コミックフラッパー 4月号

*今月から「コミックスページbyWestRiver」のWestRiverさんにレヴュを担当していただくことになりました。プロフィルはこちら

超少女明日香

和田慎二
吉本 次第に明らかになる月読市の謎。まったく違った姿になる圭一。ようやく物語が動き出す様子。絵柄も含め、まったく昔ながらの方法論でオハナシを進めるのだが、これはこれでよいのだと思う。「マガジンZ」でも、「機神」がいい役割を果たしているように。ただ、雑誌全体のカラーとあわなくなりつつあるようにも思う。どっちを取るのだろうか?
W.R. こういうのを懐かしいと評してしまうと、語弊があるかもしれませんけど、まあこういうノリの作品でしたから・・・。分かっている人にはこれでいいんですが、初めて読む人がいたとすれば、こういうノリはどうなんでしょう? 個人的にはO.Kなんですけど。
パラノイアストリート

駕籠真太郎
吉本 「駅前」シリーズの毒を抜きつつも、きちんと駕籠的にパラノイアックにまとめている。今回は「穴があったら入りたい」ですか。よく使われる言葉をそのまんま画面にする底意地の悪さにニヤリとしてしまう。
W.R. 非常に抑えたノリが、逆に駕籠真太郎の本来の作風を知っていると、消化不良をおこしそうな感じが拭えませんが・・・。それでも今回のは、最初の導入には無理はあったものの、オチはそこそこ決まっているのではと思います。今までのに比べると(もう少しこの助手さんが活躍してくれるといいんですけど・・・。正直、主人公の存在感が希薄なだけに(いわゆるストーリーテラーですから)。
韃靼タイフーン

安彦良和
吉本 ロシアの特殊部隊の襲撃を受ける主人公たち。オハナシが漫画的に大きくなっているし、それを安彦はきちんと「絵で」見せている。さすがにそのあたりの技術は大したもの。このままのテンションを維持すれば、ひょっとしたらいつものパターンに陥らずに名作になるのではなかろうか。
W.R. 少しコメディー色を出そうという雰囲気があるんですが、この路線は”絶対に”合わないから止めた方がいいと思うのは私だけ・・・? ネオデビルマンの滑りまくりの悪印象しか持ってないもので。もっとシリアス路線で引っぱるべきと思いますが、もう遅いか・・・。物語はなかなか練ってる感じですが、演出でどっちに転ぶか分からない、綱渡りな感じ。
串やきP

SABE
吉本 近所のペットを殺戮するドズル。そして飼い主の学校に転入してくるペンギン虐待女…おお!ちゃんと続きもののストーリーになっている!そしてそれが盛り上がっているところも面白い。
W.R. なんで串Pが暴れているのか、その凶暴性の根拠がちょっと希薄ですけど、この人の漫画はあまりそーゆーのは関係ないみたいなので、まあノリで暴れて下さい(笑)。ストーリーものとして読んだ場合、一応かなり伏線もあって、一方的に弱者を叩きのめすという(BEAUTIFUL MONEYのような)構図+展開ではないので、どういう風にこの状況を料理していくのか(結構シリアス入ってますし)、そこが見もの。
魔法のエンジェルグルグリビューティー

伴ルツキ
吉本 絵柄もオハナシの内容も、るるる先生が乗り移ったが如し。「マネだ」と怒る人もいよう。しかし内容は優れてくだらないので(『ミラクル高僧チベットちゃん』クラス)、全然問題なし。
W.R. 実はこういうノリ好きだったりして(笑)。好みの問題ですが。逆に言えば、今までのフラッパーの方向性から考えて、こういう作品を載せてくるというのは、いわゆる路線変更を意味するということなんでしょう。問題は、この雑誌の読者には、この作品は全くピンと来ない可能性大ということ・・・。一気にこっちの路線になだれ込むと、逆にまた読者離れを招きかねないので注意。
刀神妖緋伝

新谷かおる
吉本 先月はあちこちの雑誌を落としまくった新谷先生だが、今回は掲載されている。良かった良かった。刀に込められた魂(の、ようなもの)という伝奇的な要素をうまく自分に描ける範囲で膨らませている。人間のキャラクタが少ないのでちょっとオハナシに広がりが少ないように思うが、ちゃんとまとまってはいる。後は雑誌全体のカラーとの兼ね合い。
W.R. 最初の設定では、ちょっと「おいおい」なノリでしたけど(汗)、ここのところは、役者も揃って状況説明も終わって、物語が大きく動き始めるといったところでしょうか。ただし、あまりこういう形で「道具を擬人化」しすぎると(というか、既にその術中に填りつつありますが)、キャラクターが増えすぎ、また人間と精霊の区別が付きにくくなって(特に和服ではね〜)違和感も増してくるので(ちょっとそろそろやばい)、方向性は考えた方がいいかも・・・。
アタゴオルは猫の森

ますむら・ひろし
吉本  
W.R. かなり独自路線を突き進んでいますが、この「何にも屈しない安定感」こそ、「アタゴオル」の魅力ですから、まあこの路線を維持して下さい。迎合する必要も何もありません(って、雑誌には貢献してないということかもしれませんが・・・)。
トランジスタにヴィーナス

竹本泉
吉本 泉先生の恐るべきところは「問答無用でオハナシを進める」ところ。「そういうものだ」と無理やり納得させられてしまうのだ。そうした描写に屈服できれば、泉先生はきわめて甘美な魅力を発するのだ。私はもうぐにゃぐにゃです。
W.R. なんか今回はわけ分からないお話ですけど(妙にキスが気になるな〜)、それなのに何か面白く感じてしまうのは、やはり「雰囲気」なんでしょうか。不可思議な作品というか、不可思議な人です・・・。
ひっち&GO!!

永野のりこ
吉本 『すげこまくん』とは異なった少年漫画的境地を切り開こうとしている様子が良くわかる。これはそう簡単に答えが出るものではないだろうので、ゆっくり見守っていきたいと思う。オタク的描写はあえて封印しているのだろう、ここでは。楽しみだが我慢!
W.R. シリアスと電波の見事な融合というか、バランス感覚というか。正直1回目は「う〜ん」と悩んだんですけど、とりあえず状況説明が終わった段階で、このバランスで突き進めば結構イケルかもしれない、と思ったりして。あとはどちらかに流れすぎず、このバランスを見事に保てれば凄いと思いますが。
スカルマン

石ノ森/島本
吉本 この数ヶ月間の盛りあがりは水際立っているのだが、今回もまた同様。改造される飛岡と再登場するマリア…そう来ますか!いい方向に読者を裏切る「まんが力」。島本御大の底力をつくづくと感じる。
W.R. 正直、この雑誌の「良心」と思ってます。この作品は、この雑誌でしか掲載しようが無い・・・。それだけにやはり頑張って欲しいもの。島本和彦の”情熱”が、ひしひしと伝わってきます。
かみちゃまの電堂

たけだみりこ
吉本 この作品の良いところは、作者にコンピュータのリテラシがないところ。だからこそコンピュータに「神」を宿らせるといった芸当が出来るのだろう。そしてそれは同時に弱点でもある。
W.R. 今ひとつ、評価するほど読んでいないので、コメントしづらいんですが・・・。まあほのぼの系ではありますが、特別インパクトは感じないんですよね・・・。かみちゃまの設定が、それほど面白いとは思えないもので(パソコンの中に棲んでるのはいいんですが、その「機械の中にいる」という設定を、今回はちょっといかそうとしているものの、何かうまく使いこなせないような気がして・・・。来月のオチがちょっと心配)。
そして船は行く

雑君保プ
吉本 ノリは良くって楽しめるのだがいかんせん絵に時間がかかってない。タメとヌキの急激な展開はバランスが良くってはじめて楽しめると思うのだが、最近ヌキばっかりなのだものなあ。頑張って欲しいところ。
W.R. 正直に書きます。まあそこそこ面白いとは思うんですが(ただ、内容が無いよう)、アクションやら何やらをこういう絵で誤魔化したらバツ。平野耕太とかの「バカ絵」は、シリアス・アクションのコマの途中でシリアスな絵との対照として出てきて、初めて面白いんであって、こういう形でアクションシーンも「絵の省略」にしか見えない使い方をすると、「なに手〜抜いてんだよ」というツッコミしか貰えません。この崩した略画は作風なのかもしれませんが、正直申して「絵が描けないんじゃないか」という風にしか見えません(といって、私が描けるわけではないですけど)。
夜の羊と糸使い

高山裕樹
吉本 「魔法使い」とよばれるお婆さんに編んでもらったセーター。それを狙う「糸使い」。まわりの人々を守るため、主人公は戦うことを選ぶ。それに応えるセーター。うむ、という感じ。ちょっとオハナシの構成がなめらかにいってないところがあり、また絵柄とのバランスも良くないところがあるように思う。だが、ちゃんとアクションもの/エンターテイメントとして成立しており、絵の魅力も強い。こういった新人を登用したことは、後々この雑誌にいい影響を与えるであろう。次の作品が早速読みたいところ。柔らかい絵の特長を生かしたような。
W.R. 10 新人賞佳作の作品ですが、なにこれ・・・。凄いいいジャン! ということで、何かもうビックリ。絵の完成度もさることながら、”魔法の服”の設定もかなり独創的で、戦いへの悲哀も込めた作風も結構いい感じで何ともかな。これかどうかわかりませんが、「急遽連載決定」とのことで、期待大。
アレクサンダー戦記

荒又/田中
吉本 荒木飛呂彦を思わせる濃い口のオハナシと絵柄。ビデオソフトとのタイアップは分かるのだが流石に辛かったようで。センスオブワンダーが突っ走りすぎた(=荒唐無稽な)オハナシにも問題があったように思う。
W.R. 急な「第一部完」ということで、これまたビックリ。ページは結構増やしてありますが、急遽こうなったんでしょう。方向性の変換ということでしょうか・・・。別に悪い作品ではなかったんですけど、どうもこの雑誌の中では、かなり浮いていた部類。何とか柱にしたかったんでしょうけど、ちょっと外してたかも・・・。まあ打ち切りに近いのかも。
注目の人

ふじのはるか
吉本 鉛筆であろうか、CGであろうか、柔らかい描線はいい感じ。だがオハナシの全体的構造がどうにも謎なのがちょっと辛いところ。
W.R. 絵の柔らかさは、どういう画材を使って出してるんだろう? エンピツ画なのかな? その絵柄と非常にマッチした、メルヘン・ファンタジーな世界が展開していきます。キャラが立っていて、雰囲気も良くいい感じです。
時空仙女マダム明

楊/花小路
吉本 レイプされながら前世の記憶を呼び覚ます、という以前のお話にはぶっ飛んだものだが。ディープエコロジーに一枚オブラートを被せているのは良い。だがやはりディープエコロジーが陥りがちな罠、すなわち説教臭さが抜けきってないように思う。
W.R. この作品も第1部完。けど、正直申しまして私はこの作品、結構好きだったんです。食材の説明と、人を慈しむというマダム明の心地よさが、あまり作られ過ぎていない、素直な感じがしていたので。まあ第1部完ですが、この作品はどこからでもまた再開出来ますし、もう少し捻って食材の面白さだけではない、もう一工夫加えた作品にして復活できるんじゃないかと思いますが・・・。雑誌を選びますけど(汗)。
Lekio's Radio

田中伸介
吉本  
W.R. SFも絡めたファンタジーとしては、部分的にはいい感じのところがあるんですけど、なんかセリフが多すぎて、ちょっと世向きがな〜、というのが正直な感想。もう少し整理するなり、セリフを抑えるなりしてほしいところ。ちょっと勿体ない。
空想科学大戦

柳田/筆吉
吉本 柳田理科雄の「原作」の方には随分反発を感じたものだが(作者の意図はわかるのだが受容のされ方がね)、こっちはちゃーんとエンタテイメントになっているのが宜しい。衒学趣味と漫画らしさが上手いバランスでまとまっているじゃあないですか。
W.R. この人、正直言って凄いと思うのは、原作はあるものの、込み合わず妙に隙も無く、そこそこ丁度いいバランスで50ページ近くもしっかり描いてしまうところ。まあ、多少マンネリのケはあるんですが、よくこれだけ妙なアイデアを出してくるなと関心しますわ。その湯水のように出てくるアイデアと、それをキッチリ漫画にしてしまう力量は、とりあえず評価すべきものと思います。
PHANTASMAGORIA DAYS

たむらしげる
吉本  
W.R. なんというか、このキノコの世界と「どこから来たとも分からない宇宙船」や「ロボット」の、違和感のない融合が、この作品の魅力でしょう。変な話、ちょっと読みにくく感じて読み飛ばしてしまいそうなんですけど、これ読んでみるとかなりの人が「いいんじゃない?」と評するんじゃないかと思うんですが、どうでしょう?

<総評>

吉本 次第に「漫画好きのための雑誌」にシフトしているように思う。特に今回は駕籠やSABEがいい調子なその分だけ。「ビーム」のような方向性を目指すのも悪くないと思う。ただ、それを貫くためにはベテランの処遇を考える必要があるだろう。「マガジンZ」のように、上手く使う方法はあるはずなので、是非工夫して欲しいところ。
W.R. 5合目にして(あ、五号目か)、一応路線の見直しを計り始めたみたいですね。柱になるだろう作家は、ちゃんと残すようですけど、いわゆる劇画調の2作品を、バッサリ切るという事になったようです(確かに、あってもいいんですけど、売り上げには貢献しませんし・・・)。その変わりかどうか知りませんが、今夏祈った新人の2作品、これからの雑誌の方向性を示すという意味では、そこそこ歓迎したいところ。ただ、伴ルツキさんの作品は、かなり”浮く”事はハッキリしていますので、どう転ぶかは微妙なところ。とりあえず、次号では大きく変わらないものの、その次にどう変わるかの方向性が示されるでしょう。

<ベスト>

吉本 初の漫画賞デビュー作品として、高山裕樹の「夜の羊と糸使い」にしよう。絵の力もあるし、オハナシも作れる様子。次回作を早く見てみたい。
W.R. ダントツで、高山裕樹「夜の羊と糸使い」。次点は何となく、ふじのはるか「注目の人」。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:04 JST