- text #21 -

彼女とデート
有川祐
エンターブレイン


彼女とデート
 有川祐はやはり「目」の作家でしょう。『彼女とデート』の中で多用される目のアップの数々。心の動きをダイレクトに反映する眼球の描写、有川祐は登場人物たちの眼球に一度反射させることで物語を描く作家なのです。摂津の醒めた目、ある種の諦観をたたえたような八神の目、真っ直ぐな朱藤、野際の目。それぞれのキャラクタの内面によって反射、屈折された物語は緊張感を伴って淡々と進行して行き、そして時にこちらに真っ直ぐに向けられた登場人物たちの視線は読者の心をストレートに射抜いていきます。

 物語は『反町くんには彼女がいない』と共通な登場人物を使い、摂津、八神2人の高校生活について描いたもの。『反町くんには…』とは有川的パラレルワールドの関係にある作品といえるかもしれません。

 主要な登場人物は5人。摂津、朱藤はずっと中学〜高校とずっと同じクラスの腐れ縁。クールでどこか現実に対して醒めきったところのある摂津とわかりやすく熱血な朱藤とは(本人たちは否定するだろうけど実は)いいコンビ。八神さんと摂津は幼なじみで肉体関係もあるが特に付き合っているわけではない。八神さんの婚約者(お兄ちゃん)は彼女が子供の頃から八神さんに執心し、彼女をずっと自分の婚約者としての位置に縛り付けてきた。摂津、朱藤の同級生である野際さんは摂津に憧れている快活な女の子。

 この作品に出てくる「目」は全部で4種類。クールで醒めきっていながらもどこか八神のことが気にかかる摂津の「醒めた目」、お兄ちゃんの玩具として扱われている自分自身をとりまく状況にどこか諦観の念を浮かべながらも摂津に必死に助けを求めている八神の「諦めを伴った目」、彼女を自分の玩具としか見ていない婚約者修の「歪んだ目」、3人の関係がそんなものとは知らない朱藤、野際の「真っ直ぐな目」
 高校3年の春の日々をそれぞれの視点から描いた物語は前者3人のある種の屈折をともなった視点、そのままに真っ直ぐな朱藤、野際の視点、この2つの振幅の差によって激しく揺さぶられます。そして私たち読者の心もそうなるのです。

 やはり凄いのは八神、摂津、それぞれ自分の本心をうまく吐露することができない不器用な2人の心理描写。助けを求めていることに自分自身気づいていない八神の精神状態の描き方は見事の一言です。そう、幼い頃からソレが当たり前だと呪文を唱えつづけられたお姫様はずっとお人形のままなんです。呪文を解くにはやはり王子様のキスが必要なんでした。たとえそれがひねくれてて素直でない王子であったとしても。

 最終話は、えっと、環境が人格を形成するという観点においてやはり遺伝といってもいいのかなあ、と。もう1人の「歪んだ目」の持ち主は自分の子供を独立した人格として扱ってなかった修の母親だったんでしょうね。ひょっとするとこの作品の中でこの人が一番怖かったかもしれない。単純にカタルシスを解消させたラストを用意しないというのは有川祐らしいと思います。読者をここでいい気分にさせて終わりっていうのはこの作品全体の持つテーマを見失ってしまうことになるので。(00/06/03)

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