
全14巻(〜13巻+完結巻)にわたる人気シリーズもついに完結。さて、内容はというと、←の表紙画見てもわかるように、ほのぼの家族コメディの決定版、なわけがない。そんな普通の作品、このページでわざわざ取り上げるわけなかろうが!!
ロマンチストでおとぼけなリカ、家族のためにハリキる祐二、好奇心旺盛なミキと犬2匹―――。日常の小さな出来事も、藤井さんちじゃ夢の中みたいに大騒動!幸せワンダーランドもついに完結!(完結巻裏表紙キャッチコピーより)
これじゃホントにほのぼの家族コメディみたいですが、それはブッブーであります。この作品はぜんぜんそんなんじゃないんでした。
この作品のキモはずばり、藤井家の嫁であるリカさんのドリーミー妄想体質にあります。幼稚園に通う娘がいるくらいなんで、結婚してもうずいぶん経ってるくらいの年齢の方なんですが、なんだか妄想が暴走する性質の方らしく、しぜん物語はリカさんのシュールなモノローグで埋まっていくのです。
たとえば第8話 「しましまくつ下のクリスマス」。洗濯機の中の靴下に片方見つからないものがあった、というまぁ良くある出来事から始まるこの話は「靴下が勝手に意思を持って歩いていくなんて…」というリカの軽い(これでも!)妄想ジャブからスタート。やがて旦那である祐二の愛人、可奈子が家に侵入。祐二の靴下を盗っていった…という妄想にエスカレートしていきます。もちろん可奈子はリカの空想上の人物です。そしてその妄想はやがて「祐二と可奈子に家を追い出されたら庭に掘っ立て小屋を建ててそこで暮らそう…可奈子さんはどんな人だろう…夏の暑い日には掘っ立て小屋にはクーラーがないから、このリビングで涼をとらせてくれるような、そんな優しい人だったらいいな。」というものにまで暴走していきます。繰り返しますが可奈子は単なるリカの妄想の産物で、この話、一応クリスマスのエピソードらしいのですが、物語の80%くらいがリカの妄想で占められており、クリスマスらしいシーンほとんどありません。しかもこんなお話が毎回毎回なんでありました。篠有紀子作品特有の詩的なモノローグに騙されそうになるんですが別にちっともほのぼのしてる話ではないのです。
そういえば、出張帰りの祐二がミキにだけお土産を買ってきてリカの分は忘れたというエピソードがあったんですが、そのあと(悲しかったという心象風景として)リカさんの葬式がいきなし始まったのには正直ショックを受けました。なにコレ?
―――ほら
あの行列が見えるでしょう?
あれは野辺の送り
白い花に包まれた
わたしのむくろがはこばれていくのです
そしてこの回の話終わり。正気か!
巻が進むにつれ、リカや登場人物たちの妄想は作品世界を次第に侵食していくようになります。第13話「海はここにあったの」は祐二のお嫁さんになりたくって仕方ないミキが亀にもらったタコ味やマグロ味のキャンディを食べて、文字通り大人に変身するお話ですし、祐二がツバメに恩返しされてオムスビをもらう話もあります。そんなシュールな話ばかりかと思ってると片やもらったばかりのボーナスをなくしたとかいうお話があったりして、篠先生の、この『花きゃべつひよこまめ』をどのような作品にしたいのかがまったく掴めないのが不思議な感じです。この作品をムリヤリたとえるなら英国風庭園で開かれてるティーパーティー。ぱっと見、ちゃんとしてそうなんだけど参加してみると出てくるお茶はコカ茶だったり、お茶請けはキンピラゴボウだったり、といったところでしょうか。(何を言っているのだ。)あくまで家庭的な思考の中で限りなくドラッギーにドライヴしていくシュールな妄想風景が最高にカッコイイです。
藤井家以外に増えていく登場人物たちの性格設定も奇妙そのもの。9巻で登場する名物キャラ、祐二の友人、健全なる肉体に脆弱なる精神が宿ってるヒト熊井さんは一言で言うと犯罪者な方(住居不法侵入、ストーキング行為、犬盗んで逃げる、とか)なんですが、花きゃべつワールドには欠かせないキャラの1人であります。(こういったヒトが祐二のほとんど唯一の友人として出てくる段階でちょっとヤバい気がしますが…)その他、UFOオタクな少年とか、そんなのばっかし。
そういった登場人物たちを動かしてなんとなくいい話のような話(たいてい錯覚です)を無理矢理こしらえるのが篠有紀子の作風なんですが、彼女の作品の中で一番の長期シリーズとなったこの作品ではそれが炸裂してるなぁ…と。やっぱオススメです。
遅くなりましたが、完結巻について。13巻出てからさっぱり音沙汰がなくて、出たと思ったら完結巻だったこの作品ですが、簡単に言うと篠有紀子本人、このシリーズを続けるのに飽きてしまったのではないか、という気がします。個人的な推測ですが。Kiss掲載分の最後の話から1年以上も経って、なぜかKissカーニバルに急遽掲載された最終話(特別編となっているが最終話だろう)は藤井家が日光に出かけて江戸村に行ったり猿軍団を観たり、といったお話なんですが今までのシュールテイストはまったくなりをひそめて普通のほのぼの家族ものになってしまっています。しかしながら、こんな風に永らく続けてきたシリーズの最後が「自分が猿の子供だと思い込んだミキが1人野原でまだ見ぬ自分の本当の(猿の)両親のことを思って涙ぐむ」という今までの展開をすべてひっくり返すようなものであるのは篠有紀子らしいなぁ…と思います。読んでるコッチもひっくり返ったよ。『世界で一番優しい音楽』みたいな作品の「大団円。そしてみんな幸せに暮らしました」みたいなラストには絶対したくないわけですね。もともとこのヒトは、ひねくれてるんだかなんだかしらないけど、「わたしの楽園」とテーマ銘打たれたKissカーニバル巻頭で『ヴィリジアン』というホラー描いてたりして、天然なんだか編集部が扱いにくいのかよくわからないヒトであります。そういえば完結巻に同時収録されてる『僕の魔法使い』という短編も奇怪で強引なラヴストーリーですね。こういうの描くのってこの人くらいかなぁ。無意味に挿入されるホラーテイストとほのぼのシュールさのブレンド加減が独特。
最後に残念なお知らせを1つ。上の文章読んで、ちょっと興味が湧いた…という方々。『花きゃべつひよこまめ』は完結巻を除いて、1巻から13巻までどうやら絶版になったらしいっす。そういえば本屋にバックナンバーぜんぜん並んでなかった。読みたい方は古本屋巡りの旅に出ましょう。僕は持ってるからいいけどね〜。しかしエグいことするよなあ、講談社。