村上もとか
Motoka Murakami

私説昭和文学

「私説昭和文学」

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小学館・ヤングサンデーコミックス
ISBN:ISBN4-09-179104-2 C0079
価格:1200円(本体:1165円)
初版発行:96/05/10
判型:A5(ハードカバー)

●収録
第一章「太宰治」
第二章「永井荷風」
第三章「梶井基次郎」
第四章「坂口安吾」

 持ち前の堂々としたストーリー運びと骨太な描写で、「龍−RON−」など近代の昭和を舞台にした秀作をものにしている村上もとかが、昭和を代表する小説家4人の生きざまをつづった作品。描かれているのは太宰治、永井荷風、梶井基次郎、坂口安吾の4人。太宰治については山崎富栄と入水するまでの1年間、永井荷風は老いてなお盛んな荷風と若く美しき女性との出会い、梶井基次郎は伊豆湯ヶ島での生活と地元の少女との交わり、坂口安吾は彼の少年時代に、それぞれスポットを当てて物語を構築している。

 この作品は伝記でもなければドキュメンタリーでもない。漫画でつづる文学史などでももちろんない。人々の心に残る数々の作品を生み出した小説家たちの、作品をも上回る個性的な生活、生きざまを村上もとか流に脚色し作り上げた物語だ。だから、文学史に残された事実だけが描かれているわけではないが、それだけに伝記や文学史の書籍などからは感じることのできない、彼らの、そして彼らの生きた時代の、生の熱気のようなものが読んでいる者に伝わってくる。

 収録作品の中で俺が一番気に入っているのは、第二章「永井荷風」。年老いても奇人といわれようとも、自分のポリシーを頑として曲げず、女に惚れ、ストリップ小屋に通い、誰がなんというと世間よりも数段粋で呵々大笑としながら生きている。その凜とした姿が実になんともかっこいいのである。俺もこういう老人になりたいという憧れを抱かせる。取り上げられた4人の中では、おそらく一般には最も読まれていない作家だと思うが、それだけに村上もとか自身が味付けしやすかったのだろう。永井荷風だけでなく、そのほかのキャラクターも実にイキイキと描かれている。

 理想をいうなら、この作品は取り上げられている人々の小説を実際に読んでみてから味わうのがいいと思うが、作品の知識はとりあえず必要ないし、実際の小説を読んでない人でも十分に楽しめる。教科書では味わえない、昭和の文士たちのかっこいい生きざまを存分に味わってほしい。