2000年6月上旬

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2001年6月8日(金)

"徘徊老人"ドン・キホーテ  しりあがり寿 朝日新聞社 <漫画・単行本> 1200円

 登場するのは家を抜け出したと思しき老人。手には槍を持ち、新聞紙で折ったカブトをかぶり、相手とするのは世の中すべての悪。偽りの癒し、空虚をまき散らすテレビ、事なかれ主義、それでも人々が待ち望むカラッポの神様。そして火事の中死んだ妻を追い求め、介護士のサンチョにかしづかれながら、日々悪を探し街を徘徊する…というものです。その戦いは徒手空拳であり、まさにボケ老人だからこそ可能なもの。ですが元ネタであるドン・キホーテの戦いと同様、老人の戦いは現在我々が陥っているおかしな状況を浮き彫りにします。ですから老人の言葉は痛く突き刺さります。「人類の罪で自分の罪をごまかせるかーっ!」など。「ドウブツマンガ」「オーイ!メメントモリ」「ア○ス」などに見られるような、現在の社会に対するしりあがりの深い悲しみが感じられます。
 ただ、ここで描かれる悲しみは、ちょっとストレートに過ぎるかな、と思います。対象がわかりやす過ぎるのですね。直接アプローチは業田良家のように、多くの読者に直接訴える力を持つのですが、業田がまさにそうであるように、容易にニセモノのカミサマになってしまうのですね。あるいは説教くさくなってしまいますし。もちろん「ゲロゲロ・プー・スカ」を描いたあのしりあがりですから、そう簡単に教祖さまにはならないと思うのですが、少々危惧を抱く次第です。

マンガ・エロティクス・F 2001Vol.5   太田出版  <漫画・雑誌> 800円

 巻頭カラーは大槻保彦。そう、あの「フラミンゴ」でロリ絵を描いていたあの人です。絵物語の体裁を取っているので漫画としてはナンですが、絵の世界はいいですねぇ。基本的に松本次郎とか福山庸治とかダメなんで、雑誌自体読むところは少ないんですが、やっぱり卯月妙子はいい感じです。なんちゅうか、オトナの関係というんでしょうか。で、もう買いません。たぶん。来月は砂先生登場といいますがねぇ。

フィールヤング 7月号   祥伝社  <漫画・雑誌> 352円

 やまじえびね「LOVE MY LIFE」が最終回を迎えてます。父親を見返すためだけに司法試験を受験しようとするエリー、会えないでさびしさを募らせるいちこ。エリーの行動に疑念を覚え、本格的に別れを考えるいちこ、という展開です。正直オハナシの展開は仰天→拍子抜け、という感じですね。そんなのありか!という。ただ絵柄と構図がそれを感じさせない端正なものであるために、ちゃんとまとまっているという印象が強いです。これは単行本購入決定。続いては高口里純「ラ・グランダム」が一挙50P近く掲載されています。「虹色仮面」でおなじみのキャラクタを使ったハイソなオハナシですが…いかにもなオハナシが逆にフィーヤンでは生きて見えます。それから連載とは違ったオハナシで攻める南Q太「こどものあそび」が興味深いですね。田舎での子ども時代を描いているのですが、これがまたリアルに子どもを描いているのですから。それと同じ文脈で魚喃キリコ「Strawberry Shortcakes」も興味深いです。田舎を思い出して涙するちひろ、という描写なんですが、これまでのキリコについぞなかった田舎への郷愁が描かれているのですから。私が嫌いな部分はいつもの通りなんですが(特に今回は内田春菊「吉沢陽子物語」と堀内三佳「夫すごろく」がヒドいですね)、まあ読める作品があればそれでいいかと。

麗人 7月号   竹書房  <漫画・雑誌> 686円

 やっぱCJ Michalsky「海亀卓球物語」でしょう。主人公はラグビー部のエース・亀山。SG系の体格を誇る亀山だが、卓球部の美形竜崎先輩に一目惚れ。卓球部に乗り換えようとするが、入部テストに失敗し門前払いを食らう。ひとり練習する亀山のもとに現れる竜崎。「そんな鈍重な動きでは卓球は無理、この海亀の甲羅を背負って練習せよ」と勧める。そして最高の練習道具はまさにピンポンボールであると主張する…。凡庸な作者なら間違いなく亀×竜とするところでしょうが、さすがにCJはひと味違います。誰がどう見ても受けの竜崎が、実はキチク攻めなのですから。そしてクライマックスは海亀の産卵シーンです。これは吃驚、卓球部という設定はこのクソくっだらないシーンのためにつけられていたのですね。あまりの見た目のインパクトに気絶しそうになってしまったことですよ。これだからボーイズあさりってやめられねえっす。

drap Vol.13   コアマガジン  <漫画・雑誌> 752円

 まずは前号から注目していた逢坂みや「DOGHOUSEスクランブル」がいい感じで終わっていますね。捜査一課の刑事深海(25歳)はすっかり室内犬モードになり、彼氏の前でチョー可愛い泣き顔とか見せてしまいますよ??フリークスばんざあい!それからもう一つ引っかかったのが桃月はるか「Lovely Sign」。とある幼稚園にはふたりの「天使」がいた。幼稚園に通う翔くんと、そのお兄さんであるところの圭くん。圭くんは保母さんたちにもお母さんたちにもモテモテなのだが、唯一男性の保育士堺先生に「好きです」と告白。堺先生は圭くんの気持ちがよく分からずどぎまぎするが、母親代わりと思い納得しようとする。しかし…というものです。これはまず絵が端正で、しかもショタ入っていて(ここが重要)いいんです。でもさらにいいのがオハナシ!5ちゃいの翔くんと16歳の圭くんが*共謀して*堺先生をオトそうとするのですね。いやー病が深いです。
 ただ全体的にアクが強くなく、あっさりと読める絵柄&オハナシが多いのには変わりありません。これはボーイズの入門書としてもいいかな、と思います。

ヤングアニマル No.12   白泉社  <漫画・雑誌> 248円

 田中ユタカ「愛人」痛ぇよなあ。また涙してしまったことです。人は暗黒に、まったくの悪意に身を投じることもできます。それはその逆が可能であるように。その両方が可能だからこそ人間は尊いのですが…。むろんそれから目を逸らさずに、まっくろな悪意を包み隠さず描き出すその筆に、限りない迫力を感じます。それからたくまる圭「吉浦大漁節」。漁村を舞台に独りで暮らす少年を主人公にした、ちょっと古くさくもあり力強くもある作品が始まっています。畑中純みたいに絵がマッチョじゃないところを強く評価したいと思います。

エースネクスト 7月号   角川書店  <漫画・雑誌> 619円

 岩原裕二「地球美紗樹」と田丸浩史「今月のヒロシ。」があれば、あとはどうでもいいです。それにしても「地球美紗樹」の展開と来たら!変身できなくなってしまったニオくんに果てしなく萌えーーーーっ!作者お得意のミステリ的展開も破綻していないところがいい感じです。

コミックビーム 7月号   エンターブレイン  <漫画・雑誌> 467円

 この雑誌を手に取るたびに身が引き締まります。…行きますよ。
 まずはしょっぱなから金平守人「カネヒラデスカ?」がキメてくれます。表紙にして巻頭カラーですか?狂気の沙汰としか思えません。ですが内容はいつもとちょっと違ってちゃんと巻頭向けになっているところが面白いです。きっとねないで考えたんでしょうね。
 それから志村貴子「敷居の住人」。今回はくるみちゃん登場なんですが、この「あえてメガネをかけさせている」というところが心憎すぎます。こーちゃんとくるみちゃんを急接近させておいて、くるみちゃん退場か?と思わせておいて、ナナコさんと一緒にいるミドリちゃんと会わせてしまうなんて…一方ミドリちゃんの方はどこ吹く風、といった感じでテディベアづくりに精を出す、と。なんにも進んでないじゃないか!と思わせる巧妙な偽装工作がなされているところが素晴らしいじゃないですか。
 続いては小池圭一「ウルトラヘヴン」。前回掲載時は直接ドラッグの描写はなかったのですが、今回はドラッグがすべてを支配する近未来社会、を意図的にリアルに描いています。フラッシュバックが起こったらこのドラッグを即静注。気分がふさいだらセロトニン系のドラッグを、疲れたら温泉効果のあるドラッグを…という内容です。やや観念的にすぎた全作に比べ、諧謔精神込みで面白いじゃないですか。妙にリアルな画面構成がおもしろさを深めていますし。まぁネタ的にまずいかな、とは思ったりしますが。
 そしてTKD/竹谷州史「LAZREZ」。ついに開幕を迎える日本初のレイヴ。暗闇と混沌の扉を開く司祭(DJ)としての万尊を待つヤマザキ…という緊張感あふれる展開になっています。「愛人」のところでも書きましたが、人間は光に身を投じることもできる一方で、深い暗闇にも惹かれるものです。そしてその暗闇を積極的に広めようとするヤマザキ、という存在を描くことによって、この作品は人間そのものを問いかけるものになっていると思います。ロックの中にある哲学的な部分へと足を踏み入れているのがスリリング。全く見逃せない展開だと思います。
 最後にこれは嬉しい新谷明弘「期末試験前也 未熟者たち」。水中の微生物を研究する宿題を出された例の主人公ですが、水中にメガネで髪の長い女の子型の微生物を見つける。彼女(?)は主人公の血を好物とし、日に日に成長する…というものです。最近の新谷は「理系的エロス」にあふれていてひどくいい感じですね。モロにセックスを想起させるような内容では全然ないのですが、血を直接のませたりするところなんか、理性的レベルでエロく感じちゃったりします。矛盾した言い方かもしれないんですが、これもまたありかと。まあもっと頻繁に登場してくれると嬉しいんですが。
 で、最後に…といいたいところですが、今回は金平が巻末にないので、これはこれでかなり違和感がありますね。いい意味での違和感ですが。こういう風に感じる雑誌はやっぱり他には絶無だと思います。

いちばん上


2001年6月7日(木)

エヴァーグリーン 米倉けんご  ワニマガジン社 <漫画・単行本> 505円

 ヨネケン初の長編作品。「快楽天」に掲載されたものです。高校生の尚雪には両親がいなく、ふたりの姉…萌子と若葉…と一緒に暮らしている。尚雪は若葉に姉弟という枠を越えた恋愛感情を抱いているが、肉体関係を持っているのは萌子との方。一方若葉は尚雪の親友・雄鷹の家庭教師を務めることになり、しばらくすると体を重ねるようになる。しかしこうした関係にもきしみが生じ始める。萌子が尚雪の子を身ごもったことがわかり、若葉が自分の本当の気持ちに気づいてから…というオハナシです。
 最初はちょっとガーリィに、かわいらしくオハナシは始まります。しかし、回を重ねるにつれて、描線はどんどんドライになっていきます。オハナシもまた同様で、油の切れた歯車のようにきしみを見せていくことになります。ですがそこにはドロドロになる、という感覚はなく、どこか突き抜けた乾きがあります。セックスシーンはひどく上手で、汁気たっぷりなのですが。

 …すいませんまとまらないのであとでまた書きます。

ルチルSweet 2   ソニー・マガジンズ  <漫画・アンソロ> 950円

 

いちばん上


2001年6月6日(水)

テスタロト 2 三部敬  角川書店  <漫画・単行本> 900円

 荒木飛呂彦による帯の文がイカしてますね。「三部敬の描く世界には『立体的色気』がある」と。やっぱりこの人絵が極端に上手いのですね。それはきちんと空間を画面の中に描き込んでいるためだと思います。思えば「菜々子さん的日常」の微笑ましいエロさは、空間の中に確かに存在しているように見える、立体感のある菜々子さんのおっぱいやおしりに由来していました。もちろんそれはここでも存分に発揮されるわけです。…まあ、ハードな内容と女の子の描き方にちょっとギャップがあるかな、と思いはしますが。
 内容もまたハードでいいです。宗教戦争、しかもさらにたちの悪い内部抗争へとオハナシは展開していき、なぜレオニダスは戦うのか、レオニダスの戦いの裏には何が隠れているのかが明らかになっていきます。そして師と仰ぐ審問官ガリンシャの死。1巻では冷徹極まりなかったレオニダスが人間の表情を示すようになっていきます。これは、ある意味他のどの作品とも似ていなかった1巻の雰囲気を壊す展開であるようにも思います。普通の漫画と同じになってしまった、という意味で。ですが普通の漫画としてみるならまったく正当といえましょう。組織の一員としてではなく、信仰のために戦うのではなく、自らのために戦おうとするレオニダス。そこに少年漫画的「成長」があるのであり、人間性の回復があるわけです。これが燃えずにいられるでしょうか!

性本能と水爆戦 道満晴明  ワニマガジン社 <漫画・単行本> 505円

 「快楽天」に掲載された作品をまとめたものです。とにかく内容は圧倒的。道満晴明という作家の才能を存分に感じることができる内容になっています。
 この人の魅力は大きく二つに分けられると思います。ひとつは人を喰ったオハナシ。読者の期待や予想をしなやかに滑らせていくところがたまんないところです。夢オチかと思わせておいてホントに夢オチなんだけれどもうひと滑りさせる「000000013DAY」。痛みをこらえる入院患者をケムにまき、ついでに読者もケムにまく二人の看護婦が登場する「るろうに検診」。基本的に読者を突き放しきったところからオハナシを始めているところがいいのですね。ですからオハナシは本質的な意味でのシュールなものになるわけです。既存の漫画の文脈からいえば破調この上ないのですが、はぐらかされる楽しみを受け入れることができれば非常に心地よいものになるわけです。
 それからもうひとつは以前から発揮されていた「読ませるオハナシ」です。「快楽天」という場のせいもあってか、この本では「海と毒薬」「トゲトゲ」「SIDE SHOW」「PHANTOM PAIN」と豊作です。道満の描き出すオハナシは現代の寓話として強く心に響きます。たとえば物言わぬ人魚を助けた青年。彼の3人の兄は戦で怪我を負い、それを癒すために人魚の肉をそれぞれ要求する。青年は人魚の肉を渡すことを拒み、代わりに兄たちが失った耳を、目を差し出す。しかし一番目の兄は瀕死であり、彼に命を要求する…という「海と毒薬」。しっかりしたおとぎ話的な構造があることが分かります。そして描き出すのは青年と人魚の深い心のつながりと、それを失ったときの深い悲しみ。「トゲトゲ」ではそうしたこころの動きはさらに鮮明に描き出されます。エロ描写を抜き去れば、じゅうぶんに子ども向けの良質な絵本として通用する内容。もちろん大人の心も深く突き動かすわけです。こうした作品を描ける作家はエロでは道満以外皆無ですし、非・エロでも紺野キタなどごく少数でしょう。それだけこの作品は際だっているというわけです。
 さらに興味深いことは、そうした「読ませるオハナシ」と、人を喰ったオハナシが矛盾なく共存しているところだと思います。どちらか一方に偏るのではなく、常にアタマが攪拌されるような読後感。照れがあるためにこういう方法を取るのでしょうが、結果としてひどく「いま」に引っかかるものになっていると思います。小さい版型で出るのが実にもったいない、エポックメイキングな一冊といえましょう。

フラッパー 7月号   メディアファクトリー  <漫画・雑誌> 429円

 新谷かおる「刀神妖神伝」、和田慎二「超少女明日香」と続くと、なんだかタイムスリップしたような印象を受けますね。何年前の雑誌じゃ!しかも白泉社と決裂して宙に浮いていた「ピグマリオ」とかを出すという…あんまりいいプランとは思えないんですがねぇ。佐々木淳子とかの再販も。ただ士郎正宗「アップルシード」を文庫で出す、というのにはど吃驚ですが(これにしても終わってる作品なのは間違いないですが)。
 それはともかく。前2本のトンネルを抜けるとあか抜けた雑誌になります。パートカラーの木原浩勝/志水アキ「雲のグラデュアーレ」は、コトがなぜ義賊団に加わるようになったかを描いている回想編の続きなんですが、実に魅力的に女の子が描かれているんですね。考えることと行動が上手く結びつくバランスの良さ。状況から善し悪しを判断しようとする思慮深さ。そしてさりげなくのぞく育ちの良さ。志水の画力が上手くそうしたことを描き出しているのがいい感じです。それから新人漫画賞受賞の深木紹子「Sing Like Playing」。まだまだ線が雑に見えますが、それは味のある線が引けることの証拠。伊藤真美に通じるものを感じます。次回作を見てみたくなる新人にばっちりスペースを割く、という編集姿勢もええ感じ。あとは新居さとし「女神の鉄槌」、駕籠真太郎「パラノイアストリート」、最終回を迎えた永野のりこ「ひっち&Go!!」と読み応えのある作品が揃ってます。さすがに「スカルマン」の抜けた穴は埋め切れていないかな、とは思いますが、そこは新人登用でカバーして欲しいと思います。

いちばん上


2001年6月5日(火)

コミックバンチ No.05   コアミックス/新潮社 <漫画・雑誌> 210円

 話題の韓国漫画であるところの作:ジョングッジン+漫画:梁載賢「熱血江湖」は…思った通りあんまり面白くないですね。韓国の漫画事情は日本より数年遅れているはず。当然韓国で現在大ヒット、という作品は、日本では古くさくなるというわけです。あるいは別の考え方をすると、韓国で大ヒットしているということは、日本でいうなら「ジャンプ」や「マガジン」で大ウケしている作品ということになるわけです。あえてそうした作品に背を向けたこのバンチでは、それは似合わなくて当然というものです。さて、どうなることやら。
 ただ雑誌としては好調であることに変わりはないように思います。そりゃ「AH」とか「山下たろー」みたいなすでに終わってる作品はありますよ(山下たろーくんに夢を見たい、という気持ちはありますけどね)。ですが「眠狂四郎」「蒼天の拳」「わー太」とホネになる連載が非常にしっかり読ませてくれるのですね。前二者は思わせぶりな展開と、「実は…」という意外性が読者をガッチリ引き込みます。「いいなあ〜」っていうものです。それから「わー太」は、思った通りオハナシが非常にしっかりしているのですね。前から指摘しているとおり、この人絵だけじゃないんですって。
 雑誌はすべて面白い作品だけでできている必要はないと思うのですね。確かに「ビーム」とかの例はありますけど、「IKKI」は濃すぎて読み込むのが大変ですから。面白くて次回が楽しみ、という作品が1本でもあればその雑誌は買いであることを考えると、3本+αも読める作品があるこの雑誌は十二分に合格だといえましょう。

桃姫 7月号   富士見出版  <漫画・雑誌> 505円

 今回も濃度が高いです。胃之上奇嘉郎がいい仕事をしているのがまずは目を引きます。作品名は「Empty」。いくらセックスしても、いくら多くのペニスを受け入れても、満足することなく心に空虚を抱え続ける女性教師。濃厚極まりないエロ描写でありながら、そうした文芸的主題を織り交ぜていくところがやっぱり侮れません。そりゃ読後感は玉置勉強などと同じく苦いんですが、それはいい漫画であることの証拠。「つまんない」なんて言う奴&編集は置いていけばいいんです。それから木静謙二「Find」が最終回を迎えています。途中からホノボノ路線を放棄してヤクの絡んだハードな展開になりましたが、独特の上手い絵の世界は注目されてしかるべきもの。今度は肩の力の抜けた、オコサマ大活躍のお馬鹿なオハナシなんでどうでしょう。
 あとは山田タヒチ、しろみかずひさ、モリス、りえちゃん14歳、長谷円と濃いラインナップなんですが、そうした濃い人々を平伏させるような特濃作家が載ってます。第六天魔王グレート、です。作品名は「格闘姫通信2」。そう、あの空手部の部長八重さん(ムキムキ)が帰ってきました。発達しきった見事なキンニクを読者の前にイヤというほど見せつけてくださいますよ??もちろんヤワなダミオタクは「抜けねえ」とかほざくんでしょうが、それは風流が足りないというもの。過激だから、とんでもないから、突き抜けているから面白いんじゃないですか!これは是非ともこの八重さん(ムキムキ)シリーズで一冊の単行本にして欲しいと思います。出たら宝物にしますとも、もちろん。

ヤングHip 7月号    ワニマガジン社 <漫画・雑誌> 362円

 今月は最初からアウトです。なにせ巻頭カラーがもっちー「魔界のプリンセスプリティー美沙」なのですから。カラーでプリティー美沙、マジカルあずさ、エンジェルナナがどばーんと登場しますよ?まさに悪質な冗談のようです。そして内容は、激突したショックでプリティー美沙とエンジェルナナの人格が入れ替わってしまうという…これだからわかっててやってる奴というのは困ります。それからかかし朝浩「ブッ契りラヴァーズ」もいい調子です。ひとつ屋根の下で好きあっている同士が家人にばれないようにセックスする場所を探す、というネタなんですが、それだけでもう「グゥ」といいたくなりますね。同様のドキドキ感を描いた作品にともち「愛をあげよう」がありますが、こっちの方は女性の側が欲望に忠実なのが面白いんですね。そして常におあずけを食らわせる意地悪な構造!ニヤニヤしてしまいます。
 ところで表4の広告に吃驚。「新世紀くりぃむレモン」ですと!「エスカレーション Die Liebe」ですと!この21世紀にあの「エスカレーション」をリメイクするのですか!ナオミお姉さま〜!!(言葉にならない叫び)
 30分で7800円と高価なものですが、最初のアレに比べると半額。随分お世話になったことでもあるので、ついつい買ってしまいそうです。恐ろしい世の中です。

Dear+ 7月号   新書館  <漫画・雑誌> 619円

 やしきゆかり「都合のいいキミ」とか始まっていますが、実はあんまりこうした様式化された絵(と展開)はあまり好きじゃないのでして。ピンときたのがまず依田沙江美「ビーンズキャンプ番外編」。例の三つ子の小学生時代を描いています。私はショタ系に惹かれるものですから、こういう展開はあこぎと分かっていても惹かれてしまうんですね。しかも外見はほとんど一緒なものの(実際は髪の毛のトーンで見分けがつくんですが)、よく見ると性格が異なっている、という描き方をしているのがいいじゃないですか。それからさらにグットきたのが那須雪絵「夜明け前、僕らは…」。拓己(15歳)は無事受験に成功したものの、悩みは尽きない。彼は兄、克己(21歳)にひどく甘えるたちで、まわりからブラコンと認定されているほどだが、その兄が男と仲良く歩いているところを目撃してしまったのだ。兄がホモかもしれない、という事実に悩む拓己。親友の健作に話し、健作の大人びた対応に心を動かす…というオハナシです。これはほんの大筋にすぎません。この大筋に、実にさまざまな要素が加わり、オハナシは実に意外な方向に向かっていくことになります。なんといってもいい感じなのは、都落ちでやっているという印象をまったく受けない、ということですね。那須先生は「好きでボーイズをやってる」ことが、画面から、構成から、練り上げられたオハナシから、ひしひしと伝わってくるのですね。そのためにじねんと作品も訴求力を持ってくることになるわけです。これだからボーイズはやめられないというものです。

ヤングチャンピオン.Air   秋田書店  <漫画・雑誌> 552円

 掲載作品は富沢ひとし「エイリアン9」、葉月京「スプラッシュ・アイランド」、もりしげ「花右京メイド隊」、瀬口たかひろ「オヤマ!菊之介」など。チャンピオン本誌とヤンチャンの「萌え部分」…なかでもいっそうタクに受ける部分を抜き出してきたものといえましょう。強くフィーチャーされているのがアニメになった「エイリアン9」と、その声優によるグラビアですから。可愛い娘さんたちですなぁ…。
 ですがもう一方で目立つのは、女性誌「ボニータ」で活躍する女性作家の作品を載せているのですね。有希うさぎ、SALADA、吉川うたたの3人です。もちろんネタこそやや男性向けにしてありますが、基本的に女性向け漫画のフォーマットに従った作品を載せています。エニックスの雑誌や電撃系の雑誌、そして「ASUKA」「Wings」などを見ると明らかなように、今やファンタジイやSFをモチーフとしたタク向けの作品においては、方法論やオハナシの上でも男女の性差は非常に少なくなってきています。その傾向が進んだ果ての試みとして、旧「ステンシル」があったと思うのですが、この増刊もそれを目指しているように見受けられます。確かにちょっと違和感はありますが、それはさほど深刻なものではありません。ひどくタク向けに作られた作品と、もっと汎用的なタク向け作品は、同じ場に同居できるという事実…分かってはいたはずなのですが、改めて接してみると新鮮です。そして秋田書店がこうした雑誌を出しているという事実にも驚きを感じます。大手が積極的に雑誌のトランスジェンダー化を進めているのですから。
 そしてなにより嬉しいのが…これまでの議論とはまったく関係ないですが…丸尾末広「啼く吸血鬼」8Pが載っているところですね。確かに8Pという物足りないボリュームではありますが、中断状態になっていた「笑う吸血鬼」の続編ですから!これは今後に期待が持てるというものです。雑誌全体では浮きまくっているのですが、それもまた丸尾らしくてよし、といったところでしょうか。「あっ血だ!」

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2001年6月4日(月)

エース桃組 Vol.3   角川書店  <漫画・雑誌> 476円

 慣れてしまったせいでしょうか、今回はどうも「萌え」が足りないように思いますね。もちろんラインナップの強烈さや内容のどうしようもなさ(ここであえて(笑)と入れてしまいたくなりますね)は変わりゃしないんですがね。逆に漫画としてまとまりすぎていて、ダメな方向に突き抜けた作品が少ないためにそう思うのかもしれませんが。今回萌え的視点で目を引くのがしけたみがの「鋼鉄の少女たち」。架空の戦乱の続く大陸。主人公たちが属するのは戦車隊で、戦車の寸法が小さいので女性だけで編成されている。練度も低く実戦経験もない彼女らは、誰ともなく「屑鉄の少女たち」と呼ばれていた。しかし…というものです。これは本格的にダメでいいですよ。まずはきちんと軍事的な要素が描かれているところ。戦車の描写や戦術なんかは、分かりやすく描かれてはいますが相当本格的。ミリタリものに対する作者の愛を感じます。そして一方で女の子がきゃあきゃあいいながら戦車に乗って戦う、という描写がなされます。オトコノコが好きな要素を意識的に/無意識的に二つくっつけている…それがいいんじゃないですか。「メガフリーク」の漫画とネタ的にだぶっているのがちと惜しいですが。ほかには丸川トモヒロ「魔砲少女四号ちゃん」が載っているところが嬉しいところですね。
 ただ、「地雷」を設定しておく編集方針はやっぱり好ましいところですね。今回は田丸浩史こそありませんが、大和田、平野と充実してますから。ここが「マジキュー・プレミアム」との違いなんだと思います。

いちばん上


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Last-Update: Thursday, 13-Nov-2014 09:16:51 JST