宮崎駿
Hayao Miyazakii

シュナの旅

全1巻 徳間書店 アニメージュ文庫B-001 判型:文庫サイズ
ISBN4-19-669510-8 C0174 初版発行:83/06/15 380円

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 いわずと知れた宮崎駿の作品だが、今となっては入手できるのかどうかはよく知らない。2〜3年前に神保町の書泉グランデの地下で見つけた覚えはあるのだが。初版が1983年だから、考えてみればもう15年くらい前の作品なのだ。

 宮崎駿の漫画といえば、「風の谷のナウシカ」を思い出す人が圧倒的に多いだろう。もちろん俺もそうだ。作品の持つパワーにおいてはこの「シュナの旅」は「ナウシカ」にはとうてい及ばない。「ナウシカ」は、あの重厚なストーリー展開、奥行きのある世界観、さまざまな側面を持つテーマ、どれをとってもすごい漫画だった。
 「ナウシカ」は誰でも知っているだろうからここであえて名前を出す必要もあるまいが、「シュナの旅」に関しては、覚えている人、知っている人が少なくなってきているような気もしたのでオススメしてみたい。

 「ナウシカ」とこの作品を比較するのは正直いって意味がない。どちらかが優れていると結論を出したからといって、誰かが得するってわけでもない。読者としては両方楽しめばいいだけの話だ。
 ただ、俺の印象としては「ナウシカ」はラストを急ぎすぎた感じがした。言葉だけで語ってしまった部分が多すぎたような気がする。そこまでが圧倒的なヴィジュアルの力を絡めてグイグイ引っ張ってきてくれただけに、ちょっと終わり方に納得が行かない部分もあった(ナウシカの出した結論に納得がいかなかったわけではない。純粋に演出上の問題)。

 もちろん終わり方に納得できなかったからといって、それまでの経過で楽しませてくれたということは否定されるものではない。個々のオブジェクト、描写、ストーリー展開、それらはほかに類を見ないくらい素晴らしかった。ただ、着地点がちょっと俺の期待していたものと違った、もしくは俺の期待を上回ってくれなかったというだけだ。ラストに至るまでの経過が俺の期待を常に上回り続けてくれていたために、最後も俺の予想を「はるかに」上回ってほしかったという、これほどのすごい作品でなければ、すごい作家でなければ出なかっただろう非常に贅沢な不満なのだ。
 「シュナの旅」は掌編ながら最初から最後まできっちりとまとまっている。「完成度」という点だけで見れば、俺にとっては「ナウシカ」よりもあるいは上かもしれない。

 この物語はチベットの民話、「犬になった王子」(賈芝・孫剣冰編、君島久子訳、岩波書店)が基になっている。「シュナの旅」は氷河がえぐった深い谷の底にある小さな王国の王子が、豊穣を約束する金色の穀物を求めて、さまざまな苦難を乗り越え神人の国から黄金の種を持ち帰り、人々にもたらすという物語。
 オールカラーで描かれたこの漫画は一コマ一コマ、丁寧に描かれていて、実に雰囲気がある。美しい自然、イキイキとしたキャラクター、話も急がず焦らずじっくりと作られている。スキのない構成、簡潔でキチッとまとめられたストーリー、ラストも非常にきれいで文句のない出来栄えだ。

 冒頭で述べたように今では入手が困難かもしれないが、手に入れられる機会があったら迷わずゲットしてほしい。……とか書いていたら、お便りのほうで「今でも手に入る」という情報がもたらされた。そんなわけで持っていない人はぜひぜひ買うべし。本当にすごく面白いから。俺としては、どうせアニメにするんだったらこれをやってほしかったなーと思っていたのだが、宮崎駿はすでに引退してしまったし、これがアニメ化されることはもうない。でも、別にアニメになろうがなるまいが、この作品が面白かったことには変わりないし、違うメディアで展開されたからといって「面白いストーリー」の数が増えるわけではない。それを考えれば、漫画だけで満足しておくべきかもしれない。