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02/10/21(MON)
【ANIME】 プリンセスチュチュ 10.AKT「シンデレラ」 (→公式)
心臓を失った王子であるみゅうとと騎士の生まれ変わりであるふぁきあの出会い(馴れ初め?)を描いたふぁきあメインエピソード。
物語としてあらかじめ語り継がれている騎士(=自分)の悲惨な運命に立ち向かわんと決意するふぁきあの姿がカッコいいです。養父との絆みたいなものがきちんと描かれているあたりも演出に本当にそつがありません。ふぁきあ株急上昇ですな。ペンダントを断ち切られて鳥類のまま「ぐわぐわ」鳴いてるあひるを視点として据えてるところなんかも上手い。物語要素全てに破綻がなくて理に落ちすぎというか、物語の作りとして職人技的上手さを誇る作品であるがゆえに語ろうと思えば逆にむつかしい作品な気もするのですが、それは贅沢というものですね。作品としては面白くてたいへんよいのですが、レビュとしてはつまんないかもね…… ほら、基本的にツッコミレビュだから。
ところで、これほどまでにケツの穴を見せまくるアニメヒロインがいただろうか? いや、いない、というお話でありました。 「発情期」(猫だからな)とか、いつのまにかクラスにいるワニ娘さんとか、細かいギャグも楽しい。

02/10/22(TUE)
【単行本・漫画】 雁須磨子「じかんはどんどんすぎてゆきます」 太田出版 [bk1][amazon]
あいかわらず素晴らしい色彩センス! まさに雁須磨子激ラヴといえよう。今これを読まずして何を読むというのか? 「どいつもこいつも」最終巻を求めてあてどない旅に出よう。というか、土下座するんで白泉社さん、出してください……
マンガF、マンガ・エロティクス(F)に掲載された短編群をまとめた作品集で、「テイメラレシシャ」、「まっしろけ」、「ものがげのこわいかお」、「しゃりんしゃらん」、「じかんはどんどんすぎてゆきます」、「彼女が学校で」、「あにいもと」、「ワンコインクリア episode1」、「ワンコインクリア episode2」、「蟻」に描き下ろし「毛糸玉」を加えた11短編を収録。
雁須磨子作品の魅力を文章で伝えるのはひじょうにむつかしい…… 掲載誌が掲載誌なんでそれなりにそういう描写はあるんだけど、使える(何に?)という感じではないし、でもエロいし、どうにもヘンテコ描写だけど、でもやってることは普通にリアルだし…… はぐらかされてはぐらかされてどこか奇妙な場所に連れて行かれたかのような不思議な気分になります。しかし、なんといえばいいのか…… 自然、てんてんが多くなる。
まったく謎極まるタイトルで、なぜそんなタイトルなのかは判明するけど、そんなタイトルをこの話につけるセンスはぜんぜんわからないものすごい話(じつは中学生の弟の真性包茎について喫茶で女二人がダベる話)「テイメラレシシャ」、彼氏のいない地味〜な16歳がえっちなこといちにちじゅうかんがえてぐるぐるな表題作「じかんはどんどんすぎてゆきます」、工業高校に通う彼女がクラスの連中に輪姦されてるんじゃないかと彼氏があれこれ妄想つかってぜっさん大後悔する「彼女が学校で」、いやあ、リアルってこんなもんでしょと大共感する兄妹話「あにいもと」あたりがとくに印象に残りました。いやあ、正直ほとんどの作品好きなんですが。
脳栓塞で倒れて頭の中のいろんなものを失った男とその妻のお話である描き下ろし作「毛糸玉」もしみじみ心に響くお話。いやあ、これはいい本であります。
→「雁須磨子」ページ内検索
【単行本・小説】 伊島りすと「ジュリエット」 角川書店 [bk1][amazon]
第8回日本ホラー大賞大賞受賞作。ちょっと前にレビュー書いた「夏の滴」(→感想)が長編賞でこちらが大賞というのは、わからないでもないような気が。でも、個人的には心にフックする部分がそんなになかった作品なのでした。
震災後、度重なる不幸から南海の孤島、ジャングルの真ん中にある誰も使わないゴルフ場管理人という空しい職についた男とその娘息子の親子3人がその島で奇妙な現象に遭遇するというお話で、文章的にはとても端正な出来だと思います。
きわめて適切な位置に置かれている読点、物語をテンポ良く進めるためのシャープな改行、ぎりぎりまで殺ぎ落とされた的確な文章表現、小説として驚くほど達者な出来だとは思うのですが、基本的にワンアイデアの作品ながらそのアイデアを盛り立てるため用意されたパーツたちの組み合わせがそんなに上手く機能してる気がしませんし(なんとなくはわかるんですが)、そのせいもあってか、ラストの盛り上がりも今一歩という印象でした。
ただ、抑制の効いた筆致など、たしかに新人離れした力量、安定性を感じるので審査員の方々はそこを推したんじゃないかとは感じます。小説の面白さでいえば「夏の滴」のほうが断然上だと思うのですが、あっちはいろんな意味でバランスめちゃめちゃな作品だからなあ。偶然できた、という気もするし。
ジャングルの中に見捨てられたゴルフ場を異世界に見立てるセンスについては大評価します。
【単行本・漫画】 河合克敏「モンキーターン」 22巻 小学館 [bk1][amazon]
ついでに。「焼きたて!! ジャパン」4巻、「からくりサーカス」25巻、「金色のガッシュ!!」7巻あたりのサンデーコミックス新刊感想はそこかしこで見かけるのであえて地味めなこれを。いや、単にこの作品大好き、ということを主張したいだけなのですが。
波多野 → ライトサイド、洞口 → ダークサイド がいよいよ明らかになってきたこの巻。この後洞口くんは「殺殺殺……」と呟きながら仮想波多野にダンプしていく殺人レーサーになるのであった。(わりにホント) ところで、黒目キャラである純(岸本)はいかんせん顔が怖すぎなので本栖時代の純朴な外見に戻ってください…… とずっと思ってます。伊峡くんのが可愛くてええ。しかし、わざわざカメラ回ってるところまできてやんなくてもいいのにね……
【単行本・小説】 綾辻行人「どんどん橋、落ちた」 講談社文庫 [bk1][amazon]
表題作を「袋小路への道標」と評した「蒼鴉城」編集長時代の法月綸太郎はやはり慧眼だったというべきか…… 「きちんと伏線張ってあるんだから結末に文句は言わせねえ!」みたいな綾辻行人の悪ノリが炸裂する中篇集。
「どんどん橋、落ちた」、「ぼうぼう森、燃えた」、「フェラーリは見ていた」、「伊園家の崩壊」、「意外な犯人」の5編を収録。よく考えてみると、長編以外のこの人の作品読むのははじめてなのか。
考えられないような解答が提示されて、でも、その解はパズラーとして導き出せないものではないという、形式だけ見ればたしかに本格ミステリの一部分を究極まで先鋭化したものなのだと思うのですが…… (偏執的な伏線の張りかたは「黒猫館の殺人」の延長線上にある) まあ、普通に書けばいいんじゃないの? という気にはなります。
もっとも、第1話から5話まで読み進めていくにつれて読者は、綾辻行人が「袋小路への道標」に嵌まり込んでいく様を目にすることになるわけで、ミス研会誌発表作の気分の延長で作品を突き詰めていった結果をセルフパロディ的に描くということで、こんな楽屋オチ的な構成を採用しているのだと思います。
でもやっぱり、ハードカバーでこれを買ったら怒ると思う。ノベルスか文庫で買う本ですね。もしくはオフセット。
02/10/23(WED)
【単行本・小説】 ロバート・J・ソウヤー(訳:内田昌之)「イリーガル・エイリアン」 ハヤカワ文庫SF [bk1][amazon]
面白くてあっという間に読了。めちゃめちゃ乱暴な話だと思うのですが、そこがよい。
大西洋のど真ん中に着水した矢尻のような巨大な物体、それはエイリアンの宇宙船だった! 人類は地球外知的生命体との接触にはじめて成功したのだ! 遥か4光年の彼方、アルファケンタウリ星系からやってきたトソク族とのファーストコンタクトは華々しい成功を収めるものと思われたが、やがて予期せぬ事件が起こる。トソク族が滞在する施設の中で無残に切り刻まれた人間の死体が発見されたのだ。その死体は地球上の技術では不可能なほど鮮やかに切断されていた。
そして全世界が注目する前代未聞の裁判がはじまった。容疑者は、エイリアン。
というか、告発状片手に真顔で異星人パクりにやってきて、あげくブタ箱にぶち込んだ(!)ロサンジェルス警察の警部補は豪胆にもほどがあると思いました。大爆笑。英語が通じるからといって(使えるのだ)人参に手足生やしたような生き物に問答無用でアメリカの法律適用させようとするからなあ。これだからアメリカ人ってやつは……
そんなの、いち警察官の一存で決定していいことなのか? その告発状は誰が発行したのか? 星間戦争にまで発展したら誰が責任とるのか? そもそもトソク族と人間の身体構造、文化風習、倫理観そのほかもろもろ全然わからない段階で有無を言わせず裁判突入だからなあ……ものすごく乱暴な展開であります。普通、国際問題どころの規模じゃない話になりそうなんですが、そこをあえてロサンジェルス群レベルの法廷ものにしてしまう豪快さがすごい作品ですね。しかも、トソク族は地球の金持ってないから弁護費用が捻出できない、こまったこまった、とかそんな話。全世界から募れ! と思いました。
無茶な設定がとにかく素晴らしい作品なんですが、「なぜ、そんなことが起こったか?」という事件の真相についてはきっちりと納得いく説明が用意されていて破綻がないし、ラストに待ち受ける展開もものすごい。これはなかなかいいですね。
そういえば、SF大会に参加したことがある人間は陪審員の資格を失うらしいですよ。理由:心情的に異星人サイドに偏るおそれがあるから。
【単行本・漫画】 岡本倫「エルフェンリート」 1巻 集英社 [bk1][amazon]
なんといえばいいのだろうか? すさまじいまでに異様な、このセンスを……
まるで、佐藤ケイと中村恵里加がフュージョンして発狂して漫画描きはじめたかのような…… あら? いえた――
地下施設に幽閉・拘束されている少女は人間の突然変異体で2本の角があってそして殺戮魔で、手当たり次第に人、殺しますよ!? みたいなお話。(そんなものだ)
なんというのか、配合の妙? わりに懐かしいセンスのケモノ同人萌え画みたいな絵柄使って「ブチッ」とか「ガコッ」とか「プシュッ」とかそういう血塗れ描写えんえんとするお話であります。ごくごく普通にスプラッタなお話から唐突に萌えシチュエーションに展開させていくその強引さが素晴らしいです。鬼畜 or 萌え(終了!)という感じの作品。
「すまない 人間の女の子に興味ないんだ」 という素晴らしすぎるフレーズからスタートする大間違い切ない系ストーリー「MOL」も特別収録されております。 (ラストページの男の表情、そしてチーズケーキが泣ける……)
ある意味、ヤンジャン連載にふさわしい萌え漫画ではあるのですが…… なんじゃ、これは……
02/10/24(THU)
「忍耐だ、と済ましたい。かつ、買い足します、と大胆に」
品のない僕の読書スタイルについてちょっとだけ書いてみたい。
・ 買ったらすぐ(下手したら家に帰る前に)帯もアンケート葉書もぜんぶ捨てる。鬱陶しいから。
・ 外で読むときもカバーなぞかけない。どんな本でも何を読んでるか周囲にアピールするかのように直に読む。出会いがあるかもしれないから……(どんな出会いだ) しかし、電車の中でエロ漫画は流石に読めない……
・ とりあえず最近買ったものはすべて枕元に置いておく → 悪夢にうなされて目覚める → 偶然手にとった本をとりあえず20ページくらい読む → 面白かったらそれがその日に読む本 → つまらなかったら積んである本を適当にあさる → 雪崩が起こって途方にくれる → あきらめる
・ 上下巻本を読む → 上巻を読んでるうちに下巻の行方がわからなくなる → あきらめる
・ 下巻が出てきた! → 今度は上巻がない → あきらめる
・ 装丁が綺麗な本を買う → 買っただけで満足する → 終了
・ 割高感のある本を買う(講談社学芸文庫とか) → 買っただけで満足する → 終了
・ シーツといっしょに洗濯してしまう → 消失
・ 他人に本を薦める場合は嘘の内容を適当に話す → ネタバレの問題もあるからある意味親切
こと、小説に関しては気分で適当に買うようにしていて、読むとか読まないとかにはこだわりません。買っただけで満足ならばそれはそれで本を有効利用してるといえるのではないでしょうか。精神安定剤?
読書候補の本が随時5〜6冊あって全部読み通したものの中から面白かった、もしくは感想が書きやすそうな作品についてだけがレビュとして上がってきます。バイキング料理で目についた皿から手当たり次第に取ってちょっとずつつまみ食い、美味しかった料理だけ全部食べて「ウマー」とかあれこれいう感覚に近いでしょうか。うーん、品がない。
どんないい本でも自分自身に問題があったら(知能とか)読めないことあるし、それを無理して読んだあげく「つまんない」とかいうどうでもいい感想になるんだったら、さっさと見切ってほかの自分に合った本探すほうが有意義、なぜなら時間は有限だから、というのが今現在の読書スタイルかなあ。結局は趣味だし、こんなものでいいんじゃないでしょうか。
あとは、レビュ書くのに要する時間と読書時間との兼ね合いの問題かなあ。漫画、雑誌の感想については最近ほとんど書けてないし、小説についてもレビュ書かなかったのそれなりにあります。アンソロジーとか競作集はとくにつらくて、「秘神界」とか「異形コレクション」とか、読めない作品もそれなりにあるんで半分くらいは読めてるんですがレビュ据え置きになってますね…… こういうのはどうすればいいんだろうか。
あと、毎日1冊絶対レビュを書いてページ更新すると決めて、その強迫観念によって読書効率を高めるというのもいいかもしれません。僕の知り合いには更新時刻一覧の夢を見る人がいます。すげー。
【単行本・漫画】 三家本礼「ゾンビ屋れい子」 8巻 ぶんか社ホラーMシリーズ [bk1][amazon]
イーヒン編完結。とにかくチーホイの魅力に尽きるといえよう。名前も面白ければツラも面白い、へぼへぼにも程がある言動( 「あれから イーヒン様の所には 帰りづらくって さあ……」 )も最高なら、「もどってこなかったら、腕無くなっちゃうじゃんかよ!」的な、ロケットパンチという頭悪い武器(それはゾンビなのだろうか!?)使うあたりも素晴らしい。問答無用でハートをわしづかみにされました。
というか、イーヒンにかぎらず、敵も味方ももれなく頭悪くなってるんだけど…… IQ低いバッタもんジョジョとしてたいへんに楽しい作品です。荒唐無稽B級漫画の魅力、ここにあり、という感じですね。人間だろうがゾンビだろうが、女だったら全員巨乳、というあたりも煩悩全開で素晴らしいです。
・ →これがチーホイの元ネタらしい……(SOUND鳴るんで注意) →こっちとか、そのまんま。
・ ギャラリーぞんび屋の投稿層が高年齢化してるような気がしてガッカリ。小学生女子の描くゾンビ絵にこそ味があると思うのだが……
【ANIME】 キディ・グレイド 第3話「Prisoner/Escort」 (→公式)
気が向いたら感想書くレベルに設定しました。
犯罪者ドレイク護送の任を受けたエクレール・リュミエールだったが、ドレイクの身体を覆う巨大な生命維持装置のせいで専用船では運べない。行きがかり上銀河警察と組むことになったふたりだったが、警察側の警備代表者である孟警部@藤本譲は超法規的活動を行う彼女たちの存在が気に入らない。そして護送中に囚人を逃がすことを生業にする「保険屋」の魔の手が彼女らに迫る……
今回のシナリオはなかなか出来がいいんじゃないでしょうか。警部の心情も理解できるし。一瞬だけ着替えたエクレールの胸空きチャイナドレスはいったいなんだったんだ…… という基本に忠実な作りもええですね。そつのない出来。


02/10/25(FRI)
【単行本・小説】 フレッド・カサック(訳:平岡敦)「殺人交叉点」 創元推理文庫 [bk1][amazon]
じつは結構前に買って積読のままにしてあったのだけれど、なんとなく手にとって読んでみたらなかなか面白かった。
「殺人交叉点」、「連鎖反応」、中篇2作品を収録。
・ 「殺人交叉点」
大学生グループがたまり場にしていた屋敷の庭で男女の死体が見つかった。半裸の格好で刺殺されていた男はだらしのない女たらしだったので、警察当局はこの事件を、男がガールフレンドのひとりに無理矢理関係を迫ったところ、彼女の抵抗にあって、彼女を脅迫するため手にしていたナイフで逆に刺される。男は最期の力を振り絞って、自分を刺した女を絞殺した、という二重殺人事件だと判断、捜査はそのまま終了した……
二重殺人が起こるまでの過程、そして時効成立直前の10年後、過去の事件を甦らせた新たな展開を、男を溺愛していた母親のルユール夫人の独白パートと真の殺人者であるセリニャン弁護士の独白パート、つまり被害者視点と加害者視点を交互に行き来しながら描くといったいわば倒叙スリラーの変形ともいえる作品で、読んでいてはらはらしました。しかも、しっかり騙されてる(w
読み返してみればたしかに不自然な部分は(セリニャン弁護士の会話パートとか)そこかしこに見受けられるのですが、訳が悪いのかなあとか、昔のフランス・ミステリってこんなのかなあ、とかのんきに考えてて、まんまとひっかかりました。「悪い」んじゃなくて「苦労した」んですね。
瀬戸川猛資が「最後の一撃」ミステリ第1位に挙げてるくらいで、つまりはラストページで判明する仕掛けの衝撃を楽しむワンアイデアものと呼んでもさしつかえないような作品だと思います。実際、ここで使われているアイデアをさらに洗練、応用、発展させた上で使用している作品も内外問わず数多くありますし、ここ数年の国内作品の中だけでもいくつかあるのではないでしょうか。ただ、この1稿が1957年に書かれたというのは(ここに収録されてるのは1972年に再刊された全面改訂版を元にしている)やはりすごくて、アイデアの源流を発見した感覚ですね。でも、騙されました……
・ 「連鎖反応」
結婚を直前にひかえた観光協会勤めの男、ジルベールは弱っていた。遊びのつもりでつきあっていた愛人が妊娠して、しかも産むというのだ。婚約者に打ち明けるわけにはいかないし、こっそり養育費を払おうにも安月給のままじゃどうにもならない。よし、昇進だ! でも、どうすればいいんだ……!? と悩むジルベールの頭にある天才的なアイデアが浮かんだ。自分の上司に何か不幸があってそのポジションが空けば、自分は繰り上がりで昇進できる! しかし、直属の上司であるベルトリーは好感の持てる人物なのでとてもそんなことはできない。まてよ? ならば、その上を……
タイトルどおり、連鎖反応を利用して昇進をもくろむ男が企てた計画の顛末を描いた作品で、「フランスの会社機構ってそんななの?」と思わざるを得ない非常にアバウトな展開が持ち味のコミカルな作品。「殺人交叉点」とほぼ同年代である1959年に発表されたもので、40年以上も昔に書かれたものとはとても信じられない、ラスト近く怒涛の展開が楽しい作品であります。
プロットがきっちりしているからか、両作品ともまるで古びてませんね。読んで損はないと思います。
【ANIME】 灰羽連盟 第2話「街と壁 トーガ 灰羽連盟」 (→公式)
やっぱり村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」好きなのかな? みたいなサブタイだと思いました。センス的も近い部分はあるような気が。
街と壁についての説明があって、トーガが出てきて、灰羽連盟とは何か? みたいな展開のいわゆる世界設定説明回。でも、奇妙なルールにしばられた世界そのものがありきたりなものではないので、そんなにうるさくは感じられません。作画については早くも息切れっぽいカットそれなりにあって大変なのかな、とも思いますが、作品全体を流れる雰囲気が安定してるせいか、気にはなりませんね。しかし、音楽がいいなあ。

02/10/26(SAT)
【単行本・小説】 パトリック・マグラア(訳:池央耿)「閉鎖病棟」 河出書房新社 [es! books][amazon]
これもなかなかよかった。傑作といえましょう。ゴシック描写やらせたら抜群にこの人は上手いですね。
並外れた美貌と知性を持ちながら同時にどこか満たされないものを感じていた精神科医の妻ステラ、妄想からくる嫉妬から長年連れ添った妻をハンマーで殴殺したあげく解体した狂気の彫刻家エドガーが精神病院の中で運命的な出会いをしたことからこの凶々しい物語は幕を開けます。
心寂れた土地にある精神病院という閉鎖された空間の中、入院患者と精神科医の妻の許されない恋が育まれ、男の持つ狂気に飲み込まれた人妻が自らの破局のみならず周囲の人間の人生を破滅へと導いていく……というお話で、この本の中で起こる出来事については冒頭1ページに全て書いてあります。つまりこれは、あらかじめゴールがあらかじめ予告された物語であり、読者はどのような過程を経て物語が悲劇に向かっていくのかを目撃することになるのです。
どこか突き放したような抑制の効いた筆致によって綴られた物語は冷たくそして静かで、思わず悲恋ものと勘違いしてしまいそうになりますが、この作品のテーマは恋愛そのものにはなく、冒頭3行目にある語り手ピーター・クリーヴの言葉、「精神医学で言う同一化」がもたらす狂気の伝播、そしてその狂気に端を発する不幸の連鎖、であると思います。それがあらわれているのが物語最後の1行なんでしょう。
一人称語りの形式をとりながらもよく考えてみると書いてあることはおかしい、そんなの知ってるはずがない、というのもこの人の作品の特徴で、あからさまに頭のおかしい人間の1人語りだった「スパイダー」(→感想)と比較すると、この作品の語り手であるエドガーの担当医ピーター・クリーヴはかなり真っ当な人間といえるのですが、見ているはずもないことを平然と書いてしまう、一人称視点が神の視点にすりかわってしまう奇妙な感覚はあいかわらずです。
記憶の混濁がそのままあらわれたような「スパイダー」の文章とちがって、流麗な文体で綴られてるがゆえか、ひょっとするとこれがピーターの一人称視点であることを忘れてしまう読者の方もいるかもしれません。自然な文章なんだけど、よくよく考えてみるとかなり変、というか。ここらへんも非常に面白いですね。
パトリック・マグラアという人は閉空間の中に狂気が充満していって登場人物の精神が崩壊するみたいな物語を好んで書く作家なのではないかと思うのですが、その閉空間である精神病院閉鎖病棟が物理的に広くて庭園や温室まで備えていたのはよかった気がします。「スパイダー」については描写自体がせまっ苦しくてどうにも息が詰まりそうに感じられたものでしたが、この「閉鎖病棟」については四季折々の風景や植物たちの美しい描写がそこかしこに挿入されているせいか、どこか静謐な印象までをも受けました。
破滅の雪玉が転がりながらだんだん大きくなっていくような話で、筋立てだけ取り出してみれば、狂った彫刻家相手に火遊びした人妻とその家族が破滅に導かれるという、「真珠夫人」、「新・愛の嵐」枠でドラマ化していいようなお話なんですけどね。
【単行本・漫画】 ジョージ朝倉「少年少女ロマンス」 講談社 [bk1][amazon]
今年のジョージ朝倉は単行本大連発。「恋文日和」1,2巻、「ハッピーエンド」、「水蜜桃の夜」、「ハートを打ちのめせ!」、そしてこれの新作5冊、「カラオケ馬鹿一代」の再発含めれば6冊も出た。5年余りに及ぶあの沈黙はなんだったんでしょうか。
王子様幻想にひたりまくりで正直痛めな女子高生・蘭のクラスに転校生がやってきた。超美形、スポーツも万能で言うことなしの帰国子女・右京に瞬間心トキめいた蘭であったが、その右京は6年前小学生だった蘭を苛めて苛めて苛めぬいた悪ガキと同一人物だったのだ!
思いが空回りしていくさまがギャグに転化するあたりの呼吸は安野モヨコあたりに通じるものがありますが、この人のほうがより純情恋愛で少年少女向けかもしれません。ピュアでしかも殴り合いのガチ・恋愛バトルといった作品であります。ダイナミックでロマンティック。第1部完ですが、続きはあるのかな?
ところで、この単行本デザインについては帯を含めて完成品、という気がします。帯外すと収まりが悪いかな。
【単行本・漫画】 コゲどんぼ「ぴたテン」 6巻 メディアワークス [bk1][amazon]
出るの意外に早かった。過去編完結、ということで、湖太郎の血を巡って美紗と紫亜がもつれ絡み合う運命の糸全貌はほぼ露になった印象で、あとはどう着地させるか? という展開になると思われます。この巻、幕引きの言葉考えてみてもわかるんですが、ハッピーエンドに終わるべくもない物語であるのは確定だと思われますが……
ところで、天とか小星とか、ストーリーの主題的に存在意義がほとんどなくなってる気がして、過去が主要な舞台になっているこの巻の内容を差し引いても天の出演が1コマしかなくて、他の人間はすべてゼロ、というのはどんなものなんでしょうか。これからの出演あるのかなあ。(ウンコとか触角娘とかは正直どーでもいい)
シリーズ全体の謎解き巻なんで、ここ1〜2巻に見られた痛々しさはないですね。登場がないのに表紙を飾ってる天ちゃんはちょっと痛々しいけど(w
【単行本・漫画】 橋口たかし「焼きたて!! ジャぱん」 4巻 小学館 [bk1][amazon]
いまさらかと思ったんですがついでに。パン職人漫画のふりをしたリアクション芸勝負漫画(w
パンタジア新人戦続き。ドラゴンズのユニフォーム着たイタリア系名古屋県人とかコアラとか、パンタジアの新人採用基準がわからないですね(w 奇人変人ばかりこんなに雇わなくても…… 黒やんこと黒柳のリアクション審査芸も冴え渡っております。
「とにかくエロくしとけば文句ないだろ!」と言わんばかりの表紙、そしてオマケ漫画、いつものことながら橋口たかしのやることに間違いはない、素晴らしい! と思いました。この漫画、普通に描いたら「シザーズ」みたいな地味なもの(いい作品なんですが)になりかねないからなあ。
あと、店を1人で切り盛りしてるあのマッシュルームの子がじつはいちばん有能なんじゃないかなあと時々思います。給料上げてやれYO!
ひょっとすると表2の水乃カットはもっとエロくしたかったんだろうか……!?
02/10/27(SUN)
【単行本・漫画】 福島聡「少年少女」 1巻 エンターブレイン BEAM COMIX [bk1][amazon]
偶然だけどなぜか似たタイトルが並んでしまった。やぶうち優の人気シリーズともまぎらわしい。
妄想と幻想が入り混じった無軌道ノワールともいえるきわめて奇妙な物語「DAY DREAM BELIEVER」全2巻(→感想)以来となる、たいへんひさびさの福島聡新刊で、タイトルどおり、少年と少女が登場するというしばりの(必ずしも主人公ではない)短編オムニバス。「触発」、「大車輪」、「美しい骨」、「自動車、天空に。」、「OPEN THE DOOR!」、「宇宙パンダに情けはあるか!?」、「錯綜」の7短編を収録。
とにかく変幻自在という印象で、引出しの数が多い人だという認識はありましたが、ここまでのものだったというのは驚きでした。モノのはずみから幼馴染の兄さんを古井戸に突き落として殺してしまった少女と幼馴染の少年の物語「触発」から、過疎の村を訪ねた税務署員が遭遇した怪異を扱ったモダンホラー「美しい骨」、子供の願いを3つかなえてくれるという奇妙な生き物、宇宙パンダZに訪問された家族のシュール譚「宇宙パンダに情けはあるか!?」まで、たいへん幅広い作風で、作者の高レベルな才能を感じさせます。
ただ、この人の作品の持つどうにも居心地の悪い奇妙な雰囲気や非常に現代的な台詞回しのセンスに惹かれる僕としては、正しい少年少女ものを描くよりもむしろそちらのほうを期待してしまいますし、やはりそちらのほうが向いていると感じます。第1話「触発」みたいな小学生がドタバタ走り回るような話については宮崎駿とか黒田硫黄とかにまかせておけばいいんじゃないでしょうか。
お弁当片手の女の子が超重戦車と並走して自転車こいでるというたいへん素晴らしいカットのある第2話「大車輪」と、同じ部屋に入院してる怪しいオッサンの台詞回しが最高な1話の続編「錯綜」なんかはすごくいいと思うので、連載が進むにつれその点は改善されている気もしますが、作品としてのありかたが似通ってるぶん、前述した黒田硫黄「茄子」あたりと比較されてしまいそうな気がして(その比較にはさほど意味はないと個人的には思いますが)、単行本装丁などを含め(ちょっと地味かも)もっと意識的に差別化を図ったほうがよかったような気もしないではありません。
評価に関してはあくまで個々の作品独立で行うべきだと思うのですが、やはり連想してしまう部分はあるんですよね。
しかし、たいへん奇妙な味わいの本で、総合的にみて高レベル、という評価です。
【ANIME】 超重神グラヴィオン 第2話「重力の使命」 (→公式)
みるのものすごく遅れましたが、なかなかこれはアホらしくて素晴らしい気がします。まあ、大張アニメだし、毎週欠かさずみなければいけない気もしませんが…… ところで、今回お披露目されたグラヴィオンの必殺技、グラヴィトンプレッシャーパンチには口あんぐり。琉菜@池澤春菜ごと飛んでったYO! 人間爆弾、もしくは「忍法・カラダ手裏剣!!」みたいですね……
気持ちはたしかに伝わるけれど、その内容はまるで意味不明な台詞から無意味極まる決めポーズまで、脳使わなくてもぜんぜんオッケーな娯楽作ですね。なんとなく流しておくとめでたくてよいと思われます。作画クオリティも上々でした。
ところで、やはり大富豪クライン・サンドマン@速水奨には大注目せざるを得ない。もう、大ファンだ。


02/10/28(MON)
【単行本・漫画】 吉野朔実「記憶の技法」 小学館Flowersコミックス [bk1][amazon]
幼い頃から記憶障害の気があって自分の中に欠落している部分がある高校生、華蓮は、韓国への修学旅行で必要になったパスポート取得のため取り寄せた戸籍抄本の中に不可思議な記述を見つけた。自分には4歳の時に亡くなった2ヶ月年下の姉がいて、自分は自分自身の戸籍から鹿角家に入籍されていて、では、大好きな父や母は何者なのか? 見たはずのない遠い過去の記憶は一体誰のものなのか? 隠された真実と封印された記憶を取り戻すため、自分が子供時代にすごしたという土地を訪ねる華蓮だったが……
超安定。世間知らずな高校生の女の子が封印された自分の過去をおっかなびっくりに辿っていく「はじめてのおつかい」自分探しサスペンス、みたいなお話で、わりにあっさり終わってるところもふくめて悪くない出来だと思います。
同じく欠落した記憶を辿っていく物語としてはたとえば最近小学館文庫入りした「ECCENTRICS」(全2巻)があるわけですが、あまりにも錯綜した内容で解釈がいくつにもわかれそうな「ECCENTRICS」とくらべるときちんとした解が示されて物語がきれいに幕を閉じるこの「記憶の技法」のほうが万人向けだと思います。ドラマ原作にしてもよさそうな印象。
効果として使いたいだけの理由で(たぶん)そんなに意味なく金魚屋に聞き込みしたりするところはひどくこの人らしくてちょっと面白かったですね。そもそも博多では金魚屋って、わりと普通にあるものなのかな? また、回復した記憶の中で幼い華蓮の配役を17歳の華蓮がそのまま演じてるシーンが妙にえろっちかったのもたいへんよかった。高校生女子があどけない5歳児のふるまいを!
先の金魚カットもそうなんですが、作品の中に色気がちょっと回復してるようで一安心。この人の作品は比較的ラフなプロットで描いて理詰めになりすぎないほうが一般受けするのでは、と思います。
【ANIME】 第3期ギャラクシーエンジェル 第7話「冷製ロトサバ当たりつき」/ 第8話「つるつるパスタ」 (→公式)
・ 第7話「冷製ロトサバ当たりつき」 →ストーリー紹介
いやあ、エンジェル隊は醜いねえ……(身も心も) 内乱鎮圧のために極寒の惑星にやってきたエンジェル隊(除くミルフィーユ)。紋章機の墜落により雪山の洞窟に対比した彼女たちだったが、雪どけ水でしのいで1週間、もはや体力も限界に近づこうとしていた。そのとき、なぜか持ってたラジオでかかった宝くじ当選番組、行きのついでに全員で買った宝くじが1等当選していたのだ! 「人数が減ればそれだけ自分の取り分が増える……」 1等賞金5億ミギーを賭けた足の引っぱり合い、エンジェル隊生き残りバトルがはじまった……。 「自然死かどうかなんて、誰にもわかりませんしね」
え――、「ひかりごけ」というか、「アンデスの聖餐」というか、極限のサバイバルが足の引っぱり合いに転じて、そこにカニバリズム風味までがさらに加わってしまうところにガラクシの本領があらわれているといえましょう。だって、萌えないどころか、この人たち、こええよ…… ノーマッドの自己犠牲精神には頭が下がります。


・ 第8話「つるつるパスタ」 →ストーリー紹介
ミントたんメインエピソード。ということで例の如く着ぐるみネタなんですが、第1期遊園地 → 第2期ツチノコ原人 ときてだんだん扱いが悪くなってきてるような…… 今期の大プッシュによってアイドル的ポジションをヴァニラに譲った今、ミントたんに求められてるのは毒だけなのでしょうか?
じゃんけんに負けたため資料探しをするはめになったミント。不平たらたらに向かった先の倉庫で見つけたのはマニア心をくすぐるアヒル顔ヘルメットだったが……
ロストテクノロジーのヘルメットをうかつにもかぶってしまったミントたんが遭遇した身の毛もよだつような出来事を描いたエピソードなんですが、ミントたんの喋り、もうおばはんのソレですな…… エレファントマンか、上連雀三平か、という格好させてるのも微妙にヤバいし、金で解決しようとするし、もう、最低だ! 物語の着地点はけっこう意外で吃驚しました。なるほど、たしかにつるつるだな…… あの兎耳がどこにくっついてるのかはたいへん気になります。


02/10/29(TUE)
【単行本・小説】 野尻抱介「太陽の簒奪者」 ハヤカワSFシリーズJコレクション [bk1][amazon]
面白くてあっという間に読了(この表現使いすぎ?)。しかし、感想を書くのは意外にむつかしい。
西暦2006年、校舎屋上に設置した反射望遠鏡を使って太陽の観測を行っていた天文部部長、白石亜紀の目に信じられないものが映った。太陽面を通過した水星のシルエットに塔のような突起物が浮かんで見えたのだ。水星の赤道上から噴出した鉱物資源は、やがて太陽を取り巻く直径8000万キロメートルのリングを形成した。リングの幅は毎日50キロメートル増加しつづけ、50年後には地球に降り注ぐ年間日照量の10パーセントが失われる計算になる。世界には新たな氷河期が訪れて、人類は滅亡の危機に瀕した。いったい誰が、何のために、リングを建造したのか?
接触すべきか、撃退か? もし接触ならば、異質な知性を有する生命体とどのような手段をもって意思の疎通を図るか? そもそも、知性とは何か? など、異星人との接触に関するさまざまな問いに対する1つの答えが提示されている作品で、まず最初にファーストコンタクトに対する思考実験ありきという印象を受けました。こういうテーマをストレートに書ききることのできる作家は数少ないと思われるので、やはりこの人の存在は貴重なんじゃないかと思われます。読んでいてなかなか刺激を受けました。特に、ビルダーと呼ばれる存在に対する人類のコミュニケート手段のあたりはなかなか工夫したのではないかと思われました。
ただ、野尻抱介という人自体、最初から書きたいことが決まってるタイプの作家だというのもあり、最後までシミュレート完了した上で書きはじめられた作品だろうというのもあって、主人公である亜紀の内面の葛藤が、小説自体を揺るがすまでにはいたっていない、きわめて表面的なものに止まってしまってる、という印象を受けました。そのこともあってか、あらかじめ定められたレールを辿りながらストーリーを追うような感覚があるような気がします。書かれてる内容は非常に興味深く刺激的なんですが、小説としてみるとスリリングな作りにはなってないというか。
また、第1部「太陽の簒奪者」と第2部「コンタクト」では物語スピードがあまりに異なるのも気になりました。これはたぶん、短編3作を再構成して長編化したからだと思うのですが、物語を無理矢理つないだような印象を受けます。たしかにたかだか30ページくらいで世界が滅亡の危機に陥るスピーディな展開はなかなかすごいと感じましたが、さすがにここらへんはもうちょっと調整を加えたほうが長編として収まりがいいと感じました。
ネットで検索してみたところ、どうやら短編バージョンの「太陽の簒奪者」ラストでは被爆による主人公の死が暗示されていたらしいので(未読です)、短編バージョンを書いた段階では続編の予定はなかったのかもしれません。
たしかになかなか素晴らしい出来の作品で、近年の国内SFでは上位にあがるだろうこと間違いない作品だと思うのですが、ここはあえてちょっと気になったところを書いてみました。しかし、この人ほど作品の中に宇宙への愛をてらいもなくストレートに出せる人も珍しいと思いますし、ある程度の人数、そういう人は必要なのではないかと思います。
02/10/30(WED)
【単行本・小説】 ジョナサン・キャロル(訳:浅羽莢子)「黒いカクテル」 東京創元社 [esbooks][amazon]
ジョナサン・キャロルの第2短編集。
短編「熊の口と」、「卒業生」、「くたびれた天使」、「あなたは死者に愛されている」、「フローリアン」、「我が罪の生」、「砂漠の車輪、ぶらんこの月」、「いっときの渇」の8作品に中篇「黒いカクテル」を加え1冊にまとめたもの。
第1短編集「パニックの手」と同じくすでに入手困難で、すくなくともネット書店は全滅でした。書店古書店巡りして足で探すか入手はあきらめて図書館行くかしか読む術はないかもしれません。
世界中に充満する悪意や欺瞞を突拍子もない物語に変換してキャロルの筆致は短編においても冴え渡っている。
とくに印象に残った作品は、学生時代の忌まわしい記憶が牙をむいて襲いかかってくる「卒業生」(試験の悪夢をみる人間にとってはたいへん恐ろしい話)、展開の予測がまるでつかないブラックでシュールなお話「あなたは死者に愛されている」、そしてこの本の白眉「黒いカクテル」。「黒いカクテル」用いられているアイデアなどは正直むりやりとしかいいようのない奇怪なものだか、それでもなぜか読まされてしまう。不思議な作家であります。
ただ、「月の骨」(→感想)の評価がそんなに高くなくて、「空に浮かぶ子供」(→感想)の混沌とした味わいを好む自分としては、やはりこの人の作品は短編よりは長編だな、と思いました。
つまり理解しやすく展開に納得がいく、もしくはワンアイディアで何を書きたかったのか明確な作品よりは、シュールでブラックな絵空事を幾層にも編んで、ハレーションを起こして結果、何がいいたいのかわからなくなってしまう、行き場のわからない物語パワーがぐるぐると渦を巻いているカオスのような作品が好きなのかなと思います。
この感覚は、ヴォネガット、アーヴィン・ウェルシュあたりの作家の短編 / 長編作品から受けるものとほぼ同じなんじゃないかと思いますし、(「熊の場所」まだ読んでないのですが)舞城王太郎の作品から受ける感覚とも共通してるんじゃないかと思います。詰め込みすぎたアイデアで物語が自己崩壊を起こしそうなところがいい、というか。
【単行本・漫画】 小手川ゆあ「死刑囚042」 1巻 集英社 [bk1][amazon]
死刑制度の撤廃を検討している政府の手によってある実験が開始された。刑が確定した死刑囚の脳の一部にチップと爆弾を埋め込んだうえで無償奉仕させるというものだ。怒りが殺人衝動の領域にまで達すれば即時に脳が破壊され死に至る。実験体第1号となった死刑囚042号 = 田嶋良平は手術を施され、とある公立高校に雑役夫として派遣された……
これはなかなか面白いです。ある意味「まほろまてぃっく」みたいな話なんで驚きました。
幼いときに誘拐され感情を喪失、その後地下ボクシングで対戦者を7人惨殺した男が人々とふれあい感情を取り戻していく様子を描いた作品で、この人らしく微妙に悪趣味な部分と泣ける部分がミックスされた味わいがいいですね。微妙にあざとい展開もまたよし。しかし、興奮したら死ぬかもしれない男の前に挑発的なカッコして出てくるのはいかがなものかと思う。酷いよ!
装丁にある点字はちょっとやりすぎな気がしないでもありませんが…… ちなみに「しけいしゅー おしに(042)」と書いてあります。
しかし、小手川ゆあ、きちんとデッサンとれるようになってほしい…… 正面顔と横顔以外の人間の顔が描けない人だからなあ。どの顔もお面を貼り付けたような顔。
【ANIME】 超重神グラヴィオン 第3話「迷宮」 (→公式)
くだらなくてたいへん気に入ってしまったという罠。けっこう好き。先週のチュチュとかまだ手つかずなのに……
ストーリー展開の意味がぜんぜんわかりません。「迷宮」って、それはサンドマン城が広いってことかい?
ツイン主人公(ヘタレ&偽カヲル)が意味なく蛇口を壊したり意味なく壁をつたってみたり意味なく女風呂覗いてみたり意味なく隠し通路をわたって意味なく特訓をはじめたりして、あげく出動が遅れるというお話で、ゼラバイアとまるで関係ないところでピンチに陥ってるところにまず大注目したい。
「グランナイツの諸君、合神せよ!」 もうだめだ、笑ってしまう…… サンドマンさんはきちんと正装するのが決まり。あのサンド棒の中途半端な長さはいったいなんなんだ。使いにくくないのか。 「電流か!」 絶縁くらいしとけYO! 「これで足手まといなんて、いわせねえぞぉ」 自信満々だ。しかもまた一撃だ。宇宙まで飛んでった前回のビームのほうがよほど危険な気がするが…… などと、たいへん楽しめました。正直、姉のことなんかどうでもいいだろう。叫んでるし。

02/10/31(THU)
【単行本・小説】 ロバート・J・ソウヤー(訳:内田昌之)「フレームシフト」 ハヤカワ文庫SF [bk1][amazon]
こんなにさくさく読めていいのだろうか。たいへんに面白く、読んでいて非常に楽しかった作品ですが、え! こんなのでええの? とはちょっと思います。微妙に奇妙な読後感。いや、ラストはほろっときたんですけどね……
新進気鋭の遺伝子学者ピエールは研究所からの帰り道、暴漢に襲われてこれを返り討ちにしてしまう。その暴漢はネオナチで、どうやら金銭狙いではなくピエールと知った上で彼を狙ったらしい。しかし、ピエールにはネオナチに襲われるような心当たりなどない。自らの研究課題であるヒトゲノム解析とピエールの周囲で連続する殺人、そしてネオナチに何か関連はあるのか?
「フレームシフト」ということでフレームシフト突然変異による遺伝コード書き換えが取り上げられているわけですが、物語の軸がそこにあるというわけでもなく、どちらかといえば遺伝子というトピックを軸にいくつものストーリーが絡み合いもつれながら収束していくとお話でありました。我孫子武丸が巻末解説書いてますが、SFミステリというよりは遺伝子化学を題材として扱っているサスペンスですね。
主要な登場人物たちの設定はなかなか巧みだと感じました。遺伝子によって自らの運命を決定づけられた人間ばかりが登場する物語なんですが、父親から受け継いだハンチントン舞踏病という遺伝的な爆弾を抱えているという主人公ピエールの場合は、人星のタイムリミットを視覚化するという意味でなかなか効果的ですし(「まほろまてぃっく」まほろさんの「機能停止まで残り……」と同じ感覚、切なさスイッチオンですね)、そしてネタバレっぽいので書かないことにしたヒロインであるモリーのハジけた設定がそのまま謎の解明に有効な装置として機能してるあたりとか、なかなか大胆で面白いと思います。外人とつきあえばそんなに問題ないということにモリーが気づいてなかったというのは流石にちょっと不思議な気がしますが……。
主人公カップルほかにも、ナチ残党を追いつめることに執念を燃やす司法省捜査官、研究所におけるピエールの上司である鬼畜教授など個性豊かな面々はそろってるし、まるで関係のなさそうな事柄が1つに収束していく様子は非常にスリリングだし、ラストにはアクションまであるしで、エンタテインメントとして優秀な作品だと思うのですが、やはりフレームシフト突然変異を巡る物語にはぜんぜんなっていないので「これでいいのかなあ……」という気分にはちょっとだけなります。いいのだろうか。
これは「イリーガル・エイリアン」(→感想)の時も感じたことですが、キリスト教徒的世界観で書かれたもの、という感触がすごくする小説ですね。向こうではきっともっとうける作品なんでしょう。
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