つれづれなるマンガ感想文6月後半

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一気に下まで行きたい



・「週刊少年チャンピオン」31号(2001、秋田書店)
・「チマタのオマタ」 朔ユキ蔵(2001、ワニマガジン社)
・「週刊漫画アクション」28号(2001、双葉社)
・「リイドコミック爆」8月号(2001、リイド社)
・「週刊少年チャンピオン」30号(2001、秋田書店)
・「アワーズライト」8月号(2001、少年画報社)
・「Naive」 月野定規(2001、ビブロス)
・「そこに布団はないけれど」 うらまっく(2001、蒼竜社)
・「コミックバンチ」6号(2001、新潮社)
・「週刊漫画アクション」27号(2001、双葉社)
・「陰獣トリステサ」 池上遼一(2000、文芸春秋)
・「窓のない部屋」 森由岐子(1987、秋田書店)
・「すべてに射矢(いや)ガール」(2) ロクニシコージ(2001、講談社)





・「週刊少年チャンピオン」31号(2001、秋田書店)

キたね。新連載、「樹海少年ZOO1(ずーいち)」ピエール瀧、漫$画太郎。「コミックバウンド」での連載が雑誌休刊によって打ち切りになった後、同コンビでチャンピオンに来るってのはもうイケイケですよ。巻末コメントの板垣恵介の歓迎のコトバ、そして「浦安鉄筋家族」浜岡賢次のサブタイトルが「春巻先生ありがとう」。こりゃ「画太郎先生ありがとう」が元か。肝心の内容は、「獣一」って名前の虚弱少年が公園のホームレスに出会い……ってストーリーを説明してもいい意味でしょうがないマンガなんだよ。本誌が「萌え路線」にエネルギーを投入しつつの本作の新連載は本当にワクワクするよ。
「虹色ラーメン」馬場民雄は、「自分のラーメン」づくりに悩む主人公。だけど妙なテイストなのは自分を慕う女の子が両手をヤケドしてしまったんで、ラーメンを食べさせてやるシーンだろうなぁ。
「バキ」板垣恵介の私の予想は、半分当たって半分ハズレ。ドリアン編、ちょっとハズしたかなぁと思っているんだけど、たとえば「なんで路上で戦ってて登場人物全員拳銃や刃物を使わないのか」などの、格闘マンガのお約束に挑戦している点は買っている。「スクライド」黒田洋介、戸田泰成は、やっぱり技が「ジョジョ」だなあ……。まあ面白くなればいんだけどさ。
「生命のダイアリー」取材・原作:達山一歩、漫画:小山田いくには個人的にハマっている。このマンガの今のところのキモは、主人公の少女の病気が「なんだかわからない」ことにあるのではないかと思う。
「なんだかわからない」ものに対しては、自分でも納得ができないし恐いし、決断もしにくい(たとえば完治するまで治療に専念するか、あるいはムリをしてでも日常生活のことをするか)。さらに他人の共感も得にくい。そのあたりの主人公の葛藤が、なんだか引き込まれていく理由かな。白黒はっきりつけたがる少年誌にあって、なんともいえないリアリズムを醸し出している。こういう社会的テーマを扱ったマンガは少年誌としてはマガジンが得意だと思うんだけど、「マガジンVSチャンピオン」という仮想の戦いとしても私は読んでますんで。
「ななか6/17」八神健は、特撮ヒーローがいないことを知ってしまった男の子を励まそうとするななかと稔二の話の後編。前半盛り上がった(と個人的に思う)ぶん、ちょっと物足りなかったかな。
(01.0628、滑川)



・「チマタのオマタ」 朔ユキ蔵(2001、ワニマガジン社)

成年コミック。B6判。短編集。人間には「Hしたい」という気持ちと、それを簡単には許さない因習とか社会制度とかが同時に存在する。それをどう乗り越えるかがHマンガのシチュエーションづくりになる。もちろん「たまたまスケベ同士が知り合った」ってんでもぜんぜんかまわないし、逆にレイプという社会的にも肉体的にも破壊的な行為になることもある(あくまでフィクションとしての話よ)。

本作に収録されている短編のいくつかは、「ンなこと考えずにオナニーでもHでもやっちまえばいいのに、でも立ち止まって考えてしまう」人々を描いている。
結合前にオナニーの快楽で立ち止まってしまったために、オナニー仲間(?)の少女とともに自慰し続ける「向こう岸の少年」、自慰禁止令の出た全寮制女子校の闘争を描く「明日に向かって吠えろ」、複雑な家庭環境で育ち、美少女とHしても「心をゆらすまい」と決意した少年の話「俺は逃げる」、容姿端麗、文武両道、だれもが認めるパーフェクトカップルが、実はセックスがうまくいかずいじらしいまでの努力を続ける「素敵な二人」なんかは、そんなテイストをかもしているように思える。
性の快楽に身をひたすことが、こだわりを捨てるだけでは乗り越えられない場合、社会的障壁も乗り越えなければならない……たとえばレズビアンなどの場合(作品内ではあくまで象徴的描写ではあるが)、「せいきまつごっこ」「愛してやる」などになるのか。で、説明するとミもフタもなくなっちゃうが「ソガイされた者」を何かに託して描いているのが「私の愛したコロッケじじい」「そこにいた男」
「私の愛した……」は、屋上でオナニーしていた少女が「コロッケじじい」と呼ばれる浮浪者にオナニーを手伝わせるようになる。クライマックスがあまりに唐突なんだけど(ダークネスな作家が描いたらたぶん少女もコロッケじじいも救われないまま終わったんじゃないかと思う)、この唐突さがミリョクかもしれない。もっと象徴的になったのが「そこに……」で、自殺の名所である崖で、自殺者の幽霊だと思われる男に少女が犯される。
で、わたし個人がいちばんイイと思ったのは巻末の「絶望ウォッチング」。それまでのアイテムである、非日常的設定やレズビアン、肉体の快楽だと割り切れずセックスに意味を見いださざるを得ない、少女の心情が総合的に描かれている……と思う。
家庭内暴力によってすでに精神がコワれかけている少女・塚田とレズ関係になる同級生の少女・桜井。彼女は塚田の面倒がイヤになってきたが、塚田の絶望がおそらく自殺するほど深いため放り出すわけにも行かず、自分の彼氏(?)にHの相手をさせる。塚田よりは一般的女子と思われる桜井には「自殺するほどの絶望」が理解できないが、徐々に塚田の存在が彼女に不安を与え始める……。
「デンパ系」を描くのではなく、ソレを見つめているうちに浸食されていく側を描いている……ところがスマートかつ、より絶望を表してる。と感じたんだけど。
(01.0628、滑川)



・「週刊漫画アクション」28号(2001、双葉社)

うーむ、わたし的には今週は低調な感じ。
「妹よ」山崎さやかは、高校生の自分の部屋でエロ本を物色したりなんだりする妹に、ビビったり悩んだりする兄、という話でした。「兄(あに)ちゃま!」とか萌えてる連中に突きつけたリアリズム、かと思ったがそりゃ私の考えすぎですかな。「ぷるるんゼミナール」ながしま超助は、田嶋先生を恨むあまり菜々美を痴女に堕そうとするゼミのOG……なんだが、「痴女ゆえに裏社会で暮らさなければならない」ってのはスゲエ話だ。
(01.0627、滑川)



・「リイドコミック爆」8月号(2001、リイド社)

今週低調に感じた「アクション」とは対照的に、個人的に「きたきたッ」と思ったのが本誌。連載がだんだん波に乗ってきた感じ。来月は岡崎つぐおの「ジャスティ」も登場だ。

読みきりその1「抜き屋」三山のぼるは、悪いやつに追いかけられている人の過去を抹消して新しい人生を与える「抜き屋」の話。むかしシュワルツネッガーがやってた「イレイザー」みたいなもんですね。
読みきりその2「呼ぶ声」山本直樹は、このヒトのマンガなんで説明はむずかしいが、マンガ家志望崩れのひきこもり系青年が己の暴力衝動に目覚めていく過程を、……まあとにかく説明がむずかしいが描いている。「IKKI」のように気合いの入りすぎた雑誌の中でこの人のマンガを読むと息苦しくなってくるが、娯楽に徹した作品群の中では微妙なアクセントになっていてイイ。

「レネゲイド」中山昌亮は、謎の人物から殺しを依頼されストーキングされ続けている男が、殺せと言われた女性とともに抵抗を開始。知り合いのライターに情報をバラまくことを依頼し、ハッカーに見えない敵の正体を突き止めさせる。その突き止めた先は……なんだか急速に盛り上がってきてます。
「net〜」坂辺周一はサラリーマンのネット恋愛の話だが、とにかく主人公がユースケ・サンタマリアにそっくりである。
「潜行戦艦ブラッククロウ」修生は、 西暦3023年、ほとんどの陸地は海の底に沈んでしまい、巨大ピラミッド型都市「ザルドス」の皇帝ファルカンが新エネルギー源を探索。ザルドスから脱出した巨大潜水艦「ブラッククロウ」が、どうやらその新エネルギー源の秘密を握っているらしい……というような話ということでいいのだろうか。
どうやらこのマンガ、キャプテンハーロック+アニメ版ジャイアントロボみたいな感じ、というかそういうふうになるらしい。ガンガン行ってほしいスね。ちなみに、作者は昔高口里純原作の「ルパン三世」の作画をやっていたヒトだそうです。
近未来ヤンキーバイオレンスの「カマキリン」石山東吉は、全編これカッコよすぎる祭夏彦の見せ場。表紙だけでもメチャメチャカッコいいので、見れ。
「パート退魔(タイマー) 麗」矢野健太郎では本格的に麗と琴美がからむためか、説明的なネームがエンエンと続くんだけど、それだけに後に続く見開きが効果的。次号へのヒキもけっこう気になる。
(01.0627、滑川)



・「週刊少年チャンピオン」30号(2001、秋田書店)

私は雑誌連載を「好きなものから」読んでいくタイプ。作品の並びはそれほど気にしないのだが、現実社会になじんでいこうとする不良少年を描く「家族のオキテ」沖田龍児の後に、ボンクラお気楽野郎が夢を見るエピソードの「名探偵史郎シリーズ」芹沢直樹が出てきたのには笑いのツボが押されてしまいました。そして「家族……」の前にあるのが「エイケン」松山せいじだもん。いろいろ考えちゃうよ。
「虹色ラーメン」馬場民雄はラーメン屋のじいさんの過去が明かされイイ話、「生命のダイアリー」取材・原作:達山一歩、漫画:小山田いくは闘病の果てにすでに死んでしまった少女の物語だが、読んでいくうちにだんだんハマってきてしまった。「スクライド」黒田洋介、戸田泰成は、絵的な面白さのわりには敵の必殺技などに新味がないのが気にかかるところ。「フジケン」小沢としおは、カルビマックにうっとりするトモトモに爆笑。こういうネタがうまい。
「バキ」板垣恵介は、刃牙VSシコルスキー編に突入。いちおう今後の展開の予想を書いておく(裏切ってくれた方が面白い)。
・梢江ちゃんが(シコルスキーの奸計によって)再び人質にとられる
・梢江ちゃんが刃牙を助けようとしてしゃしゃり出ていって人質に
・シコルスキーが何らかのかたちで刃牙の人間的弱さを突いてくる

(大穴)
・シコルスキーが一瞬のうちにやられてしまったところに、柳龍光登場
(01.0622、滑川)



・「アワーズライト」8月号(2001、少年画報社)

「純粋! デート倶楽部」石田敦子は「女の子が好きな女の子」が出てきて新展開。なんかストレートな言葉を投げ合うようになってきた。こうなると私としてはちょっと興味が薄れてくるというか。
本作の「許しちゃうのおおおー 処女じゃなきゃいやだとか必ず三歩後を歩く女の子を望んじゃうことをおおおお〜〜〜っ!?」っていうセリフの後に、「妄想戦士ヤマモト」小野寺浩二とか少年チャンピオンの「エイケン」松山せいじを読むとちょっとツボにはまってオモシロイ。……っていうか、このミゾが埋まらないかぎりタクに明日はないと思います。
「エビアンワンダー」おがきちかは、悪魔と契約した姉弟を描いたファンタジーもので、実は前号の第1回はオーソドックスすぎてちょっとガッカリしてたんだけど、今回は主人公の過去が描かれていい感じ。
「紺碧の國」水原賢治は、バンド結成。これもいろんな意味で不思議な味のある、最近楽しみな作品のひとつ。
読みきり「溺れずノ市」騎崎サブゼロは、一年中桜の咲き乱れる一種のユートピア的な島に逃げ延びてきた少女・カナとその母。カナは「よそ者」として、桜童と呼ばれる精霊に試される。細密なペン画で和風ファンタジーな世界を描いている。イイ話なんだが、個人的に少々わかりにくく感じた。でも期待大なヒトでしょう。
「『ぜ』は絶望の『ぜ』」あびゅうきょは、「影男の煉獄めぐり第3景」。人生に絶望したダメ男が人形好きの美少女と出会う。一見美少女写真風の構図&コマ割りに、実にミもフタもないテーマが突きつけられていて素晴らしい。それにしても「影男」に明日はあるんだろうか……?
他の読みきりもバラエティに富んでいて、レベル高し。
(01.0622、滑川)



・「Naive」 月野定規(2001、ビブロス)

成年コミック。A5判。短編集。コメディ、シリアスと作風の幅は広いが、基本的には恋人など心が通じている(と思われる)者同士のセックスではなく、セックスによって心を通じさせるというか……そうじゃないな、あえてパターンを抽出するとすれば、精神的とか肉体的とかではなく最終的にセックスの快楽にひたることを至上のこととする作品群。そういう意味で言えば正統派というか、まっちょうじきなポルノと言えるかもしれない。設定はオーソドックスだが、見せ方がうまい。
(01.0621、滑川)



・「そこに布団はないけれど」 うらまっく(2001、蒼竜社)

成年コミック。B6判。短編集。以前、ワタクシは当サイトにおいて成年コミックレビューを書いたときに「Hマンガのレビューはむずかしい」と言い訳がましいコトを書き、しばらく経ってどうでもよくなり好き勝手なことを書いてはみたが、また再び「書きにくいなあ」と思う。
だってある程度おれさまチャンの嗜好がばれちゃうじゃん(笑)。まあ、フェチだのヘンタイだのってのは思われても、イイというものではないがそれほど潔癖ならば最初から成年コミックの感想文など書かない。それより、なんつーか「その作品のどこを面白く思うか」っていう部分で、書きにくいなあとか思う。

たとえば、本作はカップルの機微を描いたものが何本か収録されていて、この作者はそれだけの人ではないけど得意分野ではあると思う。で、たとえば若夫婦の心境のズレを描いた「わかりません。」とか、バイトの女の先輩といきなりセックスする「ねむりひめ」とか、こういうのねえ……とってもうまいんだけど、なんか出てくる人間に自分がほとんど接点がないというか、そういうので読んでいて非常に寂しい思いをします。
ということで、私が個人的に好きなのは、たいして仲がよくもないのになぜか同居しているヤロウ二人を描いた「阿部と大久保」だったりする。このヒトのうまさは、むしろエロと関係ないところでよりスパークするんじゃないかという気が少しする(むろんエロもうまいんですが)。それとストーカーを描いた「フリークス」は、ちょっと理におちているというか、わりと先が読めちゃった。

あと、おれ的感想文の書き方ではこのテの作品の良さを表すのはむずかしい気がしました。もっと同系統のものをたくさん読まないとなあ。
(01.0621、滑川)



・「コミックバンチ」6号(2001、新潮社)

「株式会社大山田出版仮編集部員 山下たろーくん」こせきこうじが表紙。なんかまた面白くなってきたような気がする。それにしても野球中心になるのかサラリーマンモノになるのか、いまだによくわからないな。

「エンジェル・ハート」北条司は、ガッカリしている人も多いと聞くが、私としてはけっこうイイんだよ。もともと私が「シティハンター」に特別の思い入れがないからなんだろうけど、「グラスハート」を主人公にした段階で、これって「番外編」のプロットの組み立て方でしょ。それで長編、っていうのがまず面白いし、シティハンターのもとの終盤の展開を知らないんだが、本来のキャラクターの後日談的な不幸具合は「なんかもうかつてのことはみんな終わっちゃったんだなァ」と思わせて哀愁があるし。でも物語自体は新しいドラマを紡ごうっていうパワーがあるから。

「熱血紅湖」ヤン ゼヒョン、ジョン グッジンは、おれ的には評価決定だな……。ぜったい韓国にはもっと面白いマンガがあるはずだって。まったくの予想だけど。
(01.0620、滑川)



・「週刊漫画アクション」27号(2001、双葉社)

「ぷるるんゼミナール」ながしま超助は「痴女研究会」が出てくる。痴女を研究するというより、本物の痴女が集まってるサークルみたいなもの。痴女について研究しようとする菜々美。「ikiss」友美イチロウは「お天気の女」。要するにお天気お姉さんなのだが、「実際にお天気を体験できる装置」で風でスカートがめくれたり雨でブラウスがスケたりというすばらしい展開。最終的には股間にバイブだかローターだかが入っちゃってるし。そこまで行くともう「お天気を体験する」でも何でもないし。いやすばらしい。「ルパン三世」モンキー・パンチ、山上正月は「眠れる人魚を起こすのは誰だ!?」の前中後編の後編。こりゃあまりにもあっけなさすぎ。「しりけん」さつき優は次週最終回。ちょうど全10回だから単行本出るかな? 「しーりっ、しーりっ、しーりっ」「お前は本物の尻バカだよ」っていうセリフがイイ。
「かりあげクン」植田まさしの「宇宙人」っていう4コマ、これってなんか1回転して大爆笑だと思うんだけど、どう?
(01.0620、滑川)



・「陰獣トリステサ」 池上遼一(2000、文芸春秋)

池上遼一幻想短編集。「幻想」と言っても、ぶっちゃけた話、淫夢のことです。全編これ淫夢。
私は池上遼一というと小池一夫とのコンビで「筋肉質の男女が全裸で世界情勢について語り合う」ような劇画を描き続けてきた人、という印象&知識しかないんですが、20年近く前、何かのインタビューで「エロチックなものを描きたい」って言っていたのをなんだか意外に感じていた。池上遼一の描く女の人は確かにエロチックではあるけど、それを全面的に打ち出した作品を志向しているとは、「男大空」などを読んだ段階ではピンと来なかったのだ。
だが後に、小池一夫とのコンビで「筋肉質の男女が全裸で世界情勢について(以下略)」というマンガを描き続け、少し納得がいったけど、ソレが池上遼一の嗜好か、小池一夫のかってのはちょっとはかりかねた。

で、この短編集。オビには「女性の内側に潜む 情欲の深遠を 卓越した画力と 想像力で描いた」となっていて、実際にそうなんだが女性に限らず「情欲」、「淫夢」を追求した作品がほとんどである。
表題の「陰獣トリステサ」は、橘外男(「キチガイオトコ」をもじった筆名)の小説の劇画化。作品「陰獣トリステサ」の名前だけは以前から聞いていて、「あやしげな犬屋で貴婦人が犬を買ってきてそいつとヤリまくるのを、主人が怒り狂って復讐するんだよ」というスゴイあらすじで知った。読んでみたかったけど、確か現代教養文庫の作品集でもコレって入ってませんよね? というわけで読めずじまいだった。

池上版を読んであらすじを書くと、スペインの上流階級で犬の品評会がブームとなり、バルセロナ銀行の頭取の妻がブルドッグとダックスフントの合体したような醜い犬を買ってくる。犬種は「トロエス・アビエラド」ということだがホントにそんな犬いるのか!?
とにかくまァそういうのを買ってくるわけだが、この夫人は、実は愛する恋人を事故で失った上、借金返済のためにやむなく現在の夫と結婚した。この夫は買ってきた犬のように醜い。結婚したといっても夫人は夫の醜さゆえに、肉体関係はおろか寝室にまで鍵をかけるという拒否を示していた。夫は、犬が「トリステサ(悲哀)」と名付けられ、なぶられる様子を我がことのように思い、心を痛める。夫人を愛するがゆえにジッと耐える夫。
しかし、自分が完全にトリステサと同一視され、さらにトリステサがバター犬の一種とわかった彼は怒りが頂点に達し、あんなことやこんなことをしてあんなんなってこんなんなって物語は終わる。……なんかスゴイ話だ。

……いやあ、これはイイ作品集ですよ。買ってよかったなァ。
(01.0619、滑川)



・「窓のない部屋」 森由岐子(1987、秋田書店)

以前、「森由岐子の世界」(唐沢俊一&ソルボンヌK子)という短編&解説本が出たこともあるマンガ家の恐怖マンガ。

ブックファーストで「描きおろし」って書いてあったんで買ったら、87年当時の描きおろしだった。でも9年くらい前に再販してる。

苦学生・瀬川淳(男)と真屋友子は、高額のバイト代につられて山奥のお屋敷に住む美少女・沙羅に、住み込みで家庭教師をすることになる。しかし瀬川には明るく振る舞う沙羅は、真屋の前では暗く性格も悪そう。さらに不気味な子供の怪人(?)も出てきては、瀬川と真屋をおびやかす。どうやらこの屋敷には「窓のない部屋がある」らしい。そこに秘密があるとにらんだ瀬川と真屋は、屋敷の謎を解こうとするが……という話。
さすがに沙羅の豹変の理由は察しがついたが、オチはけっこう意外で、「子供の怪人」のインパクトもスゴイし、ラストはホロリとしましたよ。っていうか、まあとってつけたようなお涙ちょうだいではあるんだけど……。
こういう恐怖モノって、あまりの恐怖体験に主人公の性格が変わっちゃって終わり、とかが多いと思うんスけど、最後の最後で「もう一度愛らしい沙羅の家庭教師ができれば……」っていう淳の独白がイイですね。
(01.0619、滑川)



・「すべてに射矢(いや)ガール」(2) ロクニシコージ(2001、講談社)

ヤングマガジン連載。頭に矢が刺さったままになっているために、いじめられたり好奇の目で見られたりしてひねくれてしまった女の子・鳥井あすみと、その友達(まだ友達以上恋人未満?)の山田料詩の物語。

1巻では、あすみと料詩の友達同士としての心のズレを主に描いてきた感じで、2巻目では多少二人とも恋愛を意識してきたかなっていう印象。恋のライバルめいたのも登場するし。
わたし的には女の子の傷つきやすい心性を「頭の矢」で表現し、なおかつポップな感じでまとめている点と(そうでなきゃそもそもヤンマガには載らないか?)、パッと見、ものすごく目をひく絵柄ではないと思うんだけど、読むほどにあすみちゃんがかわいく見えてくるという点で非常にすごいマンガだと思ってます。

作者の初期作品でおしかけ女房パターンの読みきり、「アケミチャンネル」収録。

・「すべてに射矢(いや)ガール」(1) ロクニシコージ(2001、講談社)

(01.0619、滑川)

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