「若い山賊」 吉田戦車

「若い山賊」

全1巻 双葉社

 96年に発売された比較的新しい単行本だが、わりと初期のころの作品、具体的には「鋼の人」「くすぐり様」あたりに掲載されたものにも似たテイストを感じさせる作品が集められている。
 この中でとくに好きな作品を挙げるとしたら「息子の石」あたり。石を愛し抜くことによって石を自由に操れるようになる技、「石」を鍛錬していくことにより成長していく息子。そしてその母、師の姿を描いた作品。身体よりも大きな石を、石のツボを知ることによって自由に操るさまは、そんなわけないと分かりつつも妙な説得力がある。石の上をすばやく移動しながら坂道を下っていくシーンの奇妙な迫力はなかなかにインパクトが強い。
 また、「なつかしい第三章」の作品群はへんてこな味わいがあってお勧め。ガロの編集者が古本屋で見つけてきた、「徳育話材百選」という、戦後まもなく発行された教師用の道徳教材を原作にしているのだが、奇妙な間とやけに改まったセリフ、唐突な展開が非常におかしい。

吉田戦車トップページへ戻る