BIRZ 98年11月号

    吉本松明 久遠永遠 音羽平八
しびとの剣

菊池秀行/加倉井ミサイル

姫に袈裟懸けに切られ、加えて落雷を受けるしびと。薬屋はしびとを埋葬しようとするが、野武士の集団に囲まれる。 きれいな線と描写の繊細さは評価できる。どうせ生き返ってくるのは分かっているのだから、どういう演出で見せるのかが楽しみ。6.5 さあて、どうやって生き返らせるかなあ。処女の血がかかって復活、とか。5 死んでも何かの偶然で生き返ってくるんだろうな〜4
羊のうた

冬目景

出ていった一砂に、打つ手のない夏子。千砂と暮らす一砂に、その両親の姿がだぶる。一方千砂は一砂と暮らそうとする動機を切々と語る。だがそれは父親の姿を一砂に見ることだった。 手の打ちようのない堂々巡り。最近こればっかりだが、全く飽きさせることがない。それは構図の取り方、コマの割り方、台詞の置き方それぞれが高度の緊張感を紡ぎ出すからだろう。少しオハナシに動きが欲しいような気もするが、きわめて高度な作品であることは変わりがない。現代漫画の頂点のひとつ。9 ああ、千砂。その涙は真珠の煌めきよりも綺羅やかで、それでいて、淡雪よりも儚い。ああ、その涙がほしいっ。ところで、最終ページに、ハシラ文句がないね。10 人は利己的な生き物だな・・・一見、他人を思いやっているように見えても、実際は単に自分が傷つくことを恐れているだけなのかもしれないな。皆、何かを犠牲にして生きている。それは、自分自身の心かもしれないし、他人の何かかもしれない・・・一砂も誰かを何かの身代わりにして生きることを選ぶのだろうか・・・9
FLOWERS

奥瀬サキ

音入(男)はキャンディという名で体を売っていた。今日の客は上客。だが行為中に、大切にしている人形の手本にするために以前見た女性器の姿がちらついてもどしてしまう。殴られて逃げ出す音入、追う娼館の用心棒… 高度に構成された、きわめて美しい画面に横溢するのは圧倒的な喪失感。だが、奥瀬はその「からっぽ」を題材にオハナシを紡ぎだそうとしている。意欲的な姿勢、と言えよう。井の頭公園の満開の桜は死のイメージ。しかしそれは圧倒的ながらも、あちこちにすきまを隠している。そのすきまにこそ我らの生のオハナシが隠れている。9 うーん。良い作品だとは思うんだけど、いまいちピンとこないんだよなあ。7 う〜ん・・・なにやら、言葉に出来ぬ迫力のような物は感じとれるのだが、イマイチ世界が見えてこないな〜。物語が本格的に動き出すまでじっと我慢かな・・・5
いのち短し恋せよおとめ

新名あき

桜子が稽古に来ないので気をもむ鷹男。翌朝家の前で桜子を待つが、その前に現れるのはボディーガードの乱子。本気なのか、と迫る鷹男に桜子は言う。「そっとしておいて…」と。 うーむ、やや乙女度が下がっていることは否めない。ドラマとして盛り上げるためには障害が必要なのは分かるのだが、新名あき漫画の最大の売りである(阿呆な)ときめきがスポイルされているのだなぁ。細部できちんと描写はされているが…6 ときめきというか、乙女度がっ。次のステップへのタメなのはわかるが、ねえ。たりねえ、たりねえ、気がたりねえ。7 まあ、今回はこんなものかな・・・次回、以降の展開に期待だな〜。桜子のリベンジか、それとも鷹男が男を見せるか・・・楽しみだな〜♪7
退魔針

菊池秀行/斉藤岬

真紀を助け出す藤原紅虫。紅虫が戦っている間に、一緒にいた黒服の女が真紀に迫る。「私とキスしましょ」と。 登場人物が多いので一人一人の描写にページが割けないのは分かるのだが、やや物足りなく感じる。他の連中はどうなったの?もっと多角的な視点や多重的な描写が必要なのではなかろうか。完成された世界が好もしいので頑張って欲しいのだが。6 ああ、土蜘蛛ですか。ところでどんな話だったっけ。5 う〜む・・・話が停滞しとるな・・・そのうち、ご都合主義で一気に収束するのかな?6
LIVE RUN

市東亮子

天使出現の混乱を避けるため大陸に渡ろうとするラン一行だが、ランに恨みを抱く軍人に行く手を阻まれる。簡単に退けるランだが、彼の姿を監視するものがいた… 詰め込みすぎの感が強いが、今回は焦点を絞った展開で分かり易かった。「退魔針」と異なり、こちらは整理が必要だと思う。5 今週のジャンプにバスタードが載ってました。3 何か物足りないと思ったら、動きが感じられないんだよな。どことなく、小説の挿し絵みたいなんだよな〜。3
スカートさん

吉田戦車

今回はラグビー部のマネージャー(美少女)がメイン。部員達の金玉が気になります… …金玉。昔スコラの単行本で○皇陛下の金玉を気にする女の子の4コマをやっていたが、それを思い出した。面白い。7 全部マネージャーネタにすればいいのに。6 思わず笑ってしまった。言葉に出さずに字や絵で表現してるのがポイントだね♪5
きりきり亭のぶら雲先生

きくち正太

白いエプロンが似合う花屋の京子さん。彼女は町の事情通で、客の顔色から、注文を聴く前に望みの花を差し出すことができた。そんな彼女の店に毎日通うサラリーマン。京子さんは家庭環境を推理する。きっと可愛い奥さんがいるのだろう、と。 …もうお分かりでしょう。そんなオハナシ。悪い話ではないが、やや安易ではある。惜しい。7 花屋の娘ごっちゅうのもいいねえ。いかんせん子の娘が、ちょっとアレなのがなあ。7 勇気だけじゃなくて覚悟も必要だよな〜。8
陰陽師

夢枕獏/岡野玲子

雨乞いの結願の日、清明と博雅は「天の川」に到達する。博雅の奏でる楽のなか、清明は最後の瓜を切り裂く。にわかに立ち上る雲… 地脈?レイライン?ともかく土地にはそのような「流れ」があるのを私もひしひしと感じる。それと共振・交感する描写にはともかくも感服する。8 何故に希が「け」なんだあっ。音が「と」なんだあっ。7 ウエッブ状の結界って表現がなんだかな〜。せっかくの雰囲気が台無しだな〜。7
明日のために

高口里純

ミグの悲しみに感応して動き出す戦闘兵器・アイネアス。一方、戦闘準備を進めるミュータントの少年達のところに、セブン・マザースの一人"ショート"がやってくる。任務は子守り… 母は強し。相変わらずオハナシは見えないが、よりいっそう母性が正面に出てくるようになっている。なかなか例のなかった展開は面白い。5 ふみゅう、なぜにこのようなものにページ数を多く割くのであろうか?4 あ〜・・・わけわからん!もっとしっかりと構想を練ってまとめてから描いてくれ〜。2
BIRTH

山口譲司

戦いを繰り広げる人間の異能者たちと魔族たち。しかし彼らの戦いは強大な気で中断する。麻生が現れたのだ… やや盛り込みすぎ・荒唐無稽すぎの内容が、麻生の登場で一瞬にして締まる。この辺りの演出は良いのだが、図らずも構成の仕方に重大な欠陥があることもこのことは明らかにしている。4 再びレベルアップしました。え?何がって?それは、ダ・メ・度。3 マイクロウェーブじゃ分子レベルで細胞を破壊できないだろ・・・それに、電子レンジは物質中の水分を振動させて熱を発生させるはずだぞ。熱を直に与える訳じゃないのだがな・・・。6
餓狼伝

夢枕獏/板垣恵介

プロレスの大御所、巽と相対する丹波。「俺ら台本通りにはできないぜ」と挑発する丹波。だが巽は強力な眼光でそれに応える。 派手なアクションこそないものの、今後起こるであろう凄絶な闘いの姿を予感させる様々な描写に酔う。何を言うことがあろうか?8 うおお、すげえっ。決定。単行本買います。すげえぜ、猪木。10 巽の放った殺気の表現がいいね〜。8
空想特撮温泉

ほりのぶゆき

悪の温泉使い、龍神に薦められ阿蘇までやってきた湯ファイター。若い娘が入っている混浴露天風呂を薦められ、アイデンティティの危機に瀕する… …もはや勢いがなくなっている。これ以上続けても仕方ないのではないか?「てれびさん」とか「店もん」の路線に戻った方が賢明だと思うのだが。3.5 あれ?まだ続くの?いい加減飽きてきたのなら、さっさと新しいネタを始めればいいのに。5 水着は反則だよな〜。3
愛をあげよう

ともち

小説家としてデビューしたは良いものの、2作目が書けない弥生。編集者に「恋愛経験が足りないんじゃないの?」と指摘され落ち込む。正午のことが好きなのだが、それに素直になれずにいたのだ。 ………うむ。うむ!こうしたちょっとした気持ちの行き違いを描いたり、丁寧にドキドキ感を描いたりするところが良いのだ。次回一気に盛り上がりそうで期待。8 うむ。一言が二人の間に溝を産むのやね。でもその小説を読んで・・・というパターンだね。7 う〜ん・・・どことなく、ホンワカしていい感じだな〜。設定が非日常的なんだけど、キャラクターやストーリーが妙にフツーなんだよな〜。今回はそれがいい感じで出たかもね。7
ツンドラ・パンチ!

中川いさみ

湖で釣りをしていた人が釣り上げたのは、ホッケーマスクをかぶった大男でした… 「間」が優れているのは分かるのだが、どこか上滑りしているように思う。4 きたね、後ろの方に。3 早く終われと祈るばかりです・・・1
MOTHER

工藤かずや/秋原龍彦

不老不死の薬を完成させ、人類を新たな次元へ導こうとするゲルタード。一方、その薬を試用していた者(政府高官など)で、特定のウイルスに完成した者の間に、奇妙な死に方をする者が増えていた。鰓や尾が生え、まるで爬虫類のような姿になって死ぬのだ… 絵の表現力不足が目立ち、あまり読めない。残念な作品。3 あれ?洗脳されているんじゃないの?あれ?やっぱりされているのか?うーん、描き方が悪いなあ。4 ゲルタードもウイルスに感染して死ぬのかな?5
死に神よ

西岡秀樹

突然主人公の朝食の食卓に現れた死神。「今から6ページ後にお話が終わるんであなたは死にます」と宣言する… 確かガロにも載っていた人。絵に魅力はあるがオハナシはよく分からない。4 よくもわるくも代原だね。3 う〜ん・・・何と言えばいいのやら・・・2

<総評>

●吉本 「羊のうた」「FLOWERS」「陰陽師」「餓狼伝」と、文句ないほど素晴らしい作品がある一方、「明日のために」などのやや舌足らずな作品がある。全体としてのバランスは取れているが、もう少し底上げをはかる必要があるかもしれない。また、ギャグも吉田戦車以外は沈滞気味なので、活を入れた方が良いかもしれない。それから犬上すくねは?ねえ?
●久遠 他のマンガがどんなに調子が悪くても、千砂さえいれば、それで良し。それでいいんだあっ。それだけでいいんだあっ。
●音羽 今月は読み応えがあるものが多かったような気がするが、雑誌として、イマイチ盛り上がりに欠ける気がするのは、「明日のために」がつまらないのにページ数だけ多からかな?思い切って、ページ数半分にして、そのぶんギャグかホラー系の新連載をして欲しいな〜。

<ベスト>

●吉本 これと同じ様な映像を、以前見たことがある。ゴダールだったろうか、それとも日本映画だったろうか。映画のアヴァンギャルドの要素を深く取り入れ、現在の問題とミクスして提示している「FLOWERS」に決定。
●久遠 例の物と、今月は、漢の戦いたる餓狼伝に決定だね。
●音羽 千砂の涙に思わずぐっときた「羊のうた」に決定♪

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