オス単:2004年5月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「スティール・ボール・ラン」1〜2巻 荒木飛呂彦 集英社 新書判 [bk1:1巻/2巻][Amzn:1巻/2巻

 我々はこの作品を知っている! いや、この名前を知っているッ!! てなわけで1890年のアメリカを舞台とした、馬、あるいは徒歩、あるいは自動車などを使って大陸横断速度を競うレースを描いていく、荒木版「キャノンボール」的作品が単行本化。レースは途中で9個のステージが設けられており、この巻では第1ステージの激闘が描かれる。で、登場人物たちの名前は、冒頭に書いたとおりおなじみのものばかり。ジャイロ・ツェペリ、ジョニィジョースター、ディエゴ・ブランドーなどなど。作者コメントによれば「ジョジョの奇妙な冒険」に登場した人物たちの先祖、あるいはパラレル・ワールドとして考えて欲しいとのことで、「ジョジョ」本編とはいちおう別ストーリーということになっている。

 そしてレースの模様がどんどん描かれていくわけだが、これがえらく面白い。キャラクターたちは皆アクが強くて個性的。アクションはダイナミックでレースの内容も奇想天外。ハッタリの利きまくった展開の数々には素直に興奮してしまう。これまでの「ジョジョ」的ないろいろなしばらみは、リセットはしつつもいちおう頭の片隅に残しながら、華やかなエンターテインメントを思う存分堪能できる作品となっている。スカッと気持ち良く荒木節が炸裂してて本当にいい。現在本誌連載は充電期間中だが、第2ステージ編は6月14日発売の週刊少年ジャンプ 第29号から再開するとのこと。すげー楽しみ。

【単行本】「ルサンチマン」1巻 花沢健吾 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 個人的にはかなり注目している新鋭の初単行本。オヤジ顔、中年体型、話下手となんらいいところのない主人公・たくろー。彼女もおらず、友達も少なく、単純かつ退屈な肉体労働に従事する日々。まだ30歳にもならぬうちから人生どん詰まり感の漂う彼が、数少ない友人である越後の導きによって、現実と同じくらいに発達したパソコンのギャルゲー、仮想現実の世界へと旅立つ。そのゲーム世界では、現実さながらの見た目や触感が得られ、目の前に現れる女の子は最初から自分が好き。そんなミラクルワンダーランド……であったはずなのに、たくろーの買ったソフトで出てきた少女「月子」は、なぜか別に好きな人がおり、たくろーの思い通りになる存在ではなかった。というわけでバーチャル空間と現実を行き来しながら描かれていく青春物語、という趣の作品。

 現実世界では浮いた話の一つもない主人公が、仮想現実にのめり込んでいくというストーリー自体はほかにないでもないが、花沢健吾は読ませ方がうまいと思う。現実のくさくさするような事象の描き方や、少しずつ話を進めて読者を引き込んでいく序盤の展開はなかなかに見事。作画のほうもフレッシュながらも安定感あり。現実世界のたくろーはいかにもキモい中年男風で暑苦しいのに対し、月子やその他の仮想現実世界の女の子たちは非常に瑞々しい、フレッシュな魅力にあふれている。各キャラの表情もイキイキしてていい。その対比が鮮烈。セリフ回しもけっこう好き。とくに「現実を直視しろ。おれ達には、もう仮想現実しかないんだ。」というセリフは最高だと思った。仮想現実空間を描きながらも、端々で「現実空間ではこんな間抜けな格好でゲームやってるんですよ」という様子を確認させてくれるので、どちらか一辺倒になっちゃわず現在の状況を掴みやすいのもいい。

 そんな感じで、初単行本なんだけど作画、ストーリーともに充実。しかも安定感がある。この人に注目している理由の一つとして、なんだかメジャー感がある、というのが挙げられる。サブカル的なエッジっぽさはないかもしれないけれども、メジャー誌でコンスタントに描いて、しっかり楽しめる作品を作り上げていけそうな雰囲気がある。絵柄的にもしっかり強弱の利いた潤いのあるタッチ。漫画としても読みやすく分かりやすい。ちゃんとそういう構成になっている。仮想現実モノって、なんだかんだいって現実感は薄いので面白くしにくいジャンルだけど、この作品については、少なくとも1巻の段階ではかなりうまくやれていると思う。この作品がこのまま突っ走っていけるかどうかは分からないけれども、今後の作品も含めて、期待していきたい作家さんであります。

【単行本】「やさしいからだ」1巻 安永知澄 エンターブレイン B6 [bk1][Amzn]

 初単行本。めでたい。平凡な人々たちの暮らしの中から、心ざわつく情景を丁寧にすくい取った連作シリーズ。主人公は毎回変わるものの、世界自体はつながっていて、同じ事象を回によって違う視点から見つめたりするという形式。時系列もさまざまで、ある話では子供だった登場人物が、次の回では大人になって登場したりといった具合。なんということはない日常を描きつつも、その中にフェティッシュな秘密を潜ませて、スリリングな雰囲気を加味しているところがいい。絵柄はスッキリしててたいへん上品なんだけど、全体の雰囲気は官能的でもある。

 個人的にとくに印象に残ったのが、第2話の岬はるかさんを主人公に据えたストーリー。円という名前の同級生の少年に恋している彼女だが、実は自分は彼の丸刈り頭に惹かれていただけのではないかということに気づく。彼女が昼寝中の円くんの頭に舌を這わせようとするシーンは、なんとも新鮮なエロチシズムを感じさせてくれた。もちろんこのほかのお話も良い。小さな秘密を抱えた人たちの心理を描き出す、繊細な筆致が秀逸。今後にも期待したい作家さんであります。

【単行本】「山田シリーズ」1巻 吉田戦車 小学館 A5 [bk1][Amzn]

 ウホッ面白い……。素晴らしい動物であるところの山田が、金やカード、国宝などの財力を駆使して活躍したり別のことをしたりするシリーズ。最初の時点で山田は20万円を所持。その財力によって部活のレギュラーをゲットするも、他人の迷惑を考えてそれを断念。ちなみにその20万円は1000円札200枚。かなり厚みがある。その厚みは後に、大企業の重役を募集するためのインターホンを押すときの踏台として効を奏したりする。そんなこんなで山田の生き様が淡々と、かつユーモラスに記されていく。山田の男気、純情、小粋な話術、むくむくした容姿、その他もろもろにうっとりする1冊。

 ちなみにこの山田という動物は、後にかわうそと同一動物であることが判明する。「山田シリーズ」が始まったときは「山田=かわうそ」とは明記されていなかったので、あるいは違うのやもしれぬ、と自分はたいそう注意深く、山田のことを「かわうそ」と書かないようにしていたものだった。それがスピリッツ増刊の漫戦に掲載された「山田への道」(この単行本にも収録されている)によって疑問が晴れた。山田はかわうそだったのだ。この本を読んで改めて、自分がいかにかわうそを、そして山田を愛していたかということを思い出させられた。ぜひ山田の友達、いやそれは畏れ多いので取引相手になりたいものだ、そんなふうに思った。

【単行本】「平凡ポンチ」1巻 ジョージ朝倉 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 もうタイトルどおりすげー平凡。というのはウソで、次から次へとお話がごろごろ転げ回って先の予想がつかない作品。うだつの上がらない自主映画監督・真島の元に、彼のファンであるという巨乳志望の女性・ミカが出現。「自分の映画に出してやる」といえば思い通りになる女優が現れたと喜び、ミカに好き勝手なコスプレをさせて撮影をしていた真島だが、ウソがバレて事態は急変。そこからまあいろいろあってミカが巨乳アイドルを殺害して、二人で逃避行を開始、巨乳ギャルの団体に出会った後、巨乳の里を目指し……とまあ毎回毎回物語はわけの分からん方向へ大股早足でずんずん進む。キャラクターのほうもくるくる変わる。最初は無邪気な女子高生風だったミカは、魔性の女的な側面をどんどんあらわにしていく。真島カントクはカントクで、デブのキモオタ風だったのが突然やせてイケメンになったり忙しい。

 普通こういうヘンなお話だと読者がついていけなくなったりしそうなもんだが(まあもちろんついていけなくなってる人もけっこういるんだろうけど)、ジョージ朝倉の強烈な牽引力は、読者を怪しい世界へ引きずり込んでいく。この強引でねじふせるような展開力は慣れてくると快感。浮き沈みが笑えてくるほどに激しくてスリリング。このぐじゃぐじゃで奔放な物語が、最終的にどういう地点に着地するのか、今後の展開も楽しみ。

【単行本】「ピースオブケイク」1巻 ジョージ朝倉 祥伝社 A5 [bk1][Amzn]

 FEEL YOUNGで連載中の青春恋愛物語。主人公の志乃は、それまであんまり自分からは恋することなく適度にモテて、男とつきあってきたりしたような女性。それがたいへん自分勝手な彼氏にフラれてショックを受けた後、新しいバイト先でそこの店長に恋をしてしまい……といった過程が描かれていく。要約しちゃうと普通に「女の生き様」ストーリーでしかないんだけど、この人の語り口、ストーリーの進め方、キャラクターの個性はやっぱり面白い。強い力で読者をずんずん引っ張っててくれるので頼もしい。このお話なんかは、主人公のねーちゃんも普通っちゃ普通だし、シチュエーション自体もむちゃくちゃ変わっているわけではない。恋愛の過程だって珍しいってほどでもないし、すごくオシャレってわけでもないと思う。振り返ってみると特異な点はあまり思いつかないのに、グイグイ読ませる。普通のラブストーリーなのに、端々から作者のエナジーを感じる。絵にしろ物語にしろ、メリハリの利かせ方がすごくうまい。大したもんです。

【単行本】「殺殺草紙」 駕籠真太郎 平和出版 A5 [bk1][Amzn]

 面白い面白い。江戸時代を舞台に駕籠真太郎の奇想が次から次へと炸裂する特殊時代劇。東北一帯が記録的な大飢饉に見舞われた天明の世、天外藩という地方の小藩は特殊な政策により餓死被害を最小限に食い止めていた。その政策とはズバリ「人体納税」。それは例えば、元々は間引きされるはずだった新生児、肉体のうち労働に必要ない余った尻の肉などを納税させ、それを領民の食料として供給するというものだった。そのような政策を、狂ってしまった父に代わって取り仕切っていたのが姫である沙霧。彼女はだんだん行いをエスカレートさせていき、納税させた人体で作った内臓風呂で入浴したり、生きた人間の脳を開いて人体実験を行ったりロボトミー手術をしたり、領民を実際に使った超リアルな地獄テーマパークを作ったりとやりたい放題。さらに後半では、天外藩に使える毛を自由に操る毛根忍軍による怒涛の忍術が披露されていく。

 この作品では、さまざまな残虐描写が出てくるが、それをあくまでユーモアとして描ききる駕籠真太郎のクールなスタンスが凄い。そして人体を奇想天外な方法でいじくり回し、遊びまくる着想も強烈。とくに残虐なことを実にカラッと明るくエンジョイしまくる沙霧姫のキャラクターはグッド。やってることはムチャクチャなんだけど、とにかく楽しそうだから陰惨な感じにならない。そして後半の毛根忍軍がらみのお話も圧巻。自分の毛を忍法で自在に操り、他人の内側から毛をぞわぞわと生やしたり、人間の切断された四肢を自由に動く極太の毛根で代用させてみたり。山田風太郎的な忍法の数々と、駕籠真太郎ならではのギャグセンスが絶妙にマッチして、もうノリノリ。

 それらの奇想をテンポ良く、惜しげもなく大量に投入してくる贅沢さはまさに駕籠真太郎の真骨頂。1巻まるまる使った長編ストーリーとしてもしっかりまとめてきており、実に鮮やかだった。まあ人体いじりとか毛根描写はグロいところもあるんだけど、基本的にはギャグテイストなんで、その手の描写に格別弱いというわけでなければけっこう素直に楽しんで読めちゃうと思う。オススメ。

【単行本】「奇人画報」 駕籠真太郎 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 駕籠真太郎は今月2冊目。マンガ・エロティクスおよびエロティクスFで描いた「あつめもの」シリーズ全6話と、「はらきり」「隔靴掻痒」「大聖夜」を収録。

 この中ではやはり中心となっている「あつめもの」シリーズがムチャクチャ面白い。狂的なまでの蒐集癖を持った人たちの行動を描いていくというシリーズなのだが、集めるものがすごい。第1話に出てくる少女は、好きな人が触ったものはなんでも集めるという癖の持ち主。学校のチョークやペンなどから始まって、それがどんどんエスカレート。彼に近づいたが触った猫の生皮、その彼女の手や胸などの表皮などを引っぺがしてコレクションするなど止まるところを知らない。

 第2話では、自分のペニスを女性が咥えている顔の写真をコレクションしている男が登場。単純に咥えているだけではなく、咥えて嘔吐している姿やら、食べ物を口にいれた状態でのシーンも撮影。さらにはカブト虫の幼虫を突っ込んでみたり、犬、猫、魚に咥えさせてみたりとこれまたどんどん蒐集癖が進行。オチも気が利いている。第3話に出てくる変態SMプレイのカードゲームなんて着想もスゴイし、独自のブラックユーモアセンスが炸裂。「隔靴掻痒」も生理的にグッとくるお話。自分の皮膚の下を虫にはいまわらせるのを趣味としている女性のお話。読んでいるだけで身体中がむずがゆくなってくる。この奇想の冴えはやはり駕籠真太郎、素晴らしいです。

【単行本】「あじあの貢ぎもの」 町田ひらく 一水社 A5 [Amzn]

 久々のような気がしたのだが、「ANNE FRIENDS」[bk1][Amzn]が2003年3月だから、1年ちょいぶりということになる。「ANNE FRIENDS」はヨーロッパ系の少女が主に描かれていたが、今回はタイトルからも分かるとおり和が中心。

 掲載作品の中では、代々幼女趣味の男たちを生み出してきた家族の物語である「オニゲノム」が個人的には好きだ。爺さんは戦時中に中国で姑娘を凌辱、老父は服役中、自分自身にもその趣味がある。そんな男に娘ができ、自らと、きっとその手の趣味に目覚めるであろう自分の息子の行動を憂慮するというストーリーは苦みと甘みが同居した面白い構図となっている。警察の留置所でロリータ漫画家が自分の趣味についてとつとつと語る「03年代動乱」なんかも赤裸々で味がある。とあるピアノを通じその持ち主たちの物語を描く「piano man」、少女とのエロ写真メールをやりとりしていた携帯電話をお話の中心に据えた「電波精子」と、モノを媒介として人間ドラマを紡いでいくお話も面白い。皮肉の利いたビターな味わいのお話が揃っていて、揺るぎない高品質。硬質な線によって描かれた少女たちもますます美しい。やっぱりいい。

【収録作品】「半仏半獣」「piano man」「201X」「国立人喰い動物園」「夫婦善罪」「電波精子」「オニゲノム」「03年代動乱」


▼一般

【単行本】「東方機神傳承譚 ボロブドゥール 」 太田垣康男 双葉社 B6 [bk1][Amzn]

 2000年に創刊され、5号まで出てあっさり休刊してしまったエニックスの青年誌「コミックバウンド」で連載された作品。僧たちの支配する仏教国家において、理不尽に迫害されていた罪人たちが、見世物用に復活させられた巨大な機神を操り権力者たちに立ち向かっていくという物語。現在は「MOONLIGHT MILE」でおなじみの太田垣康男だが、その力強くて緻密な作画、骨太な作劇はこの作品でも十分現れている。オリエンタルな風味を生かしつつもメカっぽく、かつ禍々しい機神ボロブドゥールのデザインは秀逸。虐げられし者たちの反逆のドラマも気合いが入っていて読みごたえがある。全5話に収められているが、設定にスケール感があるので、もっと長い尺で読んでみたいお話だった。まあそれはともかくとしてちゃんと全1巻で完結しているし、力の入るカッコイイ作品なのでオススメ。

【単行本】「ヨイコノミライ!」1巻 きづきあきら ぺんぎん書房 A5 [bk1][Amzn]

 うはー、底意地悪い……。絵柄は華やかながら、帯に「…痛いです。」と書いてあるけど読んでいると本当にチクチク痛い。お話は、とある高校の平凡な漫研が舞台。半端なオタクばかりが集まってヌルい空間を作り出していたその漫研に目をつけた少女・青木さんが、彼らのコンプレックスや自尊心などを刺激することで、漫研をしだいにバラバラにしていく。

 この青木さんの視点はめちゃめちゃシビア。楽しくやってる漫研のメンツは彼女によれば、「感想と批評の区別もつかない自称批評家」「現実が直視できないオカルト少女」「文芸部からはみだしたボーイズ作家」「声優気取りで甘えた声…自己愛の強烈なナルシスト」「口ばっかりプロの半可通」「なんの取り柄もない ただのオタクに居場所を感じている無能オタク」とのこと。そして彼らをまとめて同人誌を発行しようと考えている、主人公格で編集者志望の井之上くんのことを「ゴミみたいな」「ただの消費者をモノを作る人間にできると信じてる」「おめでたい人」と切って捨てる。確かにその通りなんだけど、まったくもって容赦がない。

 それからその漫研メンツの間の人間関係も、一皮むけば妬みや僻み、侮蔑などが潜んでて、青木さんを触媒としてそれがどんどん表面化していく。一見楽しそうな部活モノっぽくスタートしながら、こういう居心地の悪いストーリーが展開されていくのだ。これが冒頭に書いたとおりたいへん痛い。しかもオタクをやっている人間なら、漫研のオタク連中のどれか一人くらいには自分と通じるところを感じてしまうだろうから痛さも倍増。自分も「感想と批評の区別もつかない自称批評家」の天原くんとか見てると、アイタタタ……という感じになるし。今後この漫研のメンツがどうなってっちゃうのが、続きがたいへん気になるところ。まあ気になったら掲載誌であるWebコミック誌、COMIC SEED!のほうを読めばいいんすけどね。何はともあれどうなっちゃうんだろうとやきもきさせる、楽しみかつ怖い作品になってると思う。

【単行本】「格闘新世紀 GO BOUT!」1巻 松本レオ 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 5年ぶりに帰ってきた高校生空手ファイター・合家豪が、新宿で行われているギャンブル格闘イベント「SJC」に、行方不明の兄を探すため参戦し、強敵と戦っていくという格闘漫画。スッキリとした絵柄で元気のいいアクション、それから人が良さそうで天然系な豪のキャラがほのぼのしてて、楽しく読める。格闘シーンはけっこう迫力があるし、整った画面作りで読みやすい。

「格闘新世紀 GO BOUT!」より  ところで連載時の感想でもたびたび書いているが、この作品において見逃せない魅力が、ヒロイン格である豪の幼なじみの女の子・あかりのパンチラっぷりだ。とにかくこの娘は物語の各所でパンチラしているのだが、「なんでこんなところで……」とか「なんでこんなちっちゃなコマで……」というシーンでやっていることが多い。これを探すのも最近は一つの楽しみとなっている。例えばここに貼り付けた画像は、週刊少年チャンピオンの最新号のものだが、こんだけちっちゃいパンチラのためにこのアングル、とか思っちゃうとなんだか和む。パンツのデザインも最近のパンチラ漫画にありがちな、しわがいっぱい描いてあって、ときに性器の形まで浮き出ているようなものとは対極的。けっこう布面積が広く、デザインも垢抜けない。そこがいい。そういうわけで格闘漫画であると同時に和み系パンチラ漫画でもあるなあと思うわけです。

【単行本】「ライドバック」1巻 カサハラテツロー 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 バレエ界で名を知られた父母のもと純粋培養されて育ったが、故障もあってつまづいていた少女・尾形琳が、大学に入学して「ライドバック」と呼ばれる乗物と出会う。それはロボット+バイクといった感じの機械で、それを操縦するということに、琳はこれまでにない興奮を覚えていく。いかにもメカメカしいライドバックのデザインはかっこよく、主人公の琳が体むきだしでライドバックの頭の部分のコックピットにまたがり、縦横無尽にそれを操縦して疾走していく様子はなかなかに痛快。アクションがダイナミックでメカも格好良く、ワクワクさせられるものはある。というわけで今後の琳の活躍に期待。学生運動のゴタゴタなどもからんで、けっこう面白くなりそうな雰囲気ではある。

【単行本】「探偵儀式」1巻 漫画:箸井地図+原案・脚本:大塚英志+原作:清涼院流水 角川書店 B6 [bk1][Amzn]

 清涼院流水のJDCシリーズに基づいて、トンデモ探偵ワールドが展開。テーマは「反則」だそうで、出てくる探偵たちも、おなじみのとんち探偵・竜宮城之介やファジィ推理の九十九音夢らのほか、新キャラたちもみんな探偵としては反則的な能力の持ち主ばかり。原作のインチキくさい雰囲気をよくつかんでいると思う。そして作画のほうも達者。シャープで整理された描線はフレッシュな質感にあふれているし、ハッと目を惹くキャッチーさがある。抜けのいいタッチがとてもカッコイイ。探偵たちのキャラクターデザインも個性的。龍宮城之介のヘンな仮面とか。あと音夢はハツラツとしててキュート。ヘンだけどシャレている、カッコイイけど反則。なかなか面白いです。ただいかんせん連載ぺースが遅い。エース特濃が隔月であるうえ、新作が載らなかったりすることもあるのでお話がなかなか進まない。早いとこ続きが読みたいところなんだけど。

【単行本】「素晴らしい世界」2巻 浅野いにお 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 若者やおじさんたちが生きていく日常の中での、悩みやら希望やらを、新鮮な感性で映し出した連作シリーズ。これが最終巻。生きていくことは辛かったり苦かったり痛かったりするけれど、その中に潜んでいて普段は気づかないような光に目をとめ、鮮やかに描き出していく作風が印象的で、作者の才能のキラメキを感じさせてくれた一作だった。クオリティについてもブレがなく、毎回興味深く読めた。パサパサした乾いた絵柄も達者。痛みを伴う青春ストーリーの描き手として、今後も注目していきたい存在。

【単行本】「あっさりショコラ(仮)」 いくえみ綾 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 相変わらず素晴らしい。今回の単行本は「あっさりショコラ(仮)」「ヘビー クラウド ノー レイン」「ブローチ」「キャベツの国から’03 逡巡」の4本を収録した短編集。いずれの作品も間のとり方が絶妙で、するする読めるし、恋の描き方についてのアプローチも独特で新鮮。個人的には天然系のヒロインが、とある男子に対して学食の定食をぶちまけちゃうところからなんとなく始まっていく恋物語「キャベツの国から’03 逡巡」が好み。ほのぼの楽しいお話も良いし、ラストの締め方も巧み。

【単行本】「金平守人のかいつまんでななめからバッサリ」 金平守人 宙出版 B6 [bk1][Amzn]

 金平守人がギャルゲーのアンソロジー本でやっていたシリーズをメインにした単行本。こんな仕事してたんだー、なるほど。ここで紹介されているギャルゲーについては、メジャーであることは知っているんだけど自分としてはまったくプレーしたことがない。でもそういう人間にとってはかえってちょうどいいというか。「なんか適当なこと描いてるっぽーい」とか思いながら、気楽にギャグをあじわっていける。全然知らないネタであるにも関わらず、個人的にはけっこう楽しめてしまった。金平守人は、こういう一つビシッと固定したネタがあったほうが、力を発揮できるタイプかもしれないなーとも思った。

【単行本】「がんばれ酢めし疑獄!!」5巻 施川ユウキ 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 これにて最終巻。最後までマイペースにヒネリの利いたギャグを詰め込んでて面白かった。日常のすげー細かいことに着目し、びしばしとオリジナリティのあるツッコミを入れていく様子は見事だった。この人はなかなか言語感覚が鋭い。それは単行本のみの収録のミニコラムの数々にも現れていると思う。ギャグ漫画ってやっぱ言葉を扱うセンスが大切だなーと思った。

【単行本】「マイナス完全版」1〜3巻 山崎さやか エンターブレイン B6 [bk1][Amzn:1巻/2巻/3巻

 ヤングサンデーコミックス版に未収録だった分も収録した完全版。この機会に読み返してみたけど、やっぱり凄いお話だと思う。この作品は、ずいぶん前(1998年1月)のオスマンで詳しく書いたとおり、「嫌われたくない」という意識にとらわれ続けた女教師・恩田さゆりが、生徒や同僚らに対して、ときに隷従し、ときに抑圧し、ときに支配欲を暴走させていく姿を描いた物語。他人の自分に対する意識に過剰なまでに反応し、自分の意志を持たず、リアクションのみで行動する恩田さゆりの姿は、コミカルでもあるし悲痛でもある。自意識に追い詰められた人間の姿が、ものすごいテンション、迫力をもって描かれている。山崎さやか(当時は沖さやか)の初期の傑作だけど、このころから異彩を放つ非凡な才能だったのだなあと改めて思う。人肉食がらみの話で話題を読んだ作品だけど、それ抜きにしても、というかそれ以外の部分のほうがむしろ読みごたえのある作品。今回、人肉食のエピソードが収録されたおかげで、かえってほかの部分も含めて、フラットかつ正当な評価がしやすくなったといえるかもしれない。再び入手しやすくなったことと合わせて喜ばしいことだと思う。

【単行本】「資格救世主てつんど」1巻 高橋のぼる 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 ヤングサンデーで連載中のなんか得体の知れない作品。現代を生き抜くための必須アイテム「資格」を取得するための指導を行っている「熊田塾」塾長・熊田哲人(くまだ・てつんど)が、そのカリスマ性でもって人々を導いていくっぽい物語。なんで「っぽい」かというと、その指導がどう見てもむちゃくちゃだから。最初に指導するのは、外反母趾で苦しむ母のため、足と靴の専門家であるシューフィッターを目指す女性。でもなんかもっともらしいことをいいつつ、彼女の足の指をなめたり、自分の指をなめさせたりするてつんど塾長の姿は変態そのもの。でもなんか大成功が2回くらい続いて、てつんど塾長は現代のカリスマとなり、彼の指導を仰ごうとする若者たちの競争が展開されていく。てつんど塾長は頭のてっぺんから足の先まで油っこいし、ファッションとかも強烈。とにかく暑苦しくて濃い。ノリがいちいちヘンで、お話のほうもいったいどこへ行ってしまうのやら。とりあえずテンションは高いし、目が離せない一作ではある。


▼エロ漫画

【単行本】「ノー・ドッグ ノー・ライフ」 栗田勇午 三和出版 A5 [Amzn]

 犬大好き、フリスキ〜。名前は山岡士郎の奥様から、絵柄は浦沢直樹チックなのに、なんだか延々獣姦漫画を描き続けているちょっと変わった作家・栗田勇午の初単行本。獣姦モノというと、だいたいはSM的な感じでヤラれるほうを貶める意味で使われることが多いのだけど、この人の場合は女性が獣(犬)にマジ惚れする。フラフラと犬の獣根に吸い寄せられていき、その虜になってしまう。これはちょっと珍しい。犬まっしぐら。そして犬にまっしぐら。獣姦のわりには愛がある。それと同時に性行為は激しく、シチュエーションともども刺激的。こういうのを載っけちゃう、単行本まで出しちゃうあたりはさすが三和出版という感じ。特殊な意味で犬好きな人にオススメです。それとカバー裏のお遊び漫画は、ユーモアが利いてて思わず笑ってしまった。

【単行本】「シャイニング娘。3」 師走の翁 ヒット出版社 A5 [Amzn://][bk1:/

 超人気の女性アイドルグループ「シャイニング娘。」の面々が、たいへんにエロエロな目に遭わされる人気シリーズの最新刊。この巻では、上巻/下巻の内容を受けてシャイ娘。の一員となった茶魅川梨禍に凌辱の罠が迫る「アギ」前後編がまず掲載。その後、×浦あや、関節本ミキ(ふしもと・みき)を中心とした「VI来襲」シリーズが始まる。毎回毎回濃厚なエロシーンを繰り広げるだけでなく、シャレっ気も利いててすごくエンターテインメントしている。シャイ娘。に迫る資格が「御無礼」とかいってるのも笑った。いやー、面白いねえ。第V期の方々も登場してて、名前はそれぞれ珠橋あい、焜炉あさみ(こんろ・あさみ)、鬼まこと(オーガ・まこと)、マスク・ド・ニイザキ。表紙裏に書いてあるキャラクターについての設定なんかも面白いし。師走の翁の作品からは、読者を喜ばせよう、自分も楽しもうという姿勢が色濃く伝わってくるのがイイ。脂の乗った、いい描き手さんだといつも感心します。

【単行本】「いやらしい夢」 ゆきやなぎ 富士美出版 A5 [Amzn]

 ゆきやなぎの絵は、描線自体は比較的シンプルなんだけどエロい。出るとこが出てくびれるところはくびれた、メリハリが利いていながらつるんと滑らかなボディラインがソソる。乳輪が肉厚な感じな乳房、キュッと持ち上がったお尻、熱に浮かされたようにうるんだ目つき……と、各部がいずれもエロい雰囲気を醸し出している。あと個人的に好きなのがウエスト部分。細すぎな感じはしないんだけど、大柄な男の手で両手の指先がくっついちゃいそうなくらいにガッシリホールドされている様子は、いかにも「いいようにやられてる」って感じで妙にいやらしく感じる。線が整理されているので、表情が分かりやすい点もグッド。掲載作品の中では女学校の乙女二人が学園のパトロン連中に凌辱される「ソルヴィエールの乙女たち」、妹が自分の寝ている間にエロいことを仕掛けてきて……という「いやらしい夢」、海の家できわどい格好で働いているうちにヒロインが発情してしまう「マリコの夏」あたりが個人的にはヒットしました。

【単行本】「カラダニキイテ」 ゼロの者 一水社 [Amzn]

 汗と汁でとろとろに煮崩れたような、じゅぶじゅぶにやわっこい乳を描かせたらエロ漫画界屈指のゼロの者の最新刊。ゼロの者の描く乳は、いわゆる均整の取れた形状ではない。でも量感はたっぷりで、目に飛び込んで来るインパクトはすごいし、またいやらしい。もちろん巨乳のときもいいんだが、そんなデカくないときでもいやらしいのは強い。ていうかこの人の場合、乳だけじゃなくて女体全体がつゆだくだ。尻、腰、ほっぺた、唇……とどれもじゅくじゅく。瞳さえいつも熱っぽくうるんでいるし。

 この単行本についていえば、エロシーン自体はかなりノーマル。シチュエーションそのものはいやらしくても、セックスシーンはたいてい正常位でたまにバックが入るくらい。やってもフェラチオくらいまで。輪姦やらアナルはナッシング。そして、これだけの乳を描きながらパイズリシーンがないのも今や珍しいといえるかもしれない。エロ密度がたいへん高いので物足りなさはまったく感じない、ていうか全然いやらしいんだけど、これはけっこう意外だった。個人的にはおちんちんのフォルムがもう少しかなと思うところもあるんだけど、ちんちん派でない人にとってはこの程度がちょうどいいのかもしれない。最近ちょっとストーリー面では弱いかなと思うけど、奇手を使わないでストレートにエロくしているため間口が広く、使える1冊に仕上がっておると思います。

【単行本】「パイパンヤ」 よこやまちちゃ 司書房 A5 [Amzn]

 著者4冊めの単行本。いまだにこの人の場合、「ジャイアントロボ」の銀麗が好きな人というイメージが強いんだけど、オリジナルのほうもけっこう面白い。伸びやかな線と健康なお色気、それにドタバタとしてカラッと明るい楽しいコメディテイストな味付けのお話が魅力的。この単行本の表題作「パイパンヤ」は、パイパンなんで人間の胸毛を集めているバンパイヤの女の子と、私立探偵のにーちゃんのドタバタもの。ネタとしては下らないけど、バンパイヤねーちゃんがキュートでかわいいし、ラブラブな味付けも心地よい。そのほかの作品もノリが軽妙でとても楽しい。キュッと持ち上がった尻、締った胴、伸びやかな手足。ぱーっと明るくて、見ているだけで楽しくなる華やかな絵柄だと思う。肩の凝らないエンターテインメントっぷりで、気楽かつ安心して楽しめる1冊。


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