オス単:2007年7月の日記より


 このページは、「OHPの日記から、その月に読んだ単行本の中でオススメのものをピックアップする」というコーナーです。文章の中身は、すべて日記からのコピー&ぺーストです。加筆・改稿等は原則として行っていません

 なお、ここで取り上げる単行本は「その月の日記で取り上げたもの」です。「その月に発売されたもの」ではありません。だから古い本でも入ってくることがあります。ピックアップした単行本は多少分類してますが、これはあくまでページを見やすくするための便宜上の分類です。かなり適当に割り振ってますのであんまり気にしないでください。あとシリーズものの途中の巻は、取り上げないことが多いです。


▼強くオススメ

【単行本】「暴れん坊少納言」 かかし朝浩 ワニブックス A5 [bk1][Amzn]

 にゅーあきば.comにも詳しいレビューを書きましたが、この作品はオススメ。「あの清少納言がツンデレだった!」という設定に基づいて、ドタバタコメディを展開していくという物語なのだが、とにかく清少納言のキャラが見ていて楽しい。優れた感受性を持っていながら、当時としては破格の変わり者。全然おしとやかじゃなくて、野や山をかけめぐり、自由闊達な生活を送る、清少納言のイキイキした行動がなんとも面白い。

 ツンデレとはいっても、ラブコメ臭はわりと薄め。史実では後に夫となる橘則光も登場して多少いいムードではあるものの、清少納言との関係は悪友というか、いい遊び仲間といった感じで実にサバサバ。あまりデレデレしすぎない点に好感が持てる。文化面では優雅という感じはないけど、歌を詠んだりするシーンなんかも面白い。「普段はめちゃくちゃなことしてるけど、やるときはやるよ?」ってな感じの少納言のキャラクターそのままに、歌のシーンも実に鮮やか、大胆に見せてくれるので印象に残る。

 まあやっぱりキャラ作りの良さが、この作品のキモ。清少納言はもちろんのこと、則光、中宮定子、和泉式部、そしてライバル・紫式部などもそれぞれ見ていて楽しい。文献などで見るとなんか雅やかでほにゃほにゃした印象しかない歴史上の人物たちを、実にイキイキとした漫画のキャラに仕立てちゃってるのがいい。いちおうこの巻で一段落はしているものの、現在はコミックガムで本格連載化された。気持ち良く読める作品なので、今後も楽しみ。

【単行本】「eensy-weensyモンスター」1巻 津田雅美 白泉社 新書判 [bk1][Amzn]

 にゅーあきば.comのレビューで取り上げたとおり、コレは面白いです。「彼氏彼女の事情」の津田雅美の最新作で、現在LaLaにて連載中。高校生男女のほのぼの楽しくかわいいラブコメ。

 お話のほうは、最初はソリが全然合わないでいたちっちゃくて地味な娘さん・五月七花と、王子様系で学園イチのモテ男子であった常盤葉月が、激突した後和解して、その後どんどん仲良くなってっちゃうというもの。とくに最初は七花が葉月のことを毛嫌いしており、軽薄でヘラヘラしている葉月にブチキレていたのだけど、彼女にビシッと底の浅さを指摘された葉月はその後改心。で、指摘してくれた七花に感謝するように。七花は七花で言いすぎちゃったことを反省するとともに、改心後の葉月を見直しておともだちになる。

 てな感じでラブコメ状態になっていくんだけど、その様子がとてもかわいらしくていいんですな。まずヒロインの七花がすごくこじんまりとして一生懸命ないい娘さんで、葉月に接するとき以外は、実に癒し系なかわいさを発揮。葉月のほうも最初は薄っぺらいイケメンという感じだったけど、だんだん根は良い奴だということが分かってくるので、ラブコメキャラとして応援したくなってくる。また、七花を取り巻くゴージャスなお友達連中も見ていて楽しく、存在感ありまくり。

 あとはまあ上記のレビューでも紹介しているとおり、漫画としてうまい。一つの情景を見開きを使って、片側七花視点、片側葉月視点で描く独特の画面構成が面白いし、さほどセリフは多くないけど必要十分で読みやすいネームも秀逸。とにかくテンポ良く読んでいけるので気持ちがいいし、キャラにかわいげがあるので心が華やぐ。作者自身もあんまり長く引っ張るつもりはないそうなんで、この二人がくっつくまでサクサク進んでいきそう。良いラブコメです。オススメ。

【単行本】「イムリ」1〜2巻 三宅乱丈 エンターブレイン B6 [bk1:1巻/2巻[Amzn]

 これはとても面白いです。他者の精神を侵犯する力により、「カーマ」と呼ばれる民が支配を続ける世界を舞台にした本格超能力系ファンタジー。主人公の少年・デュルクは、カーマの支配者層が通う呪術訓練用の寄宿舎学校の生徒。しかし秘められた出生を持つデュルクは、カーマによって支配されている民・イコルに対しても憐憫の情を傾ける。そんな彼が、カーマの統治する星マージから、カーマ、イコル、そして原住民であるイムリの住む星であるルーンに派遣されるが……。

 といったわけでこの作品では、デュルクの冒険の旅が描かれていくわけだが、設定は非常に凝っている。民族名や階級、地名など、さまざまな名詞が出てくるので最初は理解するのが難儀な部分もあるが、その分さまざまな描写が本格的。とくに精神支配の描写はユニーク。三宅乱丈は「ペット」でも斬新な超能力描写を駆使していたが、今回はさらにそのメカニズムが詳細になっている。相手の名前と組み合わせて使う、「促迫」「命令」といったいくつかある深度の支配力を駆使した精神バトルの様子は、読んでいるほうまで息苦しくなるような迫力がある。「次はどのような能力が出てきて、どういう絵にしてくれるのか」という期待感もある。

 また、カーマ、イコル、イムリといった種族と、星の歴史に関わる物語も、謎がいっぱいで読みごたえがある。土俗的な描写をしっかりやっているところも、作品世界に厚みを持たせている。「ペット」は超能力漫画の新しい可能性を見せてくれた作品だったが、最後のほうは残念ながら尻切れトンボ気味に終わった。本作品はコミックビームでの連載で、「ペット」の掲載誌のスピリッツよりは、だいぶじっくり描かせてもらえそうな環境。三宅乱丈という特異な才能が、自由に力を発揮できる環境を与えられてどんな作品を作り出すのか。かなり大きな物語になりそうだし、ワクワクしながら読んでます。

【単行本】「真・異種格闘大戦」4巻 相原コージ 双葉社 A5 [bk1][Amzn]

 この巻はスゴい。マジで感動してしまった。「地上最強の生物は?」という命題を掲げて、いろいろな生物混合の格闘トーナメント戦をやっていくというお話だけど、この巻のメインはアフリカゾウvs.ハイイログマの勝負。巨体のわりに機動性もスタミナもあるアフリカゾウの前に、圧倒的な不利に陥るハイイログマだが……。

 といったところまでは書けるんだけど、それ以上はさすがにネタバレになってしまうので書けない。ただ帯に「著者 相原コージはいかにして最愛のキャラクターを葬ったのか!?」という言葉があるので、それをヒントにしていただきたい。ここまでガチで、ある意味シュールな激闘を展開してきた物語に、こんな隠し玉を仕込んでくるとは……。

 まあこれは書いちゃっても良いと思うんだけど、ハイイログマは負ける。そのこと自体はそんなに重要ではない。最初から勝負は見えてるから。しかし重要なのはその負け方。彼が負けを認めて勝負の場を去っていくあたりは、涙なくしては読めなかった。やられました。あ、ただしその「最愛のキャラクター」の元ネタを知らない人は、そこまでは感動できないかもしれないことは付記しておきます。

【単行本】「海獣の子供」1〜2巻 五十嵐大介 小学館 B6 [bk1:1巻/2巻[Amzn]

 力作。ジュゴンに育てられたという二人の少年・海(人名)と空。彼らと通じるものを持つ少女・琉花が、二人を通じて海という知られざる世界の神秘を目撃していく……という物語。五十嵐大介といえば精緻な自然描写を特徴とする作家だが、その特性はこの作品でも遺憾なく発揮されており、さまざまな海の生き物の描写は圧倒的な美しさと迫力がある。

 また海と戯れるようにして泳ぐ、二人の少年の姿はとても神秘的。彼らの姿は、本来ならその海域にいるはずのない海の生物までも引き寄せてやまない。そんな二人をめぐって海は、琉花の前に未知の姿を次々と見せていく。とにかくビジュアルの力がスゴいし、物語のほうもミステリアスで美しい。お話がどのような方向に向かっていくかはまだ分からないが、このまま行けば相当すんごいモノを見せてくれそう。それが今から楽しみ。

※「海」という登場人物がいるので分かりにくいですが、「海(人名)」と書いてある部分以外は、全部「海洋」のほうの「海」を指しています。

【単行本】「デメキング 完結版」 いましろたかし 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 未完のままだった「デメキング」がついに描き足しを加えて完結!……と思ったら、こりゃ参った。爽快なまでのぶん投げっぷりに爆笑。2P付け足しただけでサクッと終わりにしちゃうこの潔さ。いやーたまんないです。

 「デメキング」のあらすじについては、ちょっと説明しづらい。えーといちおう、怪獣が襲って来るという未来を知ってしまった主人公・蜂屋を中心とした人々の物語を追っていくストーリーものなのだが、怪獣モノとしてまとまっているわけでは全然ない。デメキングは最後までほとんど登場することがないし、登場人物たちがそれをどうにかしようとするでもない。しょうもないうだつの上がらない生活を続ける、不器用な人々の生活が描かれていくだけで、ダイナミックな展開とかは皆無。

 というわけで「どこが面白いか」といわれると、説明が難しい。でもその得体の知れなさが妙に面白い。とにかくいましろキャラの、しみったれた感じが見ていてとても気持ちが良いんですな。あまりにも不器用で滑稽で、でもそれを馬鹿にするでなしに描きつける。この人の作品には中毒性がある。説明がしづらいので、やっぱり「一度読んでみ?」というほかない。

【単行本】「屋根の上の魔女」 武富健治 ジャイブ A5 [bk1][Amzn]

 「鈴木先生」でだいぶ名前が知られて来た武富健治の短編集。まだ漫画家として芽が出ていないころの作品群だけに、武富健治の描きたいものが、すごく生の形で出ていて面白い。ここに収録されている作品は、個人的には全部同人誌で読んでいたけど、改めて読んでみてもすごく個性的で興味深い。

 例えば「屋根の上の魔女」は、大学でノートを写しあう怠惰な学生たちが許せないということが原因で起きた殺人事件を描いている。ここには「鈴木章」という名の「鈴木先生」との共通キャラも登場。他人にとっては「つまらないこと」としか受け取られないことでも、ある人にとっては許しがたいことであり、それを受け取った者がどう裁定していけばいいのか迫られる。その展開は、「鈴木先生」の「げりみそ」事件を彷彿とさせるものがある。

 あと個人的にすごく好きなのが「M」。「飛び女」といわれる女性をみんなで担いで、空中に投げ、飛ばした距離を競うという、異様なスポーツだかなんだかを描いている。これなんかは真剣なのかギャグなのか激しく困惑させられる。「蟲愛づる姫君」もいい。他人から見ると奇人にしか思えない蟲好きの貴族の娘と、彼女に興味を持った男の物語。どの作品を見ても、ユーモアを織り交ぜているものもあるけれども、やはり武富健治の本気はビシバシ伝わってくる作品ばかり。それだけに読むほうとしても覚悟がいるけれども、覚悟するに値する一冊といえる。

【収録作品】「屋根の上の魔女」「蛇を飼う女」「M」「J」「面食いショウの孤独」「贖罪」「蟲愛づる姫君」

【単行本】「山田参助の無駄な抵抗やめましょう」 山田参助 オークラ出版 B6 [bk1][Amzn]

 毛むくじゃらのムサい男たちが睦み合う様子を、愛情たっぷり、かつユーモラスに描くことではかねてから一部で定評のある山田参助の短編集。いや〜、これが出るってのはうれしいなあ。とくにうれしかったのが、超巨根演歌歌手・シブケンさんが、そのマラを使って無法な奴らを懲らしめていく「泣かせ屋」シリーズが収録されたこと。元は「さぶ」に掲載された作品で、自分が初めて読んだのは同人誌。そのオヤジボディや男顔を描く卓越した画力と、馬鹿馬鹿しすぎる内容にえらく感動&爆笑したものだった。

 この人の描く男は、昭和の任侠モノとかコメディ映画に出てきそうな「ええ顔」をした青年やおっさんが多く、独特のぽっちゃり感や間抜けさがうまーく表現されてて実に味わい深い。あと肉体のほうもゴツいんだけどまろやかさがあって、なんかこう日本のおのこって感じがすごくする。今風のイケメンとかではないけど、その分なんか憎めないかわいさがあるんですよね。

 ちんこ表現もいい。最近のエロ漫画のちんこ表現は、ギンギンにオッ立っていてツヤツヤとイキのいい物件が多いけど、山田参助はまだ勃起していない、やわこい物件を描くのが抜群にうまい。太った男の肉に埋もれたもよんちょとしたものが、ころころと鎮座している様子はなんとも愛らしいものがある。男と男がからむホモ漫画な作品ばかりだけれど、これはわりと内容的にサバサバしてるので、ノンケな人や女子でもきっと楽しめると思う。何よりお話作りに愛敬がある。素晴らしいです。


▼一般

【単行本】「日常」1巻 あらゐけいいち 角川書店 B6 [bk1][Amzn]

 最近少年エースで頭角を現しているギャグ漫画の新鋭。愉快な女学生さんたちの日常を描いた不条理系のギャグ。かわいい絵柄で、素っ頓狂なギャグをテンポ良く見せていく作風に独特の味があってなかなか面白い。まあギャグの質については合う合わないはあるだろうけど、なかなかいいセンスしてると思う。ツッコミがうるさすぎになることがないし、大胆に放り投げてくるギャグも、「よくわからんがとにかく良し!」という風情はある。まあこじんまりまとめたりキレイに落とすってな感じではないんだけど、絵柄のかわいさのおかげで安心できたりもするし。ギャグ漫画だし、独特のぶっとび感で攻めてくるタイプの作品なので、「ここがこう面白い」と指摘するのは難しかったりはするけど、とりあえず絵のかわいさ目当てにチャレンジしてみるのも一興ではないでしょうか。

【単行本】「かわいいあなた」 乙ひより 一迅社 A5 [bk1][Amzn]

 百合姫でなかなか良い百合漫画を描いている新鋭。柔らかくて暖かな気持ちの良い絵柄で、女の子から女の子への恋心を甘くかわいらしく描いていてとてもトキめく。これはけっこういいですよ。普段の生活の明るい感じや、ちょっとした触れ合いの中で揺れる想い、恋におちる瞬間のトキめきなどをたいへん達者に描いている。とても清潔感のある作風だし、かわいらしい女の子たちが幸せに結ばれる作品群は、読んでいて幸福感がある。失恋話もそれはそれで後味は悪くないし。きめ細やかで、適度に潤いもある作風。甘ったるさは濃厚だけれども、けしてベタベタすることがない力加減が小気味良いです。

【単行本】「夜空の王子と朝焼けの姫」 袴田めら 一迅社 A5 [bk1][Amzn]

 こちらも百合漫画の短編集。けっこういろいろ描いておりますなあ。ハッピーエンドだったり失恋だったり、コメディだったりピュアラブだったりいろいろなパターンがあるけれども、軽やかなかわいらしい絵柄のおかげもあっていずれもサクサク読んでいける。女の子同士の心情描写も、くどくはないんだけどきちんと描き出していて面白い。安定感があって、かわいい百合が読みたいという人なら楽しめる1冊に仕上がっている。

【単行本】「キスよりも早く」1巻 田中メカ 白泉社 新書判 [bk1][Amzn]

 「eensy-weensyモンスター」同様、LaLaで連載されているラブコメ。内容のほうはかなり甘ったるくてラブラブで、そこが楽しい作品。

 親御さんが死んでから、幼い弟を抱えて荒んだ日々を送っていたヒロイン・梶文乃16歳。そんな彼女を見かねた担任教師・尾白一馬は、二人を自分の家に引き取ると申し出るが、文乃は最初それに反発。「引き取るなら結婚する覚悟があるんかい」「よっしゃ籍入れちゃるわーっ」てな問答を経て、ドタバタのうちに教師&女生徒の一つ屋根の下、若夫婦ライフが繰り広げられていくのでした……といった物語。

 まあそんなこんなで一緒に暮らすようになっていくうちに、二人の距離が接近してラブラブ度が高まっていくのだけど、これがかなりこっぱずかしくてイイ。とくにどんどん文乃→先生のラブ度が高まっていくのに、先生は焦らして焦らして彼女に手は出さない。彼女たちを家に引き取る交換条件として、毎晩新妻コスプレをさせたりするけど、それでもエッチはおろかキスもしない。外ではツンツンしている文乃が、家では彼の気を引こうと頑張る様子がなんともこそばゆくてええ感じなのですな。あと文乃がかなり強気系な美人さんなんだけど、それが顔を真っ赤にして恥ずかしがってる様子がこれまた微笑ましい。見せ場シーンにおける、先生の歯の浮くような甘〜いセリフもなかなか。甘ったるいラブコメ好きはぜひ読むべし、と思います。

 あともう一本、巻末に収録されている読切「月とひまわり」もイイ。普段は無愛想な優等生タイプの真面目女子が、1か月限定でチャラい男子とつき合い始める。最初は義務的な感じでつき合っていた彼だが、一緒にいるうちに、パッと見では分かりにくい彼女のかわいさが分かってきてマジ惚れしてしまう。しかしやがて彼女には重大な疾患があることが分かり……といった感じで展開。起(彼氏彼女契約)→承(仲良し化)→転(病気発覚)→結(ハッピー・エンド)と、きっちり構成されていて読みやすい。またキャラがけっこうかわいいし、お話のほうもきれいにまとまっていて後味良好。良くできた短編だと思う。

【単行本】「トロイメライ」 島田虎之介 青林工藝舎 A5 [bk1][Amzn]

 カメルーンの奥地から切り出された木で作られた、1台のピアノをめぐる物語。そのピアノに対して呪いをかけた原住民の子孫、ピアノの修理を請け負ったピアノ職人の女性、本来は仏壇職人であるイラン人青年……。さまざまな人々が、そのピアノに導かれて、サッカーW杯の開催された2002年日本に集結する。

 島田虎之介といえば、バラバラに展開されていたかに思えるさまざまな人々の物語が、ページが進むにつれてどんどん1点に集約していって見事な絵巻として完成されていく、抜群の構成力が魅力。シンプルだけど味のある作画、画面構成も独特。よく「映画的」と評されるけど、確かに読み終わると「1本の作品を見た〜!」という深い満足感を得られる。

 まあ個人的な感想としては、島田虎之介の前2作「ラスト・ワルツ」「東京命日」のほうが、カタルシスは大きかったかなと思う。前2作のほうが、途中までの物語がバラバラで、それが思いもよらぬ形で収斂していくという快感があった。ただ本作も、計算された構成はやっぱり大したもんだし、お話の進行も小気味よい。技術レベルがスゴく高いし、何より読んでてキモチイイ1冊だと思う。

【単行本】「ゆうやみ特攻隊」1巻 押切蓮介 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 姉の仇である霊への恐怖心を克服するために、心霊探偵部に入部した少年・翔平。そして腕利きの霊能ハンターであるやより部長が、悪い霊たちをやっつけていく。普段はドタバタコメディ調で展開されるが、主人公・翔平の姉がらみの回はシリアスだったりもして、けっこう読ませるモノはある。これまではホラーギャグが多かったけど、たまにはストーリーものでシリアス路線を追求していくのもそれはそれでいいかもしれない。……というのはあくまで個人的な希望であって、本筋は今のところコメディベースで進みそうな感じではあるけれども、今後の展開がどうなるかはちょっと楽しみにしてます。

【単行本】「いちごの学校」 きづきあきら+サトウナンキ 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 アワーズプラスで連載された作品。在学中に関係を持ってしまって、できちゃった婚という形で学校を去った元教師・壱吾と教え子の少女・くるみ。結婚した二人が手探りながらも、生まれた子供を育てていく。

 このように書くと「困難は多いけど家族一緒なら幸せ」「ほのぼの新婚ライフ」ってな作品を想像されるかもしれないけど、単純にそういう路線に持っていかないのがいかにもこの作者らしいところ。「退職・結婚したからといって、教師が生徒に手を出したことが許されるのか」「責任を取ったから事足れりとしていいのか」「家庭に入らなければほかにもあったであろう、少女の将来の可能性を摘んでしまった責任は」……といった具合に元教師である主人公をどんどん追い込んでいく展開はけっこうハード。

 まあこんなふうに責められてはいるけど、主人公・壱吾も、別段そんなに悪い人ではない。少なくとも昨今の漫画でいえば、生徒と恋仲になる先生なんかよくいるし、エロ漫画レベルまで範囲を広げちゃうなら妊娠させるというのだって珍しい事例ではない。それを軽いノリやなあなあ感覚で片付けるでなく、愚直に悩んで自分にできることをやっていこうとしている壱吾は、まあいい人の部類に入るんではないかと思う(男視点での身勝手な意見に感じられてしまったらすみません)。それだけにその苦悩っぷりや苛まれっぷりがちょっとかわいそうだったりもして、むしろ萌えポイントにもなっちゃっているような気はする。

 お話のほうはこの1巻で終了。正直なところ、上記に示したような責任うんぬんの問題、「これでいいのか?」という部分については、語りきれてはいないと思う。でもまあ長くやったからといって、スッキリした答えが出る問題でもないし、これはこれでまとまってはいると思う。考えさせられるものを持った、興味深い作品ではあります。

【単行本】「トゥインクル☆トゥインクル」 こいずみまり 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 「夢の涯てまでも」「EVERYTHING BE ALL RIGHT」と、「トゥインクル☆トゥインクル」全4話を収録した単行本。

 メインとなっている「トゥインクル☆トゥインクル」はアワーズプラスで未完だったもの。大学に入ってヤリチンさんになってしまった主人公が、突然現れた幽霊少女、実は昔死んだ姉に後押しされ、自分の気持ちに気づいていくといった物語。「夢の涯てまでも」は「ジンクホワイト」のスピンオフ作品で、小泉真理名義で掲載されたもの。美大生である主人公女子が、自殺してしまった講師のことを追憶する。「EVERYTHING BE ALL RIGHT」は、久しぶりに再会した主人公少年と年上のいとこ少女が織り成す青春ストーリー。

 この中ではやっぱり4話ある「トゥインクル☆トゥインクル」が読みごたえがあるけど、気楽なようで薄ぼんやりした陰もある青春ストーリーに仕上がっている「夢の涯てまでも」「EVERYTHING BE ALL RIGHT」もしっとりした感触で、なかなか心惹かれるものがある。漫画として読みやすいのもいいです。てなわけで非4コマのこいずみまりも面白いなーと思います。

【単行本】「かぶりもんスター☆」 天野シロ 少年画報社 B6 [bk1][Amzn]

 幼なじみのおねえさんお紹介で、遊園地の着ぐるみに入る仕事を始めた主人公・永太朗。しかし彼の着てしまった着ぐるみがなぜか宇宙人と一体化しており、そのまま着ぐるみが脱げなくなってしまう。そして永太朗と宇宙人の奇妙な共同生活が始まるのであった……といったお話。まあ設定的にはちと奇抜ながら、遊園地の着ぐるみの中で一生懸命頑張る人達の青春ストーリーを爽やかに描いててまずまず楽しめる。絵柄のほうもこざっぱりしててわりとシャレた感じ。

【単行本】「ミミア姫」1巻 田中ユタカ 講談社 B6 [bk1][Amzn]

 精神を通じ合わせる力と、空を自由に飛べる羽を持った種族の中にあって、「神さまの子」として生まれてきた姫・ミミアの生を描いていく物語。彼女は種族の中でただ一人、力も羽も持たないが、それがゆえに他者が持たないものを備えている。父母や種族全体の愛情に包まれた彼女は、すくすくとまっすぐ育っていく。

 といったところまでが1巻のストーリー。今後はミミア姫の冒険とかも描かれていくことになるんでしょう。現段階ではまだお話はあまり動いていないが、田中ユタカらしく、作品に想いを込めて非常に丁寧に作って来ているなという印象は受ける。

 ただし、正直なところ少々ウェットすぎる感は否めない。ファンタジー世界を描く場合は、読者に世界のあらましをしっかり説明する段も必要だと思うのだが、それが十分でなく、物語が動き出していないうちから、情感の部分が先に迸ってしまったといった感じで、今のところもう一つノレないでいる。まあ本筋となる物語はこれからだし、面白くなるかどうかは、今後の展開しだいではあるんですが。

【単行本】「カボチャの冒険」 五十嵐大介 竹書房 A5 [bk1][Amzn]

 おそらく作者をそのままモデルにしているのであろう、山奥住まいの青年と、その飼い猫であるカボチャの生活を描いたねこ漫画。自然がいっぱいある環境でのびのび暮らすカボチャと、親バカな青年の様子が楽しく描かれていてとても微笑ましい。五十嵐大介は「リトル・フォレスト」でも実に美しく自然、および農作物などを描き出していたけど、それはこの作品でも同様。四季折々の風景と、カボチャの無邪気な様子、野生動物たちの姿を見ているとなんとものんびり癒されるものが。自分は犬派ではあるけど十分楽しめたんで、猫派な人はなおさらなのではないでしょうか。

【単行本】「革命家の午後」 松本次郎 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

 「革命家の午後」「革命家の午後2」「砂漠の魔女」「竹山君の日常」「雑兵敗想記」の5本を収録した短編集。独特のバサバサした触感の絵柄で、シュールだったり皮肉だったりする物語をそれぞれ展開。どの作品も、一見ラフなようでいてスタイリッシュでもある絵柄と、独特の節回しのストーリーがきっちりマッチしていて完成度は高い。まあサブカル的な匂いを感じて敬遠する人もいるかもしれないけど、読めばしっかり面白く、作者の才能のキラメキも感じさせてくれる本だと思う。

【単行本】「サムライうさぎ」1巻 福島鉄平 集英社 新書判 [bk1][Amzn]

 15歳とまだまだ若いけれども妻をめとった武士・宇田川伍助が、彼女のために、また自分の侍としての道を通すために、独立して剣術道場をやっていこうとするが……といった物語。まあぶっちゃけた話、第1話の出来が良くてそれを読み返すために買ったんだけど。

 第1話は上が言ったことには絶対服従の武家社会の理不尽さに悩む伍助が、楽しんで生きることを知る妻・志乃に蒙を啓かれて、奉公からドロップアウトするまでが描かれる。その語り口がなかなか気持ちイイ。主人公のモノローグはテンポ良くて小気味いいし、人情味のある物語や、元気とかわいげがある絵柄も好印象。何事にも一所懸命な伍助と、ちょっと頭は足りなめだけど天真爛漫な志乃のコンビも微笑ましい。

 ただ第1話がそれ単体ですごくまとまっている分、2話以降はもう一つ物足りない感は否めない。道場経営にあまり実がないし、明確な敵や目的があるわけでもなく、ストーリーの推進力は弱い。かといってバトル中心にするような話でもなし、そうなってしまったらガッカリな部分もあるし。好感が持てる作品だし、福島鉄平の才能にも期待したいところだが、ここからの転がし方は難しそうではある。


▼エロ漫画

【単行本】「水着彼女」 ぼっしぃ ワニマガジン A5 [Amzn]

 「最近のエロ漫画の新しい人はカラーがうまいなあ」というのは常々感じるところだけど、ぼっしぃもそのうちの一人。つやつやしていて、それでいてむっちり吸いつくような質感のお肌の描写が美しく、申し分なく達者。その魅力を十分に堪能できるよう、カラーも32Pとふんだんに用意されており、1000円+税とちと高目な単行本ながらもそれに見合うだけの満足感はある。

 お話のほうは、タイトルどおり水着エッチ系のネタがいくつかあるけど、まあそれに過度にこだわるではなしに、幅広くエロを展開。お話も基本的には、ちょっとイタズラっ気のきいた恋人たちのエッチがメイン。後味の悪い話とかレイプ系の話とかはないので初心者でも安心。何よりピチピチした女体を駆使したエロシーンは色っぽく、実用度十分。 ノーマルなセックスあり、野外プレイあり。パイズリやフェラシーンもねっとりエロっちい。乳サイズもパイズリ可能なサイズが基本ではあるけど、適度にちっちゃい乳のヒロインもおり、適度なバランスと見る。

 まあお話的に特徴のあるタイプの作家さんではなく、奇抜な部分はないけれど、その分汎用性は高い。「ピチピチ感あふれる健康的なエロスでがっつりヌイときたい」という人にはたいへん使い勝手のよろしい1冊なんではないかと思います。

【単行本】「とらぶる・すくらんぶる!」 巻田佳春 茜新社 A5 [Amzn]

 こちらはロリ系。といっても幼女ではなく、もう少し育った少女といった感じで、胸がおおむねつるぺた系。ほんのり膨らんでるといった感じ。ほの甘い味わいの絵柄は萌え度がとても高く、女の子たちもみんなかわいい。といった具合で、基本的には明るめで柔らかい絵柄ではあるんだけど、エロについてもけっこう使えるレベルにあるのが好印象。ビキビキに描き込むというタイプではないものの、ちんこはそれなりに良いフォルム。さらに女性器のほうも、つるんとしていながら肉感的で、きゅるきゅると吸い付いてくるよう。後味の良い甘酸っぱいストーリー作りなので安心して楽しめるし、キャラも問題なくカワイイ。少女ロリ好きな人ならきっちり使えるだろうし、華やがさも安定感も十分。達者です。


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