山田芳裕単行本リスト

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■作家名:山田芳裕(やまだ・よしひろ)
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「しわあせ」

■B・S・P版 [bk1]
「しわあせ」B.S.P版
出版社:B.S.P
判型:A5
ISBN:4-568-73009-0 C0079
価格:1300円+税
初版発行:2000/01/18

■講談社版
「しわあせ」講談社版
出版社:講談社
判型:B6
ISBN:4-06-315034-8 C0379
価格:408円
初版発行:1991/06/22
 物語の舞台は2033年。世界はまったく平和になってしまい、人々は土に根差した生き方に憧れ八百屋が人気職業No.1になるような時代。ものすごく整った文法でものを話し、不良も存在せず犯罪もほとんどない。地球はそんな非常に「きれいな」世の中になってしまっていた。しかし、主人公であるジジイ、ジュンはそんなヘナチョコな世の中が不満でならない。ダーティでワイルドで物質文明に毒されきった1980年代に青春を送ってきた彼は、乱暴しても逆に感謝されてしまうくらいの世の中の、その歯ごたえのなさに心底飽き飽きしている。「しわあせ」はこの不良老人・ジュンの怒りとこだわりに満ちた生活を描く物語だ。

 健康な時代が性に合わず、完全に時の流れに取り残されている彼が、それでも自分の生き方を曲げず突っ張って生きていく姿は、滑稽だけれど一本筋が通っていてかっこいい。山田芳裕の講談社時代の作品に共通して見られる、どこか子供っぽくてステキな「粋であることへのこだわり」がこの作品にも色濃く表れている。老いても自分のポリシーに従い、頑固に生き続けるジュンの背筋はピンと伸びている。こだわりを貫き通す骨っぽい男の意地がなんとも眩しい。

 ただ時代に反逆しているわけではない。ジュンだって自分がすでにないものを追い続けている、依怙地になっているだけだってことは分かってる。でもそこでジタバタしてしまうのが80'sなのだ。虚勢されたようないいこちゃんどもが相手でも、時折ジュンと心を通じ合わせられるときがある。そんなときにジュンが見せるピュアでシャイな側面は、なんとも趣深い。イキでかっこよいのだけれども、どこか垢抜けない温かみのある感触は山田芳裕特有の味だ。この作品でも、その特性は存分にあらわれている。

 山田芳裕作品に出てくる男たちは、どこか古風だ。そして、この作品の主人公ジュンは、2033年の未来に生きる古風な男なのである。

 さて話は変わるが、山田芳裕に関しては二つのFAQがある。「『大正野郎』に3巻はありますか?」「『しわあせ』は2巻が出ているのですか?」という二つの質問、そしてそれに対する答えは両方とも「ノー」だ。しかしこの2作品で違うのは、「大正野郎」に関しては単行本未収録分はないはずであるのに対し、「しわあせ」には未収録分が存在「した」点だ。あえて「した」とくくったのは、2000年に入りB.S.Pが装丁を変えて「しわあせ」を復刻したさいに、講談社版には未収録だった3話分が収録されたのだ。
 新しく収録された3話の出来だが、これがまた素晴らしい。ついに読めるようになって猛烈にうれしいと同時に、今までこれを読むことができなかったということが悔しくてならない。幸いこの作品は、時代が変わっても古びないだけのポテンシャルを持っていたからいい。だが、漫画は時間が経ってから読むと同じモノでも全然面白くなくなるってことがままある。
 漫画に限らず、読むべきときに、読むべきものを、読むべき人が、読むべきなのだ。


<収録>
「ばんごはん」「よそおい」「さんかんび」「うちゅうりょこう」「恋とくりすます」「はんざいしゃ」「きれい」
「びょういん」「せいきょういく」「ひるね」
(初出:モーニングパーティ増刊 1990年 7/27 35号〜1991年3/26 41号、5/28 43号〜7/23 45号。太字はB.S.P版で初収録の作品)