プチフラワー99年5月号

残酷な神が支配する
萩尾望都
吉本 いかん!ジェルミが「人間」になってしまった!このことはこのオハナシが終わりに向かって収束してゆくことを意味する。かなり安心するところではあるが、こうなると逆にもう少しジェルミとイアンを苛めても良かったのではないか、などと思ってしまう。人の心は複雑よのう。
久遠    
バビロンの空中庭園
マイト・ザ・グレート
MAYZON
吉本 絵柄に独特の癖があるのでどうにも感情移入しづらい、という欠点があるが、分化していない=大人になっていない頃の心象風景があらわされていて面白い。もう少し自分を「脱ぐ」と面白いんだろうな、この人は。
久遠    
家族
いのまたゆう子
吉本 10 淡々とした表現。漫画的盛り上がりに欠けた構成。今一つ練り切れていないような絵。だが、だからこそ描かれるような日常的リアリズムがこの作品のなかにはある。漫画的リズムをわざとずらした「ぺったらぺたらこ感覚」が、逆に強い感動を産み出すのだ。処女作も悪くなかったが、この作品はそれを乗り越えて良くなっている。流石PF。
久遠    
鼈霊
諏訪緑
吉本 悪人不在の作品の中に久々に登場した悪。今までのほのぼのムードが一転して緊迫したものになっている。それもまた悪くない。ただトリックスターであった意期がすっかりイイ奴になってしまったのが残念無念。
久遠    
ジャングリズム
大竹サラ
吉本 もう少し線を整理すべきではないか。
久遠    
臨機応変の闇
名香智子
吉本 最初は拒否反応があったこの絵柄と作品世界であったが、最近はすっかり慣れてしまったのか、別段何も感じなくなってしまった。恐ろしいことなのだろうか。まあできることならもう少し人間の内面性を描いた作品にして欲しいものだ。
久遠    
おばあちゃんの針
奈知美佐子
吉本 良くできたファンタジイ。終わり方が予定調和なのも別に気にならない。まァそんなものでしょう。注目すべきは、この人は徹底してこうしたファンタジイを突き詰めようとすること。そしてその筆にある種の確信がこもっていること。確信犯は一面「やれん」が、つよい。
久遠    
流星の迷宮
森川久美
吉本 整理不足の感がする画面と構成。そしてややずっこけ気味のオハナシ。短編としての完成度はそれほど高くはないが、何故だろう、どことなく惹かれる「かおり」がある。ぶっきらぼうともいえる線がいいのだ。ほかの作品はないのだろうか?
久遠    
秘色
竹宮惠子
吉本 10 …最初からこうなることは分かってはいたが、やはり滅びに向かわざるを得なかったか。一種安易な作劇法ではあるが、やはり悲劇としてよく完成されている。人には死を選んだ方が幸せな場合も存在する。そのぎりぎりの選択を描き切る竹宮は流石につよい。次のシリーズが早く読めることを切に期待する。
久遠    
真夜中のMidnight
西烱子
吉本 オハナシ自体は盛り上がっているのだが、シンヤ=貴幸の描写が相変わらず平板極まりないのが残念。早くオハナシをたたむべきだと思うのだが。
久遠    
シワびろ〜ん。
わたなべえみ
吉本 うむ。意志のある「ダミさ」は逆に極めて崇高である。オハナシの作り自体もダミダミでイイ感じ。ただ残念なのはややPFには合わないか、といったところ。
久遠    

<総評>

吉本 いつもながら安定した連載陣もいいのだが、いのまたゆう子が素晴らしい作品を作り上げてきたのが実に頼もしい。厳しいのかもしれないが「見る目のある」編集が上手くサポートしている様子が良く伝わってくる。派手ではないが確実な「実力」がここにある。
久遠  

<ベスト>

吉本 竹宮、萩尾も素晴らしいのだが、やはりここはいのまたゆう子を推そう。いちいち読み手をつまづかせるヘンテコなリズムが、きわめて現代的なリアリズムを作り出している。この感覚は小田扉の「キッチン」に近い。ともあれ「古典的な」漫画的ドラマトゥルギーでは現代のリアルの姿を語りきれなくなっていることを如実にこの作品は示している。
久遠  

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