オス単:2002年3月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼少年誌・青年誌系

【単行本】「MONSTER」全18巻 浦沢直樹 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 久しぶりに長編漫画を一気読みする快感を味わわせていただきました。Dr.テンマがヨハン少年の命を救ってしまうところから始まり、じょじょにヨハンの恐ろしさが明らかになっていき、最後までダレることなく物語が構築されてて読みごたえ抜群。この手の長い作品の場合、短い独立したエピソードを積み上げていくパターンが多いけれども、この作品の場合は、もちろんエピソードごとの区切りはあるものの終始一貫してヨハンの謎という大目標から外れることなく、一本ドーンと大きな本流に沿って物語が進んでいくのが気持ちいい。なんか自分ではどうしようもない大きな流れに乗っかっているという感覚に浸れる。キレのある短い話というのもいいけれど、たまにはこういう大河な作品もやっぱり読みたい。

 ネタを小出しにして、真相をすこーしずつすこーしずつ明らかにしていくので、早く続きが読みたくなって飽きることがない。ここらへんのペース配分も絶妙。最初っからどこまで全体を見据えて作っていたのかは知らないけれども、長いのにすごくまとまりがいい。これだけの長さなのに破綻しているように思える箇所が全然ないというのはかなりすごいことだと思う。あと浦沢直樹って改めて絵がうまいなーとか思った。とくに表情のバリエーションの豊富さは素晴らしい。いかにも好人物そうな笑顔、猜疑心の強そうな卑屈な目つき、鉄仮面のごとき無表情、ヨハンの一見柔和だけれど底知れぬ虚無を抱えた笑顔などなど。欧米人描かせたら漫画界でもトップクラスだと思う。各場面場面で、そのシーンにピッタリの容貌を持ったキャラをきちんと登場させられるっていうのは強い。そんなわけで面白かった〜。満腹満腹。

【単行本】「恋風」1巻 吉田基已 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 全国妹マニア垂涎の兄バカ日誌。彼女にフラれたばかりのサラリーマン・耕四郎が、傷心のおり出会った女生徒。遊園地で印象的な出会いをした二人だが、その後、耕四郎はその女生徒が子供のころに親の離婚で離れ離れになっていた妹・七夏(なのか)だったと知り、甘い匂いに満ちた悩ましい日々に突入……とまあそんなお話。

 このお話の肝は、なんといっても妹が可愛すぎるということ。細かいペンタッチで丁寧に描かれた妹様の御姿はまさに可憐。ちょうどいい具合にちまちましてて、頭もかいぐりしたくなるようないい形。そーゆーのが無防備にまとわりついてくるわけだから、お兄ちゃん的にはもう、なのかSOSって感じですか。妹がいる人間にとっては妹は萌え対象でないことが多いようだけれども、妹がいない人間にとってはかわいい妹から「お兄ちゃん」と呼ばれるのは不可能状況なわけで、それを疑似体験させてくれるというのは、これはもうまぎれもなくファンタジーなのですな。しかも子供のころの喧嘩もありーのという状態はすっ飛ばして、十二分に可愛く育ってから突如出現というたいへん理想的な状態。でも萌えがどうこういわなくても面白い作品だと思う。絵もすごく美しいしねー。

【単行本】「七人のナナ」1巻 作:今川泰宏+画:国広あづさ 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 アニメのほうはすんません、未チェックです。というわけでアニメとのタイアップ作品だが、設定とかお話とかは、アニメとはまた別のものを用意しているらしい。個人的にはけっこう気に入っている作品。魔法のクリスタルの力で、平凡な女の子・鈴木ナナが7人に分裂。それぞれのナナはちょっとずつ性格が違ってはいるものの、同じクラスの男子・神近くんが大好きなところは一緒。そんなわけで7人が入り乱れての賑やかな学園生活が展開していくのです……という感じ。

 なんというか状況としては明らかにヘンなんだけど、やってることはとにかく平和。それぞれのナナたちもいい味出してて、ドタバタと楽しい。ナナは「ナナ」「ナナりん」「ナナぽん」「ナナっこ」「ナナっぺ」「ナナ様」「ナナっち」と呼び方がそれぞれあるのだが、この中ではのんびり屋のナナっこが最近いいかな〜とか思っているところ。絵柄的には、とにかくみんな丸顔でぷにぷにと、肉付きがしっかりしてて健康的なのが好み。パンチラをしっかりとバックアップするだけの、安産型のおしりの持ち主。

【単行本】「時の添乗員」1巻 岡崎二郎 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 岡崎二郎作品はいいな、としみじみ思った。この作品は、自分が戻ってみたいと思う過去のある一点にお客さんを連れていくというツアーを提供している旅行代理店を訪れる人々の物語。過去に戻る理由は人によってさまざま。少年のころ恋していたひとの今は覚えていない一言を聞くためであったり、かつて親友と共に綴った交換日記を探すためだったり。過去を訪れることによって取り戻す記憶や新たに知る事実は、おおむねスケールとしてはちっちゃなものだ。それだけに忘れてしまいがちではあるが、それぞれの人間にとってはかけがえのないことだったりする。そしてそのドラマを丹念に追いかけて、一つの物語としてまとめる腕前は絶妙。改めて読んでみたら、どのお話もジーンとくるものばかりで感心してしまった。岡崎二郎といえばSFという言葉が思い浮かぶけれども、そこにはいつだって暖かい人情味がある。地味ではあるけれども粒揃い。本当に良心的だ。

【単行本】「ギョ」1巻 伊藤潤二 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 ギョはいいなあ。この作品のあらすじを紹介するならば、ある日突然、足の生えた魚が日本に大量に上陸して死臭のごとき生臭いにおいをまきちらし人々をパニックに陥れるというもの。ホラーというよりはやはりパニックものでしょう、これは。とにかくやたら鋭い足でしゃかしゃか走り回る魚というヴィジュアルのインパクトは文句なしに強烈。これは怖いしオモロいよ。なんかいたら本当にイヤだなと思わせる迫力。回を重ねるごとに事態は深刻化していて、このままいったらどうなるんだろうという期待が高まる。「うずまき」の終盤は神々しいとまで思ったが、あのくらいスケールがデッカくなってもいいかも、とか思った。

【単行本】「犬・犬・犬」5巻 作:花村萬月+画:さそうあきら 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 これにて最終巻。虚無に生きるマヒケンと、彼にハマり込んだ人々にそれぞれの決着が訪れる。マヒケンの存在をありのままに受け入れることで成長した鳥井、マヒケンを所有しようとして悲劇的な結末を迎えた道男と佐和子。ラストは収まるべきところに収まったなという気がした。マヒケンの心すでに空なり、空なるがゆえに無。その何もなさを描ききったさそうあきらの筆は最後まで冴えわたっていた。

【単行本】「サーティーガールズ」 画:若狭たけし+作:北沢末也 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 白鳥蘭子、鷹村礼子。同じ部屋に住む二人の30歳独身女性が、凹んでいるイイ男を捕まえてきてはキッカケを与えて元気づける……というお話。と書くとHなことを想像しがちだけど、そういうのはいっさいなし。二人は男たちを見守り、息の合ったコンビネーションで彼らが自分の力で歩いていけるようキッカケを示すのみ。どちらもきっぷが良くて包容力があって魅力的。読後感の清々しいよくまとまった作品。全1巻で終わりだけどこれはもう少し長めのシリーズにしちゃっても良かったかも。

【単行本】「ハネムーンサラダ」5巻 二宮ひかる 白泉社 B6 [bk1][Amzn]

 これにて最終巻。最後までとても心地よく面白い作品だった。男一人に美女二人。単純な三角関係とかパワーゲームとかをどろどろやるんではなしに、あくまで3人であることによる快感とそのエリアの空気を描いていたのがよかった。絹のような滑らかな読み心地とでもいいますか。読んでるだけでなんかいい気分になれた。最終巻では、おそらく読者がみんな待ち望んでいた展開もしっかり用意されていたし。ラストも賑やかで楽しかったし、いいお話でした。満足満足。

【単行本】「イヌっネコっジャンプ!」5巻 はっとりみつる 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 最終巻。お話としては、正直何が何やらというまま賑やかに最後まで持ってっちゃった感はある。しかし、それでも楽しい。抜群に楽しい。女の子のかわいさはもちろん、酒呑んでういういいって踊りまくったりといった一つ一つの出来事が、妙に良かった。そして時折ジャンプのシーンで、ズバッと気持ちよーい開放感を与えてくれる。絵も基本のトーンは同じながら、途中から一段と華やかになった。なんかわけは分からんけど、見ているだけで理屈抜きに楽しい作品でありました。

【単行本】「アベノ橋 魔法☆商店街」1巻 画:出口竜正+作:GAINAX+脚本:あかほりさとる B6 [bk1][Amzn]

 アフタヌーンの鶴田謙二版よりもこっちのほうが分かりやすいかも。アニメとかとのメディアミックスだけど、出口竜正の少年誌っぽいパンチラ胸チラ系Hのおめでたさがすごくよく出てると思う。本当に明るくて毎日がお祭りのようだ。えーと基本的には再開発で失われようとしているアベノ橋商店街を惜しむ少女アルミと少年サッシの二人組が、何やらマジカルなワールドに引き込まれていろんな冒険をするというお話。なんか先行者っぽいものだのエヴァンゲリオンっぽいものだのボコボコ出てきて好き放題で、元気良くノリノリなところが楽しい。むやみにサッシを好いてくる女の子、ネネネの越智さん(出口漫画版のオリ・キャラだそうな)とか、キャラクターもヘンな人たちがてんこ盛り。馬鹿馬鹿しくて良い作品なり。


▼マニア誌系

【単行本】「自殺サークル」 古屋兎丸 ワンツーマガジン社 A5 [bk1][Amzn]

 監督・脚本:園子温の映画、「自殺サークル」を元に古屋兎丸が描き下ろした165ページの単行本。お話は女子高生が手をつないで電車に飛び込むという、ショッキングな集団自殺のシーンから始まる。その中でただ一人生き残った女の子・小夜と彼女を心配する親友の京子、そして小夜が強い畏敬の念を抱いていた自殺サークルの中心人物・光子にまつわる謎を巡って、お話は展開する。

 とまあそういうお話なのだけど、これはかなり面白い。ストーリーは常に緊迫感があり、ミステリアスでヒキが強い。絵のほうもストーリーにマッチしてて現実っぽい肌触りを感じさせる。どんどん物語世界に引き込まれる。中心となる小夜と京子の二人の友情を描いた物語としても興味深い。なおこの作品で、古屋兎丸は1か月で165ページを描ききったらしい。デビュー当時は1日1コマ描くのが限度だったらしいけれども、それを考えるとずいぶんスピードアップしたものだなあと思う。

【単行本】「象の怒り」 吉田戦車 エンターブレイン A5 [bk1][Amzn]

 ある日、世界で象がタイヘンなことに! というわけでいきなり知能を持って人間たちに牙、というか鼻を向け始めた象たちを巡り、スパイである夏助が大活躍するという物語。最近の吉田戦車にしては珍しく1巻まるまるのストーリーもの。

 まあいってみればスパイものなのだけれど、どうにもまったりしているのが味。夏助は世界各地を飛び回りながらも日本にいる妹や弟にしれっとFAXを送りつけてくるし、スパイならではの技もなんか間が抜けている。そもそも象って段階でなんだかユーモラスだ。まあ象でなくてキリンでもユーモラスではあろうし、実際に起こったらユーモラスどころの話でないことは間違いないのだが。正直いって派手な面白さはあんまりない。スペクタクルといえばスペクタクルなんだけど、常にどこかのんびりしてるし。でもその分、お茶でも片手に象の凄さ、スパイの必殺技の数々を堪能するのにはいいと思う。あと、象の総合栄養食である草パンとか、象用キーボードとか、細かいアイテムも味わい深くて好きだ。

【単行本】「臥夢螺館」1巻 福山庸治 講談社 B6 [Amzn]

 嬉しいなあ。この作品は最初1993〜1994年にモーニングにときどき掲載されたのだが、その当時は油断しててちゃんと雑誌を切り抜いて保存してなくてすごい悔しい思いをしていたのだった。それがWebマガジンのe-mangaに掲載されるようになり、ついに単行本化されたわけだ。

 この物語は一人の男が部屋から出てこなくなった男を探るよう、大家に依頼されるところから始まる。その部屋は鍵が何個もかけられていて入れなかったが、窓の外から見るとそこには、肌が白い、顔がまったく同じの裸の女が複数いたのだった。この女たちは「天使」と呼ばれる存在であることがやがて判明し、彼女たちの追跡が男に迫ってくる。といったところからどんどんとこの「天使」たちが数を増やしていって、人間社会の至るところに拡散していく様子が描かれていく。で、この天使ってーのがすごく不気味な顔してるんだよね。人間なんだけどすごく無機的で、しかも邪悪。悪意とかではなく素で害をなす。彼女たちが人間の内部に潜り込み(比喩表現じゃなくて本当に物理的に)、人格を食い荒らしていくさまはゾッとする恐ろしさがある。ミステリアスでしかも怖い。こういう不可思議な世界をリアリティをもって描けてしまうあたり、福山庸治ってカッコイイ作家だなあと思う。

【単行本】「しりももSHAKE」 榎本俊二 講談社 B6 [Amzn]

 コミック覇王/覇王マガジンで1994〜96年に連載された作品が、微妙な時間を置いて単行本化。川崎だいすけ&桃田よしおのバカ子供コンビと、顔が尻な魔神「尻仮面」、それから尻見せ女がもりもりうんこや屁をしまくるという、たいへんに勢いの良い漫画。まあ下品っちゃ下品なんだけど、榎本俊二の描くこれらのものは、単純に大量であることの楽しさを味わわせてくれて、見ていてスカッと愉快痛快。この漫画が、学校でうんこする奴差別の解消につながったらいいな、とか。思ってみただけさー。ウィ・アー・ザ・ウンカー!

【単行本】「ヤサシイワタシ」2巻 樋口アサ 講談社 B6 [bk1:1巻/2巻[Amzn]

 完結巻。イタイ、だけれども気になって仕方がない年上の女性・弥恵に生活をかき乱される青年・芹生。非常に不器用な二人の関係を気持ち良く……なんか描かないところがこの作品のタイヘンなところ。フツーに暮らしているような人間だったら誰でも持ってるような弱い部分を、もうズバズバと暴く。それもなんかこう「根源的な邪悪さ」とかではなく、日常の中で見逃されてしまいそうな「卑怯さ」とか「怠惰」とかだったりするだけに、身近だしこたえるものがある。その反面、そういうことをハッキリ言葉に出してくれるネームが痛快だったりもして。痛いけれども同時になんだか気持ちいいようにも思えてきちゃう不思議な感覚。どんなに言葉では語ってみても語り終われない、心の微妙な凸凹をとらえていくセンサーの精度はとても高いと思う。後半にメインキャラとなる、芹生のいとこで年下の妹分的な存在・澄緒ちゃんの存在は、若干ヌルい感じもする。でもこの娘が出てこなかったら本当に救われなかったかもしれない。居心地良さといたたまれなさが分かち難く共存した興味深い漫画でありました。

【単行本】「お花畑で会いましょう」 増田剛 ぶんか社 A5 [bk1][Amzn]

 うらまっくの別ペンネーム。若き画家の青年・裕一郎が、ふとしたことから知り合った女性・幸子。裕一郎は幸子に強く惹かれるも、彼女は薬物中毒であることが判明。理不尽に感情を爆発させたかと思えば、いきなり沈み込む彼女とつき合ううちに裕一郎も消耗していく。しかしそんな中でも愛を築き上げていく二人の様子を丹念に描いていく作品。テーマとしてはかなり重いけれども、真摯に一つ一つのシーン、言葉を描いていこうという姿勢は好感が持てるし読みごたえもある。一話一話のページ数があまり多くないせいもあり「もう少し掘り下げが欲しいな」と感じる部分はあるけれども、読後感は暖かでしっかり読み進められる作品になってると思う。この人はエロ漫画のほうでも、コンスタントにとてもうまい短編を描く人だったんだけど長編で代表作がないのは気になっていたところなのだが、この作品を描き上げたというのは一ついいきっかけになりそうな感じではある。

【単行本】「穴があいてる」 うらまっく 実業之日本社 B6 [bk1][Amzn]

 うらまっくってうまいよなーと思わせる中短編集。絵柄、ストーリーともに完成度が高い。ときにその整いぶりにもの足りなさを感じることもあるんだけど、それをいうのは贅沢ってもんかもしれない。この単行本の中では、夫が幼児退行しちゃったことにより奥さんがわたわたする「子供の時間は終わらない」前後編が好み。最近はシリアス路線が多いけれども、カラッと明るいお気楽路線の作品についても描き続けていっていただけるとうれしい。

【単行本】「魔法のエンジェルグリグリビューティ」 和六里ハル メディアファクトリー B6 [bk1][Amzn]

 単純に面白い! 会った人誰もが魅了されちゃう鼻血モノでカワイイ美少年・紅扇ビューティーのもとへ、ある日巨乳な天使・フェイスが落ちてきて、その天使の輪っかがビューティにくっついてしまう。というところから始まってフェイスがビューティーの家に転がり込み、そこから天使と悪魔の争いに巻き込まれて……といった感じで、お話としてはドタバタドタバタと展開。特徴はなんといってもビューティーが可愛かったり、めがねっ娘な天使のマウスさんがやたら恥ずかしい格好させられたり、とにかくサービス満点なこと。たぶんみんな「近藤るるるに似てる」と思うだろうけれども、近藤るるるの御推奨オマケページまで付いてたりする。かわいけりゃーなんでも許されるって感じの単刀直入さがよろしいではありませんか。なんかこうピチピチしておりましてな、読んでいると心が潤うんであります。

【単行本】「ロケハン」 陽気婢 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 表題作は自主制作映画を作っている二人組が、地方へロケハンに行き、そこでAVの撮影隊と遭遇。そこの人たちと仲良くなったり、地元の郵便局におつとめのおねーさんに出演依頼したりする中で展開される青春模様を描いたラブコメといったところ。読後感は非常に爽やかで、陽気婢のしなやかな絵柄もとても魅力的。とはいえストーリーの力は若干弱めかなー。何かこうスルリスルリと、大きく盛り上がらないまま終わってしまったような。でものらくら読んでる分にはしっとりとした絵柄に吸い寄せられるようで、抜群に気持ちいいことは確かなんだけど。なお、前後編の読切「インベーション・ボーイズ・ライフ」も併録。こちらはきれいにまとまったなーと印象。全般に絵柄から何から甘く爽やか。


▼非新刊

【単行本】「バード〜砂漠の勝負師〜」全2巻 青山広美 竹書房 B6 [bk1][Amzn]

 OHP月極アンケート2002年2月の「ギャンブル漫画」で1位になった作品。なるほど、こりゃおもろい。筋立てとしては日本の博徒系のヤクザの依頼により、世界一のマジシャン、通称「バード」が、30年無敗の伝説的雀士「蛇」と死闘を繰り広げるという物語。とにかく素晴らしいのは、読者を物語に引っ張り込む力がむちゃくちゃ強いこと。物語展開もすごくスムースかつドラマチックだし、こういう「読ませる力」については青山広美はかなりすごいもんを持った作家だと思う。

 この作品で行われるイカサマは、かなり荒唐無稽といえば荒唐無稽。しかしそれがまったく違和感を呼び起こさないのは、物語の最初っから前提条件をすごく高く設定してあるから。わざわざ普通の博徒ではなくマジシャンを引っ張り出すだけあって、ここで繰り広げられる麻雀は、超高度なすり替えなどのイカサマが、「前提」として当たり前のように行われる。そこが出発点なもんだから、イカサマが相当すごいレベルに達してても納得できる。到達点が恐ろしく高いのに、強さのインフレが適度な範囲に収まっていたりするわけだ。全2巻程度のボリュームで終わることを最初から意識していたように思えるのも美点。敵は最初っからピンポイントで固定。余計なエピソードが差し挟まれることがないので隙がない。作家が一人で全体をコントロールし、無駄な分を作らず、かつ描きたいことを描き切るには、漫画の場合1〜3巻程度が適度な分量だと個人的には思っているのだけど、この作品読んで改めてまたその想いを強くしたりした。

【単行本】「お父さんは急がない」 倉多江美 小学館 B6 [Amzn]

 ものすごーく淡々として地味なんだけど、とてもいい作品だと思う。タイトルにある「お父さん」は、10年以上四段のままの、プロの碁打ち。彼には奥さんとギャルっぽい娘、それから囲碁が好きな聡明な息子がいて、いまどき珍しい下町の長屋住まい。このお父さんの日常を描いていくという作品なんだけど、タイトルどおり、ほんっと急がない。お父さんは散歩好きで、よっぽどのことがないと電車も使わず、二〜三駅くらいなら平気で歩いちゃう。主人公がそういう人だけにお話もまったく急がないし、大きな事件だって一つも起きない。でもそのゆとりあるペースが、読んでてなんとも気持ちいい。考えてみればプロ棋士というのもプロ野球なんかと一緒なショービジネスなんだけど、お父さんはあくまで淡々。枯れたぺースがとてもいい。こういう隠者めいた生き方にはちと憧れるものがあるけど、煩悩多き自分には無理だなー。そう思うだけによけいいいなあと感じる。


▼エロ系

【単行本】「おつきさまのかえりみち」 三浦靖冬 ワニマガジン社 A5 [bk1][Amzn]

 待望の初単行本。作家名は「みうら・やすと」と読み、活躍場所は主にワニマガジンの快楽天。表紙を見ただけで魂を抜かれてしまう人も恐らく多いのではなかろうか……と思われる、えらく美しい装丁。まずはなんといっても絵がいいよね。セピア調の色使い、細かく細部まで描き込まれた画面、健気だけど寂しそうな顔つきをした少女たち。何かふっと消えてしまいそうな雰囲気がある。

 お話も作画に似つかわしくセンチメンタル。「萌え」とかそういう類の甘さはほとんどなく、苦みを抱えながら生きていく中での哀しみ、そしてほんのちょっとの希望を大事に大事に生きるはかなさを美しく紙面に映し出している。唯一、三話構成になっている「とおくしづかなうみのいろ」は、この人の作風を象徴するような作品。細胞を極端に浄化する薬を投与され外の世界では生きていけなくなり、施設に隔離されていた少年少女たちの悲しい姿を描く物語で、純粋すぎる者たちが穢れた世で必死に寄り添いながらそれでも生きていこうとするさまを丁寧に描いた力作。この人の作品は、人物はもちろんだけど、風景がすごくいい。自分の記憶ではないにも関わらず、今は戻れない、手の届かない昔といった風情がある。それがまたセンチメンタリズムを刺激して、作品全体が心にしみこんでくる。単行本が発売されたことでこれから注目度は上がってくるだろうけれども、この繊細な作風はいつまでも失わないでほしいもんです。

(収録作品)「ヨトギノクニ」「とおくしづかなうみのいろ」「群れなす青のように」「やめるはひるのつき」「夏ノ柩」「籠目籠女」

【単行本】「お家につくまでが遠足です」 山本直樹 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 短編集。本当にいつも通りの山本直樹という感じだが、一作一作ちゃーんと違うお話になってる。なんかもう何を描いても山本直樹は山本直樹。ちょっとやそっとのこと、ストーリーや登場人物が違うくらいじゃびくともしない確かなもんがあるなーという感じ。収録作品の中ではやっぱり表題作「お家につくまでが遠足です」がいいかな。野っぱらで、なんか委員長っぽい感じのメガネくんとメガネさんが、表情を変えることなく回りくどい生真面目な言葉で語り合いながらエロいことをするというお話。表情とセリフのミスマッチとかもそうだし、コマの進め方もそうだし、ホントうまい。絵もスタイリッシュかつ艶めかしくってとても良いな。白っぽさとかもちゃんと味になっちゃってるし。

【単行本】「いけない少女」 おがわ甘藍 松文館 A5 [Amzn]

 例のM、っていうか宮崎監督似のアニメ監督・宮脇直(みやわき・すなお)センセイが少女たちにいやらしいイタズラをしまくる「いつも何度でも」前後編のほか、「いけない子」「めたもるフォーゼ」「ジュリアは部屋で」「菜緒の日曜日」「小羊の涙」「天の羽衣」「夢みたものは」を収録。たいへんHなロリ系の単行本。おがわ甘藍はロリ系の中でも、幼女系ではなく少女系。ハードではあるけれども、あくまで少女たちを気持ちいくしてやろうという気概が見える。描く女の子には「可憐」という言葉がよく似合う。スカートの端をくわえて声がもれるのを押さえようとしたりする、恥じらいがしっかり描写されているのがとても好ましい。反らせた体のラインがとてもしなやかなのもグッド。あと、この人は手の表情の描き方がいいな〜と思う。恥ずかしがるように口にあててみたり、左右の手の指をからませ哀願するような仕草をしてみたり。そういう細やかな描写が、Hさを増幅させている感じ。

【単行本】「女の子は特別教」 タカハシマコ コアマガジン B6 [bk1][Amzn]

 きれいでかわいいなー。コアマガジン系のエロ漫画雑誌に掲載された、だいたい8ページ程度のショートストーリーを集めた単行本。そういえばこの人って美少女系では初単行本なのね(通常はボーイズ系)。とても繊細な線で描かれた少女や少年たちの姿形は、見ているだけで気持ちいいこと気持ちいいこと。お話のほうも、明るい話あり、ちょっと残酷でスリリングな話あり、いずれもきれーにまとまってて鮮やか軽やか。表紙なんか見てもすごくファンシーだし、男性向けエロ漫画雑誌掲載作の単行本とはとても思えない。きれいなお花みたいな単行本。


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