ガロ 2000年9月号

レヴュ担当 吉本松明
久遠永遠

ガタロ

畑中純
吉本 一般には河童と呼ばれるであろう河太郎(=ガタロ)を媒介にして、畑中は何を描こうというのであろうか。今回は道路建設にともなう「聖域」の破壊を匂わせているが…自然保護を謳いあげるのは別にかまわないが、表現の方法は工夫してほしいものだと思う。声高な主張はリアリティを持ち得ないと思うから。
久遠    
愛子ふたたび

駕籠真太郎
吉本 再びの登場は嬉しいところ。今回のネタも「ガロ」らしく、容赦のないもの。いじめられっ子養成学校という設定の楽しさよ。そしてこうした傾向の作品でよく見られる投げやりなオチも人を食っていてよろしい。だが●●●ネタはどうか?キャプテンの例もあるので慎重になってもいいのでは。
久遠    
裏切りの青空

JERRY
吉本 これはまた随分と久しぶりな。方法論といい絵柄のポップさといい、佐々木マキを思わせるのであるが、現代においても斬新さは失われてはいない。思うにイラストの手法を大幅に取り入れているところが、面白さの源泉なのではなかろうか。漫画というメディアの表現の可能性の豊かさに改めて気づかされる作品。
久遠    
季節風

津野裕子
吉本 前回とはうって変わって、エロのメタファに満ちた夢日記もの。水中にたゆたう水と混ざらない血、という表現にまずは深い含意が見える。その血は、ほんのわずかのショックで均衡が破れ、水と溶け合ってしまう。精神分析的に見ても非常に興味深いのであるが、なによりビジュアルとして美しいではないか。そしていつものように上品に織り込まれる女性の性衝動。その衝動の変更不能性とかくれた強さに打たれる。
久遠    
ヨーチA

QBB
吉本 キース・リチャーズ(やや似てない)の登場にびっくり。「この宇宙のどこかでは お互いの星の命運をかけた宇宙戦争が行われているんだなあ…」
久遠    
大阪ダンジョン

川崎ゆきお
吉本 さらに弱々しくなる線。錯綜を極める展開。ノスタルジアを感じさせる状況設定。ヤバい!退行が始まっているかのごとくである。少なくとも現世からの逃走を強く感じさせるのは間違いない。
久遠    
信号は赤だぜ!

蛭子能収
吉本 あまりの脱力さ加減に笑ってしまう。
久遠    
黄色いライカ

中山蛙
吉本 もっと大きく扱ってもいいのでは。完成された絵柄の心地よさ。
久遠    
西梅田ティン・マシンブルース

森満夫
吉本 暴走する労働ロボットを追う下級警察官。結局ロボを破壊することに成功するのだが…というオハナシ。トーンを使わず、線で画面を構成するという絵柄はよろしい。大阪という「濃い」土地柄というか、空気を上手く表している。リドリー・スコット的といっていいかもしれないが。ただオハナシは絵柄の割にやや淡白か。もっと濃ゆい、大阪に根ざしたような下品なお話だとさらに伸びるのではないか。
久遠    
ゴーゴーエロス

浅井麻里
吉本 なんだか等身大のエロ、という感じで心が温まります。ラブですなあ。
久遠    
ちゃらいぜ!吉田くん

スージー甘金
吉本 実に自らの「マンガ」に忠実で嬉しくなってしまう。
久遠    
マンガ星

水野たかやす
吉本 定規を一切使っていない、というところが面白いじゃないですか。大きくしてみるとトボけた味が強められてよろしい。
久遠    
便所のマリア

菅野修
吉本 菅野を載せつづける、という感性にはやはり疑念を呈したいが、菅野のほうも最近は工夫をしているようで、なるべく「現世」にコミットしようとしているように見える。まだまだオヤジの無責任/無神経な雑談レベルを脱していないのがやれんのではあるが。
久遠    
招く猫

やまだ紫
吉本 稲妻、台風に惹かれる人の心の裏側をちょっとのぞかせている。この「ちょっと」というのが心憎い。
久遠    
日曜大学校

みぎわパン
吉本 ダンゴムシが本当に怖くなる好編。哲学的領域に達しているのも面白い。
久遠    
漂流教師

パルコキノシタ
吉本 「腹をくくらない」ところ、すなわち漂流しつづけるところがパルコのひとつの美点なのではあるが、それがこうした作品においては非常に腹の立つところなのであって。腹をくくらずにストレンジャーとして教育に携わる、このこと自体は興味深い視点を提示するのだが、周りはたまったものではないのであって。悔い改めよ!
久遠    
テロル

三本美治
吉本 最近なんだか「いいオハナシ」に目覚めてきているようで。おそらくもとの方向に戻ってくると思われるので、それもまたよし。いくら背伸びしても、身の丈を超えた作品は描けません。
久遠    
産院ミドリゴ

キクチヒロノリ
吉本 なんだか合理的に明かされていくミドリゴとネンターイットの謎。一方でミドリゴを探す蛾夫人たちの旅は滅茶苦茶。「キッシュ」とつぶやくヨーロッパの童話に出てくるような少年がいい。
久遠    
天国に結ぶ恋

大越孝太郎
吉本 炎を逃れ神社に避難する虹彦とののこ。デマが飛び交うなか、ののこは眼を覚ます…。なんと呪術的な展開であろうか。あびゅうきょ先生の名作「ジェットストリームミッション」を思い出す。
久遠    
恐怖博士の花嫁

逆柱いみり
吉本 見事な一つ目ウサギの調子のいいセールストーク。それにまんまと引っかかってしまうカッパたちの純真さの微笑ましさよ。そもそも工場というものはすべからく悪いものを作っていそうなものだが、「毒工場」とは。そしてつながってくるオハナシ…頭を下げるしかない、という感じか。
久遠    
いぬちゃんの20世紀

かとうけんそう
吉本 …そう、80年代とは今になって思えば随分と恥ずかしい時代であった。その恥ずかしさの部分に向き合うことが必要なのだ、と訴えかける実に歴史感覚にあふれた作品。
久遠    

<総評>

吉本 入選作品が出始めて、活気が出てきたように思う。最初の頃に比べるとかなりいい感じになってきたように思う。「アックス」とは違った、隙間に向かって球を投げている、という印象を受ける。それがまたいい方向に進んでいるのが好ましい。
久遠  

<ベスト>

吉本 「天国に結ぶ恋」。きっと関東大震災ってのは天皇家が行った儀式の結果なのであって、ののこはそれに重要な役割を果たす巫女なのであって…。
久遠  

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:06 JST