くっすん大黒

町田康
文芸春秋

 


 

 私は以前から、町田康の小説の素晴らしさ&空恐ろしさについて、十分認識してきたつもりであった。それに、「文学界」にその小説が載った後、賛否両論侃侃諤諤であったことも知っていたつもりではあった。しかしいざ単行本になって、こうまで大々的に売られ、こうまで反響を呼ぶとは。芥川賞の候補にまでなっていたとは。まさしく吃驚仰天である。

 内容はまさに素晴らしいの一言だ。確かに、「河原のアパラ」は、小説的に見た場合、その話の進行や整合性に、少々の問題があるのは認めざるをえない。しかし、表題作でもある「くっすん大黒」の方は、小説としての組み立ても申し分なく、そしてほとばしる鮮烈なイメージは、既存の小説を大幅に超越しさっている。辻仁成が、少なくとも私にとってみれば駄文書きにしか見えなくなるほど、そこで喚起されるイメージは強烈で、しかも感銘を与えるものになっている。

 その文体から、既存の「文壇」から、拒否されるであろうことは容易に理解できる。だが、そうして拒否する人は、今、ここで何がおきているかを理解しようとすることを拒否することにつながる。これは現代日本小説のアヴァンギャルドなのだ。止めようにも止めることのできない現代のダイナミックな力学の現れなのだ。

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