2000年8月上旬

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2000年8月9日(水)

外道校長 藤堂源三郎 G.B.小野寺 雄出版 <漫画・単行本> 800円

 「ファンタジェンヌ」に連載されていた作品をまとめたものです。まあ内容的は最高、いや最低というべきでしょうか。はらわたのヨジれるような面白さはいつもながらです。今回の主人公は女子校の校長。学園ものでクビにならない変態教師といえば校長しかあるまい、というセレクトの仕方がタマリマセヌ。最初のセリフが「チンコしゃぶってくれーっ!」ですから。脇を固めるのはロリの教頭とニューハーフの教師、登場するのはめがねの女子高生と無表情系のアンドロイド、例のロリータ番長も登場し、アツ苦しい戦いを見せてくれます。注目すべきは「浪漫回路」という新概念を提示しているところです。「男には胸に魂があるように 右脇腹に”浪漫”が存在する!」と。そして萌えれば萌えるほど浪漫回路は回転し、恐るべきエネルギーを発生するというものです。なんて美味しいネタ!右脇腹、というところに何の説明も根拠もないところもイカしています。ですがいいのです。なんとなく納得してしまうのですから。私もこのネタ使うことにしようっと。

花右京メイド隊 2 もりしげ 秋田書店 <漫画・単行本> 390円

 まあとにもかくにもメイドさんだらけの漫画の2巻目です。今回は筆頭メイドのマリエルの秘密が明かされる…というもので、ちゃーんと少年漫画になってます。脇を固める個性的なメイドさんたちも生きてきはじめているといったところでしょうか。かつてのもりしげと異なり実にきちんと「お仕事」しているわけですが、そこはかとなく感じられる底意地の悪さに安心を覚えるところです。

奴隷っ娘 北原武志 東京三世社 <漫画・単行本> 905円

 特殊きわまりない作家の3冊目。たとえばこんなオハナシが載ってます。ペットショップに立ち寄った女子高生は、そこのオーナーに監禁されてしまう。そして体を洗うことを許されず、精液と体液のにおいにまみれる。それは単なる準備でしかなく、本当の目的は貴重なサルの発情期を彼女に鎮めさせること。そのサルは世界で一、二を争うほど臭く、その体臭を雌の体に染みこませる性質を持っている。彼女の性器は傷だらけにされ、そこにサルの体液が擦り込まれる…という。この人の特徴は「におい」や「無様なピアス」といった不快感を描くところにあります。もちろんよくあるような優しいセックスにはなるわけがありません。登場する女の子たちは、常に屈辱にゆがんだ表情をし、自らの境遇を憎んでいます。三和オークラ出版(しばたたかひろさんの指摘により修正しました)から出ていた単行本と異なり、ややラストに救いのある作品が多くなっているのですが(人体改造する側が逮捕されたり、など)、途中の展開の口当たりの悪さは相当なものがあります。それはSMの構造をとっているので、ある程度サディスティックな人には訴えるところはあるのでしょうが、それにしてもエロとしての一般性はなさそうに見受けられます。
 ですがなぜこの人は描き続けることができるのでしょう?それはやはり「痛さ」を描いているからだと思います。しかも、読者がなるべく不快感を感じるように。その方法論は、ほかに例をみることができません。だからこそ私は注目しているのですね、この人に。ちっとも絵がうまくならないところもまた興味深いところです。

神秘家列伝 其の壱 水木しげる 角川書店 <漫画・単行本> 1300円

 季刊のムック「怪」に掲載された作品を集めたものです。これがまたバカみたいにおもしろいです。なんといっても題材になっている人物がすごいです。いきなりスウェーデンボルグですから。ほかにもラマ僧のミラレパ、ブードゥーのマカンダル、室町時代の僧で40年以上にわたって夢日記をつけ続けた明恵のことが描かれています。漫画の内容のすさまじさについては、私の筆の及ぶところではありません。是非手にとってひっくり返ってほしいものです。そして輪をかけてオモチロイのは、アリャマタコリャマタ先生による解説。「水木氏のすごいところは、妖怪を描いているうちに、人格・人徳・品格がともにアップし、霊的ステージが天井知らずに上がっていった事実にある」と、サラリと書いてしまっているのですから!かのアリャマタ先生からのこの賛辞ですから。ほとんどほめ殺し、妖怪扱いといっても過言ではないわけですが、水木先生のこの漫画を読めば、それが実に的を得た最高級の賛辞であることがわかります。水木先生もさすがに人間としてはずいぶんお年で、そろそろ入滅も近いと思われますが、こういう涅槃系きわまりない作品を描いているのですから、べつにいつ人間としての死を迎えてもかまわないように思います。本当に妖怪になりつつある水木先生の様子を知るためにも、必読の書といえましょう。買え!読め!

CRAFT 6号 V.A. 大洋図書 <漫画・アンソロ> 840円

 ちょっと前から注目しているボーイズラブもののアンソロです。執筆者は順番に河井英杞、紺野キタ、紺野けい子、高松由尚、夢花李、吉川博尉、タカハシマコ、高屋未央。どれもレベルが高くてうなっちゃうのですが、やっぱり抜けているのは紺野キタ、タカハシ、吉川、高屋の四人です。紺野キタはぜんぜんボーイズラブじゃないのですが、その描写の繊細さと人物の存在感には唸らされまくりです。田舎の描写は「蒲原平野系」とでもいうのでしょうか、古泉智浩や高野文子に通じるものを感じます。タカハシマコは狙いまくった「少年愛」もの。懐かしいタイプの(ヴィスコンティがビョルン・アンドレセンに耽溺するようなアレですよ)少年愛が描かれて、その時点ですでにずいぶんキテいるものになっています。美少年はヒラヒラのブラウスを着てますしね。そして展開は唖然。素晴らしすぎ!吉川は前回登場した娼館の少年を描いています。単行本を前提としているとおぼしき世界の広がりは実に好ましいところです。そして最後をしめるのは高屋。いやあ、耽美だ!てな訳でごくごくレベルの高いアンソロになっていると思います。タカハシマコ先生の新作「魔法少年チャイナシュガー」好評発売中ですと!それにしてもこのタイトル!すぐ買いに行かなくっちゃ!!!!

フィールヤング 9月号   祥伝社 <漫画・雑誌> 352円

 三原ミツカズ「DOLL」が最初からとばしてくれています。単行本は買えませんでしたが…。それから今回はかわかみじゅんこが載ってます!ネタはヤク。陸上の得意な女の子。自分のタイムをスタートから逆算していくとベストタイムを出すことができる。そして彼女が惚れた男はヤク中、というオハナシで、途中までは「ロクデナシに惚れる女」というよくある展開になってます。その辺をきちんと描いているのもすごいのですが、問題はラスト。こりゃすげえ!さすがに一筋縄では行きません。かわかみの登場は「キューティーコミック」との激しい勢力争い(客の奪い合い)を想像させますが、私はどっちにせよ両方買うのでどうでもいいです。

エースネクスト 9月号   角川書店 <漫画・雑誌> 619円

 MEIMUの「キカイダー02」が新連載で始まってます。へえ、「キカイダー」ってこんなオハナシだったんだ。リアルタイムで観ていないので、いまいち「S.I.C」などにものめり込むことができないでいたので、こうした展開は有り難いところです。あとは「ニア」「まりんとメラン」など良い感じになってきていると思います。「クーデルカ」が終わっちゃったのがやや残念なところではありますが。

アフタヌーン シーズン増刊4号   講談社 <漫画・単行本> 286円

 表紙には「竹易てあし」と書かなくては駄目ではないですか!やはり目玉は竹易=沙村の「おひっこし」でしょうか。タマビを舞台にしたラブ(コメ?)もの。人造人間ビダイセー、という感じでニヤニヤさせてくれます。なんといっても「無限の住人」に比べて描き込みが多いこと。力の入り方そのものが違うというのでしょうか。これは連載(!)だそうなので、次も期待したいと思います。そのほか鬼頭莫広の短編、「影技」、「みんみんミント(最高)」など、アフタヌーン作家のもう一つの発表の場になっているところも面白いところです。「みんみんミント」で、私はずいぶんと士貴智志を見直したものですよ。ですが特筆すべきはまだほかにあります。一つは田丸浩史が短編で登場していること。これがまあ見事なくらいダメ人間っぷりを発揮しまくっていて面白すぎます。萌ちゃんに萌えれ!そしてもう一つは田丸の作品の次のページ。なんと小田扉の単行本が出るというではないですか。それも「話田家」だけでなく、「みりめとる」で発表した作品も載るというではないですか!!!!かの「としごろとしこ」も「げんこつげんさん」も「こさめちゃん」も「アフロ氏」も載るみたいなのですよ!これには本当に吃驚です。まだまだムーミン谷も捨てたものではない、というところでしょうか。この素晴らしい漫画が同人だけでなく、商業誌として全国で買えるようになるとは。なんだか感動してしまいます。12月の発売が今から待ち遠しいところです。

ガロ 9月号   青林堂 <漫画・雑誌> 743円

 これは懐かしい、Jerryが随分久しぶりに載っています。単行本が出るという告知は随分前から出ていましたが。新作が読めるのは嬉しいところです。連載陣は良い方も悪い方も調子がいいです。いみり、津野、キクチ、駕籠…。駕籠の愛子ネタはさらに真っ黒で面白いことこの上ありませんよ。

コミックビーム 9月号   エンターブレイン <漫画・雑誌> 467円

 新連載はヒロモト森一「SEX☆MACHINE」。すぎむらしんいちじゃない?と思ったあなた、それは半分正解ではありますが、完全な正解ではありません。よりセクシャルな面が強調されており、ヒロモトのバイオレントな絵柄も相まって、非常に迫力のある第一回になっていると思います。…まあ、よりいっそうアフタヌーン作家の流れ行く先、という雑誌になってきている訳ではありますが。ほかの作品はもうこの上なく面白いです。「敷居の住人」「弥次喜多」「非国民」「橋無医院」「BAMBi」…。「やさしい女は何処にいる」が終わってしまったのは非常に残念ですが、雑誌のテンションはごくごく高いです。

ティアズマガジン Vol.53   COMITIA実行委員会 <カタログ> 800?円

 今回はコラムで取り上げてもらってます。「力作の評論」ですって。照れてしまいます。「ぴあの」も取り上げてもらってて、これで売り上げ向上は間違いないでしょう。ただちょっと納得行かないのは配置。なんで島角じゃないんじゃあー!!やっぱりティア主催の飲み会に行かないのがマズいんでしょうかねえ。

寺山修司展 きらめく闇の宇宙   有限会社テラヤマ・ワールド <カタログ> 確か1500円

 新宿は小田急百貨店で開かれている寺山修司展のカタログです。日曜日に行って来たのですが、コンピュータの不調で…。展覧会の内容は、実に素晴らしかったと申し上げておきましょう。直筆原稿がたっぷりと展示されており、寺山のナマの「生」が感じられるものになっていましたし、映像も充実していましたから。割引券を使えば500円で見れてしまうのも素晴らしいところです。やはり現在に必要なのはテラヤマに匹敵する「闇の司祭」であることを再認識した次第です。闇そのものはみんな抱えているのですが、それを表現する人のなんと少ないことよ。今こそ闇を語るべき、と強く思った展覧会でした。

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2000年8月4日(金)

ヒカルの碁 8 ほったゆみ/小畑健 集英社 <漫画・単行本> 390円

 いやあ、盛り上がってます。この作品のひとつの徳目としては、アキラを追いかけるヒカル、そして負けまいとするアキラ、そして成長する二人…という、ビルドゥングス・ロマンとしての側面があるわけですが、最近はそれだけでとどまらなくなってきていると思います。それはおそらくはヒカルやその周囲の子どもたちの「やんちゃさ」とでもいったものを、好ましく描いていることだと思います。もう一つ挙げるならさらに濃厚になってきているショタ味でしょうか。ほった先生も小畑先生もその辺分かっていらっしゃるので、かなり破壊力の強いものになってきていると思います。次が楽しみだ!

つゆだく ピロンタン ティーアイネット <漫画・単行本> 924円

 ピロンタンとしては2冊目になりますか。いろいろなところで仕事をした結果を集めた作品集という趣ですね。なんといってもピロンタン先生一流の大馬鹿漫画がわずかしか載っていないところが残念なところです。「愛LOVEショック!」のアーキタイプともいえる「ニューハーフ変物語」は面白いんですがね。まあ、こんなこともあろうか、といったところです。

ホットミルク 9月号   コアマガジン <漫画・雑誌> 838円

 特集はロリ。にゃんこMIC、ほしのふうた、黒崎まいり、宇内鉄朗がロリ漫画を描いています。なんとも過不足のない人選。みなすきぽぷり先生がいないのを除けば、現在のロリの優れたところをきちんと押さえていると思います。特集以外の漫画の方では、ナヲコ、タカハシマコ先生の登場が非常に嬉しいところです。ナヲコ先生は連載だったのですか!友だちの泣き顔に欲情する女の子、という描写にドキリ。タカハシマコ先生はそれほどエロくはないですが、少女らしさをうまーく表現していると思います。やっぱりやべえ!

インターネットの起源 Katie Hafner & Mattew Lyon アスキー <一般> 2500円

 そりゃあそんなことは分かってはいるのですが、まとめて書いてある本は引用も参照もしやすいですから。

無限のリヴァイアス 4   バンダイビジュアル <DVD> 6000円

 まだ見てないのですが。ヴァイタル・ガーダーが登場して、どんどん展開が「痛く」なってくるところだったと思います。この痛さこそ、現代という時代に訴えかける力を持つものだと思います。見れ。

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2000年8月1日(火)

電脳なをさん 3 唐沢なをき アスキー出版局 <漫画・単行本> 1400円

 いやあ探したこと探したこと。どこに行っても売り切れで、ちいさな本屋でようやくゲットしました。それだけ人気なんでしょうかね。内容はやっぱり非常に面白いです。特にマンガの名作のパロディなんかは。のらくろやコグマノコロスケにはじまり、つげ義春、滝田ゆう、果てはトキワ荘メンバーも俎上に載せる。一方で神をも恐れぬ行為といえるのですが、もう一方で漫画に対する愛をひしひしと感じるものになっています。面白い漫画です。

橋無医院 1 林光黙 エンターブレイン <漫画・単行本> 620円

 「ビーム」連載中の韓国作家の作品です。多くの日本漫画と異なって開きが逆だったり、ハングルの擬音にカタカナでルビを振っていたりと、ちょっと読みづらい面はあります。ですが画面の静謐さと迫力は、凄まじいといえるものがあります。似たような性質を持っている作品には「無限の住人」がありますが、それと違って作画にムラがなく、作画のぶれは新たな表現可能性の追求であるように見えます。まだまだオハナシが全然見えてきませんが、雑誌に比べて伏線が張り直され、先につながる魅力も出ています。雑誌には載っていなかったページが結構あるようなので、雑誌で読んだという人も買いだと思います。

ヒトラーの呪縛 佐藤卓己編 飛鳥新社 <一般> 2200

 日本のポピュラー・カルチャーの中に、いかにナチ的表象が現れているかということを、詳細に記した本です。私も買っている第二次大戦もののムック、ナチ写真集と言うべき「グラフィックインアクション」、ビジュアル系のバンドなどというように、日本にはナチ的表象があふれています。それがどのような位置づけを持ち、どのようなメンタリティと関係を持ち、どのような意義を持つのかを分析しています。まさにカルスタなので面白いのですが、さらに面白いのは漫画やアニメ、やおい系同人誌、遊撃隊などのアングラWebページなども押さえているところですね。だいたいこうしたサブカルチャーとされていたことに対しての分析は、ほとんどアカデミックな文脈では行われてきませんでした。それをナチという切り口で総合的にとらえているために、実に画期的な研究になっていると思います。平野耕太なんかを思い出しましょう。好きな声優は野沢那智(ナチだから)。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:49 JST