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magazine さくいん(更新停止中)

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セオジア・ローザック(訳:田中靖)「フリッカー、あるいは映画の魔」(上・下)
フリオ・コルタサル(訳:木村榮一)「すべての火は火」
ゆうきりん「めがねノこころ」
ほしおさなえ「ヘビイチゴ・サナトリウム」
2003年新刊ベスト
2003年既刊ベスト
シオドア・スタージョン(編:大森望)「不思議のひと触れ」
森見登美彦「太陽の塔」
パトリシア・ハイスミス(訳:小倉多加志)「11の物語」
novel さくいん

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TRICK2 episode #05「妖術使いの森」
魁!! クロマティ高校 第10話
魁!! クロマティ高校 第11話
藍より青し〜縁〜 第10話「湯帷子〜ゆかたびら〜」
TRICK3 episode #05「念で物を生み出す女」
ギャラクシーエンジェルスペシャル「フユーレイピューレジュレ」「いどうどん」


 2003/12
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03/12/21(SUN)

■book【単行本・小説】 セオジア・ローザック(訳:田中靖)「フリッカー、あるいは映画の魔」  文春文庫 上巻 [bk1][amazon] 下巻 [bk1][amazon]

セオジア・ローザック(訳:田中靖)「フリッカー、あるいは映画の魔」 上  いまごろ読みました。面白かった。心から堪能しました。

 物語の1950年代半ばのロサンジェルス。場末のクラッシック座に通いつめる映画マニアの僕はある日、パリで話題になっているというマックス・キャッスルなる監督の名前を耳にする。やがてクラッシック座の女主人であり、優れた批評家でもあるクレアが苦労して手に入れたキャッスル作品「魔人の狂宴」は保存状態が最悪で、映写に耐えうる残りを観た限りにおいても安っぽい三流ホラーに感じられた。だけど、この心に嫌なものを残す、奇妙な感覚は何なんだ……!? キャッスル作品に隠された秘密を追い求める僕は、いつしか暗い迷宮の中へと足を踏み入れていく……

セオジア・ローザック(訳:田中靖)「フリッカー、あるいは映画の魔」 下  一介の映画学科学生が、膨大な知識を誇り、手厳しい批評眼を持つ映画館の女主人に見出されて、彼女の犬となって映画に関する諸々のスキルを叩き込まれていく成長物語でもあり、おぞましくも禍々しいキャッスルのフィルムに秘められた謎を探求する探求の物語でもあり、第2次世界大戦前後の虚実ないまぜ映画史でもあり、中世ヨーロッパの異教を巡るゴシック小説でもある、という作品。

 取材者である主人公が、幻の作家の持つ「魔力」のようなものの謎を追い求めていくという趣向は、たとえば、ジョナサン・キャロル「死者の書」(→感想)のようでもあり、映画の持つ禍々しい側面がホラーとして昇華されるあたりは同じくキャロルの「空を飛んだ子供」(→感想)あたりと通底しています。
 瞬く間に物語が不気味な領域に達してしまうキャロル作品とくらべるとこの作品の変化はゆるやかで、キャッスル作品の研究がいきなり生命の問題にかかわってくるわけではないだけに安心して読めます。主人公とともに嘘臭い映画史を追いかけていく感覚でしょうか。過剰に詰め込まれたアイデア・薀蓄・ジョーク混じりの嘘の数々でまったく退屈することはありません。陰謀の全容がしだいに明らかになっていくにつれ、馬鹿馬鹿しささえ憶えるほどのその壮大さに吃驚。しかも、ひどく緊迫した状況のようにもみえるのに、存外スケジュールがのんびりしているあたりも面白いです。正直、ほとんど緊迫感はありません。だからこそあのラスト近くの衝撃展開が生きてくるのかも。「孤島でのサンプリング・ムービー・メイキング」になってしまうラストはちょっと衝撃的で、「そんなんでいいのか!」とも思いますが、まあ、いいんでしょう。取材者・傍観者の物語が転換されてこうなるのだから、むしろ必然なのかもしれません。
 小説自体に禍々しい部分はほとんどないけれど、登場する架空の作品群すべてはひどく不気味。その内容の移り変わりがそのまま戦前から戦後、そして現代に繋がる感覚の変遷にあてはまるようです。 「この若いのは邪道だよ。隠匿することにまるで関心がないようだ」 映画に限った問題でもないですね。

 国内作家で近い感覚を持った人間といえば、古川日出男とか奥泉光あたりでしょうか。そういえば、オーソン・ウェルズも登場していて、やはり怪物的なキャラとしていかがわしい雰囲気をふりまいておりました。調べて知ったのですが、「市民ケーン」撮った当時のウェルズは若干26歳だったそうで、若い!

○【ドラマ】 TRICK2 episode #05「妖術使いの森」 (→公式)[Amazon]

 第10話あらすじ第11話あらすじ
 第2シリーズ最終エピソード。奇怪なルールが適用される森を舞台に、調査隊メンバーが次々殺されていくというお話で、とにかくぐだぐだな印象。森に住まう妖術使いが黒門島を追われた人間らしい、とのことで山田が感情的になってて、けっこう役立たず。しかし、「来さ村」だの「白木の森」だの「つぼ八」だの単語が散見するくだらない設定はまあおいといて、すべてのトリック(というかギミック)に無理筋が多すぎなので困ります。と、毎回毎回言わなきゃいけないんですが、今回はいくらなんでも顕著にすぎるでしょう。当然気付いていいはずの真相を無意味に終盤まで引っ張るのはやめていただきたい。もうちょっとなんとかならんものか。酷すぎ、の一言で、「おおっ」と思ったのは、椎名桔平の存在感だけ。

■book【単行本・小説】 フリオ・コルタサル(訳:木村榮一)「すべての火は火」 水声社 [bk1][amazon]

フリオ・コルタサル(訳:木村榮一)「すべての火は火」  ラテンアメリカを代表する作家として名高いコルタサルの短編集。きちんと読めてるかどうか、まったく自信がありません。
「南部高速道路」、「病人たちの健康」、「合流」、「コーラ看護婦」、「正午の島」、「ジョン・ハウエルへの指示」、「すべての火は火」、「もう一つの空」、8篇を収録。

 比較的筋書きがわかりやすいのは、高速道路での渋滞に巻き込まれた人々がいつしか小規模な生活共同体を形成するという力技勝負の「南部高速道路」、病身の母にショックを与えないために事故死した兄弟がまだ生きていると装う「病人たちの健康」、過酷すぎる上陸作戦を遂行するチェ・ゲバラの極限状態の精神をシュールな幻想に昇華した「合流」、飛びこみの劇場でいきなり舞台に上げられた主人公がきわめて不条理な状況に陥る「ジョン・ハウエルへの指示」あたりでしょうか。

「コーラ看護婦」と「すべての火は火」については、技巧的なんですが、それほどぴんと来なくて、特に表題作については巻末についてる詳細な訳者解説を読んでなんとなくわかった気になってしまっているというのがありそう。前述したように、正確に読み取れているのか、ちょっと自信がありません。「正午の島」、「もう一つの空」については、奇妙に後を引く作品ではあるけれど、さっぱり説明できません。困ったものです。

 なかなか面白いですが、あまりに混沌としていて、時間かけて解析するように読みとかないと意味がなさそう。技量的に半端だったせいか、何回ものトライが必要で、でもオールクリアは無理でした、という結果。もうちょっとしてスキル上がってから再読してみます。

○【ANIME】 魁!! クロマティ高校 第10話 (→公式

 あ――感想書くの楽だ―― 非常に細かいことですが、サブタイトル打ち込まなくていいのが素晴らしい。マスクド登場回。そういえば、まだ出てなかったのか、こんな声だったのか。いつもながら不毛な会話がとてもよい。 「くわしいことはいえないけど……」 本当はいくつなんだよ!

○【ANIME】 魁!! クロマティ高校 第11話 (→公式

 メカ沢の憂さ晴らし、そして…… 「クロマティ高校」にしてあんまり動かないというのはいかがしたものでしょうか。ぶるんぶるんはいらないと思われます。あ! 女キャラがいる! この演出はいったい……

○【ANIME】 藍より青し〜縁〜 第10話「湯帷子〜ゆかたびら〜」 (→公式

 ちかりんずの3人娘まで連れてスパリゾートに出かける。薫様背中の傷跡なんて設定、きれいさっぱり忘れてましたよ。繭嬢が意外に目立っていた。しかし、よく考えると「〜縁〜」メインとなるイベント発動の回でもあるわけで、連載本誌でもどうにもなってないこと、はじめちゃうんだ! と驚いてしまうのでありました。アニメオリジナルで決着つけるのかしらん。 「いいじゃない、葵ちゃん、もう少しだけすべすべさせてよ」 馬鹿ップル〜 あくまで自分のリクライゼーション中心にスパを満喫しまくる雅さんがいい感じでした。しっかし、たわいもない話だなあ。

03/12/22(MON)

■book【単行本・小説】 ゆうきりん「めがねノこころ」 電撃文庫 [bk1][amazon]

ゆうきりん「めがねノこころ」  なるほど、読子・リードマンさんと設定かぶらないように配慮してたり、いろいろ考えてはいるんだな――という印象。しかし、ゆうきりんはコンスタントに本出してます。平凡な日常を送っている男子高校生の目の前に、赤のトレンチコートで身を包んだ眼鏡ロリ娘がやってきて「お前を護る」とかいきなり言い出した。襲いかかってきたのはゴスロリっ娘だった! というお話。しかし、この連中は、目立って目立ってしかたないですな。「眼鏡」や「ドレス」チェンジによって、「○ッック! ビッチ! この豚野郎!」 とか、「スパゲッティーノ〜 タベテミーヤ〜」、果ては、「ニンニン!」 みたいになる、というからくりで、うえええ、戦闘シーンが脱力だよ〜 ものすごいところに狙いを定めた作品で、さすがは、ファラオさまシリーズを第3シーズンまで続けてる人ではあります。不甲斐なさに腹立てて護衛対象を銃で撃つのはいかがなものか。ゴム・スタン弾とはいえども、それは暴徒鎮圧用ですよ? 当然、続編も出るんでしょうが、巻が進むにつれ、戦闘がどんどん阿呆らしくなっていくような気がしないでもありません。普通の人っぽい主人公の母親がすごいマッド・サイエンティストだったのは吃驚。だって、テロ以前なんでしょ? とか思ったりしました。ラスト、真実が「叔父の口から語られてお終い」だったり、「耐用年数」というのは、手抜きだったり、ちとあざとすぎないか、ですが、まあ、気楽に読めて楽しいのではないでしょうか。

○【ドラマ】 TRICK3 episode #05「念で物を生み出す女」 (→公式

 第9話あらすじ第10話あらすじ
 第3シリーズ最終話。感想書くのが面倒くさくなってきました。インチキだと決めつけられて村を追われた女が25年ぶりに帰ってきて、パワーアップした霊能力で復讐をはじめた。討伐隊(なんじゃそら)を行方知れずに、呪いをかけた物理教師の心臓に念で針を生み出して殺し、次々と被害者の数は増えていった、というお話。結局、何がやりたかったのか、製作者サイドの狙いが見えないというのはやはりあって、すべての要素がどっちつかずな気がして困ってしまう。とくにシリーズラストに控える黒門島関係のエピソードにはその傾向が顕著で、最終話にもかかわらず毎度毎度収まりが悪いような気がします。デヴィッド伊藤、つぶやきシロー、でんでんあたりの姿をひさびさに目にしたり、森本レオエピソードで虫をやってたガッツ石松が晴れて人間役に昇格してたりと、キャスティングはそれなりに面白いのですが、まあ、そこそこ。なんとなくラヴっぽくまとめて終わり、でした。そういえば、死体で登場、回想シーンもなし(DVDになったら入るかも)な金井省吾は元いいとも青年隊、現在はマンション久保田な久保田篤だったのか。最近、パチンコのほうはどうなんでしょうか。

03/12/24(WED)

○【topic】 2003年新刊ベスト

 今年読んだ小説ベスト。新刊に限定すると極端に少なくなります。(やっぱりベスト10にしました)

《国内部門》

歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」
歌野晶午の芸人的サービス精神がいかんなく発揮された怪作。ニコニコしながら「ぎゃふん!」と言おう。ネタバレがしやすいというのは売れる条件であるような気がします。
福澤徹三「廃屋の幽霊」
オーソドックスな怪談話のようにみえて、じつは変なこといろいろ試してる作品集。この人はこれくらいの長さがいちばん向いてそうな気がします。

深堀骨「アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記」
たぶん、笑わせようとかまったく思ってないはず。しかし、こんなものが出てきてしまうのは稀有な才能でしょう。

牧野修「楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史」
今年はたくさん本出していたけど、どれか1冊といわれたら迷わずこれを。「踊るバビロン」1篇だけのためでも手にとる価値があります。長編で1冊ならば、意外と、「黒娘 アウトサイダー・フィメール」にしておく。
倉阪鬼一郎「The End」
めちゃめちゃ気合が入ってる! 物語構築にかける倉阪鬼一郎の美意識がうかがえます。

小林泰三「目を擦る女」
たぶんにジャンクっぽいけれど、どれ読んでも楽しいし、きちんとこの人らしい。

 冲方丁「マルドゥック・スクランブル The First Compression ――圧縮」 / 「燃焼」 / 「排気」
わかりやすく物語が制御できなくなってて楽しい。カジノ小説ではあるけれど、ギャンブル小説にあらず、というのが自分の中での位置付け。

山尾悠子「ラピスラズリ」
文章に魔法がかかっている! 冬の夜に読もう。

伊坂幸太郎「重力ピエロ」
鼻につく部分がはやく払拭されればいいと思う。あと、あの帯もなくなれ。

石持浅海「月の扉」
全体的に小粒だけれど、悪くはなかった。

 次点として、乙一「ZOO」、秋山瑞人「イリアの空、UFOの夏」。

《海外部門》

グレッグ・イーガン(訳:山岸真)「しあわせの理由」
読んで損なし。

アーヴィン・ウェルシュ(訳:池田真紀子)「トレインスポッティングポルノ」
超独善的で他人を利用することしか考えてない最低人間描かせたらさすがに上手い。隠れた名作「フィルス」にも似た味わいがあって楽しいエゴエゴ中年小説。

レオノーラ・キャリントン(訳:野中雅代)「耳ラッパ」
新刊かといわれれば……な、新訳版だけどいちおう今年発売なので。奇想天外老婆激萌え小説。ぶっとびレベルは∞。

テッド・チャン(訳:浅倉久志他)「あなたの人生の物語」
こっちも読んで損なし。物語志向の強い方はイーガンよりもこちら?

ダン・シモンズ(訳:嶋田洋一)「夜更けのエントロピー」
奇想コレクション第1弾。個人的には「愛死」に収録されていた作品が好みでした。

ジョー・R・ランズデール(訳:鎌田三平)「テキサスの懲りない面々」
シリーズ読者としては決着のつけかたに若干文句つけたいけれど、やはり素晴らしい。続きが出ると嬉しいけれど、それは無理かしらん。

チャック・パラニューク(訳:池田真紀子)「インヴィジブル・モンスターズ」
現時点でのパラニュークベストは「サバイバー」だとは思うけれど、剥き出しのこちらも悪くない。こんな小説書くのはまちがいなくこの人だけだろう。

ポピー・Z・ブライト(訳:柿沼瑛子)「絢爛たる屍」
グロ! グロ! グロ! グロ! 男! 男! 男! 男! 御輿! ふんどし! 肛虐祭り!

ディヴィッド・イーリイ(訳:白須清美)「ヨットクラブ」
「タイムアウト」よりも奇想話のほうが好み。

シオドア・スタージョン(編:大森望)「不思議のひと触れ」
「海を失った男」より入門者向けのセレクト。読んでいて楽しい作品が多い。

 次点はフレッド・ウィラード(訳:黒原敏行)「ヴードゥー・キャデラック」。こんなに知能指数が低い小説は読んだことがありません。

■book【単行本・小説】 ほしおさなえ「ヘビイチゴ・サナトリウム」 東京創元社ミステリ・フロンティア [bk1][amazon]

ほしおさなえ「ヘビイチゴ・サナトリウム」  第12回鮎川哲也賞最終候補作。この名義で本を出すのはこれが最初ですが、長らく詩人「大下さなえ」として活動を続けてきた方で、「夢網」、「くらげそっくり」の詩集も発表されてます。(「群像」誌上にて小説も数編発表) そういえば、東浩紀氏の奥さんでもあられる方ですね。

 中高一貫教育の女子校屋上からひとりの生徒が飛び降りた。噂や憶測が飛び交う中、屋上からの墜死者がもうひとり。小説家志望の国語教師が書いた原稿、そしてもうひとつの原稿、いくつもの手記、そしてP・オースター「鍵のかかった部屋」…… いくつものテキストが錯綜し、幽霊騒ぎまでもが持ち上がる。作者は誰か? そして、真実はどこに?

 最初読んでいて、若竹七海「スクランブル」→感想、「心の中の冷たい何か」→感想、連続墜死事件ということで西澤保彦「仔羊たちの聖夜」→感想 あたりを連想したんですが、読み終えてみるとけっこうちがった。探偵役が誰なのか、どころかこの物語がどこに向かって進行しているのかも不明瞭な第1章は登場人物たちのキャラクタがされほど立っていないこともあって、判然としないまま読み進めていましたが、国語教師の新人賞応募原稿の存在が明らかになり、連続墜死事件の背後にあったものの存在がみえてくるようになるとがぜん面白くなってきます。
 作中にも登場のP・オースターニューヨーク三部作みたく(じつは「シティ・オブ・グラス」と「幽霊たち」だけ読んでいて「鍵のかかった部屋」は未読)、解体された探偵小説的な枠組みの上に乗っかった自己探求の物語なのかな? とか、後半でいきなり引用される某作品タイトルを目にして(ながいけん「神聖モテモテ王国」にあらず)、ああ、なるほど、と思ったりしながら、楽しく読みました。

 ただ、島田荘司、笠井潔のふたりが選考委員を務める鮎川賞に応募したのがそもそものまちがいだった気もして、つまり、きちんとした解を与えられないほうが光り輝いた物語だったのではと思うのです。本格ミステリになってしまうと、真相もさほど衝撃的ではなく、普通に落ち着いたものになってしまいます。ラストもあまり余韻を残さず、全体的におとなしいですね。

 描かれる学園風景にしても、現代の現実感覚とは乖離している印象を受けるので、「マリみて」なり、紺野キタ作品なりのように、もっともっと虚構的な閉鎖空間を構築してみたほうがよかったかもしれません。タイトルこそサナトリウムですが、箱庭感覚は希薄。萌えとしても皆無で、そこはちょっと惜しい。

03/12/25(THU)

○【topic】 2003年既刊ベスト

 新刊/既刊という分類に意味があるかどうかはわからないけれど、それ以外の小説本ベスト。

《国内部門》 たいして読んでいないのでベスト5に限定。

若竹七海「プレゼント」
若竹七海のはぜんぶ面白かったのですが、あえて挙げるならこれを。

法月綸太郎「頼子のために」
読了後印象が深まっていく。いわずもがなな傑作。

酒見賢一「語り手の事情」
愉快愉快。酒見賢一は天才だ!

色川武大「百」
幻想家族小説の大傑作。

倉知淳「過ぎ行く風はみどり色」
いろいろごちゃごちゃしてるところが楽しい。後味も爽やかでよい。

 次点は、西崎憲「世界の果ての庭」小川勝己「撓田村事件 iの遠近法的倒錯」

《海外部門》 こちらは充実。
ジェラルド・カーシュ(訳:西崎憲ほか)「壜の中の手記」
「廃墟の歌声」よりは圧倒的にこちら。奇想話とはこういうものだ!

R・D・ウィングフィールド(訳:芹沢恵)「クリスマスのフロスト」
既刊3作、どれもがたいへん楽しいけれど、やはり第1作のこれを。個人的な好みは、「クリスマスのフロスト」>「フロスト日和」>「夜のフロスト」の順。

アーヴィン・ウェルシュ(訳:渡辺佐智江)「フィルス」
こういうの書かせたらウェルシュは抜群。屑人間小説の金字塔。

チャック・パラニューク(訳:池田真紀子)「サバイバー」
現時点でのパラニュークベスト。こんな小説読んだことない。

ロバート・J・ソウヤー(訳:内田昌之)「ゴールデン・フリース」
壮大で馬鹿馬鹿しくてとても楽しい、倒叙ミステリの傑作。

ジョー・R・ランズデール(訳:鎌田三平)「罪深き誘惑のマンボ」
ハップ&レナードはどれもいいけど、あえていうならシリアスタッチのこれ。

フィリップ・K・ディック(訳:小尾芙佐)「火星のタイム・スリップ」
ぐねぐねしていて素晴らしい。悪夢SFの傑作。

パトリック・マグラア(訳:宮脇孝雄)「血のささやき、水のつぶやき」
エレガントで凶々しくて阿呆で楽しい、個人的には理想形な短編集。再読しようかな。

バリー・ハナ(訳:森田義信)「地獄のコウモリ軍団」
混沌としていてたいへん素晴らしい。

 セオジア・ローザック(訳:田中靖)「フリッカー、あるいは映画の魔」(上・下)
 圧巻。至極の読書体験。

 次点として、マーガレット・ミラー(訳:柿沼瑛子)「ミランダ殺し」ドン・ウィンズロウ(訳:東江一紀)「ストリート・キッズ」フォークナー「フォークナー短編集」ピーター・ディキンスン(訳:斎藤数衛)「キングとジョーカー」

03/12/26(FRI)

○【ANIME】 ギャラクシーエンジェルスペシャル「フユーレイピューレジュレ」「いどうどん」 (→公式

 人型宇宙兵器ってなんだ? ひたすら嘘臭いミルフィーユナレーションのあとはいつもの。というか、普通の。スペシャルっていうからもっと気合入ってるもんだとばっかり……

「フユーレイピューレジュレ」 いきなし攻めてきた反乱軍との戦闘により危機的状況に陥ってるエンジェル隊とウォルコット中佐。これが最期の任務かも? 投げつけられた手榴弾抱えて走り出したミルフィーユが目を覚ますとなんだかいつもと感覚がちがう。エンジェル隊の面々に声は届いてないみたいだし…… というミルフィーユ&ノーマッドコンビ話。またも入れ替わりネタかと思ったら、そうでもなかった。ろくでもない思い出ばかりが去来するのが素晴らしい。新谷良子の語りを堪能しよう! というエピソードですね。しかし、楳図顔のノーマッドはいかんだろう。

「いどうどん」 現場の配置変更でウォルコット中佐とメアリー少佐がチェンジして、というお話。しかし考えてみれば、異動とほとんど関係のない展開であります。「衝撃の瞬間は3分16秒後!」 とかテロップ出しときながら、まだまだうだうだ続くところはちょっとオモロい。なんとなくですが、第3期参入キャラ見納めエピソードという気がしないでもありません。ショタコンビはともかく、メアリー少佐はもうちょっと使いどころがあったと思うのですが…… まさか、ひょっとして、フォルテさんも? いやいやいや。馬鹿だなあ、地球が逆に回ったってそんなことはありえないよ。

03/12/28(SUN)

■book【単行本・小説】 シオドア・スタージョン(編:大森望)「不思議のひと触れ」 河出書房新社 [bk1][amazon]

シオドア・スタージョン(編:大森望)「不思議のひと触れ」  はあ、これはいいですねえ……
 幻想・ホラーめいた味わいで、どちらかといえば通好みのセレクトだった「海を失った男」とくらべて、わかりやすい作品が並び、入門者にはもってこいの内容になってると思います。発行は逆になりましたが、この「不思議のひと触れ」→「海を失った男」の順で読んだほうが、スタージョン像がはっきりと浮かび上がってきそうです。

「高額保険」、「もうひとりのシーリア」、「影よ、影よ、影の国」、「裏庭の神様」、「不思議のひと触れ」、「ぶわん・ばっ!」、「タンディの物語」、「閉所愛好症」、「雷と薔薇」、「孤独の円盤」10篇を収録。

 印象に残ったのは、「もうひとりのシーリア」、「影よ、影よ、影の国」、「不思議のひと触れ」、「タンディの物語」、「雷と薔薇」、「孤独の円盤」。これは編者の意図どおりかも。ほかの作品はスタージョンの作風の幅をみせるためのセレクトなのでしょう。まあ、重量級の名作ばかり集めて編めばいい短編集になるというわけでもないので…… 作家としての第1作であるショート・ミステリ「高額保険」、ユーモラスな「裏庭の神様」、ジャズ小説「ぶわん・ばっ!」、前述作品の強烈さとはちょっとちがいますが、どれもなかなか面白いです。箸休めな佳品。

 好奇心がやたらに強いせいか、ついつい他人の部屋に侵入してしまう(犯罪です)主人公が遭遇した奇怪な事件を描いた「もうひとりのシーリア」はラストの〆が味わい深い。継母に苛められる少年が夢想した何かを描いた「影よ、影よ、影の国」は、ブラッドベリがスタージョンを師と仰いでいたというのが伺える少年もの短編。これもよい。かなり突拍子もない男女の出会いを描いた表題作「不思議のひと触れ」はまあ、たぶんこの人しか書かないだろうお話で、心に奇妙な余韻を残します。「タンディの物語」、「雷と薔薇」、「孤独の円盤」3篇はどれも強烈の一言。「タンディの物語」は何かよくわからないことが娘に起きている、という若夫婦の戸惑いを描いた子育てドラマのようにもみえて、裏で進行している出来事は果てしなくスケールがでかい。ミクロ・マクロを対比する見せ方が上手い作品。とてもよいです。そして、「雷と薔薇」、そして「孤独の円盤」。なんでしょう、これは…… これが1947年に書かれたとは驚きの近未来ビジョンSF「雷と薔薇」、そして、ある平凡な女性に驚くべきようなことが起きて、そして……という「孤独の円盤」、どちらも胸が締めつけられるようであります。

 とにかく強烈な印象を残します。スタージョンの描き出す世界は慣れるまでちょっとたいへんですが、しかし、強力におすすめしたい。

03/12/30(TUE)

■book【単行本・小説】 森見登美彦「太陽の塔」 新潮社 [bk1][amazon]

森見登美彦「太陽の塔」  これはなかなか素晴らしい。この小説がこの賞取るというのはなかなかすごいんじゃないかと思える第15回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。えーと、京都を舞台にしたバンカラ風「神聖モテモテ王国」+「げんしけん」であります。

 何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。
 なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。


 京大生+休学中+五回生、という微妙なポジションにいる主人公が、いちどは恋人になりながらも自分を振った「水尾さん」の研究を続けながら、愉快なMNO((C)「神聖モテモテ王国」)の面々と世界の動向にまるで関係のないしょぼくれ妄想ライフをすごす。と書くと内容紹介それで終わってしまいますが、下手すれば根本敬のそれになってしまいそうな妄想物語を持ち前のセンスでファンタジーとして浮かび上がらせているところがこの作品の手柄なのでしょう。ものすごくだらだらした日常を楽しく読ませてしまうのはやはり才能のなせる技だと思います。ラストはきっちり切ないし。

 ただまあ、それも諸刃の剣で、クライマックスへのなだれこみがいささか唐突に感じられたり、なんとなく書いてみました感のある構成など、「頭いい子のてすさび」のように感じられる部分もあります。選評にて、井上ひさしが 「美点満載の、文句なしの快作」 と大絶賛して、鈴木光司がひっかかってるのはたぶんそこらへん。まあ、でも個人的にはこの若さで(1979年生まれ)これだけの作品を物せるのならばそれはたいした才能なのではと思います。単純に楽しくてよいですよ。

 しかし、滝本竜彦が角川学園小説大賞で、佐藤友哉がメフィスト賞で、これがファンタジーノベル大賞というのは、根底に流れるものは同じでも、アレンジの違いでこうもかわるものか、わかりやすい差だなあと思ったりしました。

03/12/31(WED)

■book【単行本・小説】 パトリシア・ハイスミス(訳:小倉多加志)「11の物語」 ハヤカワ・ミステリアス・プレス [bk1][amazon]

 たいがい嫌な話ばかりな、たいへんハイスミスらしい短編集。「かたつむり観察者」、「恋盗人」、「すっぽん」、「モビールに艦隊が入港したとき」、「クレイヴァリング教授の新発見」、「愛の叫び」、「アフトン夫人の優雅な生活」、「ヒロイン」、「もうひとつの橋」、「野蛮人たち」、「からっぽの巣箱」、タイトルどおり11の物語を収録。

 印象に残ったのは、「モビールに艦隊が入港したとき」、「ヒロイン」、「野蛮人たち」に、「かたつむり観察者」、「クレイヴァリング教授の新発見」のかたつむりもの×2。
 これがデビュー短編らしい「ヒロイン」の中に、いかにもハイスミスらしいサイコな切れ味が見えているのに驚きました。この人は最初っからすごかったのだ。「かたつむり観察者」、「クレイヴァリング教授の新発見」にみえる官能グロ描写もマル。もうちょっと長めの短編のほうが、この人の持ち味は生きてくる気がしますが、それでも嫌あな感じが出ててよいです。マル。

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