平日の昼間と夕闇のあいだの空間

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平日の昼間と夕闇のあいだの空間2
平日の昼間と夕闇のあいだの空間3
一気に下まで行きたい

 この地区は、「ぶっとび地区」内でも分類がむずかしく、かつ独特の味わいのある作品が紹介される場所である。しかしそれは「逢魔が時」と言われる時間帯に姿を表す「あやかし」ほどにはあやしくはない。昼寝をしたときの浅い眠りに見る夢、もしくは平日の昼間の再放送時代劇と「テレビショッピング」のCMとの間に存在する「空間」のような独特の心地よさを持つはずだ。
 書いててよくわかんなくなったが、とにかくそんな感じの区域である。

・「マウンドの稲妻」 ゴッセージ(GOSSAGE)(1980、週刊少年ジャンプ33号〜42号、集英社)
・「ソドムとゴモラ」全2巻 小堀洋、真弓雅彦(1989、秋田書店)
・「GOAL ゴール」全2巻 (岡村賢二、1987年、小学館)
・「富山しあわせ勝負−21世紀のシナリオ− 新富山県民綜合計画(後期事業計画)」(作:浅野拓、画:毛内ヒロやす、監修:雁屋哲、花咲アキラ、1991年、富山県)
・「ゴッドマジンガー」(永井豪、1984年、小学館(初出))
・「アニメーション入門講座」(藤宮幸弘、1987年、自由現代社)
・「郷ひろみに学ぶ 幸せのレシピ」(いでまゆみ、1997年、幻冬舎)
・「さよなら! 岸壁先生」全5巻 原作:小池一夫、作画:石綿周一(1981〜83年、秋田書店)
・「アイ・ラブ・一太郎」(和田順一、構成/レイニイオフィス、1992年、サニー出版社)



・「マウンドの稲妻」 ゴッセージ(GOSSAGE)(1980、週刊少年ジャンプ33号〜42号、集英社)

週刊少年ジャンプ連載。そのインパクトの強さと、おそらく打ち切りであろう最終回の豪快なまでのブッチぎり具合に、一部のジャンプファンの間でほんの少し語りぐさになっている作品だ。
(本稿は、作品の衝撃のラストに触れています。ご注意ください。)

・ボンバーズ結成!
稲妻剛は、山奥で千代吉という少年と二人で暮らす自然児。ある日、謎の男たちが現れ、コマンダー率いる人類史上最強の野球チーム(ボンバーズ)をつくるので入団しろと言ってくる。唐突な申し出を断る剛だったが、チームの一員・ハルク内門に自分の投げた球が打たれれば入ると約束し、ハルクのハンマーキャノン打法(メガトンバットという巨大なバットをただ振り回すだけの打法)で見事ホームランにされてしまう。
入団を決めた剛だったが、ハルクとの再戦を申し入れ、その際にウルトラショット(魔球)サンダーボンバーで勝利する。
「サンダーボンバー」とは、魚がピチピチはねるのを見て、「からだ全体をつかって投げれば、腕だけにたよって投げるよりすごい球が投げられる」と、野球の基本みたいなことに気づいて剛があみだした魔球だ(異常なまでに身体を回転させるのではあるが)。

剛は鮎川越手郎(どっかのミュージシャンがモデル?)、伊加月貞二(三度のメシよりイカが好き、「リンかけ」の石松的キャラ)、竜崎詠吉(ヌンチャクを持って守備をしている)、神内剣(居合い抜きの達人らしい)、切磋豚馬(ヘンな名前)、風照三(女みたいな顔、ローラースケートをはいている)、松田聡(地面にあぐらをかいたままバックホームできる超強肩)といったメンバーとともにプロ野球の精鋭だけを集めた全日本チームに勝利し、ボンバーズ結成の真の目的であるマフィアリーグ優勝のための試合をすることになる。

マフィアリーグとは、アメリカのマフィアがつくった賭け野球のリーグ。全世界のマフィアがつくったチームを集めて試合をし、負けたら麻薬や覚醒剤を打たれ奴隷にされてしまうが、勝てば巨額の金が得られるという。
ボンバーズのメンバーは、以前のマフィアリーグで敗れてしまった日本チームのメンバーの息子たちだったのだ。復讐を誓う剛たち。

・マフィアリーグ開戦!
第1回戦はキューバキラーズとの戦い。ピッチャーはトレノレビンの兄弟。「投球フォームに入ったトレノの片足を持ってレビンが振り回す」とう「ウェイブショット」(こうするとボールが手から放れる瞬間がわからないんだって。ルール違反かどうかの説明はない)に翻弄されるボンバーズ。どうなるかと思ったら、トレノとレビンは伊加月にバントで1回打たれただけで、ゴドリゲスに替えられる。
ゴドリゲスは、身体全体を縦回転させて投げる「ギロチン・フォークボール」を持った投手だった。しかもふくみ針を使う選手まで現れ、ピンチに追い込まれるボンバーズ。さらにゴドリゲスは「打球が必ず打者の顔にあたる」、「バッティングインフェルノ」という魔球を出してくる(これはまあ、他の魔球マンガにもよくあるパターン)。

これに対抗するため、バットを2本持ってくる切磋豚馬(むろんルール違反かどうかの説明はナシ)。このあたりからちょっとど〜でもいい展開になってくる。

「こんなの何でもありじゃん、ど〜でもいいよ」と思っていたら、次週最終回! 「ど〜でもいい」と思っていたのは私だけではなかったのだ。

・衝撃の最終回!(早い!)
最終回……ページをめくるといきなり1ページで、

「1回戦 キューバに圧勝したボンバーズは次つぎと世界の強豪をなぎたおし−−破竹のいきおいで勝ちすすみ ついに決勝戦−−マフィアリーグの影の軍団フィクサーズとの一騎打ちとなった」

……と、決勝戦までの過程をすべて説明。
それまでの全工程をすっ飛ばす。

そしてフィクサーズとの対戦。しかし開始早々衝撃の事実があきらかに!!

フィクサーズはロボットだったらしい!!(ガーン……)

しかも勝敗も明らかにならないまま物語は終わるのであった……。次週からはみやたけしの「ブンの青シュン!」が始まったらしい。

・「マウンドの稲妻」復刊リクエスト投票復刊ドットコム

・関連作品「スターダスト11」 こうのたけし(ゴッセージ)

(01.0209、03.0131、滑川)



・「ソドムとゴモラ」全2巻 小堀洋、真弓雅彦(1989、秋田書店)

プレイコミック連載。核戦争後、地球は暗黒の闇に閉ざされ、ソドムとゴモラを中心とした悪徳と淫靡魔道の百鬼夜行の世界となってしまった。しかし一部の心ある者は、優れた資質を持つ人間の体外受精卵を培養基(スーパーメデューム)に収め、その中から皇(すめらぎ)ノアと、彼の伴侶となるソフィアが誕生した。
ノアはソドムとゴモラを滅ぼし人類を救済する旅に出たのであった。

「人 人たらしめるは愛」をスローガンにしているわりには、恐ろしいまでに情け容赦なく悪人をブチ殺すノアの生きざまはまさしく「北斗の拳」以上。「核戦争後の地球」という設定なのに「北斗」以上に古代社会のような世界(いったい西暦何年なんだろう?)、宗教めいたノアの信念、意味深に出てきたくせに後半まったく出なくなるノアの恋人ソフィアなど、意識的にか結果的にか、神話的要素が強まり「聖マッスル」に酷似した展開となっている。

敵も、巨根の美青年やらアマゾネスやら超能力坊主やら金属製の貞操帯を付けられた美女やら超絶的だが、これに「ただの腕力」とか「すごい技」としか言いようのない抽象的なパワーで1ページとかその半分のコマで反撃して勝利してしまうノア。
ラスト近くには民衆の命を握られ十字架にかけられたりもするが、一度ブチ切れたヤツ(ノア)をだれにもとめられない。

そしてソドムの大王ベラとの対決……。ベラは悪人のくせに「人間の肉体は限りなく鍛えることができる」という信念の持ち主であった。敵をやっつけるのに銃などの武器はいっさい使わない。つまり、ソドムとゴモラの人間が非道を重ねながらも重火器をほとんど使わなかった理由がここにあるのだ……と思ったら、その数ページ後にはゴモラの女王・ビルシアに絶対脱げない「チタン合金のスケイル・アーマ」(強化服みたいなヤツ)を着せて特攻をかけさせるのであった(そ、それこそ究極の兵器なんじゃ……?)。

復讐鬼と化したビルシアが地上のどんな武器も通用しないスケイル・アーマでノアに襲いかかる! しかし、ノアが最後の力を振り絞って放ったパンチはアーマの装甲を貫き、ビルシアは倒れた。

「そ……そんなバカな……」「ど……どこにそんな力が……!?」
「男と女の違いだ!」
……とにかくそういうことなんだそうです……。

そしてノアはベラとの最終対決へと向かう!!
そんなマンガでした。

「どうしたら読めるか」―何も言うまい。……うん。何も言うまいて。
(00.0519、滑川)



・「GOAL ゴール」全2巻 (岡村賢二、1987年、小学館)

週刊少年サンデー連載。実際に読むよりヒトに話を聞いた方がおもしろいマンガというのがあって、本作はそのタグイ。
ひとことで言って、「メンバーが揃う過程をすべてはしょったアストロ球団」としか言いようのないマンガ。

日本はワールドカップへ向けて、優勝するための精鋭チーム「ジャパンP(プロジェクト)チーム」を結成。この日本でも屈指の選手たちが集まったチームが、次々と外国勢を倒していくというのが基本構成だが、何といっても選手たちの初期動機が弱すぎる。これも軽薄短小(死語?)時代のタマモノなのか……。

とにかく、チームのリーダー世羅爆人「爆裂消球」という必殺シュートを持っている。
これはボールを高く蹴り上げ、宙に舞ったソレをオーバーヘッドキックみたいにすると、身構えたキーパーの目前で
爆発し、消滅し、キーパーの背後に現れるという「消える魔球」のような技である。
物語はこの「爆裂消球」の謎を敵チームがいかに解くか、と、敵チームの必殺技を描いていくことが中心に話が進んでいく。

たとえばイタリアZフィレンツェ「かまいたちシュート」。身体を回転させてシュートし、飛んだボールはユニフォームをも引き裂いてしまう。
そしてノルウェーのN.バイキングス
「竜巻超球つらら砕き」をやる選手が。
これは、寒いノルウェーの超巨大つららをヘディングで叩き折るという訓練のすえあみだした、身体を高速回転させながらヘディングするというワザだ。
E.ファイア(イギリス)では
「炎恨球擦火(バーニング・ファイア・ボール)」。
蹴ったボールが燃え上がり、キーパーも掴めないという恐ろしい技だ。

物語は後半、この「炎恨球擦火(バーニング・ファイア・ボール)」が「爆裂消球」とほぼ同じコンセプトでできていることがヒントとなり、「爆裂消球」の正体が暴かれそうになっていく過程が描かれている。

けっきょく「爆裂消球」の正体は暴かれるが、説明されてもなんだかよくわかりませんでした。

岡村賢二の絵柄は熱血で煮えたぎるようなのだが、なんにしろなぜそんな魔球を編み出してまでワールドカップに出なければならないのか、敵味方双方動機が非常に不明瞭である。
泥臭くても、だれかのカタキとか、病気の妹を救うため金が欲しいとか、
宇宙を征服するとか、そういう「戦う動機」がなければ単なる「サッカーの名を借りた不思議魔球合戦」になってしまう。

「どうしたら読めるか」―何も言うまい。……うん。何も言うまいて。
(99.1017、滑川)



「富山しあわせ勝負−21世紀のシナリオ− 新富山県民綜合計画(後期事業計画)」
(作:浅野拓、画:毛内ヒロやす、監修:雁屋哲、花咲アキラ、1991年、富山県)

しあわせ勝負

■富山県の事業計画のPRマンガ。富山に水の取材に行くことになった山岡栗田(言うまでもないが「美味しんぼ」の2人)。彼らに、富山出身のカメラウーマン・宮沢里子が同行することになる。しかし地元で暮らす高校時代の同級生・中村雄二「富山より東京の方がいい!」と言われてしまう。ムッときた里子は「富山県民はしあわせかどうか」で勝負することになるという話。
まあ内容は電通〜っ、イイ仕事〜っ、PR〜っ、ってカンジ。

見るべきところは本家の「美味しんぼ」と酷似した絵柄でありながら、微妙にノホホン度の増した栗田ゆう子さんであろう。私はこちらの方が好きだ。カワイイ。

■……と思ったらですね、作画の毛内ヒロやすという人は、現在「別冊コロコロコミック」に「究極カンニングマンガ」と称する「カンニンGOOD」を描いている「毛内浩靖」であると思われる。「カンニンGOOD」に出てくる女の子・ゆいちゃんも、主人公のおかーさんも、実にノホホンとしていてカワイイのだ。

うふふ。わが目に狂いナシ。

「どうしたら読めるか」―縁があればどこかでめぐりあえる……(よくわかんない)。
(98.1230、99.0915、滑川)



「ゴッドマジンガー」(永井豪、1984年、小学館(初出))

ノリに任せて描いている印象のある永井豪には、名作もあるがとんでもない怪作もある。ギャグマンガの場合、ムチャクチャでも「ギャグだから」と読者もそれなりに納得するが、ストーリーマンガだとそうはいかない。
「あれ? あれ?」と思っているうちに、終わってしまうことがあるのだ。

本作「ゴッドマジンガー」は当初アニメ、小説(角川文庫)とともに刊行された(全4巻)。「マジンガー」の名がそうさせるのか、その後も「魔神伝説」というタイトルで全3巻(1986〜87、角川書店)、「ゴッドマジンガー」(全1巻)(1995、中央公論社)、そしてまた最近(大都社)と、定期的に?再刊され続けている(本原稿は中央公論社版を基本とする)。
この話、とにかく強引さで圧倒されっぱなしである。

……とまあ、ここまでが去年の冬コミで「ぶっとびマンガ」関連の同人誌を出したときに書いた前文だ。

しかし最近、「ぶっとびマンガ探索」をする際、豪ちゃん(およびダイナミックプロ)関連は非常に微妙な位置にあることに、我々「ぶっとびマンガ認定委員会」は気づいたのである(ウスくてすいません)

ダイナミックプロは、メジャー集団でありながら非常に「ぶっとび率」の高いところである。
まず豪ちゃんのシリアスモノだけに絞っても、本作「ゴッドマジンガー」、骨法に傾倒していた時代に描かれた「夢必殺拳」(卑弥呼の部下・夢比古が骨法で魔物と戦う)、
豪ちゃん名義で他スタッフが描くことはあまり珍しくないと思われるが、それにしたって絵柄が異質すぎる短編「吸血鬼狩り」(オチもすごすぎる)、
デビルマンに似て非なる謎のヒーロー「雷人サンダー」
力の抜け具合と中途半端な投げ出し具合が心地いい「ハレンチ紅門マン遊記」
それにシリーズ全体は整合性がとれているものの、小さいエピソードではギャグでないだけに不思議テイストをかもしだす「バイオレンス・ジャック(特に後期)」など、「ええっ!?」と思わせることが多い。

また石川賢ちゃんにしても、けっこうコメディタッチの回が多かった(気がする)テレビ版「ウルトラマンタロウ」を見事なまでにシリアスハードな世界に変貌させた「ウルトラマンT」
モニターを突き破って飛び出してきた感のあるゲームのコミカライズ「餓狼伝説」、「サムライ・スピリッツ」
夢枕獏世界を板垣恵介とは別のカタチで自分流に展開させた「闇狩り師」など、コミカライズ系であっけにとられるものが多い。
その他にも風忍「地上最強の男・竜」斎藤栄一「プラモ天才・エスパー太郎」、コロコロばなしで必ず話題になるよしかわ進「おじゃまユーレイくん」(まあこれは「ぶっとび」って感じじゃないが)などなど、とにかく「ぶっとび基準」を簡単にクリヤーしてしまう話が多すぎるのだ。
ウスウスの私が思うのだから、総ざらえしたらどんなことになるかわかったもんではない。

だが、これはすなわち「体系的に、『ぶっとび』を生み出すことができる」ということであり、豪ちゃんや、石川賢ちゃんの独特な「作劇法」にまで掘り下げることのできるテーマである。本当は単行本をポツポツと読んで、「これはぶっとんでる」とかいちいち喜んでいるバアイではないかもしれないのだ。

たとえば「ウルトラマンT」などは、5、6年前までは当委員会にとっては「ぶっとび物件」だったのだが、あまりに人口に膾炙したため、今では「知られていないマンガ」という基準をクリヤしなくなってしまった。
だがそれとともに、「石川賢の作劇法」を語るためのアイテムが隠されている、ように思われるため、単品で語ることがむずかしくなった、ということもあるのだ。

つまりダイナミック系(ややこしくなるので永井豪名義に絞れば)のぶっとび作品は偶然から生まれるのではない。そこには「永井豪」という巨大な宇宙にせまれる秘密があるはずだ(誇張でなしに)。
……というわけでとまどいながらも、「ぶっとび認定委員会」は永井豪作品を愛するのであった。

さて本題。
以下ネタバレなんで、これから読もうと言う人は読まないでください。

■豪ちゃん、とにかくそのときそのときのノリで描いているのか、非常に大胆な展開だ。まず主人公の少年・火野ヤマトには実母はおらず、父は再婚している。ヤマトは新しい母親とはあまりうまく行っていないが、ここらへんの事情はその後何も描かれない。
■次に、平穏な現実世界に不満を抱くヤマト。彼は超能力も使えることだし、戦国時代で暴れまわる衝動を抑えきれない。それをいさめる幼なじみカオル(豪ちゃんにはめずらしくロリコンキャラ)。彼女もテレパシストらしかったが、数十ページもしないうちに「あれはウソよ〜」と告白。これでここの話もおしまい。
■そんなヤマトを超能力で呼び寄せたのは、二万年前のムー王国の女王、アイラ・ムーであった。しかもヤマトだけ呼べばいいものを、ヤマトの乗った
遠足のバスごと、しかも戦場の真っ只中に呼び寄せたため、関係のないバスの乗員のほとんどが死んだ。

■ムー王国は、大恐竜軍団を率いるドラゴニア帝国に苦しめられていた。王国を救えるのは、伝説の「ゴッドマジンガー」を操れる少年・火野ヤマトしかいない! ヤマトは光の霧となりゴッドマジンガーの中に入って戦い、ドラゴニア帝国の軍勢を撃退する。
■この後、ムー王国とドラゴニア帝国の戦いが描かれ、そこは面白い。しかし、ヤマトとともに遠足バスでムー王国に連れてこられた少年、
「水島」は? 彼は「火野」に対応した名を持ち、剣道もうまい、しかも平和な現実世界には飽いている意味深なキャラ。ムー王国に来てから「おれの剣で出世してやるぜ!」と言っていましたが、ラスト近くのコマ以外まったく出てきません。
■さらに、戦いに夢中になったヤマトはカオルを戦場に置き去りに(「オ、オレは大事なことを忘れていた! カオル! カオルを戦場におき忘れている!」<ヒドい)。カオルはドラゴニア王ドラドの息子・エルドに助けられるが、生体変革器にかけられ、ネコ人間にされてしまう。そしてそのままカタストロフで死んじゃいます。
■そもそも、「黄金王」の名で呼ばれスゴイ仮面を付けて怖そうだった宿敵・ドラドも、マジンガーと対決する前に勝手に身体が腐って死んじゃいます。どうやらムー王国もドラゴニア帝国も、ヨソの星の人たちがつくったらしいんで、その辺いろいろ不具合があったみたい。

■ドラドの息子・エルドも、ドラドに反旗を翻そうとする伏線がありましたが、カタストロフで死んじゃいます。
■そのカタスロフを起こしたのは、他ならぬゴッドマジンガーでした。まあ理由はいろいろあるらしいですが、とにかくゴッドマジンガーはムー大陸を静めてぜんぶ滅ぼしてしまいます。 最後は火野ヤマトとアイラだけ現代に転生しました。
後は全員死んだみたいです。

「どうしたら読めるか」―大都社版入手可能だと思う。(98.1230、滑川)



「アニメーション入門講座」(藤宮幸弘、1987年、自由現代社)

■本作を「ぶっとびマンガ」の、しかも「平日の昼間と夕闇のあいだの空間」にカテゴライズすることは、我が認定委員会でも意見の分かれるところだ。なにしろ、作者はれっきとしたギャグマンガ家であり、「笑わせよう」と思って描いている。そして実際、作者のねらいどおりの面白さが出ているのだから。ギャグマンガの笑える部分を「面白いでしょ!」と紹介することは、本コーナーの主旨ではない。
■だがしかし。本作は「まんが実用書シリーズ」のラインナップとして刊行されたものである(他に別作者の「麻雀ゼミナール」など)。
多くのアニメーター志望者が、本書を勉強のために手に取ったのかもしれないのだ。何を隠そう私も、同作者の「株入門講座」を、株を知るために購入したこともある(ちゃんと株の解説もしてあるが、中身はギャグマンガだった)。なんというか、俯瞰的に体系だてた分類・整理も重要だが、ある特定の本を手に取ったときの状況……そのときのキモチ……
をたいせつにしたいと思ったりなんかしているわけですボクらは。

■あるアニメ製作会社に、セルドロボーのために3人のマニアが侵入する。発見されたうち2人はガンドム「ウェイブライダー」形態に変形させられ殺され、死体は石神井公園に放置される。残る1人は、「時計じかけのオレンジ」に出てくるようなサブリミナル映像で洗脳され、アニメーターにされてしまうのであった。
■操作に当たった刑事・中川は、事件のカゲにアニメありと考え、アニメ会社に堂賀理沙を潜入させる。製作の現場で理沙が見たものは……? ……悲惨な現状であった。

■マンガのはじめと終わりには、マジメな文章が入りアニメーター志望者に「現実をふまえて理想を持て」的な内容になっている(本当は、「金じゃないだろ!? 作品だろ!?」みたいなこと書いてあんだけど、やっぱしそれそうとうの賃金はもらった方がいいと思いますが……)。が、マンガ本編はものすごいことになっているというワケだ。

■本作は「変形合体殺人事件」というタイトルで、97年キャロット出版より再販されている。こちらは実用書でなくなったぶん、より悲惨なラストに……(面白いけど)。その変わり、「実用書の皮を被った凶悪ギャグ」という本ではなくなってしまったけどね。

なお、堂賀理沙は同作者の他作品にもいろいろ出演している。

「どうしたら読めるか」―たぶん、「変形合体……」の方はどうにかして入手できると思う。まだ書店売りしてるかも。(98.1230、99.0915、滑川)



「郷ひろみに学ぶ 幸せのレシピ」(いでまゆみ、1997年、幻冬舎)

■時間が経つとさまざまに趣を変える本の好例。
97年冬、我々が発行した同人誌「ぶっとびマンガVol.1」では、本書「幸せのレシピ」は「ぶっとびではない」と我が「認定委員会」は判断した。ゴーとリーの仲むつまじい様子を描いた、あんがいとフツーの作品だったからだ。ところが、時間が経つことによって少々「妙」な作品になってしまった。だって去年離婚しちゃったから。幸せだったら離婚しないワケで、じゃあこの本は何だったんだろう、ってなワケである。
■しかも郷は「ダディ」とかいう離婚本を出した。確か同じ幻冬舎から。これじゃあさ、「レシピ」を買った人は怒るよな。「レシピ」は郷ひろみやゆりえさんに、作者のいでまゆみ氏がインタビューし、そこから郷ひろみ(および郷ファミリー)の幸せのヒケツを、読者への自己啓発的な意味合いを込めて描く、というものだったのだから。

■んでまあ今回読み返そうと思ったんだけれど、アホらしいからヤメます。ただ、「リーはすごいヤキモチ焼きなんだ」「僕が絶対浮気してると思ってんだよなぁ」てなネームがありましたな。

■そして99年も半ば以上を過ぎた。郷ひろみは「アチチ、アチチ」とかいってまた稼いでいるし、あんだけの騒ぎはサッチーだのミッチーだのによってかき消えた。現在、本作はワゴンで100円以下で手に入るだろう。だがもはや、我々に何も語りかけてはこないにちがいない。
だがいつかまた、状況の方が変わることで、この本の姿もかたちを変えるだろう。……などと、なぜ私はこんなしんみりした文章を???
いでまゆみがヨソの国の王子と結婚したりしたら、この本また価値でるんじゃない?<無責任)

「どうしたら読めるか」―ま、まあ縁があれば読めますよ。 (98.1230、99.0915、滑川)



「さよなら! 岸壁先生」全5巻 原作:小池一夫、作画:石綿周一(1981〜83年、秋田書店)

週刊少年チャンピオン連載。本作は、「ぶっとびマンガ」のどこに振り分けてよいのかよくわからなかった。主人公がサイボーグなので「超人伝説」の方がイイかとも思ったが、それにしてはジャンクなテイストが強すぎるため、「分類不能地区」の代名詞であるココに配置させていただく。

アメリカで事故に遭い、瀕死の重傷を負った岸壁先生(木村岸壁)は、ノグチ教育財団の技術を結集したHEM(ホモ・エレクトロ・メカニクス:サイボーグみたいなもの)として蘇った。
だが日本の文部省は、「もし、生徒たちが教師がロボット(正確には違うが区別がつかない)であることを知ったら暴動騒ぎになる」ことを恐れ、女性SPである喰代(ほおじろ)今日子をスパイとして送り込む。
だが今日子は、岸壁先生の生徒を思う心に打たれ、彼を愛し始める。そして彼女も女子生徒として岸壁先生の学園に入学。
一方、学園に出てきた岸壁先生を追うロボットがいた。「告げ口ロボット・チク」がそれだ。彼の暗躍により初登校日にHEMであることがバレた岸壁先生は、生徒たちに「もし1ヶ月間、自分に登下校の挨拶がきちんとできたなら、どんな命令でも聞く」と約束し、生徒をまとめあげる。……どうなるのかと思ったら、チクが姿を現し、今日子を人質に岸壁先生を攻撃しまくる。ボロボロになりながらも闘う岸壁先生に心を打たれ、当初の約束はそっちのけ、生徒の心はひとつになってゆく。

「チク」は、文部省ではなく岸壁先生をつくったノグチ教育財団が派遣したロボット。財団の目的は正しい教育にはなく、HEMの岸壁先生を教育界に送り込むことによって日本教育を混乱させることにあったのだ。
日本政府からも、財団からも狙われた岸壁先生は「いつも断崖絶壁に立っているような気持ちでギリギリまであきらめない」ことを心情に、戦いを挑んでいく。

さらに、「白虎」の異名を持つ他校の不良生徒が登場。週1回は学園にやってきて、美術教師に白虎の入れ墨(……に似せた絵?)を描かせにくる。彼と一触即発の事態になるが、HEMの肉体構造を解説する岸壁先生の授業があまりにオモシロイので、一気に改心してしまう白虎であった。

他にもSPから派遣された戦闘用HEMや、メカニマル(動物ロボット)のリーゼントもぐらものすごく太っていてほとんど身動きもしない少年などを感動的な授業でまっとうにしていく岸壁先生であった。

とくに、「青空を独り占めにしろ!」 というのはよくわからない授業。
真っ青に晴れ渡った空にたくさんの風船を飛ばし、それを割る競争をしていくうちに生徒たちのすさんだ心がなごんでいくというもので、「HEMの身体ができず脳だけだった頃、ぼくは青空をもう一度見たいと思っていた!!」という岸壁先生のすごいセリフがなければ到底納得し得ない内容ではあった。

同じような「謎のモノ」と言えば「シャンバラバ〜ッ!」 というかけ声がある。これはロボット・チクが盛んに叫んでいたセリフ。岸壁先生に言わせると「気持ちがダレる、というロボット言葉。転じて、その反語で闘うときはダレないでピリッと気持ちをひきしめていこうという闘いの叫び」なんだそうで、先生も「シャンバラバ〜ッ!」と叫びまくる。

一種のキメゼリフになるのかと思ったら、その後まったく出てこなかった。

そして、単行本4巻の途中にして「この学園はだいじょうぶだ」と思った岸壁先生は、愛する今日子との結婚の許しを得るため、彼女の父親のいる山奥へと向かう。
あとは学園とはぜんぜん関係がなくなるが、岸壁先生と今日子が結婚式をあげてオワリ。

「HEM」の構造は、考証としてはどうだか知らないが読んでいると「ふむふむ」って感じで面白くリアルに感じるのに、「チク」が三世代くらいまえのロボットのデザインだったり、無意味に今日子がマッチョ・ウーマンだったり(でも髪型はツー・テール)、あまりにも生徒たちが感化されていく過程が安易だったりと、すべてに「ズレ」を感じてある種の酩酊感に誘われるようなマンガであった。

後半、岸壁先生と今日子のラブ話にシフトしていくのは小池一夫の嗜好なんだろうか。ちょっと謎である。

「どうしたら読めるか」―私は「マンガ図書館」で購読。これがいちばんてっとりばやいです。
(99.0702、滑川)



「アイ・ラブ・一太郎」(和田順一、構成/レイニイオフィス、1992年、サニー出版社)

一太郎Ver.4.3を、劇画と文章で覚えようという広義の「学習マンガ」

 ある印刷会社でワープロ「一太郎」を使うことになった。経営難の会社をパソコンの導入で活性化する端緒にするためだ。社長の息子・杉本部長は、恋人であり社員であり機械嫌いの工藤由香に一太郎をマスターさせることで、パソコン嫌いの社員を納得させようと計画する。
しかし、異常なまでに一太郎を嫌がる由香。

この嫌がり方が尋常でない。

「いやよ! 私が機械が苦手だってこと知ってるはずよ
絶対いやよ!」
「だからって私が一太郎を覚えなくてはならないの?」
「私は手書きが好きなのよ 機械の冷たさが嫌いなのよ!」
「でも私パソコン見ると頭が痛くなるの……」
「だれか別の人にして……こればっかりはいやよ!」

 ……もうケンモホロロである。

 しかし、由香は杉本に並木という女性秘書(色気もありのキャリアウーマン系美女)がついたことを知る。並木はあるコンピュータ会社の専務の娘で、かつて杉本の会社はそこの下請けを断られた過去がある。その関係を復活させるために、社長は息子の杉本部長に惚れている並木を入社させたのだ。並木に杉本を取られるのではないかと焦った由香は、パソコンマニアの宮川に一太郎を教えてくれ、と頼む。

由香は社長に呼び出され、「コンピュータ会社の力を借りるために並木と自分の息子を結婚させたい。ついては息子と別れてくれ」と言われる。並木からも別れろと言われ、中年部長からはセクハラされ、とにかく「杉本部長と並木がくっついたら丸くおさまるんだから」と言われまくる由香。だが一太郎をマスターして、自分の気持ちを杉本にアピールしてから結論を出したいと考え、ワープロに励むのだった。

最終的には並木に「杉本と婚約した」とウソまでつかれ、すっかりヤル気をなくすが、宮川(由香のことが好き)の説得で思いとどまり、ついに一太郎をマスターする。

だが実は、これは杉本の賭けであった。並木と仲良くしたり宮川を先生がわりに付けたりして、由香をアメとムチで操って一太郎をマスターさせようとしたのだ。もし彼女が一太郎を修得しなければ、並木と結婚しなければならず、彼にとっても大きな賭けだった。一太郎に振り回された由香ではあったのだった。

 並木女史も、由香のがんばりに杉本をあきらめることを宣言。実は彼女には勝算があったのだが、それがみごとにくつがえされたのだ。

「私はコンピュータに工藤さんのあらゆる性格や癖を
打ち込んだ……」
「コンピューターの答えは 工藤さんの機械嫌いの性格から
一太郎は絶対にマスターできないとでたわ」

もう一度断っておくが、一太郎Ver.4.3が最先端の世界である。並木女史がどのようなプログラムを用いてこのような予測を立てたのかは謎、だ。それに対して杉本は答える。

「僕が愛しているように工藤由香は僕を愛していた」
「愛がコンピューターを越えたんだ」

 本書は、劇画の部分と一太郎の説明部分がほぼ完全に分離しているが、なぜか説明部分の図がぜんぶ手書きである。それも謎。
 筆者は会社・学校案内方面などで現在も活躍中。

「どうしたら読めるか」―パソコン学習本は古くなると意味をなさなくなるので、きわめて入手困難であると思われる。わかんないけど。(99.0310、滑川)



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平日の昼間と夕闇のあいだの空間2
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