陽炎日記

木尾士目

講談社

 あ、青い。あまりにも青い。童貞が抱くセックスへの幻想と、彼女ができて見境なくハメまくっている頃の、しょーもない心の動きを、煮こごりにしたような作品集。きっと作者は高校時代彼女を作れず、変に自我と自尊心ばかりを拡大させてきたのだが、でも一方でウハウハの大学生活を夢見てきたんだろうなあ。凄えシンパシーを感じるぜ!

 でもこうした心の動きを馬鹿にしちゃあいけない。誰だってそうしたセックスに対する幻想=妄想を抱くものだ。ある程度男女に関係なく。そして、経験してしまった後、これもまたほぼ例外なく、幻想とのギャップに悩んだりするものだ。
 そうした思いは、「型にはめる」ことや、「他人のせいにする」ことで、どうしても誤魔化されてしまいがちだ。凄くドロドロしているはずの思いなのに、あたかもドロドロしていないかのように、さわやかな思いであるかのように、毒抜きされてしまいがちだ*1

 作者・木尾士目は、そうしたドロドロしたものから目を逸らさない。いや、逸らすことができないという方が正しいだろう。つまり、自分がそうしたドロドロの真っ最中にいながら、自分の抱えているその思いに真っ正面から向き合って、それをそのまんま表現しているのだ。もの凄く自分に正直なのだ。実に、あまりに、自分に正直であるために、その分どうしても「青く」見えてしまうのだが、しかし少し考えてみて欲しい。日常生活の中で、自分に本当に正直でいられる瞬間が、どれくらいあるだろうか?マジになって自分に向き合うことは、確かに過去のものになりつつあるが、それでもまだ有効性がなくなってしまったわけではない*2

 この生真面目さを単に笑うだけではいけないだろう。ここから得られるものは、まだ何かあるはずだ。

 ちなみに現在アフタヌーンで連載されている「四年生」も、かなり実も蓋もない度満点で、イイ感じだ。今後「練れて」きて、ひねくれてくるとまたずいぶん面白いマンガを読ませてくれるだろう。要チェックの新人である。

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*1 こうなることは、メディアに囲まれて現在の社会においてはしょうがないことで、多分に不可避のことである。しかし、自分の素直な思いを型にはめることで精神的に多少つらくなるし、型にはめて曲げてしまった挙げ句思いが変な形で噴出してしまうこともある。また、ファンタジイの際限のない拡大にも容易につながる。だからあまり良いこととも言えないだろう。

*2 このことについては「ばちかぶり姫」のレヴュを参照。