2000年7月上旬

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2000年7月8日(土)

貧乳通信 V.A. あまとりあ社 <漫画・アンソロ> 900円

 やっぱりロリは相変わらず元気です。漫画を描いているのは山野紺三郎、流星ひかる、てるき熊、フェニキア雅子、成田山無頼庵、かにかに、栗東てしお、みはらじゅん、宮野あみか、桐原小鳥というメンツ。どれもかなり良く「貧乳」という概念を理解していると思うのですが、特に目立つのが女流(と思しき)流星、フェニキア、桐原の三人です。流星先生はやっぱりお馬鹿なネタで安心できると同時に、今回はエロも比較的ちゃんとしています。フェニキア、桐原のふたりは、少女まんが的描線を使い、少女の可愛さを前面に押し出しているので、危険な領域に達しているといえましょう。タカハシマコ的危険さとでもいうのでしょうか。あとは栗東てしおが面白いです。「おまえ実は○学生だったのか!」と。○学生、っていうところに笑ってしまったことですよ。

アップルパラダイス 3 竹本泉 ノアール出版 <漫画・単行本> 500円

 実は竹本泉の最高傑作なのではないか、と思います。センス・オブ・ワンダーって何だろうか?という問いが自然と湧いてくるような作品ですね。

コンピュータはそんなにエラいのか 柳沢賢一郎 洋泉社新書y <一般> 680円

 「情報革命(IT)がマクロ経済にもたらす効果は小さい。eコマースは主流になりえない。情報革命は「大いなる利便」と「大いなる危険」を内包している。」とカバー見返しにあります。この手のネット・ラッダイト本というのは、一応ちゃんと様々な視角から判断して、その上で「ネットはやっぱり良くない」とするものですが、この本はその点が非常にいい加減です。コンピュータコミュニケーションの「病理」の原因を、匿名性の存在と情報の大幅な拡散・拡大においていますが、そんな問題はスキルがちょっとでもあればいくらでも解決可能な問題なはず。またeコマースの問題についても、それが計量しにくい分野において発達しているために、主流になりにくいとしていますが、きわめて根拠が薄弱であるといえましょう。逆もまた真なのですから。
 作者は1944年生まれの定年前の世代。要するにかつてのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションや、それに依拠した産業構造しか「本当である」と信用できないのですね。ですが事実はどうでしょうか?それが間違いである、ということが即座に知れましょう。自らの世代の正当性を主張するためだけの本であり、コンピュータアレルギーのオヤジを正当化するための言い訳といえましょう。オハナシにならんですよ。
 何故買うかって?敵を知らなくては危ういじゃないですか。

情報倫理学 電子ネットワーク社会のエチカ 越智、土屋、水谷 編 ナカニシヤ出版 <一般> 2400円

 皆さん、「2ちゃんねる」はご存じですよね。この板は一面で便所の落書きのごたるケイオスに満ちあふれています。ですが、一部にはもの凄く統制のとれた、ウィットの効いたスレッドがあったりしますね。ここには何らかの力学が働いているのではないでしょうか。また、Webページなどで、時折非常にルールが厳しいところがあったりしますね。そうしたところは必ずアングラ系だったりするわけです。一般社会では強い逸脱・アナーキーだと思われているところに、強い秩序が生まれる。この逆説にも、何らかの力学があるのではないでしょうか。そこにあるのは合意形成と、それにともなって作られた倫理があるはずです。現実社会の方で私はこの問題に取り組んでいます。なぜかといえば、それがネット以外の社会にも重要な役割を果たすのではないか、と考えているからです。

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2000年7月7日(金)

きれぎれ 町田康 文芸春秋 <一般> 1500円

 お待ちかねの町田康の新作です。気になるのはあたかもクスリでも使ったかのような、急激な場面転換(自分の意志によらず、他のところに移動してしまう…といったもの)が多用されていること。これは一面作品に魅力を付与しているのですが、もう一面でまとまったグルーヴ感の欠如と、「ホントにエルでも食ってるんじゃないの」といった危惧を生みだしています。おそらくはそれも町田の戦略だと思うので、大丈夫だとは思うのですが。

フィールヤング 8月号   祥伝社 <漫画・雑誌> 352円

 内田春菊「見せつけないで これ以上」がいい感じ。売れないイラストレーター、30代前半、自宅、未婚。姉には結婚しないことをとがめられ、仕事はうまくいかない。そんな彼女がはまっているのはインターネットのチャット。ある日、書いた覚えもないのに、周りから注目を受ける。そのうち、自分しか知らないはずの情報が書き込まれて…というものです。一方で適齢期を過ぎようとしている女性の焦りを描き、もう一方でサイバーストーカーの恐怖を描く。特に後者の描写がしっかりしているので、強いリアリティがあります。やっぱり一筋縄じゃ行かない人だ、と感心したことですよ。次に気になるのは三原ミツカズ「Doll」。人間の暗さを描きだすとき、この人は実力を発揮します。行き違いとそれがもたらす悲劇。鬼気迫るものを感じます。単行本化は非常に嬉しいところです。あとは、やまじえびね「LOVE MY LIFE」、こいずみまり「CUT×OUT」が引っかかるところです。

真実録猟奇娘 オクトパスよ永遠に 記念プログラム   <映画プログラム> 477円

 まずこれを見てください。まずは猟奇娘、というネタに惹かれるところです。そのネタを描いているのが、なんと多田由美先生じゃないですか。美麗な絵柄はもう最高。ち、ちちが!加えて川崎ゆきお先生の「猟奇娘」の新作が16ページも載っています。もちろん猟奇王や便所バエも登場して最高に盛り上がっています。「猟奇に走るのは 社会人になるほどやさしくはない」と。猟さん!あんた最高だ!
 で…裏を見てみるとこれです。あまりにも鮮やかなコントラストじゃあないですか。よーく見てくださいこの写真。この猟奇娘の表情と来たら!このオクトパスの造形のもの凄さと来たら!思わず店頭で腰砕けになってしまったことですよ。
 この冊子は、自主作成映画のパンフレットなのですね。48歳の監督が、今時8ミリで、総制作費25万円で撮りあげたという…。素晴らしい姿勢です…。しかもこれがはじめての作品ではなく、以前にも猟奇娘の映画を何本か撮っているという…。もう何も言うことはない、という感じでしょうか。是非作品を見てみたいと思うのですが、関東での上映計画はない様子なのが残念です。
 あと、この会社(?)は、「川崎ゆきお全集」も出しているのですね。しかも5冊も。「見事な負け犬っぷりだ!(コミックマスターJ)」と嘆息したことです。早速月曜日に注文します。

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2000年7月5日(水)

砂さん、また飲みましょう。まだまだお話ししたいことはたくさんありますから。

コミックフラッパー 8月号   メディアファクトリー <漫画・雑誌> 429円

 「グイン・サーガ」に「ブルー・レスキュー」。この二本を軸にして全体をまとめようとしているように見受けられます。主役を張るには少々地味かな、という印象は否めませんが、どちらも上手くまとまっていて面白くなる可能性は高いと思います。とくに高山裕樹には期待。頑張れ上越市民!また、脇を固める、と考えられているであろう作品はどれも良いものになっています。「串P」「グルグリビューティー」「パラノイアストリート」「ひっち」「韃靼タイフーン」。特に「韃靼」は予想を裏切って(?)テンションの高い展開になっているのが面白いです。島本和彦「スカルマン」は今回は石ノ森へのオマージュが満載。先月島本調になりすぎた反省でしょうか。ともかく石ノ森は漫画表現において強烈なアヴァンギャルドをやってきたということが改めて思い知らされます。加えてそれに島本先生ならではのプロパガンダ描写を入れる。見事、と唸らざるを得ません。最後に挙げるべきは柳沼行の「アスミ」。先月に続いて連続の登場です。ロケット事故に巻き込まれて、意識不明のまま死んだアスミの母。アスミは母の本当の顔を知らず、包帯ぐるぐる巻きの様子しか知らない。そんなアスミが川に流されて見たものは…というオハナシです。確かに苛烈な状況を望む人には甘口の展開といえましょう。ですが甘口も上手く塩味が隠されていれば、随分と複雑に楽しめるもの。また背後にある人間への信頼とでもいうのでしょうか、「よき心」への志向は正直こころを打たれるところです。シリーズ連載とかはどうでしょうか?

漫画嫌い 枡野浩一 二見書房 <漫画・書評> 1200円

 朝日新聞の夕刊に連載されていたコラムをまとめたものです。筆者の言によると「本書は『批評』というより『紹介』に体重をかけている」(13ページ)とあります。…これは批判をかわすための予防線であり、ずるい方法だと思います。
 批評と紹介は形式的には紙一重のものであり、それは読み手によって解釈されるものです。読者が批評と読むか、紹介と読むかを、筆者が強制することは本来できないはずです。「こういうふうに読んでほしい」という意図があるなら、文章の内容や文体で勝負すべきでしょう。
 実際の文章の内容や文体は、作品を紹介するという視点で貫かれています。「買ってください」「オススメです」と、逃げを打っている部分はまま見られるものの、全体的に作品を『紹介』し、読者に『読んでみようかな』という気を起こさせる文章には、十分になっていると思います。それぞれの文章は、かなり気が配られた、繊細なものになっているのは間違いないのです。そこはいいんです。なのに読者に読みを強要するような文章を書き、最初に釘をさしておく。大きくがっくりくるところです。
 歌人として、自らの言語世界を守ろうとする意図があるのは良く理解できます。ですが現実世界においては、自分の意図通り読者が読んでくれるとは限りません。作者にとっては幻滅する部分もあるでしょうが、それはマイナス面だけではないでしょう。様々な読者が、それぞれの状況に合わせて、それぞれの読みをするところにも、文章表現の可能性があるのでしょうから。一方で、「この文はこう読んでほしい」という言説は、読みの多様性を減少させ、遵守すべきドグマを作り上げてしまう危険性を常にはらんでいます。そしてそれは言葉を味わい、独自に解釈する楽しみを奪ってしまうでしょう。ですから非常に残念に思うわけです。

 おそらく読んでおられるでしょうので枡野さんへ。この文章を読んでお怒りになったところもあるでしょう。ですがこれが私の偽らざる感想です。ご意見がおありでしたらメールでやりとりし、公開書簡の形にしませんか。私はこの発言に責任を負いたいと思っていますから。

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2000年7月2日(日)

ヤングキングアワーズ 8月号   少年画報社 <漫画・雑誌> 743円

 全体的にテンションは高いまま。「朝霧の巫女」は、本格的に「稲生物怪録」になってきていますし(元ネタご存じですよね)、「トライガン」はもっとも描いてほしくないところを描きだす。「HELLSING」は相変わらずの迫力で、「ジオブリ」の疾走感も健在。そして面白いことに篠房六郎が登場。「男一発六尺魂」って…単なるモーホーではなく、任侠の世界に取材しているのが面白いところです。よく考えられそうなネタを悪意を込めてヒネる。そこに篠房の徳目があります。
 なお、新雑誌「Ours Lite」の告知が本格的に行われています。すくね先生、TAGROは分かるとして、石田敦子さまも登場ですか!そしてやまむらが短編で登場ですか。理想的な雑誌じゃあないですか????

カラフル萬福星 Vol.12   ビブロス <漫画・雑誌> 371円

 「CG漫画のみ」というコンセプトが画期的だったこの雑誌、中とじになってリニューアル。全体的な漫画の数と読み物の減少はやや痛いところですが、値段は半額近く。こうした売り方もアリでしょう。全体的にレベルは高いです。田中浩人「このこどこのこ」は「感応」ということを全面に出し、興味深いエロを作り出しています。また玉置勉強「伯爵とメイド」は、「999」に出てくるような機械人間と人間のメイドのふれあいを描き、切なさをかもし出しています。その中にも痛烈な悪意が入り込んでいるのは流石といえましょうか。けろりんのカラーは相変わらずドエロで抜けますし、粟岳高弘「殲滅の魔女」は、いつものように独特の世界構成に酔うところです。篠房は「アワーズ」同様悪意全開ですし、春沢一「華人」はSFのイラストレーションを思わせる画面が心地よいです。これで読者も増えるでしょう。雑誌そのものに元気がある状態は、読んでいて心地よいものです。

僕は愛のために生きる価値がある MASAAKI. 一水社 <漫画・単行本> 819円

 「東京H」で注目されている作家です。独特の線の引き方、汁気たっぷりのエロさ、何処か危うい、だがだからこそ魅力的なデッサン/構図、画面情報量の多さ…ですがそうした徳目のなかでも突出しているのが、オハナシの上手さでしょう。おそらくは非常に様々な知識を持っているのでしょう、この人は。ですがそれをひけらかすことなく、オハナシに変化をつけるために、その知識を使っています。そのために読者はかなりじんと来ることになるわけです。表紙絵のCGなど、造本にやや難があるようにも思いますが、買って損のない本だと思います。あと関係ないのですが、この作家、随分お年を召されているのではないでしょうか?…いや、何となくそう思うのですが。

Diablo II   BLIZZARD Ent. <PC・ゲーム> 税込み7800円

 町に出たら昨日発売だったというじゃないですか。あと2本しかないじゃないですか。やっちゃったじゃないですか。時間がなくなってしまったじゃないですか。ゲーム自体は前作同様手軽に楽しめる部分を残しながら、使えるキャラクタの増加、スキルシステムの導入など、ボリュームアップはしています。フルインストールで1.5ギガですからね。ただ…フィールドが広い!広すぎる!かつての「ファンタシースター2」などを思い出してしまったことですよ。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:48 JST