大熱言

島本和彦

アスペクト

 旧の方の週刊アスキーに連載されていたもの。内容は、自分に自信のない小男、サブが、ナゾのグラサン筋肉男・アニキに、自信たっぷりの例の(?)言い切りを貰い、男として生きる力を取り戻す、というもの。「だめでもともと!だめでもっともっと!」とか。言うなれば、名作「逆境ナイン」の監督にしてデマゴーグ、サカキバラ・ゴウの「お言葉」の部分のみを濃縮したような作品。このマンガに加えて、文字のみの島本流ことわざ/故事成語解釈と、人生相談「島本塾」がついている。

 「炎の言霊」で示されたような「島本語」は、なぜ我々の心に迫るのか。なぜわれらの目の鱗を落とすのか。その秘密は「跳躍」にある。客観的に見れば、どうしたって関係なく、無理のある言葉を、無理矢理言いきるのが特徴であるわけだが、そうであればあるほど、我々の心に訴えるものとなる。そして、一見跳躍している言葉のようだが、まったく関係がないわけではない。ふぬけた日常においては跳躍してしまうのだが、島本の言う「熱さ」や「男」という概念で押し切れば、達成できてしまう言葉なのだ。そして跳躍があればあるほど、それは強い言葉になる。なぜなら、跳躍があればあるほど、言葉は我々の心の中に眠っている「男」を呼び覚ますのであるから。「わかってはいるが…わかるわけにはいかんのだっ!」。

 ではこの本ではどうか。はっきりいって、マンガは上記の観点からすると失敗した作品が多くなっている。取り上げている言葉は古今の名言なのだが、それは今更島本が言わなくてもすでに「名言」として、我々の心に訴えるものが多いのだ。いつもの「跳躍」が少ないのだ。中には島本独自の言葉がグッとくるものもあるが(夏季限定ではない!夏季万歳、いや、祝・夏季だ!とか)、それも少ない。少々残念な仕上がりなのだ。理由は明らかで、今までの島本作品は「熱さ」や「男」が先に、アプリオリなものとしてあり、それを達成するために言葉が後についてくるものであった。しかしこの作品は言葉が先にありすぎてしまい、本来言わなければならない「なにか」、すなわち熱さや男気が後回しになってしまっているのだ。

 ただ、文字のみの部分は、これが言うことなく素晴らしい。人生相談は断定と命令形の嵐。「行け!!」「やれ!!」「走れ!!」あまりにも分かりやすい言葉の数々。ああ、これで安心できるというものだ。また故事成語の解釈も、「虎の威を借る狐?なかなかできる奴ではないか。学べ!!」てな具合で目から鱗は間違いなし。この「イズム」は楽しめることこの上ない。この部分だけでも買う価値はあろう。買え!そして文字の部分を熟読玩味せよ!

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あまり言いたくはないがこの点が島本作品がギャグ足り得ている理由である。