海明寺裕 コミックスリスト4

「めしべのアルバム」
「めしべのアルバム」  これまでのK9シリーズと違って短編集に近い構成。とはいっても「異境の掟」「続・異境の掟」,それから「めしべのアルバム」「歌はともだち」の組み合わせは,それぞれ主犬公が共通である。
「異境の掟」シリーズは,高圧的な姉にコンプレックスを抱いていた妹が,彼女を罠にハメてK9にしてしまうというお話。姉妹の相克の物語であると同時に,ここでは,元からK9であったモノと人間との区別がいかにつきにくいものであるかが語られる。また,K9というものが,世界的に普遍なものではなく,ある地域・国だけでしか存在を確認されていないものであることも。非常にわずかな差でありながら,人間とK9の間には厳然とした境界があるものとして扱われる。それはしょせん両者の意識だけの問題なのかもしれないが,真実は求められてはいない。「そういうものである」という前提のもとに淡々と進行する世界が,うっすらと恐ろしい。
「めしべのアルバム」「歌はともだち」は,チャンピオン犬である母とともに買われていった仔犬のパピが,ご主人様との出会いを契機に成長していくというお話。「歌はともだち」では,タレント犬目指して少女歌劇のレッスンを受けたりもする。ここにおいて,今までただ調教されて忠実な犬となる程度のことしか描写されていなかったK9に,それぞれの役割,職業が割り振られていることが明らかになる。人間に奉仕する生物でありながら,その中にも社会的枠組みがあるわけだ。K9を教育するK9といった存在もいれば,オスのK9もいる。お話自体は快活な成長物語ではあるが,その奥にかいま見える世界は深い。
 ここまで連綿と描きつづられてきたK9世界だが,さらに肉付け,体系の構築がいよいよ進んできた。物語の厚みは増すばかりである。
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「puppy Love」
「puppy Love」表紙  この作品でもますますK9世界は,広さと深みを増している。今回は「イヌ」の飼い主として目覚めていく少年・ヒロシが主人公。彼の生きている時代は,法律により「イヌ」に着衣が義務づけられていたために「イヌ」を「イヌ」として知らない子供が増えていた。ヒロシもその一人だったが,法律の「改正」によりイヌがそれとハッキリ分かるように,その存在を見せるようになる。

 この少年が,イヌと人間の関わり合いを理解していく過程を通して,海明寺裕はK9世界の構造を一つ一つ語っていく。今回は,これまでの作品のなかで読者がいろいろと疑問に思っていたことも,さりげなく明らかにされる。とくに目立つのがオスのK9の存在に関する言及。それからK9のさまざまな犬種などなど。K9と人間を分けるものは何か,K9を飼う人間は人間そっくりのそれらに対して欲情するものなのか。こういったことが語られることによって,K9世界観はさらなる重厚感を獲得している。

 このシリーズの場合,一話一話がどうこういうよりも,全体として構築され続けている世界観の奥行きと広がりにこそ魅力がある。端々のディティールがしっかりと描写され,それが積もり積もって驚嘆すべき一大絵巻となっている。これほどの作品を生み出した土壌であるフラミンゴだが,2000年中に休刊することが決定している。実に惜しい。

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「奴隷立國」
「奴隷立國」 「奴隷立國」は,フラミンゴ掲載の海明寺裕わんこシリーズとしては最終作になる。というのは雑誌が休刊してしまったからなのであるが。

 今回のシリーズでは,大戦で敗戦した国が自らの意志で「権利としての人権は永久にこれを放棄する」という憲法の言葉どおりに奴隷国家となっていくさまを,外国のドキュメンタリー番組がレポートするという形をとっている。これまでのシリーズと違って語り手の視点は外部のものとなっていて,これにより個人の経験の範囲にとどまらず,国家の全体像を語る形となっている。そのおかげで作品世界の仕組みを広く,包括的な形で詳細に読み取れるようになっている。

 この国が敗戦した後の歴史的経緯,人々(だったもの)が奴隷となるのを受け容れた経緯,奴隷の成り立ち,王室……といったもろもろへの描写は非常にこと細かであり,いつにも増して作りが周到で読みごたえがある。この奴隷を使役している人間たちと奴隷の関係性を考えると(例えば息子が人間で,母が奴隷として差し出される),何やら頭がくらくらしてきたりもするが,そのトリップするような感覚も魅力の一つだ。

 海明寺裕自身は,アシスタントの小杉あやによるおまけ漫画によると『力ずくとか薬とか使わずに人間があたりまえのように奴隷になる「制度」が好きなのさ』と語っていたとのことだが,わんこシリーズの中でもとくにこの作品は,社会システムに関する設定が入念に行われているように見受けられる。こういった作品世界のルール設定に尽力しているあたりは,やはり非常にSF的だなあと思わされる。

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