プチフラワー99年11月号

曖昧模糊の水

名香智子
吉本 うむ。この世界での「決まりごと」(登場人物の設定や人間関係を含む)が分かってきたので、なかなか読めるようになってきている。やはりやんごとなき人々を描いているので描写に「逃げ」(というか免罪符)が見られるが、それでも名香の描写は登場人物それぞれに向かう。登場人物を丹念に描くことでオハナシに魅力を付与しているのだ。今回の中心人物…アドゥレセンスを迎え、しゃべれなくなった少女…なんてソソるじゃないですか。
久遠    
時の地平線

諏訪緑
吉本 アフタヌーンの大西巷一の漫画と同じような設定。だがこっちは孔明がより所帯じみているし、超常的な力は出てこない。女性が取り組むとこうも違うのか。ほのぼのやってくれそうで期待できる。
久遠    
ちくわぶ・でてくちぶ

小道迷子
吉本 えーと…。何が描いてあるのかさえ良く分からないのですが…
久遠    
ロバノミミ

深谷かほる
吉本 普段の竹書房系のお仕事とは大きく異なり、オハナシで読ませる作品。個人的興味から「聞き屋」をはじめた学生。だが聞いていくうちに、ごく親しい間柄の女の子が妊娠してしまい、彼(これもまた親しい)から中絶を迫られていることを知る…というもの。なかなかオハナシがよろしい。二重、三重に社会的しがらみに絡めとられ、解決策が見出しにくいオハナシを作り出し、それを(やや甘口ではあるが)上手くハッピーエンドにつなげている。きれいなまとめ方は熟練を感じさせる。シリーズものにするのもよろしいかと思うが?
久遠    
夢の扉

奈知未佐子
吉本 より一層絵柄が抽象化され、その分逆にオハナシの「中核」に近づいているように思う。オハナシを語るための要素がすべて上手い統一を見せているのだ。オハナシそのものは「だいらんど」に通じるものだが、ここにある優れた絵本を思わせる統一感は実に心地よいものがある。
久遠    
碁敵

倉多江美
吉本 碁打ち一家のほのぼのしたオハナシ。今回は棋士のお父さんが中心で、付き合いの長い相手との気心の知れた、だからこそ緊張感のある対局がメイン。軽口を叩きながらも実は凄い真剣勝負ってのがいいじゃないですか。これも次が楽しみになる作品。
久遠    
残酷な神が支配する

萩尾望都
吉本 バレンタインの手紙を読み、自分という人間を思い出して行くジェルミ。一方イアンは自分の庇護から逃れて行くジェルミを逃したくないと思いつつも、ジェルミの行動を認めようと努力する。息を吹き返すマージョリーも含めて、オハナシは順調に大団円へと向かっていっている。だがグレッグおじさんはナイスなことにまだまだ健在。簡単に終わらせはしないということですか。「噂の真相」で年内終結、同時にこの雑誌も休刊とあったが、それは噂に過ぎない(であろう)ことを実感させる濃い内容。
久遠    
緑は豆色

神坂智子
吉本 前回の絶望的な…あまりに絶望的なオハナシに対して、今回は地主の息子のサクセスストーリー・その1。カタルシスはある。
久遠    
ジャングリズム

大竹サラ
吉本  
久遠    
死水精の沼

MAYZON
吉本 あまりにも通常の漫画(青年漫画及び女性向けの漫画の両方を含む)の文脈から逸脱した絵。漫画というよりはほぼイラストレーション。だから絵物語としてみる分にはいいのだが、漫画としてみるとかなり違和感がある。ていうか不気味すぎ。評価のしづらいところ。
久遠    
東京ドリーム

わたなべえみ
吉本 「キューティーコミック」に載っててもおかしくないような若者の生活を描いた作品。主人公の失業中の女の子、バンドマンの男の子、ライターで不倫をしている女の子の、それとは気づかないような三角関係がうまーく描かれている。三人とも気づいていながら、口には出せないような微妙な緊張感。やや地味ではあるが、難しい描写に挑戦し、それにある程度以上成功しているところを評価したい。
久遠    
ハピネス

遠藤佳世
吉本 こちらはミツカズ系のシャープな線がウリ。母子家庭で育った男は、彼女が妊娠して子どもを産む、ということになっても、どうにも実感が湧かない。そこで「堕ろしてくれ」と頼むのだが、それは彼女の両親と男の母親とのいざこざへと発展して行く。こう書くと、そのシャープな描線も相俟って、絶望的なオハナシのように見えるが、実際は親とのケンカを通じて二人がまた接近して行くという展開へ向かって行く。ちょっとした微笑ましさとギャグを含みながら。ページ数が少ない中上手くオハナシをまとめ、ギャグまで取り込んでいるところは才能を感じる。やや描線とオハナシが一致してないようにも見えるが、かなり期待できそうな感じの人である。次回作に期待。
久遠    

<総評>

吉本 「残酷な神が支配する」のところでも書いた通り、休刊の噂はたびたび聞くところではある。だが売れ行きはともかく、内容はかなりアグレッシブである。休刊をにおわせる雑誌は共通して、沈む船から逃げるネズミの存在や編集方針の急展開などを我々に見せるわけだが、この雑誌の場合そうした無様さは微塵も見られない。加えて優秀な新人を、これまた確固たるポリシーにしたがって確実に発掘している。とても「終わりの見えた」雑誌には見えないのだが。
久遠  

<ベスト>

吉本 「バーズ」で「羊のうた」が永世ベストであるように、この雑誌においても「残酷な神が支配する」は永世ベスト。今後はこれ以外で選ぶことにしたい。今月は、奈知未佐子も選びたいところではあるが、ここでは将来性を見越して遠藤佳世「ハピネス」にしようと思う。ミツカズなんだけれど、ギャグの使い方が手慣れていて良いのだ。他の仕事はないのだろうか?
久遠  

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