キューティーコミック2000年4月号

*今月から山田千里さんにレヴュを担当していただくことになりました。プロフィルはこちら

そどむ

小野塚カホリ
吉本 ホモっている葉の姿を見てショックを受け、他の男に気晴らしを求める里香子…。錯綜する物語は興味深い。短編で収めるのではなく、長編ソドミーものにしようというのですか。
山田 別れた勢いで友達の彼氏となんとなく寝ちゃうヒロイン。別の男と寝てる時に好きな人を思い出す、ってのは少女マンガでは頻出する状況だけに、もちっと強烈な描写が欲しいところ。この男がうんと悪いやつだと話の転がり方も変わってくんだろうな、どうだろう。
地獄のサラミちゃん

朝倉世界一
吉本 すっかりサラミちゃんのサクセスストーリーになっているようで。最初の頃のへっぽこな感じが懐かしい。
山田 好き好き世界一!ボンタン飴みたいなマンガ。
耳朶とワッフル

栗生つぶら
吉本 可愛い絵にまずはグッとくる。そして男の子が何を考えてるか分からず、逡巡する女の子のこれまた可愛いこと。凛とした絵なのに内容がデレデレ系なので心あたたまる。思うに、この「初恋感覚」がこの作品のミソなのだろう。次も期待。
山田 カレを「木下」と呼ぶ彼女、カノジョを「りなちん」と呼ぶ彼。「あたしにも まだ初めてのことってあるんだ」なんてやけにオバサンな感慨も持ったりするけど、そんなところもやっぱり幼い、かわいい初恋。女の子も男の子もふつうにかわいい様子がよく描けてる。
愛ラブSHOCK!!

オーツカヒロキ
吉本 すっかりいい奴になっているマオ。説教するんですか??もっと無茶してくれよオ、と思ってしまう。マオの無茶苦茶さ加減が良かったんじゃないですか。ただ最後の1ページで持ちなおしているので救われているが。
山田 マオがもっと魅力的だと説教にも説得力があるんだけど・・・。中途半端な風俗描写もなんだかなあ。
最近どうよ?

古屋兎丸
吉本 次は喜国ですか。もうすっかり吉祥寺系とでも言うのでしょうか。
山田 兎丸さんもむずかしいところですかね、最近。こういう企画でハジけられるタイプとも思えないのでちょっと不利かな。(ダ・ヴィンチの連載はいい感じ。)喜国さんに期待。
ロマンシング カムカム

藤末さくら
吉本 ガーリィハイパーズの番外編。肩の力の抜けたさらりとした展開が心地よい。こういう感じはいいじゃないですか、この人。
山田 とりあえずシチュエーションはリアルで、展開はファンタジーですね。可愛いケーキみたいなものかな。ギャル小物がもっと描き込まれてるとよかった。化粧品とか。
ユカとまーくん

大倉かおり
吉本 エロ寄りのシリーズ第5弾。二人してプーになったのでセックスしまくるおっぱいの大きな女の子と彼氏。そのときの大きな声は隣にも聞こえている。隣人はどうやら暗いタイプのサラリーマンらしい、というもの。モロな描写こそないものの、女の子のおっぱいが揺れるシーンなぞやらしくていいじゃないですか。もはや女性向けのエロ漫画も当たり前のもの。それがどういう描写を見せるかは興味深いところ。
山田 全然エロくなーい(不満)。場所柄仕方がないのかなあ。ほのぼのとエロの融合(=エロぼの)は結構むずかしいと思うけど、頑張ってほしい。
strawberry shortcakes

魚喃キリコ
吉本 自分の存在意義に悩む塔子の同居人。田舎から出てきた人は、往々にして「東京にいる自分」を客観的に見てしまい、悩んでしまうもの。それをキリコらしく実に淡々とまとめている。所在無さは痛さを感じるほど。
山田 魚喃キリコはどこにいくのかな。時間が30年くらい戻った気がした。何かを待ってるゆるい息苦しさは確かにいま・ここの気分でもあるんだけど。
雨の降る国

おかざき真里
吉本 10 かくて少女たちはちんちんのついた男の作った世界の中で、閉鎖された少女だけの世界に遊ぶ、と。フェミニズムという見地から描くのではなく、秘め事、という切り口から描いているのが凄まじい。またキャラクタを正面から描くときに鼻を描かないところもヤバい。強調されるのは眼。じっと見つめるまなざしは、読者の心にも突き刺さる。そして少女たちが遊ぶのは湿気に満ち溢れた雨の王国(マット・ジョンソン)。それは汁気たっぷりの女同士のセックスの隠喩ではないか。しわしわのシーツ。ぬめる粘液。物事をすべてアレゴリーで描こうという方法にはひっくり返りそうになる。もっと作品が読みたいのだ!
山田 少女の王国、甘い蜜の部屋。シーツがエロい(満足)。気難しそうな眉がそそる。キスされてんのに「おしっこしたい」とか考えてる王女さま。ラストの教師との会話、「何で学校に来なきゃいけないの?」云々は蛇足かな。こんなくどいセリフでなくても彼女なら表現できたことだと思う。それこそ加也の一瞥で。いつか少女の王国の無惨な崩壊を描いてほしい。
ひめきみ

いわみえいこ
吉本 すっかり慣れたので面白いです。
山田 「死にまっする」で即アウト。
DONA DONA

岡崎京子
吉本 90年代初め、人々はまだバブルの夢から覚めてはいなかった。夜に、遊びに、まだまだバブルは華やかな影響を与えていた。ここに登場する遊びは、今の刹那的な遊びに比べて何と余裕があるのだろうか。それに「誰も居ない海」という含蓄深い情景を組み合わせる岡崎の手法はまさに水際立っている。これは現在の作家たちに対して非常によい刺激となろう。
山田 岡崎京子は怖い。(それにしてもこの人、早朝の海辺が好きだな。)
ブルガリア

かわかみじゅんこ
吉本 「ワレワレハ」シリーズ、万の兄の千のオハナシ。ここに登場する女の子の描き方は、『ワレワレハ』に見るほどラディカルに漫画の文法を外れたものではなく、比較的普通の漫画文法に近いものとなっている。だがそうである分、隠れたラディカルさは際立つ。あえて漫画的起承転結を排した構成には唸らされるばかり。
山田 でも、我々にはかわかみじゅんこがいるじゃないか!
圧倒的な「ワレワレハ」や、同じ主人公の「ルーシーはダイヤを持って空へ」ほどスパークしてはいないが、今回もかわかみはかわかみ。最初は結構凡庸だなあと思ってたけど、結局千の夢の風景(見開き)で、がつん。
蜜の味

海埜ゆうこ
吉本 二人の男に挟まれて、どっちを取るべきか悩む彩香。辛い三角関係は永遠のテーマで、その分大変なネタなのだが、海埜はすっきりした絵できちんと取り上げている。今後が楽しみな感じ。
山田 「相思相愛、なんだよね?」なデートのぎこちなさ、未練がないわけじゃない男とのもぞもぞした会話。いいですねえ。さらにヒロインの打算や不安にこだわり続けるとおもしろくなりそう。絵は派手すぎず地味すぎずでいい感じ。
少年ギター

加賀マヒル
吉本 全然やまだないとらしくない作品だと思ったことで。GTOだって?青年の反抗だって?青年誌に描いてた頃を思い出したのか?…そうか!だから加賀マヒルなのか。
山田 この年代の男子を主人公にしたものでは安達哲のいたたまれなさ全開の作品をつい念頭に置いてしまうけど、緒川たまき似の彼女がいる男子もやはりいたたまれないのだった。この雑誌の読者の何パーセントかは「私も○○くんに似てるとこある」とかふつーに言うんだろうなあ。
Flower

花山ツカヲ
吉本 アート系専門学校生が得てして向かってしまいがちな悪い方向性といえましょうか。良くわからない絵柄に展開はよろしくないですな。
山田  

<総評>

吉本 分厚くなった分内容は薄くなるのは良くあることだが、厚さを内容の濃さに転化するとは。侮れぬ事この上なし。おかざき真里のようなゲストをうまーく活用しているのが素晴らしい。
山田 「CUTIE」とこれと両方買う人って結構少ないんじゃ、と思わせる内容。もちょっとエキセントリックな作品を入れてもいいんじゃなかろうか。絵にパワーのある作家や、切実に「いま」を感じさせる若手も。今回は描いてないけど朔田浩美は実力があると思うので連載希望。

<ベスト>

吉本 緊張感が限りなく高まるおかざき真里「雨の降る国」にしよう。作品は長く続ける事だけがすべてではない。
山田 彼女にしては平均点だけど、かわかみ「ブルガリア」。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:15:59 JST