bq_fly.jpg (12217 バイト)bq_mouse.jpg (12847 バイト)B.Q.

The Fly Book
The Mouse Book

カネコアツシ

アスペクト

 作者が「BAMBi」連載前に、コミックビーム誌上で連載していた短編作品群を、2冊の単行本にまとめたもの。作品はストーリーの類似性や流れによって配置されているので、どっちが1巻でどっちが2巻ということはない(Fly Bookのほうが96年発表作品が多い)。

 オハナシはどれも良質なブラックユーモアにあふれていて、読んでいてニヤニヤさせられる。大きくわけると、「ギャング/ヤクザもの」「マッド・サイエンティストもの」「日常に潜む異世界もの」の三つに分けられる。第一のジャンルは処女単行本である「ロックンロール以外は全部嘘」でも描かれてきたもので、ヤクザ社会を抜け出した若い者が組の売り上げを強奪したり、というのが基本線となっている。ところがどのオハナシも悲壮感はまったくなく、どこかほのぼのとしたものとなっている。不死身の戦闘ロボットに改造された親分が出てきて、登場人物を全滅させたりと、心休まることこの上ない。第二のジャンルは結構基本に忠実で、きちんと蝿と合成させたりするので安心できる。そして何よりもカネコが得意とするのは第三のジャンルである。何か訳の分からないものを作らされている下町の零細工場。女性の肉をハンバーガーにして売る男と屍姦マニアの激しい戦い。地球を悪の宇宙人から守るいかりや長介。フィールヤングの別冊でもやっていたが、ふだん自明なものと考えられている日常に、ひそかに異物が入り込んでいくというシチュエーションは、リアルと結びつくがゆえ、一面で恐ろしくもあり、一面できわめて面白くもある。短編としての完成度がもっとも高いのはこのジャンルである。まあ、基本的に外れの作品はないのだが。

 線については、次第に現在の連載作品である「BAMBi」に近づいていくようすが分かって興味深い。初期の作品においては、松本大洋風の直線的な、硬質な描線がまま見られるのではあるが、しだいに太く、滑らかな、めりはりの効いた曲線へと変化してゆく。「ロックンロール…」から現在に至るミッシング・リンクが、ここに明らかになっている。絵の上手さには嘆息するほかないほどだ。

 BAMBiは長編としてかなりよくできている作品であるが、カネコの場合短編も見逃せない。それを実感させる作品集となっている。甘口ではなくややビターなギャグを求める人には特にオススメの作品集だ。ぜひとも手にとって、その諧謔精神を味わって欲しい。

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