オス単:2003年2月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼強くオススメ

【単行本】「天水」下巻 花輪和一 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 ああ、やっと最後まで読めた。未発表20ページと描き下ろし31ページを加えてようやく完結。みなしごの棗と河童さんの、母を探し尋ねる旅もようやく終着点に。全体としては優しく締めくくられる日本むかし話。でもお話の中に現れる怪異は、花輪和一ならではの濃くて緻密な描写が施されている。邪悪なものにとりつかれてしまったときの棗や母親のものすごい表情とかはやっぱりすごい迫力。紆余曲折はもろもろあるんだけど、最後まで読むとなんだかすごくすっきりさっぱりする。この憑き物を祓い落としてくれるような感覚はすごく気持ちいいなあ。やはり物語はめでたしめでたしが一番だと思う。本当に。

【単行本】「週刊石川雅之」 石川雅之 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 待望の初単行本。モーニングに掲載された読み切り11連発を集めたもの。どの作品も序盤は巧妙にお話を進めて読者を引き込んでいき、最後にアッと驚かされたり笑わされたり、それから後味良くしみじみきれいに締めくくったり。非常に気が利いている。ギャグも青春モノもうまい。収録作品の中では、久しぶりに里帰りしてきた息子が目を疑うほどに様変わりしていて……というところから始まる1本めの「彼女の告白」、仕事はできる・美人・だけど独身な28歳のOLが見つけたふとした安らぎを描く「ただそれだけで」、とある寂れたバス停で出会った男女のそれぞれのドラマを描いた「バス停」あたりがとくに気に入っている。

 作画は独特の硬さというかなんというかがあるが、細かなペンタッチで丁寧に描き込まれた絵柄は暖かみがあって魅力的。若干表現に抑制を利かせすぎかなと思わないでもないけど、ストーリー構成力などは非常に高いし、やっぱり期待させられてしまう作家さん。やっぱり若手作家好きな人にとってはたまらない存在であると思う。これが売れて「カタリベ」等の未収録作品も単行本になってくれると凄くいいなあ。

【単行本】「シャーリー」 森薫 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

 こちらは同人誌で発表された作品をまとめた単行本。13歳の女の子が一人住まいの女性のところにメイドとしてやってくる「シャーリー」、5歳の男の子とメイドさんのお話「僕とネリーとある日の午後」、イタズラ好きな老紳士と気の強いメイドと若い執事の日常を描いた「メアリ・バンクス」を収録。作画自体は現在のほうが洗練されてきているとは思うけれども、全体的な雰囲気については「エマ」同様。どの作品も優しく楽しい。個人的には老紳士の茶目っ気が面白い「メアリ・バンクス」が一番好きかなあ。


▼一般

【単行本】「冴木さんってば…」 安田弘之 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 安田弘之のお蔵出し作品集。デビュー前から近作まで、発表時期はかなりバラついていて、作風も多様。でもユーモアがしっかり利いた作品が多いし、どの時期の作品を見てもセンスいいなあと思う。飄々とした話運びもそうだし作画もそう。直線的でカクカクした絵柄のときもあれば、曲線を多用してる絵柄もあり。そのどちらにも味がある。ここらへんの作品見ると、「ショムニ」あたりはずいぶん一般向けに噛み砕いて描いていたんだなあという気がする。

【単行本】「π」1巻 古屋兎丸 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 現在ビッグコミックスピリッツで連載中の作品。おっぱいとπ、その聖なる関係が生み出す究極の美を探求することに人生を捧げた、一人の男子高校生の物語。主人公・沢木夢人はもともとたいへんなおっぱい好きだったが、中学の授業でπという割り切れない数字を知り、天啓を受ける。ここにこそ究極の美があると。さらに黄金比からもインスピレーションを得て、独自のπ理論を構築していく。そして真理を追求するため生おっぱいを見る機会を最大化せんと、それまでデブオタクだった肉体に急激なダイエットを施し、高校デビューとともにイケメン化する。どこからどう見てもカッコイイ男子生徒でしかない彼が、真剣におっぱいのことを考え続ける姿からおかしみを見出していくというギャグ漫画である。

 「Marieの奏でる音楽」など、最近の古屋兎丸の作品はシリアスなものが多かったので、この人がこういう作品を描くとは……といった印象を持つ人もいるかもしれない。でも振り返ってみると古屋兎丸は最初の「Palepoli」はギャグ漫画だったし、ヤングサンデーでもコギャルネタをメインとした「ショートカッツ」とかも描いてたわけだから、この人の作風の幅広さから考えれば別に奇異なことではない。「π」もギャグ漫画としてかなりいい具合に進行していて、夢人の行動はどんどんエスカレートしていくし、濃いキャラも出てくるし、どんどんバカバカしいお話になっていっている。あと馬鹿漫画に見えはするけど、おっぱいの美というものは本気で研究していくと実はけっこう深そうなので、もしかすると今後物凄い展開があるかも〜とかほのかに期待しているところもある。それにしても巨乳とギャグって本当に相性がいいなあ。

【単行本】「LET IT BE!!」3巻 こいずみまり 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 れっついっつびー。これにて最終巻。お父ちゃんとナナの秘密も明らかにされてめでたく大団円。やっぱりこの作品は、高めな容姿、だけど意外とウブだったりHだったりもするお嬢さま・桜小路さんでしょう。顔を真っ赤にしつつも透くんにお願いしちゃったりする様子が、たいへんかわいいというか男心を燃え立たせるというか。いろいろ障害があって、それが意外にもけっこう大がかりな仕掛けだったりするものの、基本はアツアツのラブコメ。満喫しました。

【単行本】「学園アリス」1巻 樋口橘 白泉社 新書判 [bk1][Amzn]

 「MとNの肖像」「スワンレイク」の樋口橘の新連載。田舎の町に住む10歳の女の子・佐倉蜜柑は、親友の蛍が東京の名門校にいきなり転校してっちゃってものすごーく寂しい思いをしていた。んでもってもう耐えきれなくなってしまい行動を起こし、彼女を追っかけて都会へ単身出ていくことに。ところが彼女の転校先の学校は「アリス」と呼ばれる特殊能力を持つ子供しか入れないところだったのだが、何を見込まれたのか蜜柑もそこに入れてもらえることになってしまった〜というところから始まる物語。要するに可愛い変人の親友に置いてきぼりにされた可愛い変人が、都会に出てって変人しかいない学校に入学するという学園コメディだ。

 樋口橘の良さは、天然なノリでテンポよくドタバタしまくる賑やかな作風にある。この作品もあれよあれよという間に事態がヘンな方向に行っている。でもキャラクター自体はすごくかわいい。絵もずいぶんうまくなってきたし。「MとNの肖像」は、とにかく馬鹿でこっぱずかしい恋愛を描いた良い漫画だったが、この作品はどういう方向に進むのか。ネタ自体は超能力だけど、舞台的には魔法学校に近いかな。とにかく陽気で面白いのでこれからも楽しみに読んでいこうとは思う。


▼エロ漫画

【単行本】「クラッシュ万事休ス」 くどうひさし 司書房 A5 [Amzn]

 初単行本。最近はコミックドルフィンを主戦場に、伸びやかでスタイリッシュな絵柄を武器に明るく楽しいエロ漫画を描いている人。司書房系というと肉弾系なイメージが強いけど、くどうひさしは快楽天やヤングヒップといったワニマガジン系でも描いていた人だしあんまりそういう泥臭いところはない。シャレた絵柄と後味のいいストーリー作りは、エロ漫画にはあんまり慣れてないって人でもけっこう読みやすいのでは。わけえモンの青春ラブラブHという感じが、見ていて微笑ましいし健康的でもある。なかなか大っぴらにつき合うわけにも行かない彼氏とつき合ってて、悶々としている少女の姿を描いた「Sentimental February」の最終ページとか、女の子の表情がいいなあと思う。表紙の絵柄もけっこう可愛いし内容のイメージ通りなので、ピピッと来たら手を出してもOKという感じ。

【単行本】「なかよしちゃん」 ほしのふうた コアマガジン A5 [Amzn]

 昨年は「ポケットに好奇心」から始まり、「ほおずり」「みちくさ」「いたずらスイッチ」とコミックスラッシュを見せたほしのふうただが、その勢いは今年も衰えず。ロリ系のトップランナーの位置を確立しつつある。収録作品はほしのふうたコミックスリストのほうに記したとおりだが、この本もいずれ劣らぬ可愛くてHな作品揃い。にこにこしながら読んだ。とくに「ポケットに好奇心」に収録された「ボクの病室」の続き的なエピソードである、「ボクの病室II」「ボクたちのサマータイム」「ボクたちのさよなら」のトモ君早川さんのカップルのラブラブHぶりは見ていて微笑ましい。あと今回は「フレー!!フレー!!おにいちゃん」「おいてっちゃやっ!」「おにいちゃんごっこ」「運動会」と、妹ネタも多し。あくまで明るく楽しく邪気のないHシーンで楽しませてくれます。仕事が増えてもクオリティはちゃんと維持してるし満足満足。

【単行本】「猫のゆりかご」 あるまじろう フランス書院 B6 [bk1][Amzn]

 あれ? B6版コミックスだからてっきり旧作の再版かと思ってたけど、コレってもしかしてまったくの新刊かな。確かこの人って「Happy End」(フランス書院)しか単行本出てなかったと思うのだけど、確認してみたらダブり作品はないようだった。内容のほうはこの人独特の、スッキリと清潔感のある絵柄を生かした、ちょっとセンチメンタルだったりほのぼのしていたりするH漫画が集められている。そのどれも絵柄そのままにキレ味があって、サイダーみたいにシュワッと後味爽やかなのが特徴。この本の中では、とある少年が家出しようとしていたクラスメートの少女と出会い、学校では見られなかった彼女の素の姿を目にし、心を寄せる……という表題作「猫のゆりかご」がやっぱり一番いい出来かなと思った。甘く爽やかで、そしてほろ苦さもあり。ラストを前向きに締めくくってくれたのも好感が持てる。最近は小説とかの挿絵などをやってるようだけど、美しい絵柄には独自の味があるだけに、漫画のほうでももっと活躍してほしいところ。

▼収録作品
「アパートのガキ貸します」「ドレミのうた」「恋人よ帰れ!わが胸に」「猫のゆりかご」「Blue de HAPPY」「素晴らしき放浪者」「それは外宇宙からやってきた」「危(ヤバ)いことなら 銭になる!」「亀乃湯繁昌記」「ナミダ君さよなら」「ごっこ」

【単行本】「プチクリ」 ジェームスほたて 蒼竜社 B6 [Amzn]

 最近、自分内での評価が高まってきているジェームスほたての最新刊。以前は「健康的で華やかな絵柄で、まとまりのいいごくスタンダードなエロ漫画を描く人」というイメージがあった。その持ち味自体は現在もさほど変わってなくって、ロリをやるとか鬼畜をやるとかではなく、恋愛をベースに置いて美少女がHをするという内容がメイン。そんなわけでむちゃくちゃ凄い特徴とかアクの強さがあるわけではなく、本当にフツー。それがこのところ、どんどん絵がうまくなってきた。汁ッ気が増して見るたびにエロくなってきているような気がする。何か新しいギミックを導入するとかではなく、着々と技量を伸ばし、順当に正常進化で伸びてきた人という感じがして好感を持っている。

 この単行本の作者あとがきには「いろいろな事情で単行本に入らなかった原稿」をまとめたモノであるということが書かれており、掲載時期はわりとバラバラ。古いのから新しいのまで入っている。まあそんなわけでまだあんまりエロくなってない時期のもけっこう含まれてはいるんだけど、その分、ジェームスほたてがどんなふうに進歩してきたかというのが分かる1冊になっている。近作でまとめた単行本もそのうち出してほしいところ。

【単行本】「ぽっぷんLOVE」 たちばなとしひろ 大都社 B6 [bk1][Amzn]

 先日のジェームスほたて「プチクリ」に続き、今はなきZetsuManからの拾いモノ系短編集。ジェームスほたてもそうだったのだが、この人もここ最近でかなり好きになってきた。ピチピチとフレッシュ、明るく健康的な絵柄でドタバタしたラブコメを描くというのは変わってないんだけど、絵の完成度がずんずんアップしてきてその持ち味がさらに際立つようになった。とくにこの人でいいなと思うのが喜怒哀楽がハッキリ描けているところ。アツアツなラブコメを描く場合にとくにその威力が発揮されていて、I LOVE YOU光線をビビーッと発射。男の子女の子が顔真っ赤にしてはにかみながら、甘〜い決めゼリフを発するときなんざ思わず顔がにやけてしまう。あとデフォルメ絵柄も可愛く楽しく。この作品集自体は近作から5年くらい前の作品までいろいろだけど、やっぱり近年の作品のほうがずいぶんうまくなってるなあと思います。


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