2003年7月

2003/7/3(Thr) ・・・とりこ
安田晶「扉の書」

●安田晶「扉の書」/講談社X文庫ホワイトハート/2003年(→amazonbk1

コレはいいです。オススメ。特に、児童文学から入った古参のFTファンで、そして15年くらい前、和製FTの粗製濫造(※)にちょっと不審感を抱いてた…みたいな、ワリと「硬派」のFTファンにオススメしたいです。
※…良くない言い方かもですが、この表現に覚えのある向きは、読むと絶対イイコトがある。と思います。のであえて言ってみる。

硬質です。行間から仄見える深い世界に、「これが洋モノでないなんて、信じがたい…」と、ゾクゾクとそそられます。ハンス=ベンマン「石と笛」がお好きな向きにもオススメ。
(※ちなみに「指輪」ファンで「石と笛」未読の向きは、そりゃアナタ迂闊というものです。まず間違いなく読書人生を損してる。読むヨロシ。マジで。)

てかこの本、岩波少年少女文庫とかで出て欲しかったなあ。岩波の児童文学を読み、そしてホワイトハートへと進んだ口は、一読大喜び間違いなしと思われますが、その逆は、…うーん、どうかなあ。イロが足りないと感じてしまうかも……そんな読者じゃ、この作品にはちょっと勿体無いよう。なんつて(いや、コレを読んだ若い読者が硬質のFTに目覚めてくれることを祈ればいいのか。……祈ろう……)。

古より伝わる秘密をめぐる物語です。登場するのは、朽ちた城の塔に隠棲する初老の孤独な魔法使い。薬草、錬金術、異族の民、異形の生き物。彼の生涯をかけた研究対象「扉の書」。それから、一人の若い女。名はエリル。

語りの背後からゆらゆらと立ち上がる異世界は、喩えるなら、ひっそり深く冷たい水をたたえた湖に映る月の影のよう。FTといえば夜中に読むもの、そんなFT読みなら、読まないのは勿体無いです。

灰色の冷たい石の壁、真夜中の地下通路の土くれ。ロウソクの焔の揺らめきに照らし出された、魔法使いの頭巾の影。闇、眠り、夢、番人、迷宮、謎、杖、呪文、道案内人……これらの言葉に彩られる、FTの魅力を知っている人のためのお話です。その世界は最後まで崩れることなく、ワタクシは久しぶりに「ああ、FTを読んだなあ」と思いました。やるせないラストもとても素敵。どうすれば夢に手は届いたのでしょう。

これ英訳して海外に持ってったって、絶対喜ばれると思うな……次作が待たれます。

2003/7/29(Tue) ・・・とりこ
S-Fマガジン 2003年8月号

●「S‐Fマガジン 2003年8月号」/早川書房

特集は「リアリティ・クライシスの行方」。関連した論文が3本掲載されていて、巽孝之「この箱の中に宇宙が」はSF演劇「屋根裏」を紹介するもの。興味津々で読みました。

何しろ肝心の演劇を未見なのでアレですが、記事によると、舞台に設営された「屋根裏」の中で、ショート連作が行われる形式のようです。

21世紀初頭の日本。せいぜい一坪ほど、悪く言えば変形した犬小屋のような「屋根裏」という名のキットが商品化され、ヒットしている。模造品も出回り、屋根裏規制法案まで通過するありさま。

キットを購入した青年が、キット内部に5ヶ月間立てこもり、挙句自殺を遂げる「寮」という物語を皮切りに、全23章の連作が続くとか。
「子供部屋」「屋根裏の散歩者」「棺桶」「アンネの日記」「デパート」「山小屋」「家庭訪問」「エレベーター」……一定のデザインが、棺桶、ラブホテル、山小屋、ダンボールハウス、と自在に変貌し、しかし全体では冒頭で自殺を遂げた青年の兄が、キットの発明(/製造/販売者)に責任を求め、その正体を探るミステリ仕立てになっているとか。

今更ですが面白そう。観たかったな〜。2002年度の読売文学賞戯曲部門を受賞したとか。

冬樹蛉「SF流<現実使い>たちの忍法帖」は、濃くて安心、ナットクの充実ガイドでした。また、東浩紀「計算の時代の幻視者 フーコー、ディック、イーガン論も面白かったです。
導入部でフーコー『言葉と物』を紹介し、ディックの最たる主題である、虚構と現実(主人公の内界と彼を取巻く外界)をフーコーの文法で読み解くとどのように整理できるかを述べ、その上で、イーガンとディックの差異を説明してあります。

イーガンの世界観においては、「自分は自分である」と認識する主体(言葉)と、意識を生み出す物理的存在(物)はまったく別の水準に属しているため、イーガンに触れた後では、ディックの「自分は人間なのか機械なのか」という問いかけは余りにも「人間的で文学的」に感じられる、というくだりはナットクでした。
最終段落はなんだかメロウに落としてあって、ワタクシには意味がよく判んなかったです。
全体に上記の論文2本と比較するとだいぶ薄い印象で、切り口は大歓迎なだけに、ちょっと勿体無いなあ、という気もしました。

◆グレッグ・イーガン「決断者」…+1

「右」or「左」、「好き」or「キライ」などの「決断」をするナニモノかこそが「自分」であろう。自分の奥底に眠っているそのナニモノかを追求し、そして…というお話。

いつもながらシビアなオチ。なんというか、昨今の過剰な「トクベツな自分」信仰に水を差してくれている印象があり、大いにナットクでした。

◆ブルース・スターリング「楽園では」…+0

あと先考えてないバカップルの愛の逃避行。愛があれば、もう、民族も超えちゃう!(※ただし携帯は必要。←おいおい)

どうせ悲恋モノかなあと思ってたらそうではなくて、個人的に、そういう裏切り方はキライじゃないよー、と、却って好印象を持ちました。

◆ニール・スティーヴンスン「『太平洋沿岸の<部族>』第三巻(最終巻)よりの抜粋」…+0

当初「???」と思いましたが、読み進むうち、だんだん思い出しました。
本編の「ダイヤモンド・エイジ」を少し遡る時代設定で、こう、世界描写が細かな重なりがイイ具合に匂わされてて、嬉しくなっちゃいます。ついニヤニヤしちゃうね!

◆パトリック・オリアリー「いまは眠りたいだけ」…‐1

うーん、ル=グウィン「オメラスを歩み去る人々」(「風の十二方位」収録)を思い出しました。でもってそっちのほうが断然好き。

◆小川一水「老ヴォールの惑星」…+2

コレは面白かったー。「あくがれる」という古語を思い出しました。「遠く見知らぬ星の他者」へのロマンチシズム、SFファンなら花丸をあげたくなること間違いなし(^o^)丿

◆チャールズ・ストロス「ロブスター」…+3

粗筋の説明はパス。まあご一読を。今回「老ヴォール」が+2なのは外せないしな……じゃあ+3つけちゃえー!  てわけで、初めて+3つけてみました。面白かったです(^o^)丿

スカした語調の訳文が超ス・テ・キ。きっと原文もスタイリッシュなエイゴなんだろなーと思います。

パム(主人公マンフレッドの婚約者)のイライラっぷりは、うーむ・たいへんな共感を呼ぶなあ(女子的に)。でも、だからってあんな仕返し聞いたことない。アンタちょっとそれ酷スギるYO!>パム
でもマンフレッドってすっごい親バカだろうしなー。絶対パムよりコドモ好きでしょ。そいで「オレのベビーは超天才児だ!」とか言ってムチュウになりそうヒヒヒ。なんつてー。

ポップとサイバーといかがわしさが混ざると、凄〜く「カッコイイ」。←こんな説明で伝わるかしらー。ディックとかギブスンとかさー。ジャンクで娯楽で活きが良くってB級、って、こう、オサレ感あって、読んでてワクワクするよねー。


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