OURs LITE 2000年10月号

レヴュ担当 吉本松明
久遠永遠

結びの杜

森見明日
吉本 オハナシといい舞台設定といいありがちなものでややがっくり来るが、雑誌そのものに華を添えるものとして、この手の作品は必要かと。巫女?可愛い?問題なし!テコ入れはやっぱり重要。
久遠    
ひねもすヨメ日記

ひぐちきみこ
吉本 上岡龍太郎って引退していたんですか。似非文化人のフェイドアウトは喜ばしいところ。本編はいつもの調子。
久遠    
KAZAN

宮尾岳
吉本 面白いように早くオハナシが展開していく。隠された謎も明らかになっていく。このテンポのよさがこの作品の魅力なのだと思う。
久遠    
6年1組

TAGRO
吉本 ざらりとした感触。一つのテーマはノスタルジー。性に目覚める頃の心の動きを一見ファンシーな(?)絵柄に仮託している。だがそれだけではないだろう。そうした時期に得てして起こりがちな「ままならなさ」も描こうとしているのではないか(参考…「敷居の住人」。それはままならないがゆえに、読者ももどかしさや苛立ちを感じさせるのであるが、我々の生活する世界においては、ままならないことのほうが多い。漫画としては面白くないと取られてしまうかもしれないが、いま、ここにいる我々の生き方、生き様にコミットしていこうとする姿勢が感じられて良い。変幻自在な絵柄にも注目。
久遠    
いばら姫のおやつ
石田敦子

吉本 一体何を蓄積しておられたのですか、石田さま!
と叫んでしまいたくなるくらい、展開は痛い。2回目にして考えられる限り最悪のセックスをしてしまう主人公なんて。もちろん痛ければ痛いほど訴える力も強いといえよう。もう一つ、展開が極めて早いところにも注目したい。次がどうなるのか楽しみ。
久遠    
素敵なラブリーボーイ

伊藤伸平
吉本 2回目にして早くもつなぎ、という印象。よく読むとそうではなく、ジンコの人物描写なのだが。毎回毎回盛り上がりを求めてしまう読者は残酷だ。ただ、少しづつ伏線を張り巡らしているところに期待。ちなみに木下順二の「夕鶴」はスタンダードが決まりきっているので(山本安英とか)実にやりづらい演劇。
久遠    
恋屋15

おがきちか
吉本 試行錯誤が感じられる。前回のキャラクタで連載にするのかと思えば、ぜんぜん別のオハナシを持ってくるとは。「恋」の秘密をめぐってバトルする男女、という設定や展開はおがきらしくていいのだが、腰を据えた作品を我慢して続けてみるのもいいのでは。
久遠    
恋愛ディストーション

犬上すくね
吉本 流石に大前田・江戸川だけではオハナシが続かなくなったのか、今回は脇役(というにふさわしい)の山野辺くんのお話。歯医者で出会うちいさな女性、という人物描写と、そこに発生する「恋」の描写はやはり犬上味。些細なところにもラブは発生し、それが人を動かしているという信念のようなものさえ感じられ、やはり身悶えてしまう。ああ、やっぱりラブは必要だ!もう一つ、人間関係の鎖がまた一つつながったところにも注目。結局みんな知り合いであった、と。こうした設定は近親婚的閉塞状況を生みだす可能性を持っているが、ここにも作者の信念が込められているように思う。まさにこの調子。毎月大変でしょうが、信念を曲げずにやってください!
久遠    
男たちの旅路

市川智茂
吉本 雑誌に合わせてか、「J」のごたる展開。これはこれでアツく、短編としてまとまっているのでいいでしょう。次は市川らしいお話を期待。
久遠    
非情スパイみっちゃん

小田すま
吉本 タイニーな展開はよし。やはりこの人はドメスティックなネタより、こうした想像上のネタのほうが楽しめる。4コマもいいですが普通の漫画も読んでみたいところ。
久遠    
あまだれを借りに

あめかすり
吉本 …あめ先生も登場ですか。確かにこの雑誌には合わない部分もあるように思うが、それをいうならあめかすりがぴったりはまる雑誌などどこにもないのであって。読者(少なくとも私)は作品を待っているので、ぜひ次回作も期待したいところ。作品のほうは「待ってました」という印象。一見喪失の悲しみとしてお話を進めるようでいて、実はそこから生じる心の闇を描き出すとは。そうした転倒を描き出せる作家はそうはおるまい。
久遠    
バシュタールとゲルニカ

犬丸
吉本 相変わらず抽象的なことで。いいたい事はわかるのだが、それが上手く表現されていないという感じ。電脳世界が拡大していった未来という世界設定や、それに伴うアイデンティティの問題を描くという点は高く評価したいのだが。
久遠    
LOVE TRAP!

どざむら
吉本 メタファ寄りにお話を展開するワザを身につけたようで。ちょっとキャッチーな絵柄とマッチしていない部分があるように思うが、方法論としてはよいと思う。
久遠    
妄想戦士ヤマモト

小野寺浩二
吉本 うむ。ここにも少女主義を分かっている好漢がいたか。そう、この世の中は虚偽と醜さに満ちている。そんななかで真摯に生きていくためには、「真実の愛」に目覚めるほか方法はない。思え!徹底的に思い込むのだ!そして世間には背を向けるのだ!少女の思い込みこそ真実!(この項松明先生執筆)
久遠    
真夏のデンジャラー

樹るう
吉本 簡単に読める4コマ。気負いなく読めるのがよい。ただ、こう後ろのほうでなくても…。
久遠    
最終ウェイトレス

宮下未紀
吉本 …とまあ、こういったキャッチーな作品もまた必要なのであって。ただ文芸的な要素を多く抱えるこの雑誌の中では、こうしたあからさまな作品は浮くと思うのだが。森見と違い、「読ませる」部分がないのが辛い。
久遠    

<総評>

吉本 2号めにしてとやかく言うのも早すぎるような気がするが、人気取り作品と「本筋」と考えている作品の乖離が進んでいるようで。できることならバランスを取るようにしてほしいものだが。
久遠  

<ベスト>

吉本 すくね先生、石田さまは「永世ベスト」なので除外、となるとあめかすり。流石に読ませてくれる。単に「喪失の悲しみ」で攻めるのではなく、その先を描くのであるから。TAGROもいいのだが、またこの調子でやってくれそうなので、あまり載らなそうな人を優先。
久遠  

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:10 JST