オス単:2003年9月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。

 日記形式だと、どうしても日にちが過ぎてしまうと大量の過去ログの中に個々の作品が埋もれてしまうため、このコーナーではダイジェスト的にまとめてみました。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則としてしませんので、普段日記を読んでくださっている方にとっては読む意味がないかもしれません。手抜きといえば手抜きなんですが、まあその点はご容赦ください。

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でもどんどん入れていきます。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、わりと省略しがちです。


▼強くオススメ

【単行本】「ラブロマ」1巻 とよ田みのる 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 思わず顔がニヤけてしまう〜。これはいい作品ですよ。お話は杓子定規でまっすぐな行動を特徴とする男子・星野くんが、クラスメートがみんな揃った教室で、ツッコミ気質で気のいい女の子・根岸さんに告白するところから始まります。そこから彼らの恋愛物語が始まっていくのだー。なんといってもこの作品でいいのは、星野くんの真っ正直すぎる語り。好きだと思ったら好きだといい、キスしたいと思ったらキスしたいという。しかも公衆の面前で。まったく悪びれるところがない。器がデカい。あー、星野くんステキすぎるぞ。俺もこういう人になりたいし、こういう恋愛をしてみたいという気分に、素直にさせてくれる。あまりに率直すぎて周囲の人たちも楽しく見守るほかない。対する根岸さんも、照れながらも「好かれてうれしい」という気持ちを隠さない。なんていうか登場人物がすごくまっすぐ。そしてユーモアが常にある。そんな彼らが微笑ましくかわいらしく羨ましい。

 漫画としてもうまいと思う。まずは本筋のところで、まず星野くんのちょっと意表を衝く行動で「おっ」と読者の興味を引きつけ、ユーモアをまじえながら恋愛のステキなところをいっぱい描き出していく。そしてきれいに締めたあと、おまけページでもう一回転がしてみる。その呼吸が、天然でやってるのかもしれないけどとても楽しい。ラブコメはこれまでいろいろ描かれてきたけど、それでもまだ新鮮な快感を与えてくれる。シンプルで垢抜けない絵柄も、親しみやすくてまたいい味。肩も凝らないし、繰り返し読みたくなるタイプの作品。

【単行本】「モーティヴ −原動機−」1巻 一色登希彦 集英社 B6 [bk1][Amzn]

 この作品はけっこうオススメ。バイクを駆る若者を真ん中に置いた、オムニバス形式の青春ストーリー。一色登希彦はヤングサンデーで連載している競馬漫画の「ダービージョッキー」が今のところの代表作だが、画面の中に熱い空気を封じ込める力量には常々感心していた。画面作りとかもうまいし、漫画的な基礎体力の高い人だと思う。で、この作品はとくにいい。バイクと若者という、直球勝負なテーマが作風にうまいことマッチしている。とくに現実と向き合うことに臆病になっていた17歳少年・崎谷則彦と、同じ学校の少女・サクラダさんのエピソードは2本収録されていてどっちもいい。バイクにまたがり熱い夏の日射しにじりじりと背を焼かれながら、彼らが言葉には出せないけど大事なものをつかんでいく姿は印象的。そのほかのエピソードもよく出来てて、いずれもまっすぐ。今どき珍しいくらい正統派な作風の持ち主だと思うし、こういう人は応援したい。

【単行本】「Forget-me-not」1巻 鶴田謙二 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 ようやっと単行本化されました。ベネチア在住の探偵ねーちゃん、伊万里マリエルのだらだらのんびりした日常を描いていくというお話。見どころはとにかく鶴田謙二の絵。そしてそれが生み出す空気感。カラーのほうももちろん良いのだけど、モノクロのペンタッチのほうもこれまたすーばらしくて、馥郁とした気分にさせてくれます。なんといってもマリエルが美人で素敵。乳がいい。デカいというのもあるんだけど、それ以上になんかいい形。それからそのほかの事物の描写もいちいち気持ちがいい。水の街の風景だの家具だの。漫画絵を見ることによる悦楽というものを、しみじみと味わわせてくれる。小道具もいいよね。オリベッティのノートパソコンとか。ECHOSは本当にかわいいデザインのマシンだった。オリベッティがパソコン事業から撤退してしまったのはかえすがえすも残念。ところでこの本を見て誰もがツッコミを入れたくなるであろう部分といえば「1巻」の文字。ていうかもう、別にこの作品の2巻でなくてもいいです。だから新作を、別に「早くしろ」なんて今さらいいませんが、そのうちまた一つよろしくお願いしたく。

【単行本】「ライジング」1巻 わたべ淳 双葉社 B6 [bk1][Amzn]

 アツくていいなあこの漫画。女子社会人ソフトボールリーグを舞台に、二部のチームから移籍してきた投手・岡田モモコが奮闘するというお話。女子リーグ、そしてソフトボールということで普段はあまり目にすることのなマイナーカテゴリではあるんだけど、これがたいへん白熱している。プレー自体は地味っちゃ地味。驚異的なスラッガーや魔球が出てくるわけではない。でもその分、練習や紅白戦、実戦などの一つ一つのプレー描写がしっかりしてて見ごたえあり。個人的にこの作品で見てて楽しいのは、投手のピッチングフォーム。野球とはまた違った腕のしなりとか、ボールの出どころがかっこいいなあと思う。ムチがしなるようなフィニッシュの姿に惹かれる。

 それはともかくとして、今どき珍しいくらいにオーソドックスなスポ根モノという感じがする。少年誌でやるにはマイナーっぽすぎるかもしれないけれども、青年誌ならがこのくらいの現実味があったほうがいいかもしれない。二部リーグのチームが不況により解散して移籍……というあたりはいかにもありそうだし。ただちょっと残念なのは、雑誌では連載前にシリーズ掲載されていた二部リーグ編が収録されていない点。続巻で収録されるといいんだけど。

【単行本】「映画に毛が3本!」 黒田硫黄 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 黒田硫黄による映画評連載。こういうレビューっていいよなあ。個人的にレビューってのは「読者にそのレビュー対象を見させたり読ませたりしてなんぼ」と思っている。その評を読んで「あ、これ見てえ、読みてえ!」と思わせるような。黒田硫黄、それから同じくアッパーズに描いている榎本俊二「映画ににぎりっ屁」の映画評は、かなり高い頻度でそういう気持ちにさせてくれる。面白い映画は面白い映画なりに、つまらない映画はつまらない映画なりに。こういった評を頼りにして映画見て、たとえハズレだったとしても、それはそれでいいと思うんすよ。なにがしかの経験にはなるだろうし。あと黒田硫黄の映画に接する切り口、語り口も面白いので、映画を見る見ないはともかく1冊の本として楽しめるのも良いです。

【単行本】「のはらのはらの」 雁須磨子 大洋図書 B6 [bk1][Amzn]

 雁須磨子はおもしれいなあ。これは田舎の高校生男子二人の恋物語。うだるような暑さの中、なかなかバスのこないバス停でへたばっていた西戸崎は、彼を介抱してくれた学校の先輩・糸島のことをなんだかとてもかわいいと思ってしまう。糸島はちょうど腰を痛めて野球部を退部、ヒマだったのでなんだかんだ西戸崎とつるむようになっていく。そこから二人の間柄はどんどん接近していくのだが……。

 と、このように書くとなんだかホモ街道一直線のガチンコな作品のように思えるかもしれないが、そうでもないあたりが雁須磨子。なんだか二人とものんびりほわほわしてて、好き合う気持ちが高まっていくという緊張感が全然ないのが味。すごく自然というか天然というか。糸島の野球仲間とかも、西戸崎との関係には気づいているのだけど、その受け入れ方がとにかくのんき。なんでまあこんなにこの人たちはぽえーっとしているのだろう。その様子を眺めているのは無性に楽しい。こういう天然な味は雁須磨子ならでは。「のはらのはらの」というなんだかよく分からんタイトルからして、最初は「はらの君」という人を主人公にしようとしていたけど、ネームを切っていたらそのことをすっかり忘れてしまってそのままだったというんだからヘンだ。不思議な作家さんです。

【単行本】「二十面相の娘」1巻 小原愼司 メディアファクトリー B6 [bk1][Amzn]

 小原愼司久々の作品は、大時代的な浪漫あふれる一作となった。自ら親を捨て、怪人二十面相に拾われていった少女・チコの物語。年端もいかぬ少女が二十面相の魂を引き継ぎ、美しく成長していく様子が描かれていく。現在コミックフラッパーで連載しているバージョンと、読切で掲載されたバージョンを収録。こうして読み返してみると、1話1話の雰囲気はたいへん良いのだけど、全体を貫く物語性という意味では今のところ若干弱いか。でも二十面相が闇を駆け、明智が華々しく活躍した時代の雰囲気というのはやっぱり良くて、それが小原愼司のどこかノスタルジックな作風とよく合っている。あとチコの少女っぷりもなかなか見事なもの。お話としてのまとまりについてはこれからに期待。なんにせよ楽しみな一作。

【単行本】「臥夢螺館」上下巻 福山庸治 講談社 A5 [bk1][Amzn:上巻/下巻

 以前いっぺんe-mangaコミックスとして1巻が発売されたが、それとは装丁を変えて出し直し。最初モーニングに掲載されたときから数えて10年の歳月を経てようやく完結。アパートの一室に閉じこもって出てこない住人を調査していた弁護士の緑川が、そこで異様な存在を目撃する。子供のような、でも目は無機質で非人間的な顔立ち、そして肉体はグラマーな女性のもの。この存在は「天使」と呼ばれているが、宿った人間の精神を喰らい尽くしやがては破滅に導く。その天使たちが人間の身体、テレビの画面、パソコンなどを通じて溢れだし世間をパニックに陥れる……というサイコホラー。

 いやー、これは読んでてとても怖い。何が怖いって「天使」たちの造形。身体は女性のフォルムをしてるんだけど、白くて小便小僧か何かみたい。そして目。善悪という基準のない子供のようでもあり、昆虫のようでもあり、すごーくイヤ。目以外のパーツについては人間と変わるところがないといえばないんだけど、これだけ生理的な嫌悪感を抱かせるようなバランスで描けるってのは凄いことだと思う。そういう存在がどんどん増殖して、ひたひたと日常世界を侵食していく不気味さといったらない。しかも福山庸治がやたら漫画のうまい人なもんだから、その怖さはまたひとしお。

【単行本】「プルンギル −青の道−」5巻 作:江戸川啓視+画:クォン・カヤ 新潮社 B6 [bk1][Amzn]

 これにて最終巻。日韓両国を股にかけた猟奇殺人事件の捜査を手がけた二人の刑事の物語。両国の歴史的背景を真っ向から見据えて、読みごたえのあるハードなドラマを展開しており、たいへん読みごたえのある作品だった。最後のほうはちょっと急ぎ気味で、セリフによる説明が多くなっちゃった感はあるけれども、おどろおどろしい凄惨な殺人のイメージで序盤を引っ張り、踏み込めば踏み込むほど謎が深まっていくハラハラ感、いい具合にスケールが大きくなっていくストーリー展開など、全体としてはとても面白く読めた。個人的には朝鮮半島の歴史にも興味が出てきた。あと、主役である二人の刑事、日本側の猪瀬、韓国側の姜青道のアツい、男同士の友情物語になっているのも良かった。二人ともいい男だなあ。この二人が、両国の国民性の違いを端的に浮き彫りにしていくさまも面白かったし。ただ韓国側については知らないけど、猪瀬さんみたいな土性骨の据わった男は今の日本にはあんまりいないよな……と思えてしまうのはちょっと寂しかったり。この作品は映画化しても面白いかもしれないっすね。


▼一般

【単行本】「難波鉦異本」1巻 もりもと崇 少年画報社 A5 [bk1][Amzn]

 人に勧められて読んでみたんだけど、これはなかなか面白いっすねえ。時代劇漫画誌「斬鬼」で連載中の作品で、タイトルは「なにわどらいほん」と読む。大阪の遊郭で、したたかに生きている遊女・和泉と、その付き人である禿(かむろ)の少女・ささらの生活を描いていくお話。表もあれば裏もある、和泉の性格描写がお見事だし、ふとした折りに見せる艶のある表情もいい。ネタの調理の仕方もうまいし。一見守銭奴のようでもある和泉が、ささらのことを思って遊郭で生きていくために大切なことを教え込んでいく姿に、さりげないけど暖かい人情味があって気持ちよく読めた。これが初単行本ですか? それにしちゃあ気が利いてるしずいぶんうまい。絵のほうも何やら風格があるし。

【単行本】「雷句誠短編集 玄米ブレード」 雷句誠 小学館 新書判 [bk1][Amzn]

 「金色のガッシュ!!」を描く前の雷句誠の短編が読める1冊。収録作品は「玄米ブレード」「ユリネ・グレイト」「哀愁戦士 ヒーローババーン」「BIRD MAN」。このころはまだ荒削りではあるけれども、なるほど、ガッシュにつながるだけの光るものは十分感じられる。とくに「哀愁戦士 ヒーローババーン」がいいと思う。なぜだかよく分からないけどヒーローをやっている貧乏な男、人呼んで「ヒーローババーン」の姿を描いた作品。別にこの世の中はヒーローをあまり必要としていないし、ババーン自身は別に強くもなんともないので、貧乏してばかり。アジのヒラキさえ食えない貧窮生活を続けているところに怪獣が出現し、怪獣も同情してしまうほどの弱さを発揮。でもこの弱さのさらけだしっぷりがなかなか良いのですな。魂の叫びって感じで、ギャグなんだけどちょっと泣けたりもする。ここらへんのアツさはまさに雷句誠の本領発揮という感じ。キャラとしてのテイストはガッシュのフォルゴレに近い。「玄米ブレード」も、日本刀でツボの中の病魔だけを切る剣士という設定には若干無理はあると思うけど、全体としては熱血魂あふれる作品に仕上がっている。これがガッシュにつながっていったのだなあというのが納得できる1冊でありました。

【単行本】「サムライダー」1巻 すぎむらしんいち 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 あの「サムライダー」が帰ってきた!! 前作のあらすじは本田健の植民地あたりを参照のこと。それと比べると今回は、ずいぶん内容がシリアスになっている。サムライダーははるかに凶悪になっていて、バイクにまたがり刀を振るってばっさばっさとヤンキーたちをぶった切りまくり。なんだかすごく、バイオレンスアクション映画っぽさが増している。これそのまま実写映画にしたらかっこいいんじゃないすかねえ。CG使っても映えそうだし乳のデカい女の子も出てくるし。雑誌ではいまいち固有名詞とかがつかみづらく、ちと読みにくいかなと感じていたんだけど、単行本でまとめて読むとやっぱりかっこいい。

【単行本】「●REC」1巻 花見沢Q太郎 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 花見沢Q太郎らしい、ラブコメ風味満載なお話。ひょんなことから知り合った平凡なサラリーマンの松丸と、駆け出し声優の恩田赤。一人暮らしで声優を目指して頑張っていた赤だけど、アパートが火事になって焼け出されてしまい、それを不憫に思った松丸に拾われ一緒に住むことに。そんなわけでかわいい声優さんとの同棲ラブラブラーイフ、というオタク的にキャッチーな展開。まあいつもながらにトロリと甘く、ヘロヘロと軽やかないい力加減。声優のお仕事がらみのシーンには若干無理があるかなーと思わないでもないけれども、ラブコメ部分が楽しいのでそれはまあいいかといったところ。アニメ声の彼女。いいねえ。あなたと越えたい以下略。あと前後編読切「銀の街ロマンティック」も収録。

【単行本】「ラバーズ7」1巻 犬上すくね 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 なんでもかんでも卓球でカタをつけようとするヤクザのあんちゃん・宗則につかまって、コンビニ店員をやらされることになた森岡くんとなつきさん。この3人を中心に展開するラブストーリーといったところかな。タイトルの「ラバーズ」は卓球のラバーと恋する人のLOVERのダブルミーニングでしょう。女子高生のなつきはかわいいし全体的に楽しげ。ただ、まだ犬上すくねの本領は発揮されてないかな〜という気がする。いまいちお話の進み方がもたついてると思うし、恋愛風味ももう少し欲しい。ノッて描いているときの犬上すくねは、こんなもんじゃないと思うのだ。というわけで今後の盛り上がりに期待といったところ。

【単行本】「STAYプラスお手々つないで」 西炯子 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 これはとてもいいです。高校で演劇部をやってる男女、佐藤くんと山王さんの恋愛なんだか恋愛でないんだかなストーリー。ちなみに二人は別の高校なので始終会っているわけではない。そこらへんがお話の中でうまい具合に効果を発揮している。佐藤くんのほうはかなりナンパな男。そこらへんの女の子に声をかけまくっている。しかし彼が惚れてしまった山王さんはかなり不思議な娘。モーションをかけてもなんかわけのわからんリアクションが返ってくるばかり。二人は親しくなってデートしたりもするが、くっつく気満々な佐藤くんは山王さんの言動や行動をどう解釈したものか考えあぐねて悶々とし続ける。このはぐらかしっぷりがうまい。まっすぐに進まない恋愛ストーリーに読者もいいように操られてしまう。普通のラブコメだったら展開がある程度見えるんだけど、そこで常に肩透かしをされる。自分が恋愛モノといえば「こうくればこうくる」と考えてたんだなーということが自覚できて、かえって恋愛ってものを意識させられたりもする。それから西炯子はやっぱ絵がうまい。丸みがあって品があって軽やかでもある。西炯子作品は絵のうまさばかりが目立ってピンとこない作品もあったりするのだが、これについてはかなりジャストミート。やられたなあという印象です。

【単行本】「トラや」1巻 南Q太 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 細身の優男なにーちゃんであるけんちゃんと、その彼女のトラの、仲睦まじい恋愛ライフを描いたほのぼの漫画。幸せそうで微笑ましくていいですな。正直いうとあんまりきれいきれいに恋愛してて「くそー」と思わないでもないが、こういう本を読んで幸せな恋愛したい気分を高めてアグレッシブに現実に臨んでいくのもよろしいのではないでしょうか。南Q太作品にはもっとエッジなものをつい求めてしまいがちなところではあるのだけど、そういうのばっかだと歯ごたえありすぎだし、いつもとおんなじっていうイメージになっちゃうしなーというところもある。でも漫画としてはやっぱうまい。ところで今ちょっと気になったのだが、この本って帯に「恋愛編」って書いてあるんだよね。じゃあ次は「恋愛じゃない編」とかになったりするんだろうか、そしたらキツいな……とか不吉な想像をしたりもした。まあ副題が「TORA&KEN'S HAPPY LOVELY LIFE!」なんでそんなことにはならないだろうけど。たぶん続巻は普通に「同棲編」だの「結婚編」だの「子育て編」とかになっていくんじゃないかなーと思います。

【単行本】「堀田」 山本直樹 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 いやーお見事ですなあ。雑誌掲載時だと分かりにくかったところもあるんだけど、単行本でまとめて読んだらすごく良かった。お話は……といって説明するのがなんとも難しい。女王様が囚人にまたがってセックスしながら、牢屋の通路を闊歩するという幻想的な出だしから始まり、システムエンジニアの兄とその弟、そして部屋に転がり込んできた女性のだらだらとした日常が描かれていく。どっちが表なんだか裏なんだか分からない世界を行き来するトリッキーな構成で進んでいくお話は、とても幻想的で官能的な雰囲気に満ちている。そもそもタイトルの「堀田」ってのは何者なのか。実はお話はこの巻の時点では完結してないので、もろもろの解明されるのだかされないのだか分からない謎はまだまだ残されている。といっても山本直樹だからそれはそのままで行っちゃう可能性が高いけれども。今後どういう地点まで行くのかすごく楽しみ。あとこの巻には「普通の日曜日」「昏睡」「給水塔」と、3本の読切も併録されている。それにしても山本直樹の描く女性の身体はいつ見てもきれいっだなあ。細くてスラリとしててカッコ良い。そういえば意外と山本直樹直系のフォロワーっていないような気がします。

【単行本】「灰色の乙女たち」1巻 加藤理絵 スクウェアエニックス B6 [bk1][Amzn]

 以前ステンシルで読切を見て気になっていた人で、この前掲示板のほうでも話が出てたということもあり購入。で、一読、なかなか良いものでありました。母親が死去し、気の弱い父親はそれを悲しんで引きこもり状態を続ける中、バイトで家計を支えて健気に暮らす女子高生・ミサキの物語。というとなんかいじましすぎるようだが、ミサキ自身はわりとぴんしゃんした元気者なのでそこまでシリアス一辺倒ってわけじゃない。幼なじみのアキラと仲良くしつつ日常は淡々とすぎるが、今度は父親が家出してしまってミサキの精神状態は不安定に。そこに現われたのがなんだか頼れる雰囲気を持った同じ学校の男子・春原くんで……。

 作画自体はまだ完全にできあがってるわけじゃないけれども、淡くて爽やかで、どこかぬほーっとした暖かみもあり。軽やかにテンポ良くお話は進行するんだけど、ミサキがいつもは気丈なだけにふと見せる弱さ、もろさがスポッとツボにはまって印象に残る。日常の楽しげな描写と、センチメンタルなシーンでの透明感がいい具合にマッチしてて気持ち良く読めます。なんとなく創作少女系というか、そこらへん好きな人には響くものがあるんではないかと。表紙見てピンときたら買っちゃっていいんじゃないでしょうか。表紙画像はちっちゃいけどいちおうステンシルコミックスの既刊案内のページにあります。


▼エロ漫画

【単行本】「精装追男姐」 師走の翁 ヒット出版社 A5 [Amzn]

 師走の翁は本当にエンターテイナーだなあ。この作品は、女の子と見間違うようなナヨっちい美少年のリュー君が、ロリ顔だけど超淫乱なメグ、情の厚いサディストのマリ、頭はいいけど凶悪な晶という3人娘のイジメに遭っているところからスタート。その3人組にいじりまわされているうちに、リュー君のちんこがもげる。とれたちんこは身体からは離れているものの感覚的にはつながっており、そのちんこから得られる快感は切断面を密着させた人物にも伝わるのでありました。それを利用してリュー君の高性能ちんこを装備した3人娘が暴れまくり、リュー君が突如としてもたらされる快感にのたうつのが序盤の展開。そして後半はちんこを巡って攻守がいろいろ逆転。驚愕のラストになだれ込むという具合。

 まあラストについてはもしかすると賛否が分かれるかもしれませーん。でもまあ序盤からネタは振られているし計算どおりなんでしょう。それから途中の展開がなんといっても素晴らしい。身体から離れてはいるけど感覚のつながっている生ちんこというアイテムを利用した縦横無尽なセックス技は、ぶっ飛んでいるうえエロいし面白い。ギャグもうまいこと利いているし、この人はいろいろな面でいいセンスしてるよねえ。最初っから最後まで読む人を楽しませる工夫が凝らされてて、すごく充実している。サービス精神満点。この人のエロ漫画は売れて当然っつー気がします。

【単行本】「lose」1巻 大井はに丸 ヒット出版社 A5 [Amzn]

 阿ウンで連載中の学校内エロエロゲーム漫画。学校の中に下着を履いていない女子が10人。ゲームの参加者は参加料を支払ってパンツの主の名前を答え、正解だったらその女の子を卒業まで自由にできる。逆に女の子のほうは3日間誰にも気づかれなければ300万円の賞金がもらえるという仕組み。まあそんなわけで、男たちはパンツを履いていない女子を探し回り、その後に濃厚なHが繰り広げられるというお話であります。正直なところ、ゲームのシステムとしてはいろいろ穴もありそうだなあと思う。でも大井はに丸の瑞々しくて肉感的な絵は十分にエロいので、「それは置いといて……」という気分で読んでいける。個人的には第1話に出てくる普通っぽい女の子の仲富さんと、2話のショートカット巨乳娘さんが良かった。

【単行本】「UK」 ひぢりれい 茜新社 A5 [Amzn]

 しばらく発売延期されておりましたがようやく。いや〜、この人は絵がうまいよねえ。最近はエロ系の作家さんの作画力についてはずいぶん底上げがされたけれども、その中でもトップクラスだと思う。ペンタッチがとても美しい。とはいえ絵がうまくなり、エロ度が高くなるのと反比例するかのように、ストーリーはなくなってっちゃったなあという印象。お話の中のエロシーンだけ抜き出してきて、そこで終わっちゃうって感じになっちゃってる。今どきのエロ漫画読者にはそっちのほうがいいのかもしらんけど、せっかくこれだけの画力があるんだから、もう少し読ませて欲しいなーと自分としては思っちゃう。まあそれはそれとして、この単行本はひぢりれいとしてはロリ系なヒロインが多め。表題作の「UK」はナヨっちいけどちんぽだけはやたらデッカい少年をいじめている女生徒、そのほかでも胸の平たい少女がズンズンやられております。ちんこもほかの部分に劣らず精密なタッチでしっかり描き込まれており、エロ度は十二分。絵がうまくてエロくてしかもロリっていう本をお求めの方は、迷わず買いでしょう。なお「UK」は「UNMORAL KIDs」の略。

【単行本】「Milk maid」 RaTe コアマガジン A5 [Amzn]

 タイトルどおりのメイドさん漫画。でもRaTeらしく、汁と男根重視な作品に仕上がっている。主人公の実は、代々ご主人様に仕えるメイド一家の長男。そのため男の子なのにメイドをやらされているという不思議な状態。その実が、同じくメイドである姉&妹&母、それからお屋敷のお嬢さまにええように弄ばれるというお話。といっても実くんは巨根&絶倫。そんなメイドライフに幼なじみで同級生の真木も加わってドタバタと日常は展開していく。まるまる1巻使っているにも関わらず、お屋敷の面々はメイドとお嬢さましか描かれないとか、なんだかとっちらばったところもあるものの、明るいしやることも派手だしなかなか楽しい。裸なシーンが多いのでメイドさん好きな人のメイドさん欲がどこまで満たされるのかは不明だけど、ちょいと変わったメイド一家エロコメディとして楽しむ分にはよろしいのではないでしょうか。

【単行本】「秘蜜の叛乱」 柿ノ本歌麿 桜桃書房 A5 [Amzn]

 うははは。やっぱりこの人はすごいなー、しばたくん大喜び。超輪姦モノの雄、柿ノ本歌麿の3冊め。この人の特徴といえば、とにかく輪姦のスケールがデカいこと。この単行本でも「Mrs.FUMIKO」あたりでそれは炸裂している。女囚の棟不三子が愛する夫を救うため、最低1日240人のセックスを年中無休で3年間続けさせられるというストーリー。しかも膣内射精でないとカウントされず、もちろん口や尻も使われるので、一人で毎日その何倍かの本数を抜かなくてはならないという超絶世界を展開。それだけやると女性器は完全に肉ビラがめくれあがり、人間の肉体の一部とは思えないような状態に変貌。そして快感でショック死したら、電気ショックで蘇生させてやり直し。普通の輪姦モノだと「仲間に入れてもらいたいなあ」くらいな気持ちの一つも湧いて来ようものだが、さすがにこれはちょっと……という気持ちになる。「絶対にマネしないでください」と書く必要もないくらい。本当にエロしかやっていないのに、エロを遠く離れた次元までぶっ飛んじゃっている。こんな世界はなかなかほかの人には描けない。この妄想力、現実からの跳躍力。特殊作家の一人であることは間違いない。ただこの単行本については続きモノが少ないので、前単行本である「嗜虐の絶頂」[Amzn]および「崩壊の慟哭」[Amzn]に比べると、若干ヌルいかもしれない。恐ろしいことに。はっきりいってグロテスクでさえあるので、耐性のあるごく一部のヒドい人にしかオススメしません。

【単行本】「媚女爛漫」 海明寺裕 桜桃書房 A5 [Amzn]

 今回の単行本で注目は、一連の全裸スポーツものシリーズがまとまったこと。柔道みたいなもの、自転車ロードレース、ローラースケートと全裸プロ競技の世界を描く。女陰をいじくりながらローラースケートで身を翻したり、自転車のペダルを漕ぐ。人の目にさらされながらもベストなパフォーマンスを発揮しようとするその姿は、健気で何やら気高いではありませんか。挿入とかは全然ないんだけど、いやらしいというか淫靡というか。この人の作品は最初は特殊な性癖を持った人が登場……という感じの導入部から始まるんだけど、彼らを取り巻く社会はむしろその特殊性を当たり前のように受け入れてて、読んでいるうちに普通と特殊がひっくりかえる。その目眩のするような感覚に、酒飲んで酔っ払うみたいな気持ち良さがある。

【単行本】「まねきん」 リイド社 まだ子 A5 [Amzn]

 人間そっくりな服飾ディスプレイ用の人形「まねきん」。そのうちの一体に惚れ込んでしまった男が、彼女が廃棄されているのを見かけて家に持ち帰ったところ、何かの拍子にそれが命をもって動き出してしまう。そこからまねきんとのラブライフが始まり、まねきんの真の姿を巡る何やら策謀も見え隠れして……という具合に展開していく表題作がメインなエロ漫画。休刊したコミックうさまん連載作が単行本化された。こうして見ると内容的にはちと説明が足らん部分もあるなーという気はする。でもまだ子の絵はとてもいい。シンプルだけど柔らかくて華やかで。ちょっと80年代〜90年代前半的なオタク漫画を思わせるようなまろやかさがある。そういう絵なわりにちんことかちゃんと出てくるミスマッチに、ついソソられてしまったりする。そういえば英知出版「ドレグラ」に掲載された「ぬぞみちゃん嬉々一発」は収録されていないけど、アレもなんかの単行本に入ってほしいもんだなあ。


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