曽根富美子
Fumiko Sone

ファーザー

全2巻(講談社)

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 75歳で画家にして教育者でもある、父・高山晴美とその息子にして父と同じ名前を持つ息子・16歳の高山晴美の親子の物語。父の晴美は何しろ規格はずれな男で、75年の間に3人の妻に14人の子供を生ませ、現在は息子の晴美とともに野宿をしながら、気のみ気ままに暮らしている。

 力強くて、気まぐれで、脳天気で、ときに恐ろしくさえある父・晴美のキャラクターが実に素晴らしい。3人の妻に14人の子供ということからも分かるとおり、非常にヴァイタリティ旺盛でその行動は突拍子がない。松本大洋「花男」にでてくる、花男と並んで俺の理想の父親像である。激しく豪快で常に夢を追いかけて。そしてときに人一倍、いや百倍くらいの愛を注ぐ。男たるもの、こうありたい。
 父親不在が叫ばれる昨今、こんなかっこいい父親に対する憧れの気持ちは強い。そういったキャラクターの魅力だけでなく、一つ一つのエピソードもしっかりと描かれている。迫力のある絵柄、効果的な演出も大したものだ。女性作家にはわりと画面を大きく使えていないちまちまとした作品が多いが、この人の作品には、B6サイズの単行本からはみ出してくるような力強さがある。

 曽根富美子では、この作品のほかに同じくモーニングで連載された中原中也と小林秀雄の物語、「含羞−はぢらひ」もすごく面白い。残酷なまでに人の心を見透かして、魔法のような言葉に変えてしまう中原中也。自分の才能のみを頼りとし、それとともに消えていく中也。そして、その中原中也を愛したが、しょせん彼を自分のものにすることもできないし、彼になることもできなかった小林秀雄。セリフの一つ一つが、心にしみわたってくる名作。中原中也の詩のかっこよさと相まって、非常に感動的。
 精神治療ものの「EXPRESSION−表現」も好きだ。こちらは曽根富美子独特の迫力ある表現のおかげで、実に心に迫る力作になっている。
 これらの作品が今も本屋で見つかるかどうかは分からないが、「EXPRESSION−表現」以外はけっこう古本屋でもよく見かけるのでぜひ手にとってみてもらいたい。

 曽根富美子は怖い話も、優しい話も、素敵な話も、幅広くまた奥行き深く描けるだけの力を持っている漫画家だ。少なくとも、俺が買った単行本ではハズレはなかった。まだまだ俺としても彼女の著作の一部しか持っていないので、そのうちドカーンと買い揃えたいところ。

●単行本データ
「ファーザー」 講談社 モーニングKC 判型:B6
巻数ISBNコード初版発行価格
1ISBN4-06-102757-3 C037991/07/23500円
2ISBN4-06-102761-1 C037991/08/23500円


「含羞−はぢらひ」 講談社 モーニングKC 判型:B6
巻数ISBNコード初版発行価格
1ISBN4-06-102724-7 C037990/10/23500円
2ISBN4-06-102725-5 C037990/10/23500円


「EXPRESSION−表現」 講談社 モーニングKCデラックス 判型:A5
巻数ISBNコード初版発行価格
1ISBN4-06-313146-7 C037990/05/23800円