虹色定期便

水曜日 午前10:45〜11:00

木曜日 午前11:15〜11:30

金曜日 午前11:00〜11:15

対象 小学校高学年・道徳


 さあ真打登場だ。高学年向きの道徳番組。昨年の「きっと明日は」で、お姉さんの熱唱にしびれていた教育テレビマニアは、この番組が終わると知ってずいぶんがっかりしたものだ。しかし、後番組は彼らの期待を裏切らなかった。そして、それは予想をはるかに上回るものになっていた。

 これは完全なストーリーもの。あらすじはこうだ。30世紀の未来の地球には、人のやる気や生きる意欲を食い尽くす「キルケウイルス」が蔓延していた(ああ、エヴァ後!)。人口の大半は死に絶え、生き残った人々はロボットのようになり、ウイルスに耐性を持つごくわずかの人々=「ミレニアム帝国」によって奴隷として支配されていた。ウイルスの発生は、20世紀の末だという。そのことを知った少女アスラ(どうやら帝国の貴族の血を引いているらしい)は、ウイルスの発生源を突き止め、歴史を変えようとタイムマシンに乗ってやってくる。一方、ミレニアム帝国は、アスラの行動を阻止せんと、3人の幹部、フレイア、ロキ、シグルドと戦闘員を20世紀に送り込む。アスラは、仲良くなった兄妹とともに、キルケウイルスの発祥を探る…というものだ。

 なぜこれが道徳か?と、疑問に思われる人もいよう。種明かしはこうだ。キルケウイルスは、やる気を失った人や、悪意を持った人に感染し、繁殖するという設定になっているのだ。現代の高学年でこういう状況になることは…まずは受験戦争。勉強、勉強の繰り返しは、何もかも投げ捨てて、やってられなくなるなる気持ちを生むだろう。次にはいじめ。いじめる側の悪意によっても、いじめられる側の無気力や恨みによっても、キルケウイルスは繁殖するのだ。その他には、妬みやそねみ…そう、キルケウイルスは道徳の時間で取り上げられそうな問題に必ず介在するということになっているのだ。アスラと兄妹は、結果的にではあるが、いじめなどの問題を解決していくことになる。

 お話は、見ていて非常に面白い。前作「きっと明日は」もそうであったが。昔の「少年ドラマシリーズ(私は見たことがないが)」や、「じゃあまん探偵団破亜怒組(浦沢)」などを見たときのような、「マップス」を読んだときのような気持ち、少年がこれから大きな問題に立ち向かう時に感じる、不安感とわくわく感がない交ぜになったような気持ちを、この番組から感じることができるからだ。秘密。謎。陰謀。大きな組織との戦い。でも状況は絶望的ではなく、必ずどこかに希望がある。少年少女だって、大人と対抗することができる。何という甘酸っぱい気持ち。この番組にはそれがあふれている。昨今のテレビ番組で忘れられがちな、「少年のドラマトゥルギー」が、この番組にはあるのだ。また、キャストもかなりのものだ。「帝国」の主導者、フェンリル将軍は「セブン」森次晃嗣。幹部のリーダー、フレイアは富沢美智江。最近は何をやっているかは知らないが(そうか、レイちゃんだ)、実力派の声優として知られている人だ。美人。ナチっぽい制服がタマラン。幹部その2のロキは有薗芳記、何と「逆噴射家族」の長男をやっていた人だ。この人の演技のうまさには脱帽。残念なことにアスラはそんなに可愛くないが、これだけのキャストでは高望みというべきだろう。

 ところが、骨太の作劇をしている一方、映像的にはとってもドチープで、実に実にイイ味を出しているのだ。セット、特撮を含む撮影、アクション、その他その他は、もう徹底的に金がかかっていない。まずは戦闘員が4人しかいない。これは劇中でも、「機械の都合で計7人しか送れない」と開き直られている。このため幹部も辛い下働きをしなくてはならないというギャグ的効果を生んではいるのだが。フェンリル将軍が鎮座まします敵の司令部は、スモークをたいた暗室に、フットライトを当てただけ。確かに最小の予算で最大の効果を挙げてはいるのだが、やはり苦しい。ミレニアム帝国の現代の秘密基地は見るからにテレビ局のミキサールーム。夜のシーンのライティングは限りなく「そのまんま」に近く、実に現実的。そして撮影は基本的にそのへんの公園や学校で行われ、遠くの方にロケをしに行っている形跡は今のところ皆無である。特撮は基本的に、アスラが弓を射るという(この弓でキルケウイルスを撲滅するのだ)一種類しかなく、そのあたりの合成も、ストレッチマンと大差ないビデオ合成。金が全然かかっていない、あるいはかけることができないということが、ありありと分かるのである。イメージとしては、大怪作「青龍伝説」を、さらに5倍くらいチープにし、怪しくしたものといえばお分かりであろう。お話はあんなのよりずっとずっといいのだけれど。

 わくわくするような内容を、限りなくドチープな映像で描く。スタッフたちの意気込みは素晴らしく、いい番組を作ろうという意志にあふれているのは、よく分かるのだ。しかし映像が徹底的に付いて来れていない。このヘンテコな感覚は、決して他では味わうことができない。前作「きっと明日は」もかなりそうであったが、この番組はすでに、放送途中から、後世にいたるまで語り継がれる伝説となることが約束されているのである。描かれているドラマだけでも十分に見る価値があるのに、さらに「付加価値」がついている。まさに必見の一作である。


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