駕籠真太郎

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■作家名:駕籠真太郎(かご・しんたろう)
■作者Webページ:「印度で乱数
■オンライン書店で検索:bk1 / Amazon.co.jp

 駕籠真太郎は恐るべき作家である。その特徴としては、徹底的にクールでブラックなユーモア感覚が挙げられる。人間の肉体を破壊/改造したり、臓器で遊び倒すなどは朝飯前。アナーキーで悪夢のような世界を、奇想たっぷりに、飄々とこともなげに常人のはるかに及ばぬレベルで描き出す。この表現の、テンションの高さ、ヤバさ、イカレっぷりはハンパでない。ホンモノのみが持つ迫力をぷんぷんと漂わせている。ギャグの雰囲気としては、筒井康隆「乗越駅の刑罰」あたりに近い感触もある。残虐描写にしろギャグにしろ、テンションが上がりっぱなしで最後まで突っ走るカタルシスは、読者のエンドルフィンをドバドバ放出させる。

 ところでペンネームの読み方だが、「かご・しんたろう」が正しい。「凸凹ニンフォマニア」の表紙に「KAGOME SHINTARO」という表記があるが、これは当時の担当さんの間違いだったのだそうだ。


▼コミックスリスト


「奇人画報」 [bk1][Amzn]

「奇人画報」 ■出版社:太田出版
■シリーズ:F×COMICS
■ISBN:ISBN4-87233-845-6 C0979
■定価:1200円+税
■初版発行:2004/05/20
■判型:A5
■収録
「あつめもの」 (マンガ・エロティクスF 2002年VOL.15〜18、2003年VOL.19〜20)
「はらきり」 (マンガ・エロティクスF 2003年VOL.21)
「隔靴掻痒」 (マンガ・エロティクス 2003)
「大聖夜」 (マンガ・エロティクス 2002年夏)

 マンガ・エロティクスおよびエロティクスFで描いた「あつめもの」シリーズ全6話と、「はらきり」「隔靴掻痒」「大聖夜」を収録。

 この中ではやはり中心となっている「あつめもの」シリーズがムチャクチャ面白い。狂的なまでの蒐集癖を持った人たちの行動を描いていくというシリーズなのだが、集めるものがすごい。第1話に出てくる少女は、好きな人が触ったものはなんでも集めるという癖の持ち主。学校のチョークやペンなどから始まって、それがどんどんエスカレート。彼に近づいたが触った猫の生皮、その彼女の手や胸などの表皮などを引っぺがしてコレクションするなど止まるところを知らない。

 第2話では、自分のペニスを女性が咥えている顔の写真をコレクションしている男が登場。単純に咥えているだけではなく、咥えて嘔吐している姿やら、食べ物を口にいれた状態でのシーンも撮影。さらにはカブト虫の幼虫を突っ込んでみたり、犬、猫、魚に咥えさせてみたりとこれまたどんどん蒐集癖が進行。オチも気が利いている。第3話に出てくる変態SMプレイのカードゲームなんて着想もスゴイし、独自のブラックユーモアセンスが炸裂。「隔靴掻痒」も生理的にグッとくるお話。自分の皮膚の下を虫にはいまわらせるのを趣味としている女性のお話。読んでいるだけで身体中がむずがゆくなってくる。この奇想の冴えはやはり駕籠真太郎、素晴らしいです。

「殺殺草紙」 平和出版 [bk1][Amzn]

「殺殺草紙」 ■出版社:平和出版
■シリーズ:PEACE COMICS
■ISBN:ISBN4-86056-099-X C9979
■定価:1200円(本体1143円)
■初版発行:2004/05/20
■判型:A5

 面白い面白い。江戸時代を舞台に駕籠真太郎の奇想が次から次へと炸裂する特殊時代劇。東北一帯が記録的な大飢饉に見舞われた天明の世、天外藩という地方の小藩は特殊な政策により餓死被害を最小限に食い止めていた。その政策とはズバリ「人体納税」。それは例えば、元々は間引きされるはずだった新生児、肉体のうち労働に必要ない余った尻の肉などを納税させ、それを領民の食料として供給するというものだった。そのような政策を、狂ってしまった父に代わって取り仕切っていたのが姫である沙霧。彼女はだんだん行いをエスカレートさせていき、納税させた人体で作った内臓風呂で入浴したり、生きた人間の脳を開いて人体実験を行ったりロボトミー手術をしたり、領民を実際に使った超リアルな地獄テーマパークを作ったりとやりたい放題。さらに後半では、天外藩に使える毛を自由に操る毛根忍軍による怒涛の忍術が披露されていく。

 この作品では、さまざまな残虐描写が出てくるが、それをあくまでユーモアとして描ききる駕籠真太郎のクールなスタンスが凄い。そして人体を奇想天外な方法でいじくり回し、遊びまくる着想も強烈。とくに残虐なことを実にカラッと明るくエンジョイしまくる沙霧姫のキャラクターはグッド。やってることはムチャクチャなんだけど、とにかく楽しそうだから陰惨な感じにならない。そして後半の毛根忍軍がらみのお話も圧巻。自分の毛を忍法で自在に操り、他人の内側から毛をぞわぞわと生やしたり、人間の切断された四肢を自由に動く極太の毛根で代用させてみたり。山田風太郎的な忍法の数々と、駕籠真太郎ならではのギャグセンスが絶妙にマッチして、もうノリノリ。

 それらの奇想をテンポ良く、惜しげもなく大量に投入してくる贅沢さはまさに駕籠真太郎の真骨頂。1巻まるまる使った長編ストーリーとしてもしっかりまとめてきており、実に鮮やかだった。まあ人体いじりとか毛根描写はグロいところもあるんだけど、基本的にはギャグテイストなんで、その手の描写に格別弱いというわけでなければけっこう素直に楽しんで読めちゃうと思う。オススメ。
(2004/05/08)

「駅前浪漫奇行」 [bk1][Amzn]

「駅前浪漫奇行」 ■出版社:太田出版
■シリーズ:OHTA COMICS
■ISBN:ISBN4-87233-764-6 C0979
■本体価格:1300円
■初版発行:2003/07/11
■判型:A5
■収録
「駅前英国」 (コットンコミック 2000年10月号)
「駅前遠野」 (コットンコミック 2000年12月号)
「駅前独逸」 (コットンコミック 2002年7月号)
「駅前印度」 (コットンコミック 2001年9月号)
「駅前聖女」 (コットンコミック 2002年9月号)
「駅前共産」 (コットンコミック 2002年3月号)
「駅前韓国」 (ラブマニ 2003年4月号「韓国慕情」改題)
「駅前宇宙」 (コットンコミック 2001年4月号)
「駅前元禄」 (コットンコミック 2002年5月号)
「駅前未来」 (コットンコミック 2001年6月号)
「駅前出雲」 (コットンコミック 2003年1月号)

 この本はいまいちおもしろくないかなあ。「駅前」シリーズの一環として「踊る!クレムリン御殿」でやったように、世界各国をネタにしてドカドカとお話を転がしていく。その料理の仕方自体は面白いのだけど、思いついたことを次から次へと並べ立ててるという感じで、ネタの一つ一つは面白いけど全体として見た場合にあんまり印象に残らない。別に内臓を振り回したり人体改造したりしないというのが物足りないってわけではなく、ネタを元にした話の練り込みがちと駕籠真太郎にしては甘いのではないかなあとか思った。わりと淡々と進んじゃってる印象。
(2003/06/27)

「凸凹ニンフォマニア」  [bk1][Amzn]

旧版情報
「凸凹ニンフォマニア」 ■出版社:東京三世社
■シリーズ:DC COMICS
■ISBN:ISBN4-88570-922-9 C9979
■本体価格:777円
■初版発行:1995/06/30
■判型:A5
■収録
A感覚の帰還
極楽打上花火
公共福祉のためなら全員集合!!
極楽突然変異質
凸凹色情狂の巻
極楽昆虫天国
動力工場
動力工場の休暇
動力工場の交通大戦争

 駕籠真太郎の特徴はなんといっても、底意地の悪い乾いた視点だ。強烈な悪意に満ちたその作風は読者をものすごく選ぶ。よって一般受けすることも絶対にない。今までのところ、この「凸凹ニンフォマニア」と下で紹介している「人間以上」しか単行本は出ていないが、この2冊にしたって「よく出したな」って感じだ。

 駕籠真太郎の作品を語るとき、どうしても避けて通れない小説がある。沼正三「家畜人ヤプー」だ。「家畜人ヤプー」は、日本民族(ヤプー)の身体に改造を施し、トイレやイス、机、ベッドなど身の回りのあらゆる道具の役割をさせ、文明の基盤としている「イース」という世界を描いた作品だ。人間の尊厳をとことんまで踏みにじりそこに快楽を見いだす「家畜人ヤプー」の世界を漫画で具現化したもの、というと駕籠真太郎の作品世界もある程度理解していただけるのではないかと思う。

 その最たるものが一連の「動力工場」シリーズだ。日常の中でまったく当たり前のように人間(の形をしたもの)が、車の車輪をしたり、掃除機をしたり、湯沸器をしたりしている。人間、というよりも人体を完全にモノ扱いして、とことんまで遊びまくったという感じの作風はほかの漫画にはない。

 それを強調するでなく、冷めた目で無感動に描ききっている。淡々と描かれたグロテスクな描写が、乾いた描線に非常にマッチしている。「成年コミック」と表紙には書かれているが、実用向きかというと「非常に特殊な人」以外は使えないだろう。「残酷」というのともちょっと違う。気の弱い人だとものすごく気持ち悪く感じるだろう。ヤワな人は読み通すのは厳しいと思う。逆に、「家畜人ヤプー」を読んで「面白い」と感じた人、そして多少グロテスクでも大丈夫っていうかそういうもののほうが好きという人には文句なくオススメ。好き嫌いはともかくスゴイ漫画であることは間違いない。
(1998/02/17)

新版情報
「凸凹ニンフォマニア」新版 ■出版社:久保書店
■シリーズ:リターンフェスティバル
■ISBN:ISBN4-7659-0575-6 C0979
■本体価格:1200
■初版発行:2003/07/25
■判型:A5

 これまで入手難だった「人間以上」に続く駕籠真太郎の第二作品集が待望の復刊。個人的にこの単行本はすごく好きで、駕籠真太郎に本格的に入れ込んだのはこの本を読んでからだった。作者自身が「人間を道具として扱っていることに疑問を抱かない人間の気違いぶり」を描くという方向性を確立したと語る「動力工場」シリーズは、今見てもその奇想の連続に驚かされる。ここらへんを読んだとき、「エロ漫画でできる範囲」というものがすごく広がったような気がした。人体の内部から排泄物をテレポートさせることで発展した未来社会を描いた「A感覚の帰還」なんかも、その着想だけでなくそこからの展開がトリッキーで非常にうまい。体内虫うじゃうじゃSEXを描いた「極楽昆虫天国」とか、よくこういうネタを飄々とやっちゃうもんだよなあと感心させられる。

 今回の復刻では単行本初収録の「左側に気をつけろ」「ある英雄の死」も追加で掲載された。というわけで旧版を持っている人も買うしかないでしょう、という感じの本になっている。あ〜やっぱりこの本は好きだな。
(2003/06/24)

「健康の設計」 東京三世社 A5 [bk1][Amzn]

「健康の設計」 ■ISBN:ISBN4-8126-0753-1
■判型:A5
■価格:1200円(本体1143円)
■初版発行:2003/04/30
■収録作品
「夜と霧」「夜と霧の間」「快楽の断面的横滑り」「絶望的哀しみの甘き報せ」「午後の反芻」「喜劇極東怪異譚」「三級片宿命之恋」「喜劇駅前虐殺」「歌う狸御殿」

 最近の駕籠真太郎は小粋ではあるが、ちょっと刺激については以前より抑えめな作品が多くなってきているように思うのだが、この本は昔の作品が多めなので不穏なギャグがバリバリだ。とくに好きなのが「凸凹ニンフォマニア」に収録されていた「動力工場」シリーズに通じるところのある「健康の設計」。人体の一部を利用した機械を利用した日常生活という、「家畜人ヤプー」的なネタは今見てもやはりクールで面白い。あとレーザー砲によって、感覚自体はつながったまま身体を左右に真っ二つにされてしまった女性が繰り広げる、ブラックなギャグ的状況を描いた「快楽の断面的横滑り」なんかは奇想のヒネり具合、事態のエスカレートさせ方が非常にいい。この時期の駕籠真太郎は人体断面図ネタが多いけれど、やっぱり基本はあくまでギャグ。なんでもかんでも笑い倒してしまえという姿勢が頼もしい。

「踊る!クレムリン御殿」 駕籠真太郎 平和出版 A5 [bk1][Amzn]

「踊る!クレムリン御殿」 ■ISBN:ISBN4-86050-040-X
■判型:A5
■価格:1300円(本体1238円)
■初版発行:2003/03/10

 このところ駕籠真太郎がよく描いていた、ソ連ネタをパロディした作品を集めた単行本。ゴルバチョフやフルシチョフ、ブレジネフだの、スターリンだのがわんさか登場してドタバタギャグを繰り返す。ソ連では平等を実現するために美男子は顔を醜男に整形するだの、チェルノブイリの苦しみをみんなで共有するために核兵器を使ってみんなケロイド〜とか、ロシアの人が読んだら「けしからんゾフ。ヤーパンに謝罪と賠償を要求するコフ。粛正するポフ〜」とかいわれそうなネタを満載。一つのネタをどんどん拡大して転がして、ヤバいこと描いているのにあくまでも軽妙なテンポでお話が進んでいくあたりは駕籠真太郎らしい。

 と、書いたけど、正直駕籠真太郎の本としては面白くない部類だと思う。ヤバいことはヤバいのだが、なんか全般にきれいにまとまっちゃってると感じてしまった。現実が元にあるからその分歯止めがかかっちゃったのかなあ。やはり駕籠真太郎作品には、もっともっと刺激が欲しい。
(2003/02/08)

▼収録作品
「社会主義ってナニ?」
「愛はツンドラの彼方に」
「赤い旗の星の下に」
「暴れん坊閣下」
「コサックとペレストロイカと私」
「滅びゆくソ連」
「緊張の夏ソ連の夏」
「ワルシャワの歌が聞こえる」
「嵐を呼ぶ!モーレツソビエトランドの逆襲」
「自転車に乗ってゆこう」
「それ行け!ゴルビーズ/激闘プロ野球編」
「ボルシチファイト」

「人間以上」 [Amzn:新装版

旧版情報
「人間以上」 出版社:久保書店 シリーズ:ワールドコミックススペシャル
ISBN:ISBN4-7659-0286-2 C0079 本体価格:874円
初版発行:1990/11/10 判型:A5
▼収録作品
「日本昔話全集」「人間以上」「人間以上II」「人間以上III」「GODZILLA」「RETURN OF THE GODZILLA」「三大怪獣地球最大の決戦」「オール怪獣大進撃」「異郷」「反乱」

 駕籠真太郎の初単行本。乾き切った無機的な感じさえする「凸凹ニンフォマニア」と違い、こちらはストレートに残虐。俺のオススメは「凸凹ニンフォマニア」だが、こちらも参考までに紹介しておく。

 村に降りてきた女神を村人がよってたかって凌辱する「反乱」なんかすさまじい。女神の腹を切り裂いて、はらわたを引きずり出しそれで縄跳びをしてみたり、心臓に尿を注ぎ込んでみたり、あばらを露出させて木琴代わりにしてみたり、首でサッカーをしたりと吐き気がしそうなほどの描写が続く。このころからすでに人体をモノ扱いするという性向が見えていたわけだ。

 そしてさらにスゴイのが「人間以上」シリーズ。超能力バトルものなのだが、生物の身体の形状を変容させる超能力を使って戦う。敵の「脂肪増殖」で百貫デブにされた主人公が「ブトウ糖急速燃焼」で急激にやせて対抗し、逆に「細胞増殖一極集中」で相手の玉袋を異常にデカくして(身体より大きいくらい)身動きできないようにする。また、「部分転送」で自分の胃の内容物を敵の口の中に一気に転送し、最後は「部分転送移植 生殖器全員集合」で街中の人間のちんちんを敵の身体中に生やし一斉に射精させることで相手の精気を枯れさせるといった具合。

 巻頭4色カラーの「日本昔話全集」もかなりグロテスク。「凸凹ニンフォマニア」よりも直接的なので、ストレートなグロテスクさを求める人はどうぞって感じだ。
(1998/02/17)

新装版情報
「人間以上」新装版 出版社:久保書店 シリーズ:リターンフェスティバル
ISBN:ISBN4-7659-0574-8 本体価格:1200円+税
初版発行:2002/10/25 判型:A5

 長らく絶版になってて入手困難だった駕籠真太郎の初単行本「人間以上」が、久保書店の「リターンフェスティバル」シリーズの一環として12年ぶりに復刻。今回は旧版では未収録だった「脳下垂体の機会論的世界観に関する一考察」を初収録。
(2002/10/14)

「大葬儀」 太田出版 A5 [bk1][Amzn]

「大葬儀」 ■ISBN:ISBN4-87233-673-9 C0979
■判型:A5
■価格:1234円+税
■初版発行:2002/07/04

 マンガ・エロティクスとエロティクスFに掲載された短編を収録した作品集。大きく分けて前半が「大葬儀」から始まる「大××」シリーズ全5話で、後半が「六識転想アタラクシア」に出てきた紺野さんや遠目塚先生を主役にしたフェティッシュな読切となっている。どちらかといえば後半のほうが、刺激が強くて個人的には面白く感じた。「紺野しぐれの幸福なる日々」はイジメられっ娘だった紺野さんに彼氏ができたと思ったらそやつが好きな人に自分の身体の一部を食わせようとする変態だったり、「遠目塚先生の優雅な楽しみ」の遠目塚先生は自分の身体を蚊に食わせたり毛じらみをたからせたりしてその痒みを楽しむという奇矯な趣味を持っていたり。どちらも身体感覚にダイレクトに訴えかけてくる。最近の駕籠真太郎はわりとライトな感覚で読める作品が増えてきてる印象があるんだけど、個人的にはこういう肉体的なネタのほうがより味付けが濃くて好みだ。

 「大××」シリーズはクールな作品群。一話一ネタという感じでテーマを絞り、そこからお話を転がしていくというパターン。その中では「大酔狂」がいい。地上何百階もある団地で、すべての部屋の旦那さんが間違えて1階下の部屋に帰ってきちゃって自分の部屋とまったく同じように行動しちゃってトラブルを起こすという展開。延々と同じパターンを繰り返しつつ、少しずつズレ方を大きくしていってとんでもない事態にしていくという構成が面白い。表題作の「大葬儀」は、葬儀を巡って死体マニアと死体マニアマニアと未亡人マニアと未亡人マニアマニアがどんどん増殖していくというお話。マス目のごとく区切られた画一的な町並み、それからページ6分割ベースの画一的なコマ割りなんかも、どんどんコピーが増えていく……というイメージに繋がってて効果的。「大××」シリーズは全体的に、ネタを料理し盛りつける腕前に作者の頭の良さを感じさせる。

 単行本全体を通してみると、駕籠真太郎はやっぱりギャグの人だなあと思う。グロだったりブラックだったりするけど、基本は旺盛な遊び心に支えられている。「こういうネタを使ってこういうふうに遊んじゃうんだ、すげーなー」という感じでいつも読んでいる。
(2002/06/24)

▼収録作品…… ( )内初出
「大葬儀」(マンガ・エロティクス vol.1)
「大蒐集」(マンガ・エロティクス vol.2)
「大試練」(マンガ・エロティクス vol.3)
「大終末」(マンガ・エロティクス vol.4)
「大酔狂」(マンガ・エロティクス 2000年春号)
「紺野しぐれの幸福なる日々」(マンガ・エロティクスF 2001年 vol.11)
「遠目塚先生の優雅な愉しみ」(マンガ・エロティクスF 2001年 vol.12)
「西川ちえりと愉快な仲間」(マンガ・エロティクスF 2001年 vol.13)
「DISC」(マンガ・エロティクス 2001年冬号)

「超伝脳パラタクシス」 [bk1][Amzn]

「超伝脳パラタクシス」 ■出版社:集英社
■ISBN:ISBN4-08-782672-4 C0979
■判型:A5
■価格:1200円+税
■初版発行:2002/02/25

 待ちに待ってた単行本がついに出た!

 この単行本は、ヤングジャンプの増刊・漫革においてごくまれに掲載されていたシリーズをまとめた作品集である。サイバーな未来都市に住む人類が、一万年ほど昔にその星の支配的存在であった「巨人」からDNAを抽出、改造を施して機械「サードラ」として使役している世界が舞台。人々はなくてはならないモノとして「サードラ」を操っているが、サードラは元来人間であるがゆえに、ときに思わぬ出来事が起こる。

 一話ごとの掲載スパンが長いせいもあって各話はそれぞれ独立しているが、それぞれを貫く世界設定は共通している。そしてそのスケールの大きさ、アイデアの妙、世界を描く手つきのクールさ、緻密さは、改めて読んでもびっくりさせられる。巨大人類を改造して使用するというネタは「輝け!大東亜共栄圏」などでも使用されているけれども、こちらは一般誌連載であるだけに下ネタ系の遊びがなく、より本格的に映る(まあギャグのほうが本来の味とはいえるかもしれないが)。何より世界そのものを作り上げる手腕にシビれる。駕籠真太郎のテイストに慣れていない人にとってはグロと映ることもあろうけれども、SFとしてもこれだけしっかり作られている作品ってなかなかないんじゃないような気がする。読みごたえはバッチリだ。駕籠真太郎という作家の懐の深さを改めて思い知らされる。素直にスゴい。
(2002/02/21)

「六識転想アタラクシア」 [bk1][Amzn]

「六識転想アタラクシア」 ■出版社:太田出版
■ISBN:ISBN4-87233-641-3 C0979
■判型:A5
■価格:1300円+税
■初版発行:2001/11/06
■初出:マンガ・エフ 2000年8月号〜2001年2月号、マンガ・エロティクスF 2001年Vol.1〜6

 マンガ・エロティクスFで連載された長編作品。解脱することによって到達できる「想界」という人間の意識宇宙みたいな世界と、現世を行き来することによって繰り広げられる物語。駕籠真太郎としては珍しい続きモノの長編。「パラノイアストリート」とかも連載だけどあちらは基本的に一話完結。こちらは完全に続き物で、各話ごとのヒキも強い。で、これがまとめて読むとすごくまとまりもいいし読みごたえがあってとても面白かった。

 主人公は普段学校ではイジメられている紺野さんという少女。彼女は体に悪そうな加工食品の毒性とかによって、本来は修行を重ねないといけない想界にアクセスする力を持っている。想界はまるで宇宙のような空間でそこにはいろいろな人間の想念が、物質として形をとってぷかぷか浮かんでいるのだが、紺野さんらそこにアクセスできる者はそれを自由にひっかき回したり混ぜ合わしたりすることができてしまう。その世界から紺野さんは自分をイジメた人の、封印されていたイヤな記憶を掘り起こしたりして復讐したりする。そのうち想界にも、他人に別人格を植えつけ、それを盆栽のように育てる者が現れたりして、紺野さん自身もそれによって操られたりするようになる。

 まずこの作品では想念世界と現実世界のリンクの仕方がとても興味深く面白い。実際に想念が別の世界で物質として存在しているという発想、そしてそういった事象を描き出していくアプローチは、ひどくSF的である。あと想念世界の姿もカッコイイ。紺野さんたちはそちらには、まるで映画「TRON」の登場人物のような姿形で出現する。想念の形も実にメカメカしくて、異様にサイバーでクール。駕籠真太郎の作画もすごくスタイリッシュになったなあと感じる。そして物語のつながりも良くて、めくるめく展開に目が回しながら最初っから最後まで一気呵成にガーッと読めた。というわけで駕籠真太郎は長編もかなりイケるということが分かったので、そのうちまた新作に挑戦していただきたい。
(2001/10/28)

「パラノイアストリート」全3巻   ……2002/03/27 : 3巻データ追加

「パラノイアストリート」 ■出版社:メディアファクトリー
■判型:A5

 駕籠真太郎が一般青年誌に進出。しかも月刊連載である。コミックフラッパー連載のこの作品は、住人の2人に1人が探偵であるところの町に嫌気が差し、放浪の旅に出ることにした「渡り鳥探偵」黒田が、助手とともに各地に赴いては事件に巻き込まれるというお話である。といっても駕籠真太郎作品だけに、普通の探偵モノに終始するわけがない。黒田の赴く地は、すべてのものを計測器の測定結果によって決めるところだったり、住民がすべて逆さになって生活しているところだったり、なんでもかんでも接着する町だったり。そのように町ごとに一つ、ガシッとルールが定められていて、それをひねくりねじくりして異様なシチュエーションを作り上げ、遊び倒している。それにしても、よくもまあこういうネタが次から次へと出てくるものだ。

 この作品において特徴的なのが、駕籠真太郎としては珍しく、黒田という、読者視点に立ったツッコミ役がいるということだ。これまでの駕籠作品の場合、ツッコミ不在でえんえんボケまくるというのが多かった。あえてツッコミを用意せずついて来れるものだけついて来いというスタイルもカッコイイのだが、今回は一般青年誌連載ということも考慮して、あえて分かりやすい構造とした模様だ。臓物をぶちまけるとかのグロ描写もこの作品についてはさほどないので、そういうのは苦手という人にも読みやすくなっている。というわけで今までの作品と比べても間口が広く、駕籠真太郎入門用にちょうどいい作品となっている。といっても内容が浅くなるなんてことはなく、軽妙なギャグに関してはこの作品でも切れ味抜群でとても滑稽で面白い。異常なルールによって縛られた世界を用意し、そのルールを利用してさまざまなギャグを生み出していくという意味において、構造的には「駅前シリーズ」によく似ているともいえる。
(2000/11/26)

ISBN初版年月日価格購入
1ISBN4-88991-768-3 C99792000/12/01900円+税[bk1][Amzn]
2ISBN4-88991-788-8 C99792001/08/01900円+税[bk1][Amzn]
3ISBN4-8401-0438-7 C99792002/03/31900円+税[bk1][Amzn]

「喜劇駅前花嫁」  [bk1][Amzn]

「喜劇駅前花嫁」 ■出版社:太田出版
■ISBN:ISBN4-87233-536-8 C0979
■価格:1300円+税
■初版発行:2000/12/31
■判型:A5
■収録 ……( )内初出
「駅前花嫁」 (コットンコミック 1998年5月号)
「駅前固定」 (コットンコミック 1999年2月号)
「駅前抽斗」 (コットンコミック 1998年7月号)
「駅前切断」 (コットンコミック 1998年8月号)
「駅前配管」 (コットンコミック 1998年9月号)
「駅前発掘」 (コットンコミック 1999年9月号)
「駅前防火」 (コットンコミック 1999年3月号)
「駅前圧縮」 (コットンコミック 2000年6月号)
「駅前反射」 (コットンコミック 2000年8月号)
「駅前迷路」 (コットンコミック 2000年5月号)
「駅前格子」 (コットンコミック 2000年1月号)
「駅前粒子」 (コットンコミック 2000年3月号)
「特別花嫁4コマ漫画」 (描き下ろし)
「特別花嫁読切漫画」 (描き下ろし)
「特別付録 結婚とは」「よい子の花嫁情報局」

「喜劇駅前虐殺」に続く、駅前シリーズ第2弾。このシリーズは、コットンコミックで長年連載されているものだが(現在は隔月ペースになっている)、コンビニで時折見かけることもあるエロ漫画雑誌ながら比較的自由にやらせてもらえるフィールドであるらしく、駕籠真太郎らしさが最も良く現れているといえるかもしれない。明らかに尋常でないルールによって律せられている世界を舞台に、そのルールをひねり回して常人では思いつかないような奇想を盛り込み、グロテスクだけどユーモラスな描写を端々に配置しながらギャグにするという、まさに「駕籠真太郎」節とでもいうべきものがいかんなく発揮されている。掲載誌が自由な雰囲気であるだけに、駕籠真太郎も実にのびのびと描いているな〜という印象を受ける。

 実際読んでみると、わりと近作が多いだけあって安定感もあるし、しかもヒネリも絶妙に利いていて本当に面白い作品が揃っている。ショックを受けたときに「〜t」と書いた巨大な分銅が落ちてくる漫画的表現が現実のものとして具現化した世界(「駅前圧縮」)、人間も車も地面に打ちつけられていて固定されている世界(「駅前固定」)、町が全部迷路になっていてさらに人間の描線も全部迷路になってしまう「迷路病」が蔓延している世界(「駅前迷路」)などなど、選んだモチーフをとことん料理し尽くしている。「パラノイアストリート」のようなツッコミ役はなしで、不条理世界がごく当たり前のものとして展開されている。説明はいっさいなしだ。

 それからこの作品集収録のいくつかの作品では、ページを正方形できっちり6分割したコマ割りを全ページでずーっと続けるという手法も用いられている。決まりきった枠の中でいかにヘンなことをやるか試しているかのようだが、コマの大きさで強弱がつけられないこの形式なのに、きちんとテンポ良く盛り上がりも作ってお話を構築できるというのは、やっぱり相当な技量の持ち主なのだなあと思う。
(2000/12/23)

「アイコ十六歳」  [bk1][Amzn]

「アイコ十六歳」 ■出版社:青林堂
■ISBN:ISBN4-7926-0328-5 C0979
■価格:1300円+税
■初版発行:2000/12/20
■判型:A5
収録 ……( )内初出
「下町の太陽アイコ十六歳」 (ガロ 2000年7月号)
「アイコふたたび」 (ガロ 2000年9月号)
「花咲ける純情」 (フラミンゴ 1999年6月号)
「わが恋せし乙女」 (フラミンゴ 1999年8月号)
「輝ける青春の光」 (フラミンゴ 1999年10月号)
「喜びも悲しみも幾歳月」 (フラミンゴ 1999年12月号)
「わが青春に悔いなし」 (フラミンゴ 2000年2月号)
「東京暮色」 (フラミンゴ 2000年5月号)
「名もなく貧しく美しく」 (フラミンゴ 2000年8月号)
「夢で逢いましょう」 (フラミンゴ 2000年10月号)
「最前線」 (フラミンゴ 1998年10月号)
「愛子双六」 (描き下ろし)
「スカトロマンガ家のための技法入門」 (描き下ろし)
「スカトロマンガ家のためのポーズ集」 (描き下ろし)

 なんか表紙を見て、「最近駕籠真太郎の描く女の子ってずいぶん愛らしくなっているな〜」と思った。でも内容はそれとは裏腹にパンチがききまくっている。主な掲載誌が「ボンデージ&ディシプリンコミック」コミックフラミンゴであることからも分かるとおり、スカトロネタばりばり。

 基本的に「最前線」を除いて主人公はみな女学生のアイコで、軍国日本的世界が舞台。なのだがそりゃもう駕籠真太郎なんで当然のことながら普通の軍国モノになるはずなんかなくて。このアイコさん、最初(「花咲ける純情」時点)は多少普通な女学生さんだったのだけど、肛門や性器が異次元につながっていて、そこの手をつっこんで異次元のアイコさんを引っ張り出してきたりするもんだから、終盤では分身(というかなんというか)などなどなんでもあり。善のアイコと悪のアイコが血で血を洗うアイコのアイコによるアイコのための戦争が起きたり、731部隊の実験材料となってたり、食用便生産のため畑で栽培されてたりと、多方面で大活躍。んでもって、アイコの種類、料理法も多種多様。とくに「わが恋せし乙女」は愛子のバリエーションが山のように登場し、「よくこんなにいろいろ出してくるよな」と感心してしまう。最初は人間っぽいけど、だんだんそれを逸脱していって、「アイコ」という別種の女学生的異生物的な扱いとなっていく。 アイコという一つの個体をモチーフに、どんどん奇想を付け加えていって邪進化させていったという感じか。

 全体としてはわりと近作ってこともありクオリティも揃っている。こういったマッドなギャグを面白いと思う人にとっては、コンスタントで安心して心ゆくまで楽しめる1冊である。とりあえず表紙にだまされて買うと、耐性のない人はつらいかもしれないけど、まあそれで新しい世界に目覚めてみるのもまた良しかと。
(2000/12/21)

「万事快調」  [bk1]

「万事快調」 ■出版社:B.S.P(美術出版社)
■ISBN:ISBN4-568-73012-0 C3079
■価格:1300円+税
■初版発行:2000/03/25
■判型:A5
■収録
「動力戦線」
「動力愚連隊」
「動力計画」
「動力最終作戦」
「超動力時空転移」
「超動力宇宙船来襲」
「万事快調」
「万事良好」
「万事太平」
「怪談生娘吸ケツ鬼」
「筋の真心」
「恋愛準決勝戦」
「びっくり黙示録」
「腰抜け新種誕生」
解説〜「万事快調の基礎知識」
初出:東京三世社コットンコミック 1995年7〜8月号、1996年1、3、5〜6、8、10月号、1997年1、3〜5、7、12月号

 ……お見事。というほかないくらいの圧倒的な世界を創り出している。この単行本に収録の作品はけっこう古めなものが多いが、その前衛性、奇想の数々は今読んでみても恐ろしく高いレベルにある。巻頭の「動力戦線」〜「動力最終作戦」までの4話は、人体を兵器として肛門から弾丸を射出するおなじみのパターン。肉体兵器も、タダの機械であるわけで、兵士たちはまったく意識することなく道具として使っている。しかし、そこから発射される弾丸はひょろひょろ地に落ちるだけ。戦場の兵士たちは、それがまるで命中したかのように身体を自ら傷つけたり爆発させたりして戦場を演出。なんでそんな不条理なことをしなくちゃならんのか、説明はもちろんまったくなし。これほどまでにシュールな戦場風景を描く人は、ちょっとほかに類を見ない。

 さらに短編がどんどん続いていくわけだが、これがまた見事。10cm程度の壁を挟んで同時進行するパラレルワールドを一つのコマの中で描き、さらにそのパラレルワールドの数をどんどんどんどん重層的に増やしていく「万事〜」シリーズなどは、話が進むにしたがってどんどん展開が煩雑になり、頭の中がぐちゃぐちゃにひっかき回される。よくこれだけこんがらがった構成を、破綻なく、ブラックジョークまみれに作り上げていけるものだとほとほと感心する。もちろん駕籠真太郎らしい、冷笑をもって人をバッタバタ殺していったり、人体をおもちゃにする悪趣味さは健在だ。
 本当はもっともっと詳しく紹介したいところだが、そんな野暮はいたしますまい。こりゃもう読んでみろというほかないでしょ。悪趣味さというハードルさえ乗り越えられれば、そこにはめくるめく実験の数々と、それを生かしきった最上級のブラックジョークが待っている。駕籠真太郎は、物語の枠組みを周到に作り出し、それを自ら軽々とねじ曲げひねり、ときには壊してさえしまう。それでもその過程、成果が奇妙な美しさを呈してしまう。駕籠真太郎は、読者の脳髄をわしづかみにしてぶりぶりぶん回す。翻弄する。とても楽しそうに。

 ああ、まったく素晴らしいったらない。
(2000/03/23)

「喜劇 駅前虐殺」  [bk1][Amzn]

「喜劇 駅前虐殺」 ■出版社:太田出版
■シリーズ:OHTA COMICS
■ISBN:ISBN4-87233-485-X C0979
■価格:1300円+税
■初版発行:1999/11/03
■判型:A5
■収録
「駅前安打」
「駅前五輪」
「駅前郵便」
「駅前当確」
「駅前予報」
「駅前漫才」
「駅前発条」
「駅前梱包」
「駅前穿孔」
「駅前吸引」
「駅前爆発」
「駅前穴掘」
「駅前辞典」

 コットンコミックに連載されているシリーズである。なかなか単行本化されなかった作品群だが、こうしてまとまって世に出たというのは非常に喜ばしい。1999年は、すでに駕籠真太郎の単行本が2冊。さすが1999年。

 作品のサブタイトルは常に「駅前××」。「××」の部分のテーマに沿ったブラックユーモアが毎回展開するという形。例えば「駅前五輪」では、尻の穴に聖火台を突き刺して全裸、四つん這いで町を疾走する聖火ランナーを目指す母娘の姿が描かれる。その脇で目隠しされて体操危惧で八つ裂きにされている新体操選手、槍投げや砲丸の的になっている人々、水をホースで口に注ぎ込まれ呼吸できない水泳着の選手たち……といった悪夢のような世界が淡々と展開される。なんでそんな世界になっているのかなどといった説明は一切なく。

 この「駅前」シリーズの場合、お話によって当たり外れが激しい。残酷描写とブラックなギャグがビシッとハマったものは非常にイカしているが、滑ることもときにある。「輝け!大東亜共栄圏」と比べると、若干大人しめ。全体に、たいへんに非人道的でアナーキーな漫談といった趣。連載は現在も続いているので、これからも続刊が出ることを期待したい。
(1999/10/26)

「輝け!大東亜共栄圏」  [bk1][Amzn]

「輝け!大東亜共栄圏」 ■出版社:太田出版
■シリーズ:OHTA COMICS
■ISBN:ISBN4-87233-462-0 C0979
■価格:1300円+税
■初版発行:1999/06/22
■判型:A5
■収録
「フィリピン大攻防戦」
「陸軍中野学校」
「戦火の果て」
「営倉」
「日本戦争戦後秘話」
「人間魚雷回天」
「満州国最後の日」
「還ってきた男」
「また逢う日まで」(原題「進め陸戦部隊」)
描き下ろし……5〜12ページ、151〜154ページ

 実に4年ぶりに駕籠真太郎の新刊が発売された。この単行本に収録された作品は、SM系の出版物で名高い三和出版発行の月刊漫画誌「コミックフラミンゴ」1997年12月号から1999年4月号まで隔月連載されたものだ。駕籠真太郎の作品がなかなか単行本にならないのは、ひとえに内容があまりにも特殊すぎるからであろう。SM、スカトロなどなど、真性変態系の漫画の作品でも平気で出す三和出版でさえ出さなかったほどに。もちろん部数があまり望めないという理由もあるだろうが、それもまた内容の特殊さゆえといえるかもしれない。

 さてこの単行本の内容だが、収録作品のタイトルを見れば分かるとおり、太平洋戦争を元ネタとして扱っている。では戦記モノであるかというと、まあそうだ。鬼畜米英どもとの闘いに国民たちが駆り出され前線に送られていく。しかし、その戦闘風景は甚だ異様である。肉体改造により身長10メートルほどにまで巨大化させられた婦女子が、その肛門から糞便を射出することにより敵に砲撃を仕掛けるのである。それらは兵器であるだけに、それ相応の荒っぽい扱いを受けるし、戦場で内臓をまき散らして大破することもしばしば。

 太平洋戦争の戦中は日本が、史上最も狂騒的になっていた時代といっていいだろう。駕籠真太郎はその狂乱に対する反省を元に寓意に満ちた風刺を行っている……わけではたぶんない。日本中が大和魂によって支配され暴走していた時代の狂気を面白がり、そして独自のシニカルな世界観にハメこみ、いじくり回し拡大しブラックな笑いを突きつけてくる。そのアナーキーでシニカルで、メチャクチャにクールな作風には圧倒されるばかり。人体はいとも簡単に破裂したり糞尿まみれになったりするが、その画面から想像される駕籠真太郎のなんと楽しそうなことか。

 人体改造は目的などではない。前提である。「人間的」などといった甘っちょろい形容は思いつきさえしない。あふれる奇想、視点、そしてアレンジ。コミックフラミンゴなどによく見られる、「ごく普通の」変態系の作品と比べても一線どころか二線も三線も画している。常人の発想とは、はるか別の次元を行く。あとがきによれば、こういった描写も「作者の頭の中ではノンフィクション」であるらしい。いやはや、なんとも絶句するほかない。

 商業誌掲載作品でもこんな駕籠真太郎なのに、恐ろしいことに同人誌収録作品はこれに輪をかけてアナーキーなのである。コミケに「印度で乱数」という名前でサークル参加しているようなので、さらにすごい駕籠真太郎的世界に手を出したい人は要チェックである。
(1999/06/21)



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