田沼雄一郎
Yuichiroh Tanuma

SEASON

全2巻 コアマガジン・ホットミルクコミックス68・87 判型:A5

巻数ISBNコード初版発行価格
1ISBN4-87734-102-1 C097997/02/201000円(本体971円)
2ISBN4-87734-193-5 C097998/07/16本体1000円+税

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「SEASON」表紙

 第1部(全5話)が1990年〜1992年の間に掲載され、その後、田沼雄一郎は一般系の雑誌で描くようになりしばらくの空白期間を置いた後、1996年に第2部がスタートした。そして第2部(全12話)が完結したのが1998年4月。完結までに実に9年かかっただけのことはあって、非常に丁寧に描き込まれた傑作となっている。

 お話の舞台は昭和50年代の関西のとある街。腕白だけど優しいところもある少年・永井剛志(通称:永やん)と、東京から転校してきた大人びた少女・佐藤陽子(通称:ヨッコ)の、小学生カップルの物語。夏休み、誰もいない学校のプールに忍び込んだ永井は、そこに裸で泳いでいた陽子と出会う。溺れかけていたところを助けてくれた永井を、陽子は誘惑し、照りつける太陽の中、二人は「汚れなき悪戯」(←死ぬほど陳腐な言い方じゃのう)に耽る。
 陽子の強引なペースに巻き込まれつつ、永井も次第に陽子がいとおしくなっていく。小学生だというのに、汁っ気たっぷりのSEXに浸る彼らだが、それはあまりいやらしくは見えない。お互いに対する愛情表現が、たまたまSEXという形で出てしまっただけ、という感じなのである。

 この作品のいいところの一つとして、ノスタルジックな世界を一つ一つ実に丁寧に描き込んでいることが挙げられる。プール開き、夏祭り、街の公園、ドッジボール、林間学校……といった懐かしくて眩しい光景の中で、物語は展開する。永井と陽子の小さいけれども、精いっぱいの健気な恋愛が甘く切なく優しく描かれる。
 1巻はそんな二人の幸せな季節で終始する。そして、2巻は一転してハードな展開に。陽子が関西に転校しなければならなくなった原因である父との再会と決別。さらには陽子の妊娠。想いだけは募るが、結局子供では何もできない無力さ。そして、彼らはいつしか離れ離れになり、眩しかった季節を卒業していく。

 連載時は陽子が転校し、永井が卒業していくシーンで話はいったん幕を引く。終わってしまった季節、戻れない時間。懐かしいけれどもうそこには帰れない。そこからまた少年少女たちはまっすぐ、着実に歩き出していく。一人校庭に残った永井が、さまざまな想いを込めて誰もいない校舎を振り返る見開きなど、非常に感動的なラストシーンだった。
 単行本では、この後のエピローグが付け足されている。彼らの歩んだ道は、自分で実際に本を手に取って確認してみてほしい。
 遠い昔の、忘却の彼方に消え去ろうとする二人だけの季節を、丹念に描き出した物語。田沼雄一郎の代表作の一つになることは間違いない。