コミックフラッパー 5月号

レヴュ担当 吉本松明
WestRiver

刀神妖緋伝

新谷かおる
吉本 上手いことハダカを登場させることによって、伝奇ものと青年漫画の折り合いをつけている。ハダカの登場のさせ方も、単なるサービスではなく、奥底に潜む「血」を感じさせ、薄っぺらなものではない。頑張っているじゃあないですか。
W.R. 結構盛り上がる大ゴマになると、ナゼか人物のデッサンが崩れるというか・・・。そこがいつも気になるんですけど、雑誌の大きさで読むとまた格別(汗)。謎を含んだ展開になっていますが、さてさて。うまいこと今後盛り上がるのかな? 
そして船は行く

雑君保プ
吉本 今回は書きこみが多い!このくらいの割合が、テンポも良くていいんじゃないだろうか。
W.R. アクションシーン等、これまでに比べるときちんと描いてある感じです。けど、たった二人の暴れ者というシチュエーション、なんで海賊つぶしてるのかという理由、船の上という限られた空間(しかも帆船だからさらに小さい)での、結構な長さの立ち回り、で、あまりストーリーらしいストーリーが無いというあたりは、やはりちとキツイ感じが・・・。 
トランジスタにヴィーナス

竹本泉
吉本 篭絡されてしまうオールドミスという描写。確かにエロいといえばエロいのだが、泉先生の絵柄が必然的に内包する「毒抜き」「エロの漂白」の力によって、何だか別の描写へと変わってきている。読者はそこで立ち止まる。「何をしようとしているのか?」「これ、何?」と。その幻覚性が良いんじゃないですか。
W.R. 意味もなくチュッチュチュッチュしてるとは思っていませんでしたが、結構くだらない理由というか、こらこらなとゆーか・・・(笑)。けど、なんかとても気持ちよさそうなキスだな〜・・・。見てて気持ちよくなってしまうので(それも危ない)、高配点。 
ひっち&GO!!

永野のりこ
吉本 今月は「み〜ちぇ」がないので、随分久しぶりな感じ。混迷を極める画面はどちらの方に向かうのだろうか。しんみりさせるのは後でも良いんじゃないですか?
W.R. 最初の方よりは、後半の展開が面白い永野マンガなので、つかみはこれで良いのか・・・といえば、・・・いいの?? なんかかなり強引なプロローグというか、猪突猛進型なキャラクターで、無理矢理押し切ってしまったというか(その無理が、ちょっと読んでると辛いものもあるかも・・・)。 
超少女明日香

和田慎二
吉本 これは残念。新谷が必死に(?)現代風の要素を取り入れているのに比べ、和田は良くも悪くも自分の作風を変えずに勝負しようとしている。尊いことではあるが、厳しい勝負であるように思う。なぜなら雑誌のカラーと大きくずれてきているのだから。
W.R. ある意味、何となくですけど異彩を放っているという感じがしますね。この作品は。超能力というか、どこか懐古的SFテイストを放ってるという感じでしょうか。オカルトというかは。 
韃靼タイフーン

安彦良和
吉本 ヤクザの登場によって駒が揃った、というところだろうか。謎のロシア貴族、警察、変なヤクザ、金髪の女の子というくせのあるキャラクタたちを、どう動かしていくのか。二重の意味で楽しみ。
W.R. アクションシーンの立ち回りは、結構良いんじゃないでしょうか。しかし、しかし・・・。なんか後半にかけてのこの展開は、唐突というかキョトンとさせられるというか・・・。なんか単行本とかで通して読めば、まだ許せるのかな?? 今ひとつ、このテンポと間の取り方が、馴染めないような気がします。 
パラノイアストリート

駕籠真太郎
吉本 遂にカラーで登場ですか。ネタは相変わらずヒネていてよろしい。『万事快調』ではネタ優先で、読者についてこさせるという面が強かったが、こちらでは読者向けサービスと知性をくすぐるヒネたネタとのバランスがうまくとれている。頭のいい人だ、と嘆息するところ。
W.R. 10 不条理を描くのには、かなり頭を捻るというか、使わないと作れない(何も考えずに不条理が描けたら、天才というかは、たんなる変な人)。その頭の回転をフルに使ったというか、全体のテンポと、主人公よりも目立つ”助手”のキャラクターの使い方を、うまいこと見つけて調子がかなり出てきたんじゃないでしょうか。いやー、このテンポとアイデアの流しそうめんはいい感じ。 
EXTREME

浅野香織
吉本 ほう、こりゃ懐かしい。昔のエロ漫画は大好きでした。端正なのだが過剰な書きこみが、妙に心に引っかかったのですな。
ともかく。時代考証を確信犯的にずらしたオハナシに賛否両論あろう。見なれない線に違和感を感じる人もいよう。どっちにしても中途半端の感は否めない。しかしここにある、「少女漫画と少年漫画の幸福な結婚」は注目に値するであろう。後はオハナシをそれについていかせるだけ。
W.R. ちょっと西洋かぶれっぽい、幕末の青年の物語というか・・・。ノリは明るく、悪い作品ではないんですけど、今ひとつ・・・。妙に学芸会っぽい雰囲気に見えてしまうというか、それはそれでいいんですけど、幕末ものよりは、学園ものを描いた方が、この方は無難というか、いいものが描けるんじゃないでしょうか?(私の勝手な思いこみですが)。 
アタゴオルは猫の森

ますむら・ひろし
吉本 水の切手という観念的なネタを使うことによって、上手くファンタジイ世界を彩ることに成功している。今まではややがさつな面が目立ったが、今回はますむらの大きな特徴である繊細さが上手く現れているように思う。
W.R. 大ゴマが随所にあるんですが、やはり魅せ所がうまいなぁ、などと思ったりしてみます。マイペースですけど、読む人を飽きさせない、面白いキャラクター達です。不思議なくらい。 
注目の人

ふじのはるか
吉本 最初は「なんじゃこりゃ」と思っていたが、今回は思いこみ過剰の少女を登場させることによって、オハナシが締まっている。人間的な心の交流が正面に出てきているのが良いではないか。
W.R. 結構短いもので、なんかストーリーらしきものを感じることが難しいんですが・・・。まあ女の子は可愛いし、鉛筆画のような描線も私は好きなので(ただ、物語が今ひとつよくわからないなー・・・)。 
Lekio's Radio

田中伸介
吉本 絵は上手いと思う。あとはオハナシ。
W.R. ・・・すいません。私の感性にはあまり合いません(正直者)。 
スカルマン

石ノ森/島本
吉本 絶好調のスカルレディ=マリアに対して、本来の力を発揮できない竜生。一方で脳改造の前に救出される飛岡。次の展開はどうなるのか容易に想像はつくのだが、それが楽しみでしょうがない。アクションフィギュアの「S.I.C」シリーズが、毎回買い手の意表を突くように、この作品も「石ノ森世界」を感じさせ、果てしない広がりを持つようになってきている。
W.R. スカルマン自身が気が付かない、自分の能力が他人に与える影響・・・。己の身の危険が迫る中、マジでやばい敵が誕生するのか・・・? 
串やきP

SABE
吉本 大幅増ページ。こんなに一気に増やすとは思っていなかった。串Pの様子を見るために、いやいやながら主人公の男に接近するペンギン虐待女(仮称)の描写がひどくよろしい。そして現れる強敵。どうなってるんですか。
W.R. 連戦連勝なオオウミガラスが、大敗ときましたか。というか、この少女の動向が意味不明ながら、謎でまた魅力的。少年の哀れさも、またひとしおか・・・。無惨に敗れ去る串Pの運命やいかに! 
かみちゃまの電堂

たけだみりこ
吉本 いかにもオハナシのためのオハナシ、という感じ。苦労なさったのであろう。
W.R. そうきましたか。まあやはりというか・・・。パソコンやプログラミングの知識があまり無く描いているようですが、そういう部分がプラスになることもあれば、逆になる場合もあるわけで・・・。この作品の場合、パソコンらしさをどことなく、専門用語とか「プログラミング」とかで表現しようとして、中途半端に質を落としている気がします。ちょっと私的には挽回難しいっす・・・。 
太陽革命

宇夢和実
吉本 主人公の男の子・太陽は良く夢を見る。「運命の人」金髪の少女が現れるという。そして太陽の前に現れる金髪の「少年」曙=ブリュンヒルド。「かれ」は確かに運命の人のようなのだが、体こそ女であるものの、心は男の子だったのだ…。前世もの、伝奇もの、ファンタジイ要素と、おいしい要素がてんこ盛りになっている。加えて綺麗な線と濃厚なショタ味。特殊な方向に進化してしまったタイプのショタものであるが(漫画的にカリカチュアライズされきった理念的少年/少女を登場させるという意味で)、可愛ければ良いんです。続編はないんですか??
W.R. ちょっとゴチャゴチャした感じがしますけど(設定が複雑なせいかな?)、案外アイデアは面白いですね。男と女のひっくり返っている部分が前世というのは、いろいろな複雑なシチュエーションが生まれて、物語に幅が出るかも。多分これ、ページ数が少ないところに押し込んだのが、ちと敗因。ノビノビ描いてたら、もう少し読みやすいお話になったかも。 
空想科学大戦

柳田/筆吉
吉本 前から繰り返している通り、どうしても幼稚なレベルでとらえられてしまいがちな柳田の原作を、上手くエンターテイメントにしているのが良いではないか。今回も上手く奇想天外にまとめていると思う。ただ、一話一話がちょっと長すぎてお腹いっぱいになるきらいがあるので、別の作家にスペースを割いても良いのでは、とも思う。…と思ったらバーズに移籍ですか?吃驚!
W.R. 空想科学を単に揚げ足取り、重箱の隅つつきをするのではなく、逆に「これなら可能だ!」というアイデアでもって、マンガを作ってるあたり、やっぱりちょっと凄いと思う。絵はともかく、アイデアだけで充分楽しめたりするのだから(単行本で読むかというと、ちょっと辛いものはあるけど、こういうのもやはり雑誌には必要)。 
PHANTASMAGORIA DAYS

たむらしげる
吉本    
W.R.  

<総評>

吉本 全体的に雑誌の方向性が固まってきた感じ。ちょっとマニア志向というか、狭い層に訴えかけていこうという傾向があるので危惧を抱くが、私的にはいい感じ。また魅力的な新人や、あまり目立たなかった実力ある作家を戦力として活用しているのが好ましい。次も期待してますぜ。
W.R. 読み切り群は、どうも前回とは趣を異にしているような気がしますね。いろいろな作品を載せることによって、読者の反応を見ようということなんでしょうか。確かに、この雑誌は「作者」目当てで読む人が多いので、逆に全体の趣向というのは掴みにくい所があります。明日香やアタゴオルを読んでる人が、他の作品をどれだけ読むかとか・・・。まあ、連載は固まってきているので、いろいろな作品を載せてみるのもいいかと思いますが。

<ベスト>

吉本 可愛い描写に骨抜きにされた『太陽革命』しか考えられませんよ??相当の実力者/ショタものの経験が豊富な作家と見たが、いかがか。
W.R. 駕籠真太郎「パラノイアストリート」を今回のベストにしておきます。次点は竹本泉も捨てがたいですが、先々を期待して宇夢和実「太陽革命」。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:05 JST