「学校」 山本直樹

学校

文藝春秋 全1巻
ISBN:ISBN4-16-090039-9 C9979 価格:本体914円+税
初版発行:98/11/25 判型:A5

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 なんといっても注目は表題作の「学校」だ。同タイトルの作品が最初コミックBEに掲載されたのだが、その後原稿が紛失したため、ビンゴ用にまったく新しく描き起こされた。だから「学校」という作品には、コミックBEバージョンと、ビンゴバージョンの二種類が存在するのだ。今回収録されているのはもちろんコミックビンゴバージョン。
 この作品を読んで驚かされるのは、その異様なまでのテクニカルな構成。
 学校の中で起こっているいくつかの小さなストーリーが並行して進むのだが、描かれるシチュエーションは、以下のとおり。
1.金を払えばやらせてくれるという噂の立っている少女と、彼女に金を払って買おうとしている少年
2.ギターを弾く少年と、彼に答える少女
3.「息子がイジメられている」と教師に抗議する親と先生、そしてうわの空の息子
4.水泳部のレズ二人
5.黒板に落書きをしている女子
6.コックリさんをしながらうわさ話をする三人の少女
7.後輩と、彼に「チンポを見せろ」というバスケ部の先輩
8.保健室の女校医と男子生徒
 なんと8種類が同時進行である。
 そしてこれを進行させていくコマ割りがまたすごい。ページの左右対称の位置にあるコマで同じシチュエーションにいるキャラクター同士が会話したかと思えば、左右対称の右と左が同じ構図でセリフがまったく反対の意味だったり、同じページ内で一つ別のシチュエーションを挟んだコマのキャラクター同士が会話したりする。フラッシュバックのようにストーリーが目まぐるしく変わりながら、その一コマ一コマに、読者を幻惑する巧妙な仕掛けが施されているのである。
 そして後編では各シチュエーションのキャラクターが、ほかのシチュエーションにもでてきたりと、いくつものストーリーがそれぞれにリンクし合う。これだけ入り組んだ構造をしていながら、別に読みにくくなくストーリーにもよどみがない。そこがまた素晴らしくうまいのだ。山本直樹の技巧の冴えにはほとほと感心するほかない。

 それ以外のタイトルについても、巻末の山本直樹の解説などを元にちょっと補足しておく。まず「渚にて」は初出時から12ページ、「ファンシー」は13ページの描き足しがある。「青春劇場」の原作者ピストンやすたかはとがしやすたかのこと。山本直樹が1984年に編集した同人誌にとがしやすたかが描いた3ページの作品を元に、1987年に山本直樹が描いた作品だ。なお、「鶏男」「プノンペンの秋」はフランス書院コミック文庫の「誘ってあげる」にも収録されている。

●収録
タイトル初出
学校コミックビンゴ 97年8〜9月号
渚にて95年ヤングジャンプ9/5増刊 漫革VOL.6
ファンシー美写×美写
青春劇場97年 ビッグコミックスピリッツ6/2増刊号 Manpuku(原作:ピストンやすたか)
いいわけ98年 COMIC CUE VOL.4(原作:町野変丸)
素晴らしき新婚旅行88年ビッグコミックスピリッツ7/7増刊号
鶏男COMICパピポ
プノンペンの秋COMICパピポ