、瀬戸物屋の軒先でどれでもひとつ百円で売っていそうな類のものだ。
 見た感じはかなり盛りがいい。「軽く盛ってありますのでおかわりして下さい」と毎度言われる。他の客がおかわりしているのは見るが、私はおかわりに及んだことはない。食って食えないことはないが、満腹から来る眠気で午後の仕事に差し支えるような気がするからだ。
 普通の電気釜で炊いているようなのだが、これが実にうまい。開店直後なので炊きたてだというのもあろうが、どうも主人が米どころの生まれで、実家からいい米を持って来ているらしい。
 定食の命はご飯に尽きる、と信じてやまない私としてはこれだけでも文句なしの合格なのだが、一緒に出てくる味噌汁がまたたまらない。具はいつも決まってシジミ。酒飲みであり、年中宿酔なためか、シジミの味噌汁への愛は並々ならぬものがあるのだが、ここのは特にうまい。
 うまさの原因は、主人の仕事を見ていればわかる。
 よくダシの出た白っぽく濁るシジミ汁を小鍋に移して温め、お玉に掬った味噌を溶き、ジャラジャラ音を立てて混ぜる。それだけのことではあるが、それを客が来る度にやるのだ。
 作り置きと作りたての差は大きい。何より味噌汁は沸騰させてはいけないものだから、作り置きするためにはちょっと温度を下げなければならない。その違いは安物の塗りの椀を手渡された時にはっきりとわかる。思わずうめいてしまうほどに熱い。
 いつだったか「あっち〜」と言いながら椀を受け取ったら、「熱すぎるって怒るお客さんがいてねえ」と主人が笑っていた。サービスの価値のわからぬアホな客だ。熱いからこそうまいのだ。
 アサツキを散らした味噌汁はちょっと赤味噌が濃い目。この濃さが汁の沸点を上げているからこんなに熱いのかもしれない。味自体は別にしょっぱくない。ご飯にほどよく合う塩加減だ。
 このあたりで狭い盆の上はほとんどいっぱいになってしまうし、ここまで出てきたもので昼飯を済ましたいような気持ちもあるのだが、鯖味噌定食なので当然鯖味噌が出てくる。無論、期待を裏切らない。
 四角い皿に鯖味噌を盛るときに、主人は「若いから大きめで」とか言ってくれたりする。いったいどのくらいの歳になったら若いと言われなくなるのかな、と思いながら皿を受け取る。
 真鍮の鍋で温められた鯖味噌は「骨、まで、食べられます」との主人の言葉通り中骨まで食べられる柔らかさだ。
 時々料理をする私は、家庭でもうまい鯖味噌を食べてみたかったので、その秘訣を訊ねてみた。
 主人が言うには、青魚は皆、煮れば骨まで柔らかくなるそうだ。ただし時間がかかるとのこと。圧力鍋を使う必要も別にないという。薄味で一度煮てから一晩置き、食べる前に味を決めてもう一度煮るといいそうだ。残念ながら、私はまだ成功していない。実は客には明かせぬ秘密が他にあるのかもしれないなどと邪推している。
 料理には食べるに適した温度がある。そしてその温度とは出された時の温度、と狂信する私は能う限りの速度で食べ進める。その際、すべての鉢なり皿なりを均等に片付けていくのが格好いいんじゃないか?
 実は味噌があまり好きではなかった私だが、この店には負けた。味噌汁といい、鯖味噌といい、喉から食道から胃に達する、どっしりした満足感を与えてくれる。舌先だけの快感に終わらない。
 お茶をすすって味噌味に別れを告げていると、主人は季節の果物を一切れ出してくれる。
 途端に口の中はさっぱりし、素晴らしい鯖味噌定食は瞬間に美しい記憶になる。
 勘定は笑ってしまうくらい安くて、金を払う度にこの店はこのままやっていけるのか心配になる。

アイドルの写真集  本のタイトルは発音記号で表記されている。英単語ではなさそうだ。フランス語とかスペイン語などのラテン系の言葉かもしれない。もしかすると撮影の場所となった島だか半島だかの言語かもしれないとも思うが、特に詮索はしない。
 表紙には少女の全身像が使われている。ふんだんな日ざしが注いでいるに違いない場所でビキニの彼女が快活な笑顔を披露している。
 オマケの図版でもあるか期待してカバーをめくってみると味気ない白い表紙があるだけ。厚くて固い表紙の裏側にもなにもなし。
 扉頁には、女の子の姿はなく、風景だけのカット。頁の中央やや上に、写真集のタイトルが再び記されている。その下にその意味が解説する文章。一応は意味を理解はするが、頁を繰ればすぐ忘れてしまう。
 見開き頁に砂浜。エキゾチックな原色のドレスをまとった彼女は中央やや左側にいる。半身の姿勢に身を翻し、いたずらっぽい微笑みを浮かべ、誘うような逃げるようなステップを踏んでいる瞬間の映像。
 元気溌剌なキャラクターを前面に出した躍動的な構図の写真がしばらく続く。
 水とたわむれ、砂にまみれて無邪気に遊ぶ女の子の姿。いつもとはちがって髪の毛を三つ編みに結っているのも、いかにも本気で遊んでいるという雰囲気だ。ただ、陽灼けはあまりしていない。
 頁が進むにつれ、水着の種類が変る。同じビキニでも最初に比べてより際どいものになっている。
 撮影場所が変わって屋内での写真。ホテルの部屋かなにかだろうか。
 画面全体のトーンも、コントラストがきつくなってきている。
 肌に浮かんだ汗の玉や、唇のぬめりがはっきりわかるような画。それらは、女の子の肉体のヴォリュームを強く訴えるものであり、ついつい凝視してしまう。
 女の子の表情もややシリアスで大人びた、憂いを含んだものになっている。険しい、と表現したほうがいいカットもある。こちらのスケベ心を見透かされたような居心地の悪い気分。このへんがおそらく写真集の山場なのだろう。
 見覚えのある写真が一頁。それは写真週刊誌に載っていた、比較的煽情的なもの。多分巨乳アイドル特集かなんかの企画で見たのだ。
 この子がビーチク見せるのは何年後だろうと考えてみる。
 いや、そもそも見せるのか?見せまい。多分その何年後まで芸能活動をしていそうにないし。
 ひとしきりセクシー路線が続いたあとは、突然ソフトフォーカスの、ちょっと時代錯誤かもしれないカットでしめくくり。ここでは女の子は再び無邪気な笑みを浮かべているのだが、放心したような表情で、背景に溶けてしまっているように見える写真も時折ある。
 ダウナーな傾向は最後まで続く。
 最後の頁は再び海辺なのだが、女の子は後姿だけしか映っていない。
 もう一度頁をぱらぱらっと繰ってみてから、本棚の目立たないところに挿す。

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