2000年3月下旬

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2001年3月27日 (火)

GUNDAM OFFICIALS 機動戦士ガンダム公式百科辞典  皆川ゆか(編著) 講談社  <一般> 15000円

 総ページ約900。重さ約3.5キロ。立ち読み不可能な強烈な大きさ&重さ。吃驚の値段。とにかく見た目からして激烈なインパクトを持っています。「ここまでやるかね」と純粋に感服する衝撃力。加えて聞くところによると、皆川ゆか(少女小説家)は一人でこれを書き、ガンダムに関する文献をほぼすべて読破し、現存しているセルやフィルムをすべてチェックしたそうです。…濃いですなあ。しかもこれは「0083」のデラーズ紛争までしか扱っておらず、「Z」も「ZZ」も「逆シャア」も範囲外だというのです。この規模の本がもう一冊、いや二冊以上出る可能性があるのですね。なんだかもの凄い話です。
 基本的なスタンスは、宇宙世紀100年の時点から、79年の一年戦争や83年のデラーズ紛争を振り返る、というものになっています。そして「これが唯一の史実である(=公式設定である)」という態度をとらず、映画や別メディアで見解やスペックが異なっている場合は、「こういう説もある」と記述しています。たとえばGパーツについては、こういうスペックでありこういう運用がなされる、と説明していますが、「ホワイトベースに搭載されなかったという説もある」としています。映画版とテレビ版の明らかな違いを、こういう方法で吸収しているのですね。これは非常に賢明な方法といえましょう。唯一絶対の事実として記述することは、受け手の想像力の羽ばたきを阻害しますから。オラザクが存在する余地を残すようなスタンスは、正直好感が持てるところです。
 ただこれは弊害も生んでいます。一言でいえば歯切れが悪いのですね。異説異論がきわめて頻繁に登場するものですから、どれが正しいのか、どの情報が信頼できるのかがぼやけきってしまうのです。たとえばザンジバル級の搭載機数は3機から12機、3機+MA2機と幅のある記述になっています。いったいどれが正しいんじゃ!!まあ正しさや正統性を求めるのが目的ではないので、仕方ないことではあるのですが、想像力を阻害しない範囲で「定説」を作っても良かったのではないかと思います。また作品中からの台詞の引用が多いのも気になるところです。「一説によるとアムロ曹長はサイド6でララァ少尉と出会い、次のような会話を交わしたとされている。…(台詞)…。」というように。これは後世書かれた本からの引用ということになっているのですが、こうした記述のために本全体がいい意味では文芸的に、悪い意味では少々冗長になっているように思います。もちろんこれは筆者皆川が、持てる専門能力を発揮した結果なのでしょうが。
 ではこの本は買いなのでしょうか?長所と短所を比べてみたときに、どっちが重いのでしょうか?断言しましょう、金があるなら買わなきゃ駄目です。「本自体が想像を絶している」というだけでも買いです。また文芸的であるということは、読み物として完成されているということでもあります。ページを適当にめくり、そこから読み込むことができます。暇つぶしにも知的好奇心の満足にも非常に有効です。また本の検索性の高さも注目すべきところです。別項目で扱われている単語はすべてゴシック体になっており、真ん中の段は「その情報がどこにあるか」を明示しています。「臨界半透体って何?」という疑問がすぐに解消する構成は感心するものがあります。…まあデジタル化するべき情報ではあるのですが。あとは装丁の良さ。羽良多平吉によるブックメイキングは非常にセンス良くまとまっています。高い本ではありますが、逆に、だからこそ入手困難になりプレミアがつく前に買っておくべき本といえましょう。

薔薇色のみっちゃん 1 大久保ニュー 宝島社 <漫画・単行本> 657円

 みっちゃんは喫茶店でバイトしているちょっと思いこみの激しい女の子。現在カレ無しの彼女は、ステキな出会いを求めます。そんな彼女が他人とちょっと違うのは、人並みはずれた妄想力を持っているところ。ちょっと素敵な男の子を見つけたら、即座に恋愛のストーリーが隅から隅までできてしまうのです。たとえばライフセーバーのカレだったら、助けてもらったことをきっかけに仲良くなり、最初のキスは岩場でチュッ▽。そしてゴールインは浜辺の教会で…ということが、ほんのゼロコンマ数秒で浮かんでくるのです。毎回毎回毎回それは繰り返されますが、あまりの思いこみの激しさに引かれてしまったり、実は彼女持ちだったりして、結局うまくいきません。みっちゃんの幸せはいずこ、という内容です。
 とにかく極端きわまりない内容に大笑いです。妄想といえば漢的オタクの専売特許(小野寺浩二の作品を参照してください)。しかしここではオタクも真っ青の強烈な妄想が繰り広げられます。しかも毎回!ストリートミュージシャン、アスリート、果ては宇宙人まで…。破壊力高いです。こんな女性向け漫画見たことねえです。
 確かに思いこみの激しさや想像力のはばたきというのは、少女まんがの特質であり、女の子が昔から育ててきたものでした。ですからそれをメタ的視点からみて笑う、ということは、禁じ手だったといえましょう。ファンタジイを破壊しますから。しかしここではそれをきわめて極端な形、半ば以上悪意すら込めて表現しています。もちろんそれはギャグのためでもあるのですが、それを受け入れる下地があるから、つまりは女の子はファンタジイを抱いて待っていればよい、という時代が終わってしまったから、可能になったことだと思います。だからこの作品はおかしな人気を博するのでしょう。それから、いわばマージナルな位置にある大久保だから可能になった表現形態である、ということも忘れてはなりません。デビュー以来一貫して、女性向けの、あるいは女性的な作品を描き続けてきたかれだからこそ、女性の間抜けさをニヤリと笑う意地悪な姿勢が可能なのだと思います。

バーニーの絵日記 MINECO  竹書房  <漫画・単行本> 876円

 舞台はナナカマド島に住む猫たち。主人公バーニーは早くに母を亡くし、父は島一番の船・ホープ号に乗って漁に出ている。バーニーは小学校入学を迎えるが、約束と違い父は帰ってこない。優しい周囲の人々に支えられているが…。入学式の時に、バーニーたちは先生にいわれる。「空想力を持って素敵な絵日記を毎日書いてほしい」と。バーニーは父の帰りを待ちながら、日々起こった素敵なことを書き留めていく…。
 ファンタジー、というものは、苛烈な現実のまえに今やその効果を失っているように見えます。ですが現実が苛烈であるからこそ、逆説的にファンタジーは介在しうるのではないでしょうか。それからこの作品はウラに現実性を帯びたものになっています。設定としては未来の話で、人間が滅びた後、猫が唯一の知的生命体になった世界、となっているのですね。そして猫たちには出身地があり、種類(作品中では人種、と言われていますね)もたくさんあります。しかしナナカマド島では差別も争いもありません。「Marieの奏でる音楽」を彷彿とさせるユートピア。それは過去の人類に対する深い反省からできあがっている、ということになっています。痛いですねえ。もちろんだからこそ訴える力を持っているのだと思います。

いちばん上


2001年3月26日(月)

プチフラワー 5月号   小学館 <漫画・雑誌> 467円

 さいとうちほ「アナスタシア倶楽部」が新連載。「韃靼タイフーン」もそうですが、最近ロマノフ王朝ネタが流行ってる感じですね。さすがに熟練したワザを感じさせてくれます。それから俄然面白くなっているのが神坂智子「君くれなゐに」。苦学の末帰国した管太郎だが、お蕾との再会は果たせない。管太郎を待ち続けたお蕾も、わずかなタイミングのズレのために、管太郎と結ばれることはない…手法としては古いのかもしれませんが(連ドラ的?)あえてこういうネタをもってくる、というところに惹かれます。そして管太郎は片山潜と名を変え、社会主義運動に身を投じていくのですから。実際の歴史とリンクさせることにより、オハナシの深みも増しています。これは期待大。あとは名香智子といったところでしょうか。それにしても次回とうとう萩尾望都「残酷な神が支配する」最終回ですか。感慨深いですねえ…。

いちばん上


2001年3月25日(日)

きみとぼく Vol.04   ソニー・マガジンズ <漫画・雑誌> 552円

 まあいろいろあるんでしょうが、私的にはやはり紺野キタ「みあげてごらん」。庭の地中から現れた一人の青年。かれは実は遠い星から来たアンドロイド。暗示をかけて、あたかも昔から主人公の家にいたかのように振る舞うが、主人公の女の子にだけは暗示が効かない。それは彼女が持つ不思議な力のため。主人公はその力のために苦しんでいるが、彼だけは彼女を理解することができる…というものです。登場する要素は実に多いです。これは吃驚のホモネタ、社会からの疎外や孤独などなど。普通ならとてもまとまらないと思われる詰め込み方です。ですが最後に、救いをもたらす理解と家族の絆で、実にうまーくまとめます。流石、といえましょう。その繊細な線もあいまって強い力を持った作品になっていると思います。それから雑誌という形態は今回で終わりとなり、次回からは隔月のアンソロという刊行形態を取るとのことです。やはり季刊では読者の「次が早く読みたい」というニーズに応えられなかったのではないでしょうか。…まあ、紺野キタが読めれば私はそれでいいんですが。

CUTiE COMIC 5月号   宝島社 <漫画・雑誌> 562円

 巻頭カラーは羽海野チカ「ハチミツとクローバー」。今回は梨花さんと花本先生の昔のオハナシになっていきます。確かに「先生、そりゃずるいよ!」と思えるような思い出の理想化ではあるんですが、おそらくそれは心に受けた深い傷を癒すための防衛機制。逆に花本先生が抱えた圧倒的な空虚が際だってきます。そしてあえて梨花さんに真山をすすめる先生と、それに対する梨花さんの答え…。こうしたやりとりはなかなか描けるものではありません。加えて目前に迫った真山、山田、森田センパイの卒業。切なさ一万倍といったところです。一方で森田センパイとはぐちゃんで笑いを取っておきながら、それと矛盾せずに痛いオハナシをもってくるその力量は、心底ただものではないと思います。間違いなく現在の漫画全体で一二を争うおもしろさ。まったくもって目が離せません。次には松山花子「パパには言えないこと」。可愛いお父さんにボンノー炸裂の女子高生を描いたシリーズも今回で最終回。病弱で可愛い、ボーイズラブなら間違いなく総受のお父さん(17歳)が「家族を守るために頑張るんだ」と。も、ん萌へー!!ボーイズラブの構造をうまく換骨奪胎し、良質のエンターテイメントに仕上げていると思います。絵こそ少々改善の余地があると思いますが、「きみぼく」でもこの人の作品は光っていたので、注目していきたいと思っています。あとは大久保ニュー「薔薇色のみっちゃん」でしょうか。前回出てきた宇宙人の男の子ナサくんは、本気でみっちゃんとラブラブになるようですね…。宇宙人と結ばれるんですか…。少女まんがの常識をはるかにすっ飛ばした驚きの展開。こんな漫画見たことねえです。
 …とまあ、「素人臭い」とか「内容が薄い」とか言われているようですが、それは読み手の力量がないだけの話。ページ数の多さもあいまって、かなり充実した内容になっているのではないでしょうか。

アフタヌーン 5月号   講談社 <漫画・雑誌>

 平田弘史「首代引受人」が久々に登場。こうした劇画作品をフルCGでやるっていう試み自体が面白いではないですか。またオハナシのあっさり加減も逆に好ましいです。以前だったら徹底的にあがいて全滅、となるところなんでしょうが、改心して切腹して終わりですか。なんちゅうアンチクライマックス!ただ、この作品発表ペースはやはり間隔があきすぎ。季刊ペースを維持して欲しいものと切に思います。それから最近とみに面白くなっているのがひぐちアサ「ヤサシイワタシ」。この学生時代独特の遊離感がいいです。あとは…なにも言いますまい。

Boysピアス 5月号   マガジン・マガジン <漫画・雑誌> 714円

 ハード系のボーイズラブ雑誌です。毎回ホモビデオをカラーページで紹介しているのが微笑ましいですね。今回素晴らしかったのは寿しうこ「尻掘れ!ワンワン」

 




 …あ、すいません。少々気を失ってました。あまりに素晴らしいタイトルなもので。世のド下品なオヤジでもこんな言葉遣いはしないでしょう。すさまじいまでの言霊がここにはこもっています。そして内容もサイテー。可愛い男の子がワンちゃん(バター犬として訓練されている)にヤラれちゃう、というものです。その後かっこいい男にもヤラれちゃいますが。ああ、ボーイズってこれだからやめられません。

コミックガム 5月号   ワニブックス  <漫画・雑誌>
マガジンZ 5月号   講談社  <漫画・雑誌>
天からトルテ! 11 近藤るるる エンターブレイン  <漫画・単行本>

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2001年3月24日 (土)

こさめちゃん  小田扉  講談社  <漫画・単行本> 950円

 待望の単行本。「マグナム増刊」他で連載された「話田家」、コミックビームに掲載された「スミ子の窓」を中心に、同人誌(しかもコピー誌!)で発表された作品を加え、まとめたものです。同人誌で発表された作品が本のタイトルになるとは。そしてそもそもまず、この人の作品が商業誌で読めるようになるとは。ここまで来ると奇跡といってもいいでしょう。担当編集の(編集生命を賭けた??)強いプッシュが感じられます。
 そして内容はというと…そのプッシュは間違いではないことがよく分かるものになっています。確かにもの凄く売れる、というタイプの作品ではないでしょう。ですが内容は非常に現代的で、なにより「今だからこそ」強く響く感動の姿を持っているように思います。たとえば「話田家」。寡黙な長男三郎、しっかり者の長女絵美、アタマのネジがどこか飛んでいる草夫の三兄弟。父は家を出て母はそのショックで入水自殺…という家庭をひょうひょうとしたタッチで描いています。一見でこぼこな三人のさまを描くことがポイントのように見えますが、実は作者のねらいはそこにはありません。すっとぼけた描写を通じて、ごく間接的な形で、「家族の絆」とはなにか、ということが描き出されるのです。ひどく遠回りな作業。「スミ子の窓」も同様です。天涯孤独になり素直になれないスミ子は、遠回りを重ねてちょっとだけ素直な顔を見せます。
 現在の世の中は、複雑化を重ね、カンタンにことは運ばなくなっています。まず手続き的にそうです。また人の心もカンタンには読めませんし、こっちの心もカンタンには伝わりません。ですからそれを嘆き、「簡単にいこう」とするムーブメントが起こってきているように思います。ですがそれはことの本質にふたをし、逃げているだけでしかないように思います。必要なのは複雑さを受け入れること。それを通じてしか、本当に伝わる気持ちとかはあり得ないのだと思います。小田に対しては何度も同じことを述べてきましたが、単行本という形になってそれがひどく説得力を持って伝わってくるように思います。
 ともかくここにこそ、新しい漫画の形があるのは間違いありません。漫画好きなら絶対に読まなければなりません。

ブンカザツロン 唐沢俊一&鶴岡法斎 エンターブレイン <一般> 1500円

 オタク第一世代の師匠と第二世代に属する弟子の対談。いまの文化状況に対して徹底的に語り合う、という内容になっています。
 内容はともかく、こういう本を出すということ自体、非常に戦略的なことだと思います。いまオタク文化の水面下で進行しているのは、世代間抗争であるといえましょう。伊藤剛が起こした裁判で顕在化し、ロフトプラスワンのトークライブにもなっています。そこで常に争点になるのが、「誰が本当のオタクなのか」ということです。パイオニアである第一世代は「われわれがつけた道がなければ今のオタク文化は存在しない」と言い、対して第二世代以降は一般化し、当たり前のものとなったオタク文化を踏まえて、「第一世代の感覚は現状とズレている」と言うわけです。そこに齟齬が生じ、結果として主導権争いが起こるわけですね。
 この本はまさにその闘いに勝利するために出されたといっていいでしょう。第二世代を叩きつぶし、「これこそがオタクである」と宣言するために。第二世代に属す鶴岡を「弟子」と認めているのもそうした政治力学の一環です。より生臭い話をすれば、主導権を握った側が、より多い収入を得るわけです。ですから自然とその闘いは苛烈なものになることが見えてきましょう。オタク文化は今や、「我こそが正統なオタクである」という闘争のアリーナになっているのですね。
 ただこのことは、逆から見れば第一世代から第二世代への応援と見ることもできます。努力しないと噛み殺すぞ、というメッセージでもあるのですから。確かに第二世代で、唐沢を超える努力をしている人は少数でしょう。もちろん私も含めて。ですからもっと努力しないといかんな、と思います。

妖魅変成夜話 2 岡野玲子  平凡社  <漫画・単行本> 860円

 瑞雲のもとに生まれた秀才・李成譚。皇帝に「ふしぎ事件」を上奏する部署に就職し、龍将軍の部下となる。そして「ふしぎ事件」の調査に送り込まれることになる。何故かかれに惚れている幽霊娘と狐少年を引き連れて。「陰陽師」の息抜きとして(?)始まったこの連載も、回を経るに連れてさらに肩の力が抜け、ええ感じに脱力系になってきています。柔らかい、ふにゃふにゃした筆の線がいいんですね。そして主人公李は、運命というか、人の手ではどうにもならない物の怪や天の神たちの都合で、これまたええ感じで玩弄されるのですね。「能瀬くんは大迷惑!」「敷居の住人」と同じ、登場人物をもてあそんで楽しむという構図がここにあります。見た目こそ随分違いますが。そのためニヤニヤしながら読めてしまう作品になっていると思います。

恋愛譚  楠本まき PARCO出版 <漫画・単行本> 1900円

 

D-ANGE 4月号   ヒット出版社 <漫画・雑誌> 333円

 

銃漫 vol.1   松文館  <漫画・雑誌> 467円

 「コミック燃絵」がタイトルを変えて再スタートしています。やっぱり不健全図書指定のせいなんでしょうか。内容は一緒です。

ホビージャパン 5月号   ホビージャパン <立体・雑誌> 743円

 特集は「エゥーゴの精鋭たち」。当然百式がメインになるわけです。最近は作るヒマがなんにもないのでちょっと遠ざからざるを得ないのがつらいですね。

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2001年3月22日 (木)

TOKYO TRIBE2 Vol.5  井上三太 祥伝社 <漫画・単行本> 905円

 圧倒的な力を持つ刺客・ジャダに恐怖を覚えるメラ。一方サボテンの策略により、再び戦争状態に入ろうとするムサシノクニSARUとイケブクロU-RONZ。書記長の裏切り…。描かれる要素は実にポップ。登場する人物の造形といい、「チーム」から発展した「トライブ」という集団といい。しかし背後で動いているのは、実に大きな「物語」なんですね。きわめてはっきりしたドラマトゥルギー…メラと海との確執と和解…がここにあります。ですから、この作品は、見た目は非常に新しいにも関わらず、中身はいい意味で非常に古くさいといえましょう。これもひとつの「作家性」や「ドラマトゥルギー」からの反動なんでしょうね。大きな物語が見失われてしまったがために、大きな物語を作り上げようとする。
 もうひとつ、Boonの読者、すなわち路上に過ごす(ことを良しとする)若者に、この作品が大人気を博していることに注目する必要があると思います。路上とは既存のリアリティの崩壊がもっとも先鋭的な形で進んでいる場所であるはず。なのにそこに暮らす彼らは、過去のリアリティの様式に依拠する「大きな物語」に喝采を送る。それは「やはりリアルがなければダメなんだ」という論の証左にもなるでしょうし、「いや、ここにあるのは過去のリアルと今のリアルが融合したものなのだ」ということもできるでしょう。どちらなのかを見極めるには、詳細な調査が必要でしょうが、とりあえずもっともリアルが崩壊している場で、昔ながらのリアルを追求する作品がウケているという事実には、注目しておく必要があると思います。

花右京メイド隊 3 もりしげ 秋田書店 <漫画・単行本> 390円

 「こんなのもりしげじゃない!」と叫びたくなる気持ちも分かります。ですが、よく研究しているじゃないですか。萌え要素たっぷりのキャラクタを配し、うまくそれにあわせたオハナシを用意し…。もりしげといえばその賢さが目立っていたわけですが、この作品でもそれが遺憾なく発揮されていると思います。アニメ、か…。

雪の峠/剣の舞  岩明均 講談社 <漫画・単行本> 680円

 「マグナム増刊」に連載された「雪の峠」。「ヤングチャンピオン」に連載された「剣の舞」。どちらも戦国時代末、戦乱の世が終わりつつある時期に生き方の変更を迫られる人々を描いています。これまたなんという方針変更でしょう。「寄生獣」などに見られたSFテイストから、時代劇への転換なのですから。ですが読んでみると、通底するものがあることが分かります。かれが描こうとするのは、人間の姿であり、それが必然的に描き出していく物語なのですね。その意味でこの作品は、実に文芸的なものになっていると思います。漫画においてはまだまだドラマは有効なのだな、と思わせる作品といえましょう。世の漫画からどんどんドラマが失われているために、この作品のドラマが(あるいは「寄生獣」のドラマが)生きてくるのかもしれませんが。

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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:51 JST