吉本松明「ショタ漫画の様相」

目次

はじめに

とりあえずのショタの定義

ショタの歴史と展開

「狭義のショタ」を構成している四つの要素

1 「広義のショタ」からのアプローチ

2 男性向けエロからのアプローチ

3 女性向けエロからのアプローチ

4 アニメから紡ぎ出されてきたもの

想定されるショタと「純粋なショタ」

おわりに


「4. アニメから紡ぎ出されてきたもの」

4-1 たえまない少年キャラクターの生産。

 「ショタ」の語源は「正太郎くんコンプレックス」であった。そして正太郎くんは、アニメの登場人物であった。正太郎くんがこの言葉の語源になったのは、偶然の結果であったのだろうか。いや、決してそのようなことはない。正太郎くんはアニメの登場人物だったからこそ、この言葉の語源たり得たのだ。
 アニメはその誕生から一貫して子ども向けの側面を失ったことはなく、これからも決して失うことはないであろう。そして子ども向けのアニメは当然子どもが登場人物として出てくるものである。アニメはずっと少年キャラクターを供給しつづけてきたし、これからもずっと供給し続けてゆくであろう。(当然、少女キャラクターも。ロリという動きにおいてもアニメはきわめて重要な役割を果たす)。
 もちろんアニメだけが少年キャラクターを生産するのではない。少年キャラクターの絶え間ない生産という意味では、漫画、ことに少年漫画の存在を忘れるわけにはいかない。『キャプテン翼』、『聖闘士星矢』はともに、『少年ジャンプ』連載中から「ショタ」のネタになっていた。この両者の雑誌連載がなければ、「ショタ」という事象もここまで大きくならなかったであろう。
 現在、キャラクターの供給源は四つ考えられる。漫画、アニメ、小説、各種ゲームである。ショタを語るうえではこの四つのいずれを欠かすこともできない。アニメはほかの三つと同様に、欠かせないほど重要な位置を占めているのである。

4-2 ジェンダー差の弱体化。

 だが何よりテレビアニメが果たしている役割でもっとも大きいのは、文化のジェンダー差を決定的に弱体化したことである。過去においては、文化のジェンダー差は大きいものであった。男の子向け、女の子向けの文化的産物ははっきりと区別されたものであった。 現在においてはどうだろうか。漫画雑誌や一般雑誌においては、いまだはっきりとしたジェンダー差があるものが多い。『コロコロコミック』に対しては『りぼん』や『なかよし』がある。『Boon』に対しては『Cutie』がある。ここにある明確な編集方針の差や、現れる内容の差は一目瞭然であろう。『ガンガンステンシル』や『キューティーコミック』のように、ジェンダー差をなくす方向で編集している漫画雑誌も出現してはいる。この動き自体は非常に興味深いのだが、全体の割合から見ればごくごくわずかである。この差は、書店でお金を出して買わなければならないというパッケージ性に由来している。
 テレビアニメには、どのテレビ番組もそうであるように、メインターゲットとする視聴者層があり、それは当然ジェンダー差を持っている。原作付きのアニメの場合は、原作に由来するジェンダー差があるであろう。『カードキャプターさくら』は女の子向けであろうし、『こち亀』は男の子向けであろう。またオリジナル作品でも、ジェンダー差を考慮していないものは存在しないであろう。たとえば『スーパードールリカちゃん』や『ミクロマン』を見ても分かるように。しかし(とくに地上波の)テレビアニメには、パッケージ性は存在しない。お金を出して買う必要はなく、テレビさえあれば誰でも見ることができる。男の子が女の子向けアニメを見る、またはその逆は、実にあっけなく行われるのだ。「オタク的文脈」においては、アニメにおけるジェンダー差は存在しないといっても過言ではない。『カードキャプターさくら』に熱狂するのは誰か?男性たちである。『ミクロマン』のやおい本を作るのは誰か?女性たちである。
 このように、特にアニメにおいては、男の子だけ、女の子だけを対象とした文化的産物は成立しにくくなり、「男の子的なもの」「女の子的なもの」はどんどんクロスオーバーしてきている。女の子的感性とされていたものを男の子が得るようになったし、逆もまたしかり。社会がはめていた、感じ方におけるジェンダーの制約が、アニメによって弱体化してゆくことになったのだ。だから男性が男の子を可愛く思う、ということも許容されることになり、女性が男の子向けのアニメを見ることも許容されるようになったのだ。許容、というより、「区別がないのが当たり前」になってきているともいえる。そもそも現在のアニメで、男女どちらかを明確にターゲットにした作品が、どれだけ存在するだろうか。『天使になるもんっ!』は、果たして女性向けなのか?男性向けなのか?
 もうひとつ。アニメもまた文化的「商品」であることに注意する必要がある。ウケて売れるためには、なるべく多くの視聴者をつかんだほうがいい。そこで男の子を中心に狙うアニメにおいても女の子ウケする要素は必ず含み込まれることになった。当然逆もまた真実である。なかには最初から「エロパロの素材となる」ために、「あざとい」要素を組み込んだ作品も存在する。
 こうした操作が、ジェンダーの差異を無力化し、「女の子的に男の子を可愛いと思う男性」「積極的にアニメから少年要素を摂取する女性」を生みだしているのだ。


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