フラミンゴ 2000年8月号

レヴュ担当 吉本松明
久遠永遠



しのざき嶺
吉本 「大きな女性」に溺れる少年。一般に「大きな」(=「ぽっちゃり」した=太った)女性はフェティッシュの対象となるものであるが、ここではそれを乗り越え、一般的なグレートマザーの領域にまで達している。一方でしのざきの嘆きが聞こえるが、もう一方で「その先」を目指す方向にも向かっているのは興味深いところ。
久遠    
奴隷立國

海明寺裕
吉本 …オハナシの展開上女性でなければならないのはわかるのだが、先生、「女王陛下」はないでしょう。「女王陛下」は。不敬を避けるためとはいえ、もう少し皇室を匂わせるようなネタでもよかったような?ただみんなして家畜の身分を選択するところは非常に面白い。「GIさま」ってのがすばらしいじゃないですか。ところで新しいアシスタントは誰?
久遠    
便器

天竺浪人
吉本 生産量が多いですなあ。「激慢」50ページをクリアした上でこれですか。加えて内容も薄まっておらず、ちゃんと「便器」になっている。ややメロウなネタにならざるを得ない「激慢」に比べ、なんとも痛いオハナシであることよ。ミューズのささやきはかくも残酷である。人間的に破綻しているからこそ神の領域に近づくことができるのである。
久遠    
あたしは犬に吠えられている

堀骨砕三
吉本 10 待望の新作。生理になると多くの犬につきまとわれるようになる女の子。とはいえ犬は悪さをするわけではなく、非常に統制の取れた行動をとり、泥棒を捕まえるなど町内に貢献したりもする。夜になると響く犬の遠吠えに欲情する女の子。そして今まで維持されてきた距離が一気に縮まる…。「匂い」のフェティッシュは漫画では表現しづらかったものであるが、犬という存在を持ち出すことによって、アレゴリックにそれが表出されているのが面白いではないか。加えて犬は人間とは異なった「他者」として描かれている。同じ哺乳類ではあるが、犬と女の子の関係は人間的なものではなく、ドーブツとしてのものである。それは一面で「非・人間性」であるのだが、もう一方で究極的な人間性の解放であるようにも見える。なぜならばそれは「自由」であるのだから。絵柄の端正さもさらに磨きがかかっている。最高に注目されるべき作品といえよう。
久遠    
おさるさんと私

童門冬児
吉本 箸休めとしてはうまく機能していると思う。
久遠    
得ることができれば幸い あるいはだからこそ引き返せず

海野やよい
吉本 ウブな娘さん(巨乳系)を自分好みの女に調教するのは面白いですな。そうした楽しみ方ができる一方、女性が秘め持つマゾ性もきちんと描き出している。いいですなあ。
久遠    
一週間▽

町野変丸
吉本 一週間たったころにはゆみこちゃんのマンコと肛門はガバガバになってしまいましたとさ…といういつものパターン。だがちゃんと読ませるのはさすが。
久遠    
喫茶室プレッセン

霧方降造
吉本 傍から見れば女性の造形、投身、体の描き方、ネタと、どれも大バロックなのであるが、フラミンゴというこの場では至極まっとうな作品に見えてしまうのが面白い。こうした「フラミンゴ・マジック」がどれだけ新雑誌で見られることか。
久遠    
名もなく貧しく美しく

駕籠真太郎
吉本 今回は「日本精神」もの。以前のスパイ学校ものもずいぶん楽しめたものであるが、今回も暴走する純粋日本精神が見られて楽しめる。「偏西風に乗って共産主義が!」ってくだりには爆笑。ヒネた視点でニヤニヤしながら描いているさまがありありと目に浮かぶよう。生産量が増えても質が落ちないところにも注目できる。
久遠    
おとなちゃれんじじゃんぷん

るもいじゅん
吉本 今度は「かわいい」青年をさんざんにもてあそぶことによって、さらにデタラメ度が増している。男性も女性も関係なし、というスタンスがいいじゃないですか。ただラストのつながりがちょっと悪く、甘口になっているのが残念。もっとボロキレのように扱ってもいいんじゃ?
久遠    
水仙のつぶやき

白井薫範
吉本 やっぱりネタはいつものヤツ。そろそろ別のパターンも見てみたいところ。
久遠    
フェミニズムの先鋒

蜈蚣Melibe
吉本 有機人形ものでなく、現代を題材にしているのが面白い。加えてネタはフェミニズム、というよりはラディカルなウーマン・リブもの。ペルソナを持った男性などは要らないのである、フレッシュなコックがあればいいのだ、という考えは、古臭いものではあるが現在においてはまだ新鮮さを失ってはいない。引出しが広がってきたような印象。
久遠    

<総評>

吉本 8月末発売の10月号で休刊が本格的に決定したとのこと。これだけレベルの高い作品が集まっているのに残念至極。ただ、編集長が言うにはこの路線を継承する、というかこれしかできないとのこと。期待して待っていたいと思う。内容としては最後の輝きか、非常に面白い。
久遠  

<ベスト>

吉本 「奴隷立國」もかなりヤバい領域に達しているが、ここはやはり堀骨砕三にしなくてはならない。特殊なネタを端正な線で描き、その背後にある「他者」も抜かりなく描く。相当な才能である。
久遠  

Back

Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:03 JST