海明寺裕

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■作家名:海明寺裕(かいめいじ・ゆう)
■作者Webページ:海明寺 裕の部屋
■オンライン書店で「海明寺裕」を検索:bk1 / Amazon.co.jp

▼更新情報
2003/05/02 「家族の禁断肖像」を追加
2003/02/12 「早熟児」を追加


 海明寺裕は、もともとはSF畑出身の漫画家だ(デビューは1980年)。そのころの作品には「ルナティック・ルナ」や「ファイナルファンタジー」などがある。しかし、このころの作品は正直なところ、あまり面白くなかった。ギャグが上滑り気味だったり、オタクっぽさがマイナス方面に出ていた印象がある。掲載誌が次々とつぶれるなど、不幸な面もあった。そういったわけで長いこと、くすぶっていた(というと失礼かもしれないが)海明寺裕だが、活動の舞台を、強烈なSM系漫画雑誌として名高い「フラミンゴ」(三和出版)に移したことにより大化けした。もともと、絵的にはたしかなものがあり、休刊したヤングパラダイス誌に掲載された「虚構列伝」などでも、ストーリーテングの能力が高いことは実証済みだったが、安定した掲載先を得たことによりその力が発揮され始めた。

 現在の作品は、「eXpose」から始まる一連のSM系作品に見られるように、細かな設定を組み合わせて、独自の「人間奉仕用生物K9」を中心とした世界を築き上げようとしている。その作風はSM系雑誌に載っていながら、実は非常にSF的。また、読者を幻惑する大細工、小道具を使って臨場感を高めるあたりも実にうまい。エロ漫画界においては当代きっての技巧派といっていい。下品なことをやっていつつも、全体の雰囲気自体は良くも悪くも上品で、実用にはあまり向かないかもしれない。しかし、巧妙で周到な世界作りは一見の価値ありだ。オススメは「eXpose」以降のSM系諸作品。

 あと、「eXpose」巻末の豊島ゆーさくのコメントによれば、今まで日本で発売されたアニメの主題歌をほぼすべて保有しているというとんでもないコレクターでもあるらしい。やっぱり濃い人の描く作品は濃い(ことが多い)。

同人誌「虚構列伝」表紙  また、単行本化されていないのだが、非常に印象深い作品に前述の「虚構列伝」がある。これは、「栄光なき天才たち」のウソっぱちバージョン的な作品で、世界で初めて「飛翔機」を作ったジェニィ・A・ラインズ、謎の生物である「キャリコ」を発見したドロシイ・ローズ・ドリトル、フラクタル理論の産みの親であるイングリッド・M・フラクタルという、3人の異端の天才たちの生涯を描いた物語だ。ウソっぱちの物語にさまざまな装飾を施し、実にまことしやかにもっともらしく、そしてかっこよく見せる腕前は実に大したもの。俺としては海明寺裕の中で最も好きな作品だ。画像はコミケに出店していた海明寺裕のサークル「空色の猫目石」で購入した、「虚構列伝」を1冊にまとめた同人誌の表紙である。現在でも入手可能かどうかはよく分からない。ぜひ、多数の人に読んでもらいたい作品なので、いずれ何かの単行本に収録されてほしいと思う。


「家族の禁断肖像」 桜桃書房 A5 [Amzn]

「家族の禁断症状」 ■出版社:桜桃書房
■シリーズ:EX COMICS
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-7567-3106-6 C0979
■価格:本体952円+税
■初版発行:2003/04/03
■判型:A5
■収録
「屈辱のウェディング・ベル」「おねえちゃんのひみつ日記」「そんなパパが大好き!」「籠の鳥」「お楽しみ★学芸会」「極楽ワイドビュー」「着せ替え人形」「奴隷市場」

 雑誌はなくなっても単行本はちゃんと出してくれるあたり偉いです、桜桃書房。この単行本ではお得意のわんこ系の作品を中心として、短編を8本収録。なんてことなかったはずの日常を非日常が侵食していき、最後にはそれが完全に逆転してしまう、その過程をねちっこく描く手際はやっぱりうまい。収録作品の中では、自分がご主人様に調教されるというエロ妄想を綴ったホームページを作っていた女子高生が、弟にそれを発見されて本当に調教されていく「おねえちゃんのひみつ日記」あたりが個人的には好み。作中でIP Messengerとか使っているのがいかにもそれらしいとか、そういう細かディティールに興味を惹かれるというのもある。

 最近のエロ漫画雑誌は、ストレートなエロか萌えの二者択一という感じであまりヘンな作品は載らなくなってきているという印象があるんだけど、こういうちょっと変わった作品を描ける場も残しておいてほしいもんです。個人的には、この人ならではの妄想力、想像力の風呂敷を広げることのできる長編作品がまた読みたいところなんだけど。非エロでもいいかも。

「早熟児」 [Amzn]

「早熟児」 ■出版社:久保書店
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-7659-0713-9 C0979
■価格:本体933円+税
■初版発行:2003/12/25
■判型:A5
■収録
「早熟児」
「バースディ プレゼント」
「おかずの代償」
「レオタードの舞姫」
「はみ出ちゃう!」
「おかえりなさい」
「タッチダウン プリンセス」

 今回の単行本は「早熟児」をはじめとして、子供が大人の女性を肉奴隷化するというタイプのお話が多めで、なんか久々に海明寺裕が直接的なセックスシーンを描いているのを見たような気がする。とはいえやっているとはいっても、ここで主眼に置かれているのは「肉の悦楽」よりも、むしろ「精神的な屈服」のほうがメインであるように思われる。でも何気に各作品の結末は殺伐とはしてない。幸せそうでさえあるのは一つ特徴といっていいだろう。

 あとこの単行本でもう一つ目立つのが、海明寺裕が一時期よく描いていた「全裸スポーツ」モノとでもいうべきシリーズ。まあ実際には全裸ではなかったりすることもあるんだけど、ほぼ全裸、場合によっては全裸よりも恥ずかしげな格好でアメフトしたりチアリーディングをしたりといった具合。こちらは「精神的な屈服」というよりも、むしろ「精神の開放」といった感じか。トータルで見ると、どの作品でも「露出」「他人の視線」を効果的に使いつつ、大人の女性が自ら望んでしっぽを振るという状況に至るまでを描いている。そこまで持っていくための描写は周到で巧み。なんというか若者みたいにガツガツしない、大人の懐の深さみたいなものも感じる。とはいえ「全裸スポーツ」モノなんかは、大人の稚気という感じもして、これはこれで楽しい。
(2002/11/24)

「コレクション 〜美肉の蒐集〜」

「コレクション」 ■出版社:桜桃書房
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-7567-2614-3 C9979
■価格:本体924円+税
■初版発行:2001/05/08
■判型:A5
■収録……( )内初出
「調度品」:[no.1 the Interior][no.2 秘書のつとめ][no.3 学習デスク]
「奴隷英才教育」
「M.E.M」
「隷嬢キャスター真璃子」
「送り狼」

 海明寺裕としては初の桜桃書房からの単行本。だいたいの作品は「夢雅」掲載で、残りは「G:drive」などのアンソロジーに掲載された作品。今回とくに目立つのは「調度品」シリーズ。今までの人間型ペット路線からさらに進んで、今度は人間家具も描いている。といっても「家畜人ヤプー」とかみたいに人間(的なもの)を無機的に扱うのではなく、あくまで人体的感触、生体反応は生かしてあるのだけれど。そんなわけでここで扱われる人間家具は、人間とモノの中間的存在といえるだろう。

 表紙には「調度品に堕ちてゆく少女の悲嘆!!」とか書いてあるけど、実際のノリはもっとクール。「それはそういうモノだから裸なのであり、素材となる少女たちもそういうモノとして受け止めている」という感じ。なぜ彼女たちがそういうことになっているのかといった説明はとくにしない。もう動かしがたい前提についての説明はなく、前提に従って行われていくことについてはきっちり説明する。ここらへんは実に海明寺裕らしい、SFチックなアプローチといえる。あと、アンソロジー方面で描かれた作品は、海明寺裕にしては珍しく本番してます。まああんまり実用を期待して……という感じではないものの。

「奴隷立國」 [Amzn]

「奴隷立國」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-069-4 C9979
■価格:920円(本体876円)
■初版発行:2001/02/25
■判型:A5
■収録……( )内初出
「奴隷立國」第1集〜第5集、第8集 (フラミンゴ2000年5月号〜2000年10月号)
「奴隷立國 番外編」 (COMICアイラ vol.2)
「オークション」 (COMICアイラ vol.1)
「奴隷立國」は、フラミンゴ掲載の海明寺裕わんこシリーズとしては最終作になる。というのは雑誌が休刊してしまったからなのであるが。

 今回のシリーズでは、大戦で敗戦した国が自らの意志で「権利としての人権は永久にこれを放棄する」という憲法の言葉どおりに奴隷国家となっていくさまを、外国のドキュメンタリー番組がレポートするという形をとっている。これまでのシリーズと違って語り手の視点は外部のものとなっていて、これにより個人の経験の範囲にとどまらず、国家の全体像を語る形となっている。そのおかげで作品世界の仕組みを広く、包括的な形で詳細に読み取れるようになっている。

 この国が敗戦した後の歴史的経緯、人々(だったもの)が奴隷となるのを受け容れた経緯、奴隷の成り立ち、王室……といったもろもろへの描写は非常にこと細かであり、いつにも増して作りが周到で読みごたえがある。この奴隷を使役している人間たちと奴隷の関係性を考えると(例えば息子が人間で、母が奴隷として差し出される)、何やら頭がくらくらしてきたりもするが、そのトリップするような感覚も魅力の一つだ。

 海明寺裕自身は、アシスタントの小杉あやによるおまけ漫画によると『力ずくとか薬とか使わずに人間があたりまえのように奴隷になる「制度」が好きなのさ』と語っていたとのことだが、わんこシリーズの中でもとくにこの作品は、社会システムに関する設定が入念に行われているように見受けられる。こういった作品世界のルール設定に尽力しているあたりは、やはり非常にSF的だなあと思わされる。

「puppy Love」  [bk1]

「puppy Love」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-058-9 C9979
■価格:920円(本体876円)
■初版発行:2000/07/20
■判型:A5
■収録……( )内初出
「puppy Love」 (フラミンゴ1999年9月号〜2000年4月号)

 この作品でもますますK9世界は、広さと深みを増している。今回は「イヌ」の飼い主として目覚めていく少年・ヒロシが主人公。彼の生きている時代は、法律により「イヌ」に着衣が義務づけられていたために「イヌ」を「イヌ」として知らない子供が増えていた。ヒロシもその一人だったが、法律の「改正」によりイヌがそれとハッキリ分かるように、その存在を見せるようになる。

 この少年が、イヌと人間の関わり合いを理解していく過程を通して、海明寺裕はK9世界の構造を一つ一つ語っていく。今回は、これまでの作品のなかで読者がいろいろと疑問に思っていたことも、さりげなく明らかにされる。とくに目立つのがオスのK9の存在に関する言及。それからK9のさまざまな犬種などなど。K9と人間を分けるものは何か、K9を飼う人間は人間そっくりのそれらに対して欲情するものなのか。こういったことが語られることによって、K9世界観はさらなる重厚感を獲得している。

 このシリーズの場合、一話一話がどうこういうよりも、全体として構築され続けている世界観の奥行きと広がりにこそ魅力がある。端々のディティールがしっかりと描写され、それが積もり積もって驚嘆すべき一大絵巻となっている。これほどの作品を生み出した土壌であるフラミンゴだが、2000年中に休刊してしまった。実に惜しい。

「girl Hunt」

「girl Hunt」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-029-5 C9979
■価格:920円
■初版発行:99/01/20
■判型:A5
■併録:「K9通信 もっとK9を」全国K9施設協会会報

 K9シリーズの単行本も3冊め。今回はクラスの優等生であった高野冴(15歳)が、遅い初潮を迎えた日を境に、K9としての扱われ、訓練を受けさせられるようになる。その日まではK9の存在さえ見たことも聞いたこともなかった少女だが、ある瞬間から世界がK9でいっぱいだったことに気付く。これは「volunteer Breeding」などと同様のパターンである。「自分に疑いを持った瞬間、世界もそれに合わせて突然(過去に遡及して)姿を変える」というのは、おそらくこのK9世界を読み解くキーポイントなのではないかと思う。

 今回のお話では、K9を取り巻く社会的システムの有り様がさらに明らかになる。訓練もだんだん組織的になっていく。快感を飴、羞恥を鞭として、訓練は進められる。服を着用してはならず、尻にはしっぽをかたどったアクセサリーをつけられ、四つん這いで歩くことを強要される。反論は許されず、叱責の繰り返しにより「K9はそういうものであるのだ」という意識を徹底させられる。その過程のクールさ、甘えのなさは無機的でさえあり、K9が血統書付きの犬や猫のように、ブリーダーによって「製造される」生産物であることに気づかされる。

 物語の後半、冴はK9のクラブ「優等生クラブ」に入部させられ、部活動をすることになる。そのクラブでは、K9の「品評会」であるセンバツや全国大会に向けて「より良いK9となるべく」活動が行われる。全国大会にはTV放送もあり、その訓練の成果、人間に対する奉仕の技術などが競われる。要するにドッグショーみたいなものだ。こういった大会からも、K9は社会システムの中にきっちり組み込まれた存在であることが分かる。

 この一連のシリーズでは、人間(だったもの)が調教されるさまやエロ描写よりも、むしろその世界観の構築に重点が置かれている。それを補強するための怪しげなウンチク、細かい世界設定など、SF的な空気をふんだんに持っている。海明寺裕によるK9世界(というか人間世界の中にK9がいる構図)の描写は、まだまだ終わりを迎えていない。さらに物語が進んでいくと、この世界はどのような完成を見るのだろうか。はたまた崩壊するのか、夢のように曖昧になっていくのか。いずれにせよ楽しみである。

 なお、併録の「K9通信 もっとK9を」は、コミティアやコミケなどで海明寺裕と小杉あや(海明寺裕のアシスタントもつとめる)が発行した同人誌、「K9公式ガイドブック」に内容が似通っている。ひょっとしたら同人誌の原稿をそのまま収録したのかな?と思ったが、確認してみたところリライトはかけられているようだ(同人誌とこの単行本、どっちが元かはよく分からない。恐らく同人誌のほうが元本であろう)。同人誌のほうがページ数も多く、この単行本の「K9通信」には収録されなかったような内容も含んでいる。興味のある方は、コミケで海明寺裕のサークル「空色の猫目石」を訪れてみてほしい。

「volunteer Breeding」

「volunteer Breeding」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-023-6 C9979
■価格:920円
■初版発行:98/07/20
■判型:A5
■併録:「栄光なき変態たち 第3話 A・L・ラヴォアジェ」

 この作品は、平凡な一家庭に息子の担任がやってくるところから始まる。担任の女教師によれば、この一家はK9の家庭であるという。帰国子女だった母親は、K9というものがそもそも何か分からない。彼女が実際に調教されていく様子を通じて、K9の社会的役割などが描かれていく。どちらかというと、この作品はK9世界の構築、説明に主眼が置かれているような感がある。ここで語られるK9像は「人間のパートナーとして全てを捧げて奉仕するボランティアを行う、法律でも明確に役割を定められた『イヌ』」である。架空世界を構築し、それを諄々と説きあかしていくさまはSF的ですらある。

 とはいえ、読者を幻惑するテクニックは健在。それまでK9については見たことも聞いたこともなかった母親であるのに、「自分がK9である」と知らされた瞬間から彼女の周りの世界も一変する。町には人間様に連れ歩かれたK9が何匹も、ごく当たり前のように通行し、人間様に奉仕している。認識がゆらいだ瞬間に、世界もまた姿を変える。ひょっとしたらこれは夢かもしれない。幻かもしれない。しかし、その答えを海明寺裕はけして語らない。「そうであるかもしれませんよ」といいながら、ニヤニヤとうすら笑いを浮かべるのみだ。

「K9」

「K9」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-015-5 C9979
■価格:920円
■初版発行:97/11/20
■判型:A5

 女子高で数学を教えているプライドの高い女教師が、ヌード写真をインターネットで公開されると脅され、調教される。脅迫者はパソコン通信のチャットでねちねちと調教の命令を伝えてくるのだ。そして、いつものような調教の過程を経て、女教師は自分が人間奉仕用の家畜である「K9」(CANINE=ケイナイン。前作までの「ま●こ」のようなものだと思えばいい)であることを悟るようになる。

 この作品で特徴的なのは、調教者がいっさい姿を現さないことだ。調教者はつねに匿名であり、文字でしかコミュニケーションがとれない。調教者が男なのか女なのか、一人なのか複数なのか、近くにいるのか遠くにいるのか、そんなことさえまったく分からないのである。ひょっとしたら、この調教劇も錯乱した女教師が自分の頭の中で妄想したストーリーなのかもしれない。今までの作品以上に、現実世界とのとっかかりが少なく、「腰の据わり」が非常に悪いのだ。これまではとりあえず、被調教者にも調教者というすがるべきものがあったのに、今回はそれさえもない。曖昧でもやのかかったような状況の中で、立脚点がまったく得られない。

 海明寺裕は自身、NIFTY SERVEでフォーラムの協力スタッフを務めるなど、パソコン通信にも精通している漫画家だが、それだけにネットワークの匿名性という武器をうまーく使っている。チャットで女教師がご主人様と会話しているときも、ミスタイプで心の動揺をさりげなく示すところも芸が細かい。このミスタイプも実際にやっちゃいそうなミスタイプであるだけに、現実感がある。そういう細部ではリアリティを持たせつつ、大枠ではどんどん現実と非現実の境目をとっぱらっていく。海明寺裕の底意地の悪さを思い知らされる。

「ボディ・ショップ」

「ボディ・ショップ」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88356-004-X C9979
■価格:900円
■初版発行:97/01/20
■判型:A5
■併録:「聖母の乳」「あてんしょんぷりーず▽」「栄光なき変態たち 第1話 ブレーズ・パスカル」(▽はハートマークの代用)

 この巻で調教されるのは、名門中学校に編入した少年の母親と妹である。正体を隠している(読者にはバレバレであるのだが)実の息子の手によって、母親と妹は自分がま●こであることを思い知らされ、従順なペットであることを思い知らされていく。なぜ息子は人間様で、それを生んだ母や血を分けた妹は奴隷ではないのか? そのあたりは一切明かされず、話は冷淡に進む。

 どちらかといえば、この作品は前2作の踏襲部分が多いので多少飽きてくるところもあるかもしれない。「ボディ・ショップ」における特殊事情はやはり調教する側が肉親であるということだろう。母親の調教がメインで語られるのだが、自分がま●こであること、ま●この存在自体についてまったく知らなかった母親に対して、息子はすべてを承知している。「自分だけが何も知らされていない」、それがゆえにある日突然、自分の信じていた世界がすべてひっくり返る。もしかしたら、そういったことは現実にもあるかもしれない。うっすらとした、そして根源的な恐怖がこの作品にはある。

「後宮学園」 [Amzn]

「後宮学園」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-914989-92-1 C9979
■価格:900円
■初版発行:96/04/20
■判型:A5
■併録:「ブルーセーラ」

 それまで何も知らない普通の女子中学生として暮らしていたちえみが、名門中学校に編入することが決まる。で、転校初日、学校に行くといきなり女教師の叱責が待っていた。今まで着ていた服は没収され、すけすけのセーラー服が与えられる。女教師がいうには、ちえみは自分を人間だと思い込んでいる「ま●こ」だというのだ。

 後に判明することだが、ま●ことは人間に奉仕させるために飼われているペットのことで、外見はほぼ人間と変わらない。最初はそれを否定するちえみだが、女教師に鼻を引っ張られるとその部分の皮が破れ、犬のような鼻と三つ口が現れる。普通の世界ならそんなことあるわけないのだが、それがさも当然であるかのように扱い、話をさっさと進めていってしまう。この程度のことで立ち止まっていたら、以降の話にはついていけないのだ。

 話が進んでいくうちに、人間だと信じていた自分の母親も実はま●こであったことが判明する。そして、ちえみも自分がま●こであることに得心がいき、自分の幼馴染みであった「人間様」の健一君に飼われるのを夢見るようになる。

 この作品では、自分の信じていた世界が突如としてゆらぎはじめ、ガラガラと崩れ去っていく様が描かれる。「eXpose」ではまだ段階を踏んでいたが、こちらでは第一話から主人公は異世界に飛び込んでいき、今まで信じていた自分を全否定され次から次へと世界観を揺さぶられ続ける。この世界には人間と同じ姿をした奴隷(ペット)が存在し、何が奴隷と人間を隔てるか(主人公には、そして読者にも)分からない。しかもそれは生まれたときから決まっているらしいのだ。そして「それはそういうものであり」、受け容れるほかない。根本的な部分は説明されないままに、お話は着々と進んでいく。まだまだ読者は海明寺的幻惑世界に足を踏み入れたばかりなのだ。

 あと、巻末に同時収録されている「ブルーセーラ」は「虚構列伝」に近い、うそっぱち伝記ものである。セーラ服の発明者である、世良富久子の数奇な生涯を描いた物語である。ときに写実的な作画をまじえ、実に「それっぽく」描かれた作風はなかなかにひねくれていて面白い。

「eXpose」 [Amzn]

「eXpose」 ■出版社:三和出版
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-914989-83-2 C9979
■価格:900円
■初版発行:95/08/20
■判型:A5
■併録:「名犬プッシー」

 三和出版系では初の単行本である。

 美人だけど性格の悪い中学校の女教師が、さんざん叱りつけていた生徒の健一によって放尿シーンを盗撮され、その写真をネタに復讐、調教されるという話。これ以降の海明寺裕SM系作品に共通していることなのだが、調教といってもSEXシーンは一回も出てこない。フェラチオさえないのである。言葉で追い詰め、人前で恥ずかしい格好を強い、最後は家畜としての烙印を押す。これが海明寺裕世界のパターンである。この作品でも、女教師はまず脅迫され、次は恥ずかしい格好をするように屈伏を強いられる。そして、家財道具をすべて運び出され慈善団体に寄付されてしまうなど、経済的にも追い詰められていく。さらに周囲の反応も冷淡である。ほかの生徒や先生たちは手の平をかえしたように奴隷となった女教師を蔑みはじめる。集団での蔑視が物語の中で実に効果的に作用している。そんなこんなで女教師は自分が奴隷だと思い知らされ、屈従の中で奴隷であることへの意義を見出していく。

 舞台も、最初の時点では普通の学園であったのに、ラストシーンでは調教された「家畜」たちの競売が行われる舞台へと、ごく当然のごとく変わる(なお競売での先生のお値段は100円こっきり。そのあたりの冷淡さもたまらない)。ここらへんで読者は、自分たちが「普通と信じている」この社会と、作品世界がどこらへんまでリンクしているのか分からなくなってくる。夢と現の境界が曖昧になってくるのだ。調教対象である女教師から社会的立脚点を奪うと同時に、読者がどの程度まで語り手を信頼していいのか、その立脚点も同時に与えず読者を幻惑し続ける。信頼できない語り手である、海明寺裕の技巧が光る。

「亡國星」  [bk1][Amzn]

「亡國星」 ■出版社:青磁ビブロス
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88271-346-2 C0979
■価格:600円
■初版発行:95/08/25
■判型:B6
■収録……( )内初出
 「亡國星」(アクションHIP No.1〜4)
 「NINJA TRASHERS」(新ワイルド7 5号)
 「ジャポニカ武藝帖」(ビッグバン 2号)
 「ブレイク・イン」(ヤングメタル 3・4号)

 SM系に走る前の海明寺裕は全般的に低調気味なのだが、この単行本もわりとそういうところが見受けられる。いろんな仕掛けはちりばめられていて、個々のシーンはそれなりなのだが、全体として見るとまとまりを欠いているように思われる。にじみ出るオタクっぽさもマイナスになっていることが多い。表題作「亡國星」は、明治時代を舞台に日本征服のためにやってきた彗星からの使者を倒すための生まれ変わりである少女が立ち上がる、という話。明治っぽさは好きなんだけど、ギャグが中途半端な感じがする。

「ファイナルファンタジー」

「ファイナルファンタジー」 ■出版社:JICC出版局
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-88063-744-0 C0079
■価格:900円
■初版発行:89/12/30
■判型:A5

 タイトルから分かるだろうが、スクウェアの「ファイナルファンタジー」を元ネタにした漫画である。「ファイナルファンタジー」なのに、この絶妙なマイナーっぽさが……うーん、あんまり面白くない。

「ルナティック・ルナ」

「ルナティック・ルナ」 ■出版社:夢元社
■巻数:全1巻
■ISBNコード:ISBN4-89C-84-010-7 C0079
■価格:980円
■初版発行:88/10/20
■判型:A5

 時は24世紀、人類は宇宙に進出していた。続発する武装テロの中、テロ組織に対抗することを仕事とする「ルナティクス」という傭兵をあっせんする私設業者があった。本編の主人公・ルナはその会社に所属している。ルナは少女ではあるが、ルナティクスに入る前はすご腕の賞金稼ぎだった。で、彼女の活躍を描くSFアクション……という趣の作品。

 宇宙をまたにかけ、少女がてっぽーをぶっぱなし大暴れする……というと、いかにも古くさく聞こえるかもしれない。まあ実際初版が88年だからすでに古いことは否めない。現在では少なくなったタイプの作品だ。それだけに今読むと、あんまり面白くない。ただ、絵はこのころから達者。それとこの単行本には、海明寺裕の本では唯一「著者近影」が付いている。もちろん、88年当時のものなんだけどね。