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たとえようもないような幸福感とともに女は目覚める。まるで世界は彼女を祝福しているよう。幸福は絶えることなく続いていく、永遠に。女にはそう思えた。そんな女の前に一人の男が出現する。男は彼女を<聞く女>と名付ける。女の体は動かない。男はTVのスイッチを入れる。ブラウン管の中にひしめき合う無数の人影。男はその中の一人を映像の中から取り出し、取りだされた男は世にも奇怪な物語を女に語り始める。その言葉は女の中に直接浸入してくる。無理矢理に。女はどこにも逃げられない。
恐怖イコール快楽であり、それは背筋がぞくぞくするくらいに甘美なものであること。
我々の心の深い部分に眠っているそういった感情を引きずり出して見せるような作用が牧野作品にはある。牧野作品を読むことを”牧野体験”と称する人間が多いのはつまりそういうことだ。
死はけして忌むべき存在ではないし、正気であることに意味があるのなら狂気にもきっと同じくらいの意味があるだろう。生と同じくらいに美しい死、正気と同じくらいに正しい狂気、異形のもの、世界から不当に貶められている存在を愛するということ。マキノ世界へようこそ。ここにはソレがゼンブあるよ。
『おもいで女』………ふと蘇る記憶の中にいつもいるあの、厭な女。なぜ思い出されるのか、そんなはずはないのに。過去の忌まわしい記憶に悩まされる男を描いたサイコホラー、のようにみせかけて実はそうでないのがマキノホラー。ジョジョのスタンド攻撃連想したの僕だけか?
『瞼の母』………えっと、
この人が書きそうな作品。騙されるな!
『B1公爵夫人』………小5になったタカヒコの夢に繰り返し現れる赤い男。「公爵夫人を解放せよ!」 夢だ、これは夢だってわかってるんだけど…それはなんだか恐ろしくて、でもちょっとだけ気持ち良いかもしれないから僕は何になってしまうんだろう。終盤の残虐シーンが心地良い少年+異形の者ホラー。
『グノーシス心中』………「深澤くんは嫌われるために生まれてきたような子供だな。」世界から排斥されてきた少年、千秋とカグヤマと名乗る男との心中譚。虐殺と逃亡の果ての美しく悲しいラスト。
『シカバネ日記』………生きながら既に死んでいた男と女の物語。これも『グノーシス心中』と同じく一種の心中ものかも。ラストは唐突にSF的次元へとスライドする。流石マキノ!
『甘い血』………異形のものとのラヴストーリー。その血は甘く、その血は世界の真実を見せてくれる。そして男は変態していく。
『ワルツ』………両手両足を不具にされた娼婦。彼女はある屋敷に運ばれて何不自由ない生活を送る…物語終盤に登場する骨、歯、肉などで造られた人体オルゴールのイメージは限りなく美しい。目覚めることすら許されそうにない甘く快楽に満ちた悪夢。
『罪と罰の機械』………罪を犯したものにそれ相応の罰を与えるために造られた機械。ゴメンなさいゴメンなさい、私は世界で最も醜い心の持ち主なんです。そう呟きつづける少女。機械は罰するに値する存在を求めてこの世界にやってきたし、少女は自らを罰してくれるものの存在を求めていた。これもある種奇形化したラヴストーリーかも。少年や機械の圧倒的な暴力描写に続く息を呑むくらいに美しいラスト。奇跡的な何かの存在を感じる。
『蜜月の法』………自分の娘が新たなる世界への「扉」だと知った男。「扉」を探して何万年もの時を旅してきた「鍵」と「施錠者」。ラスト、扉が開き、地球が発狂するシーンの美しくも恐ろしいイメージの奔流。牧野修の文体の持つ圧倒的なパワーが実感できる作品。
『翁戦記』………かつて「神人」なる戦士だった老人たちは闇の王の復活を知る。牧野作品としては驚くほどにストレートなヒーロー譚。ここでもマキノ文体パワーは炸裂している。次々仲間を失いながらも悲壮な覚悟を持って神に立ち向かっていく長柄老人の姿はどうしようもなくカッコいい。漢だぜ!
『<非ー知工場>』………とあるサイエンスライターが<非ー知工場>なる空間へといざなわれる。そこは科学で解明できない部分のみで構成された空間で…。科学的思考のみで世界を認識する男と<非ー知工場>の男との壮絶かつ不毛なディベート合戦、それに続くシュールなラストがみもの。さすがの言語芸。
『電波大戦』………マキノさん大暴走。ハルモニア群体/マーキング/フィレモン妄想酵素/燐粉事典/褒状想念/カザリクジリ三角などの単語を散りばめて全て電波文体で綴られたSF(なのかも不明な)作品。
『我ハ一塊ノ肉塊ナリ』………貧乏くじを引いてある星系に使いに出された男、そこは亜種という人間そっくりの労働者たちの惑星で…小さな村の肉屋の秘密から事態が急速に拡大していく展開は凄まじい。種の変容を描いた作品なのだがラストは個人的にグレッグ・ベア『ブラッド・ミュージック』とかを連想してしまった。
全ての物語を聞き終えた女。男は女の亭主の物語を語り始める。誠実なはずの夫は浮気を繰り返していて…「すべて妄想だわ。」女は言う。「目の前のあなたも単なる妄想よ。」男は言う。「ではあなたは何かね。」「私は…」女自身の口から語られるのはさっきまでの自分とは似ても似つかぬ女の物語。ゴミを漁り、はした金のために男と寝、精神を病んでいる女の話だ。自分は一体何者なんだろう?混乱した女の身体を突き破って新しい<聞く女>が誕生する。女の意識は消滅する。その問いに答えは出ない。永遠に。
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