オス単:2006年1月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「喰いしん坊!」1〜5巻 土山しげる 日本文芸社 B6 [bk1][Amzn]

 う、単行本を各巻2冊ずつ用意して解体し、右ページと左ページを並べて両手でページめくりしてやがる! 高速にページめくりできるだけでなく、ページめくりのアクションが最小限なので長時間読んでも負担が少ない。邪道読みだ〜!!

 というわけでなんかもう周囲の人からも読め読めいわれまくり中だった「喰いしん坊!」の既刊分をまくり読みしました(邪道読みはしてませんので念のため)。お話のほうは、サブタイトルである「Gourmet Fighter」という言葉からも分かるとおり、大食いバトル漫画。カツ丼から始まり肉まん、ラーメン、うな重などなどを食って食って食いまくる。

 その中で駆使される大食いのためのテクニックの数々がこの作品の見どころ。本番のしばらく前から大食いを繰り返すことで胃を拡張したり、水をどう飲むか、どのようなぺースで食べるかなどという基本テクに触れ、さらには両手食いなどのさまざまなテクニックが登場。でもまあ主人公の大原の食い自体はオーソドックス。一つ一つの食い物を楽しんで食っているので食欲は刺激されるものの、敵方の邪道食いのインパクトには負ける。肉まんの中身をほじくりだして中だけ先に食い皮は水に入れて流し込むとか、うな重イッキ飲みとか。それがうまそうかといえば否。しかしとにかくむちゃくちゃ食ってやろうというその強引なテクの数々は、「いつかマネしてみたい」という気にさせられなくもない(無理っぽいけど……)。

 そんなわけでフードバトルシーンはアツい。食漫画は基本的にうまさを競うのが基本。だから作り手側が主役の漫画のほうが多いし、食うほうでもだいたいは味を楽しむグルメ漫画がメイン。「量」という概念にこれほどこだわり、テクニカルな面まで掘り下げた作品はたしかにほかになかったと思う。それだけに新鮮な面白さにあふれているし、なんか「よっしゃ俺もたらふく食ったるで〜」という気分にさせられる。ちょうどヤンキー映画とか見た後、猛々しい心持ちになるみたいな感じか。というわけでほかにない、ユニークで勇猛果敢な食漫画。掲載誌のゴラクも読み始めたことだし、これからもどんな食いっぷりが登場するのか、楽しみに読ませていただきたいと思います。

【単行本】「アンダーカレント」 豊田徹也 講談社 A5 [bk1][Amzn]

 発売は2005年11月だったのだが、うかつにも新刊時に見逃していて、しまったーとか思って慌てて購入した。本作の掲載誌はアフタヌーン。町の小さな銭湯を経営していた家から、ある日突然夫が蒸発。妻のかなえはしばらく放心状態だったが、銭湯組合から紹介された臨時手伝いの男性・堀の力も借りて営業を再開。いちおう平穏に生活を続けていたが、夫がなぜ失踪したかは、彼女の心の中でしこりとして残り続け……という具合にお話は展開。

 基本的には、どこにでもありそうな日常なのだが、平穏なようでいて陰をはらんだ描写が新鮮。大事だと思っていたものが突如失なわれてしまった欠落感や、当たり前と思っていた日常や会話の不確かさ、「一人の人間をほんとうに理解すること」の難しさを、しっかりと描き出している。作画は淡々とした風味だが、スッキリとした絵柄は完成度が高い。その作画の透明性、濁りのなさが、人間というものの「分からなさ」をより明確に浮き彫りにしていると思う。

 かなえと夫、そして堀はそれぞれの想いを抱えて、結局最後まで完全に分かり合えはしなかったわけではない思う。しかしそれを呑み込んだうえで、いくらか心を通じ合わせ、新たな出発をしていく様子は清々しくもある。派手な誇張やアクションなどはないけれど、心に訴えかけてくるもののある作品だった。あと、一つ注文するとすれば、人物の描写と比べると背景描写は定規そのままな線が目立ちちょっと物足らない部分がある。こちらも人物描写に似つかわしい独自の味が出てくるとより良くなるのでは。


▼一般

【単行本】「ASTRAL PROJECT 月の光」1〜2巻 作:marginal+画:竹谷州史 エンターブレイン B6 [bk1:1巻/2巻][Amzn:1巻/2巻

 原作者のmarginalは狩撫麻礼の別名義。コミックビーム内ではさほど目立つポジションの作品ではないと思うけど、改めてまとめて読んでみると怪しいムード満点で面白かった。自殺した姉の遺品であるCDを聞くことで幽体離脱が可能になってしまった青年が、同じように幽体離脱ができる存在たちに出会い、霊体世界の神秘を垣間見ていくという内容。一歩一歩新たなステージへと登っていく物語も緊張感にあふれてて、引き込まれるものがある。登場人物たちも内に狂気を抱えているような表情をしたキャラばかりで、とてもミステリアス。

 竹谷州史は「PLANET 7」のころは元気の良さが印象に残るコミカルな絵柄だったけど、現在の絵柄はそのころとは大違い。暗いトーンのシリアスな絵柄は、不穏な気配を漂わせると同時に、ゾクリとするような艶と色気があってカッコイイ。2巻までの段階では非常に雰囲気たっぷりに、ガッシリお話を展開していると思う。ここから果たしてどのような世界を見せてくれるのか。非常に個性的な原作者、作画者の組み合わせなので、ここからのジャンプアップにさらに期待。

【単行本】「晴れゆく空」 谷口ジロー 集英社 A5 [bk1][Amzn]

 連載終了が2004年11月で単行本化にけっこう時間がかかったなという印象。過労死寸前というところまで疲れ果てていた40代のサラリーマン・久保田和広が、交通事故により死亡。しかし久保田の魂は、その事故に巻き込まれて奇跡的に一命を取り止めた17歳の高校生・小野寺卓也の体に宿る。そして卓也の体を借りた久保田は、卓也が完全に意識を取り戻し、自分が完全に消えてしまうまでのわずかな時間を使って、残された家族に自らの想いを伝えようとする。

 上記のようなストーリーのヒューマン・ドラマだが、谷口ジローの実直で緻密な描写力が冴え、しっかり読める作品に仕上がっている。ヤングジャンプ掲載作品としては地味めで、雑誌掲載時はピンとこない部分もあったのだが、まとめて読んでみるととても清々しい後味を残してくれる良い作品だった。平凡な男の家族を想う気持ちがしっかり現れていたし、それまでハンパなことをしていた卓也少年が、不思議な出来事を機に成長していく様子もしみじみとしたものがあった。改めてまとめ読みできて良かった。

【単行本】「サイカチ 真夏の昆虫格闘記」1巻 作:藤見泰隆+画:カミムラ晋作 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 なんだか気になるムシバトル漫画。主人公の小学生・真夏が、やたらと虫に詳しい女子高生・稲穂の指導を受けつつ、相棒のヒラタクワガタを操って昆虫相撲を戦っていくという作品。まずは本題である昆虫相撲のほうだが、これはけっこう熱血で面白い。指揮棒(マイ・パン)で音を発して昆虫に指示を出し、戦術を駆使して勝利を狙う姿はけっこう燃えるものがある。虫についての知識もつく。

 で、もう一つの魅力が意外と萌え漫画であるということ。本編ではガチンコでムシバトルをやっているときでも、扉絵は意味もなく稲穂ねーちゃんや、真夏の幼なじみであるあさがおの水着姿だったり。そもそも単行本の表紙からして主人公じゃなくて稲穂のほうだ。そしてあさがおのパンチラシーン(しまぱん)も要所要所で差し挟む。虫だけじゃいかんんと思ってやってるサービスなのかもしれないが、扉絵とかの力の入り具合を見てると、たぶん女の子描きたくてやってるんだろうなあと思う。まあそんなとこも含めて、なんか好きな作品です。

【単行本】「フットブルース」1巻 能田達規 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn]

 野球が異様に盛んな島で生まれた双子の兄弟が、初めて生で見たサッカーの試合に衝撃を受け、不利な状況の中でもサッカー選手を目指し、周囲の反対にもメゲずに頑張っていくという少年サッカー漫画。能田達規といえば「ORANGE」でプロサッカー漫画を描いたが、今回は今のところアマチュア。主人公たちをサッカー的には圧倒的不利な状態に置くことで、よりサッカーへの飢餓感や熱意を前面に押し出している。1巻の時点ではまだ「サッカーを始められるかどうか」という段階だが、連載を見ている限りではこれから試合もどんどん増えてくる気配。個人的には早いとこ兄弟が初心者段階を脱して、サッカーのテクニカルな部分や戦術の話が増えてくるといいな〜とか期待してます。

【単行本】「舞-乙HiME」1〜2巻 佐藤健悦(シナリオ:樋口達人+吉野弘幸) 秋田書店 新書判 [bk1][Amzn:1巻/2巻

 アニメ版も楽しく見ているけど、こっちも面白い。アニメのほうは明朗快活な女子学園モノ+超能力系アクション。こちらはさらにお色気を強烈にプラス。ストーリーのほうもかなり異なり、アニメ版ではアリカが主人公だけど、漫画版ではマシロが主役。しかも本当は男だけど女に化けてガルデローベ学園に入学しているという設定。そのおかげもあってラブコメ色もだいぶ強まっている。

 描いているほうもかなりノリノリでやっているっぽい。エロ描写は多いけどあまりベタベタしすぎずコメディになってるし、マジ部分と軽いジョーク部分の切り替えも巧みでたいへんノリがいい。扉部分に民明書房的なうんちくが毎回入ったりするのも面白い。キャラクターではアリカはアニメ版よりだいぶ存在感薄めで、ニナと巨乳娘のエルスちゃんが頑張ってる。そんなわけでこの二人が好きな人にとっては楽しいんでは。個人的には、前作「舞-HiME」よりもこっちのほうが、漫画・アニメ両方とも好き。

【単行本】「ケンコー全裸系水泳部 ウミショー」1巻 はっとりみつる 講談社 新書判 [bk1][Amzn]

 海辺の町にある高校に、沖縄から天然娘の蜷川あむろが転校してきて、その学校の水泳部の面々とバカ騒ぎを繰り広げていくというドタバタコメディ。ものすごく大きな事件があるわけではないものの、水泳部にはあむろほか、なんかやけにHっぽい巨乳娘の静岡さん、呑むと脱ぐ副部長ら、賑やかな面々が揃っており、日常模様はやたらノリが良い。あむろはあっけらかんとした調子でぽいぽい脱ぐし、その他の面々も普段は水泳着、ときには……ってな感じでサービス満点。むちむちピチピチしていて目においしいけれども、ベタベタしたいやらしさみたいなものはなく、健康的でさわやかでなおかつドキドキするって感じの絶妙な感触となっている。お話のほうはかなりテキトーにノリだけで突っ走ってるけど、その無軌道ぶりもこれまた面白い。はっとりみつるならではの、内にこもらない明るさが気持ちイイ、ユニークな作品に仕上がってると思う。

【単行本】「ハピネス」 古屋兎丸 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 古屋兎丸が各所で描いた短編を収録した作品集。お話の内容は作品によってさまざまだが、特徴的なのは、不幸だったり満たされないでいる不安定な気持ちを抱えた「少女」を描いている作品が多いこと。その中でとくに印象に残ったのは、家庭環境がメチャクチャで悪魔の花嫁になるという希望にすがるしかなかった少女を描いた「あくまのうた」、頭がトロくて人にダマされてばかりいる少女の恋と別れを描いた青春ストーリー「雲のへや」、こちらも頭が悪くオタク向けのいかがわしいアイドル稼業をさせられている少女の物語「アングラ☆ドール」あたり。また「ハピネス」は仕掛けが巧妙、「インディゴエレジィ」は爽やかな友情物語となっている。全体に、胸をキュッと締めつけるような切なさがあって、印象に残る作品が多く、美しいだけでなく読みごたえも十分ある1冊に仕上がっていると思う。

【収録作品】「嬲られ踏まれそして咲くのは激情の花」「ロリータ7号」「もしも」「あくまのうた」「ハピネス」「雲のへや」「インディゴエレジィ」「アングラ☆ドール」

【単行本】「ヨキ、コト、キク。」 コゲどんぼ ジャイブ B6 [bk1][Amzn]

 コミック・デ・ジ・キャラットとコミデジで「小春こころ」名義で連載された作品。タイトルを見てピンとくる人も多いだろうけど、横溝正史「犬神家の一族」を元ネタにしたドタバタギャグ漫画。物語の舞台は莫大な資産を持つ旧家である猫神家のお屋敷。当主だった祖父が、戦地に行った長男のスケキヨが戻らないときは、三つ子の良子(ヨキ)・琴助(コト)・菊乃(キク)、そしてスケキヨの婚約者であった女中のタマヨのいずれか一人だけに遺産をすべて相続させるという遺言を残して他界。そしてその遺産を巡る骨肉の戦いが繰り広げられるのであった……っていうのが大まかなストーリー。

 こういうふうに描くとなんか血みどろの話みたいだけど、コゲどんぼだけに別におどろおどろしいことにはならない。ヨキ・コト・キクの3人は表面上は普通に振る舞いつつも、実際は欲の皮が突っ張ってて、お互いに毒を盛ったり罠を仕掛けたり。でもなんかみんな丈夫で、どんな攻撃があっても死なないし、「デ・ジ・キャラット」シリーズと似たような感じで、来る日も来る日もお互いに毒づきながらも賑やかな日常が繰り返される。ギャグ漫画としてカラッと明るく仕上がってるし、キャラもかわいくてけっこう楽しく読めた。個人的には「かみちゃまかりん」よりもこっちのほうが持ち味出てると思います。

【単行本】「かみちゅ!」1巻 作:ベサメムーチョ+画:鳴子ハナハル メディアワークス B6 [bk1][Amzn]

 アニメ版も面白かったけど、こちらもいいですねえ。突然神様をやることになってしまった一橋ゆりえちゃんと、その周囲の面々の日常をゆったりまったり描いていく、面白楽しいファンタジー。アニメのほうは舞台となった尾道を美しく描いた美術が特徴的だったが、こちらも鳴子ハナハルの作画が美しくて負けず劣らずな魅力あり。ゆりえちゃんは一生懸命やってるけど、でも基本的にのんびりぺースで一歩一歩進んでってる感じが見てて微笑ましい。それにしても鳴子ハナハルの初単行本がコレになるとはなあ。ワニマガジンはなんで単行本出さないんだろ? エロ漫画では現在単行本が最も待ち望まれてる一人だと思うんだけど……。

【単行本】「それでも町は廻っている」1巻 石黒正数 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 無愛想なばあさんがやってるショボめな町の喫茶店が、突然メイド喫茶をやるとか言い出して、アルバイトのおねえちゃん嵐山歩鳥もメイドの格好をすることに。でもメイド喫茶のなんたるかが全然分かってない彼女たちの店舗運営はすこぶるいい加減。歩鳥は三歩歩けばいわれたことを忘れるようなヌケ作だし、周囲のメンツも基本的に適当、そんなぼくらなメイド喫茶でのおばかさんな日常が展開されてゆく。

 というわけでメイド喫茶が舞台ではあるものの、やってる内容はメイドっぽくないこと甚だし。お客が入ってきても「へいらっしゃい」とかいっちゃったり、メイド喫茶のわりに萌え度極薄。そのぶっちゃけぶりがくだらなくて楽しいギャグ漫画となっている。歩鳥のアホっぽさ、あと妙なところでの鋭さ(でもあんまり役に立たない)とかも見てて面白い。石黒正数は、コミックフラッパーで読切描いてたころからきっちりまとまったいい絵を描く人だと思っていたけど、現在フラッパーで連載中の「アガベ」はかなり投げ遣りになっててハラハラしている。でもこちらでは、かわいい絵と馬鹿馬鹿しいお話で、自然体な自分の持ち味を出してイキイキやっているようで何より。

【単行本】「レモネードBOOKS」1巻 山名沢湖 竹書房 A5 [bk1][Amzn]

 本が大好きなあんちゃんとつき合うようになった女の子の物語。あんちゃんが重度の本オタクなので、彼と一緒にいるとヒロインの女の子も何かと本に関わる物事に触れていくようになる。まあいってみれば、本がつなぐ(というのとは微妙に違うかもしらん)、二人の恋模様をかわいらしく描いたお話。本が好きなら「ああなるほどなあ」とか「分かる分かる」っていうことを、二人の間の出来事として、うまいことラブコメにとかしこんでいるのがいいです。あと二人とも恋愛的にはたいへんウブな様子が微笑ましいなあとか思ったりしました。

【単行本】「怪物王女」1巻 光永康則 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 月刊少年シリウス連載作品。交通事故によって一度は死んだ平凡な少年・ヒロが、「姫」と呼ばれる少女の血を飲むことで再生。それによって半不死身の戦士となり、怪物たちを統べる王族の一員である姫に仕えることになり、怪物たちの闘いに巻き込まれていく……という物語。まあそんな妖怪バトル系のお話で、けっこう激しいバトルも繰り広げられるんだけど、日常シーンとかは意外とまったりした部分も。まあツンツンした姫様がなかなかかわいかったりするわけだけど、ヒロの姉や、姫のおつきの幼女メイドのフランドル、狼女な少女など、美少女は次々出てきて賑やかにお話は展開。ミステリアスな雰囲気を漂わせつつ激しく繰り広げられるバトルと、日常のまったり感+萌えが案配よくミックスされた作品。ストーリー的にもの珍しいってわけではないけどわりと楽しく読める。絵もちゃんとかわいいいし。

【単行本】「ぼくと未来屋の夏」1巻 作:はやみねかおる+画:武本糸会 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 こちらもシリウス掲載作。小学6年生の山村風太少年が、100円払うと未来を教えてくれる「未来屋」と名乗る男に出会う。そして風太と未来屋がコンビを組んで、風太の住む田舎町のミステリーに迫る冒険が始まっていく……といったストーリー。原作のはやみねかおるは児童文学方面のヒットメーカーだそうで、昔でいえば山中恒とかみたいなポジションに当たるのかな? はやみねかおる作品はちょっとしか読んでないのであんまり知りませんが。この作品も、ちょっとミステリー風味で、少年の冒険心をそそるような爽やかでちょっとワクワクするようなお話になっていて、読んでてなかなか楽しい。この巻の段階では、風太・未来屋のコンビはまだ大きな事件には出会ってないけど、日常と地続きな、なんだか面白げな冒険に出会えそうな空気はある。武本糸会の作画もスッキリとこぎれいで品が良く、わんぱく少年をイキイキと描けていると思う。先行きが楽しみな一作。

【単行本】「眠れる惑星」1巻 陽気婢 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 陽気婢の新作は、SFありHあり恋愛ありの物語。ある日突然、全世界の人々が眠ったままの状態になってしまい、主人公の高校生男子・永井淳平のみが一人目覚めたままで取り残される。最初はふらふら町をさまよっていた淳平だが、そのうちにふとしたことから(というか寝ている女の人にイタズラして)、淳平がセックスした相手は眠りから目覚めるということを発見。そして彼と、彼がいたした女性たちだけのサバイバル生活が始まるのだった……といったお話。

 陽気婢の非成年系の単行本は久しぶりで、2002年3月の「ロケハン」以来(だったと思う)。非成年だとわりとハズすこともある人だけど、この作品はまとめて読んでみるとなかなか面白い。いちおう終末物語っぽいのにあんまり悲壮感はなく、飄々としているのが楽しい。また主人公とエッチをすると目覚めるという設定は、ともすれば下品になってしまいがちに思えるけど、陽気婢の軽やかなタッチの絵柄のおかげでそうはなっていない。あと淳平が軽く片想いしている相手である深町悦吏子さんがらみの話も甘酸っぱくてええ雰囲気だし。SFと青春とエッチが、すんなり共存できてる点が良いと思います。

【単行本】「酒ラボ」 宇仁田ゆみ 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 酒類を研究している農大研究室で繰り広げられる青春グラフィティ。というと最近では石川雅之「もやしもん」がけっこう人気あるようだけど、世界観的には似た感じ。「もやしもん」のほうがなんとなく土臭く、こちらは絵柄的に多少スタイリッシュな感じは受けるけれども、農大の連中のかまえない丈夫さみたいなのは共通しててこちらはこちらで面白い。がちゃがちゃ賑やかにしててもどこかのんびりした雰囲気のキャンバスライフは、居心地が良さそうでとても楽しそう。お話的には酒類を研究しているのに全然呑めないアワモリくんと、その周囲の賑やかな面々の生活を描いていくという感じ。アワモリくんと、男らしい女性のサエちゃんのラブコメ的話もあるかなーとか思ったけど、あんまり色っぽい方向には結局行かずじまい。でもまあそっちのほうがのどかでいいかなという気もしなくもない。それにしても宇仁田ゆみは、恋愛モノからコメディまで、きっちり面白く仕上げてきますな。

【単行本】「人情幕ノ内」1巻 昌原光一 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 こちらも時代モノだが、基本的には人情噺。江戸の下町を舞台に、庶民たちのささやかなドラマが繰り広げられる。昌原光一はかつてヤングジャンプ青年漫画大賞でグランプリを取った作家。これが初単行本だが非常にうまい。脂の抜けた絵柄で、人情のありがたみというものを感じさせるお話を丁寧に構築している。なんだかもう何十年も描いてきた人であるかのようなこなれた作風で、たいへん完成度は高い。ただ出始めのころはもう少し混沌とした感じの作品を描いてた印象があるんで、洗練されすぎちゃったかな〜という気はしないでもない。

【単行本】「ポルタス」 阿部潤 小学館 B6 [bk1][Amzn]

 ホラーものだが、けっこうよくできてると思う。「ポルタス」という古いゲームをプレイした人々が、次々とそこに込められた呪いの世界に取り込まれていく。そのゲームはかつて天才と呼ばれた作者によって作られたものだが、彼の軽率な行動によりそのソフトは、とある村で起きた惨劇にまつわる怨念がこもってしまっていたという設定。阿部潤といえば「the山田家」の印象が個人的にはいまだに強いけれども、そのころと比べて絵柄はずいぶんシリアスでシャープなものとなっており、怪奇描写にもゾクッとくるものがある。登場人物たちの、恐怖、呪い、憎しみなどによって歪められた表情にも迫力あり。自分はホラー方面はうといんでよくわかんないけど、なかなか刺激的な作品に仕上がっていると思う。


▼古本

【単行本】「8月の光」 新井英樹 講談社 B6 [Amzn]

 古本。Amazonのマーケットプレイスだと2006年1月15日現在2980円。発行部数も少なくてけっこうプレミアついてるようです。

 で、この本は新井英樹の初単行本。第1話は投稿作品でアフタヌーンに掲載。弱小な川間高校ラグビー部の面々の青春を描いていく物語。最初のほうはラグビー部のうだうだ気怠い青春模様、そしてその中心的存在である花井とよく笑う少女・栗本さんのちょっといい感じのエピソード、中盤からラストにかけてはラグビー部の試合の模様が描かれていく。

 最初のうちはやはり初期ということもあって、作画的にはまだまだな部分が多いんだけれども、セリフ回しなどには新井英樹らしい独特のリズムが見える。んでもって栗本さん。この娘さんはにこにこしててかわいく、ほの暖かい気持ちにさせてくれる。で、試合の模様は怒涛の展開。「なるほど、これが宮本へとつながっていくのだなあ」というのがよく分かる。弱くてどうにもならない自分たちに憤慨した花井が相手にかじりついていく姿は、すごくみっともなくて暑苦しい。またそれに触発された人々が繰り広げる、喧嘩ラグビー(というかただの喧嘩)の模様もゴチャゴチャしててものすごい密度。とにかくジタバタうごめくキャラたちの姿、セリフ・絵の濃さに圧倒される。

 絵的にはまだうまくない時期の作品だけど、今の新井英樹につながる片鱗は十分見て取れる作品。まあ入手は難しいと思うけど、新井英樹ファンなら機会を見つけて読んでみるとよろしいのではないかと。


▼エロ漫画

【単行本】「おとなり」 かるま龍狼 ワニマガジン社 B6 [bk1][Amzn]

 この単行本は人妻モノが多め。まず表題作「おとなり」で、隣に住む絶倫老人が家政婦らしき女性としているところを目にした人妻が、熟れた体を持て余して悶々とする姿を淫靡に描写。妄想シーンなんかもかなりエロチックで、これはストレートに使える作品。と思ったら「裏フィットネスクラブ」では、セックスまみれなフィットネスクラブの模様をコミカルに描写。「ビーチロワイアル」は、陽光でアッツアツに照らされた砂浜での長時間耐久セックス大会の模様を描くバカ漫画。「秘密」ではいつもより淡いタッチで、ちょっとセンチメンタルっぽい雰囲気を漂わせながら、義母&息子のエロシーンをしっかり展開。実用からギャグまで、どんなネタであっても存分に調理してくる幅の広さ、ツボを押さえた描写の巧みさには感心させられる。本当にうまい人だと思う。

【単行本】「ポコといっしょ」 D.P フランス書院 A5 [Amzn]

 初単行本。この人は現在は主にコミックパピポで活躍中。初単行本とは思えないほど描線が美麗で、かつエロっちい。収録作品としては、表題にもなっている「ポコといっしょ」がやはりいい。お話のほうは、半分人間半分けものといった感じのかわいいたぬき娘・ポコと、ポコを拾ったご主人様の生活を描いたほのぼのストーリー。普段のポコは2.5頭身くらいで丸ぽちゃぷにぷにのかわいいものだったりするわけですが、ときどきグラマラスで色っぽい娘さんに変身(リンク先のAmazonの書影あたりを見てくだせえ。どちらのバージョンも見れます)。色っぽいバージョンのときは、ご主人様とエッチなこともしまくったりする。

 エロっちいシーンもピチピチしてて充実してるんだけど、個人的には小さいバージョンのときのポコがかなり気に入っている。すんごく丸っこくてコロコロしてて、無邪気な小動物っぷりが見てて面白い。あと最初にも書いたけど、絵がたいへんうまい。線がきれいで、雑誌に載っててもパッと目を引く華がある。まあ絵がうまいだけだと少し押しは弱くなっちゃうかもしれないけど、ちびポコのかわいらしさのおかげでお話に一つ特徴的な部分ができてるのは大きいと思う。エロはもちろんのこと、癒し系なぷにかわいい小動物を愛でるといった楽しみ方もできるので、一粒で二度おいしい的な作品集になっているといえましょう。

【単行本】「夏のゆらめき」 くどうひさし 司書房 A5 [Amzn]

 ドルフィンで活躍中のくどうひさしの新刊。この本は、全5話の続き物「夏のゆらめき」が中心。ヒロインの女の子・チヒロが幼なじみに告白されるも、彼女が本当に好きなのは実の兄・カズヒロ。しかし兄は、姉と肉体関係を持っており、それを知ったチヒロの心は千々に乱れる。……といった感じの青春ラブストーリー。

 くどうひさしの作風は、最近のエロ漫画の中では実用度は低めな部類だが、そのスッキリした甘味のある作画が個人的には気に入っている。とくにちょっとホロ苦さのある青春モノのストーリーには似合うタイプの絵柄で、見ていて気持ちが良い。ただ惜しむらくはカラーがうまくない。この単行本の表紙もなんか垢抜けないテイストになってしまっていて、書店に並んでいるとインパクトが弱そうでもったいない。あと作画はこのままでも好ましいんだけど、も少し線を細かくして洗練度を上げていくと、青春モノとしての鮮烈さが増すかなーという気もする。


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