怪獣王
唐沢なをき
竹書房

 唐沢なをきと3人の論客−永野のりこ、ゴリオリバー岩佐、開田裕二−が、怪獣についてアツく語りあう本。怪獣談議のほかにも、「ウルトラ怪獣大百科(大伴昌次・編)」の目玉であったところの「自作カネゴン」を本当に作っちゃうなどという、ナイス企画が目白押し。

 とにかく内容は濃密である。まずは情報量がとにかく多い。対談の中に出てくる怪獣や専門的用語については、非常に含蓄ある詳細な脚注がついている。また要所要所に細密な挿し絵(藤井ひまわりの筆による)が加えられ、全体をインパクトあるものにしている。怪獣のデータベースとしては使えないが、登場する怪獣の多彩さはまさに目が眩むほどだ。ウルトラ怪獣に限らず、すべての特撮ものの怪獣を取り上げているのだから。

 そして内容も実に深い。のりこ先生との対談においては、純粋に子どもが感じるタイプの、「怪獣への執着」が痛いほど感じられる。子どもが怪獣に惹かれてしまう理由を説明することは難しいが、そのぶんその魅力は非常に強い。のりこ先生もなをきも、その魅力に今でもなおとりつかれ続けている。とにかく怪獣が好き、という「きもち」が、ひしひしと伝わってくるのだ。
 岩佐泰弘との対談では、怪獣のデータをコレクトすることの楽しみが語られる。ここでの楽しみ方は一段階洗練されており、二重の意味で楽しめる。第一には「大人の」楽しみ方になってきていることと、そのコレクトの徹底性が楽しめること。いわばアカデミックな文脈が入り込んできているところが面白いのだ。唐沢も岩佐もきわめて *濃く* 怪獣情報をコレクトしているので、強い感興を生む。そして第二には、だがそれでも、その行動の源泉となっているのが子どもがもつ怪獣への執着であるところ。この未分化な感覚が実に心地よいのだ。
 開田勇治との対談では、一番新しい怪獣の状況について語られる。周知の通り開田は平成ウルトラマンシリーズや平成ガメラに積極的に関わっているが、その活動を通じて、怪獣をめぐる状況の連続面と非連続面が明らかになる。追補版の「ガメラ3」をめぐる対談でそれは一層鮮明になる。ここで注目すべきは連続面だ。今でも怪獣は子どもたちに愛され続けている。昔と同じように。そして大人たちも、子どもの頃から連続して、怪獣を愛し続けている。そうした状況がなければ、「ガメラ」シリーズのあのテンションの高さはありえなかったであろう。そうした言説が見えてくるのは、開田も、唐沢も、今でも強く怪獣を愛しているからである。
 このように、とにかく感じられるのは、怪獣に対する圧倒的な愛だ。それは臆面もなく、そして高らかにうたいあげられている。だが、だからこそそれは、つよく読者に訴えかけることになる。

 愛するものに対するストレートな意思表示は、今まではあまり歓迎されるものではなかった。とくに「オタク」が蛇蝎のごとく忌み嫌われた80年代〜バブル期にかけては。しかし今ではそれは全く正当なものとして受け入れられている。そうした傾向のなかでもこの本は間違いなく異彩を放っている。なぜならそこに存在する「愛」が、あまりにも深く、濃いものであるから。オタク的文脈に限らず、何か「好きなもの」を持っている人は是非手にとって欲しい本である。

Back