「澱」 天竺浪人

「澱」

全1巻 コアマガジン ホットミルクコミックス・43
ISBN:ISBN4-87734-050-5 C0979 本体価格:971円
初版発行:96/03/05 判型:A5

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 俺としては天竺浪人の単行本の中で一番のオススメ。天竺浪人の中でも、最も幻想的で読者を翻弄するような作品が多い。

 その典型が「他人の顔」。ある日少女がバスに乗っていたら、バスの窓に映った自分の顔がなぜだか自分の顔でないように思えてきてしまう。そして名前、過去、すべての自分に関する情報を思い出せなくなっていることに気づく。そこにやってきた、自分のことを知っているらしい男。彼はいきなり彼女をバスの中で犯し始める。なぜか周りの人間はそれに気にもかけない。自分の周りの世界がいつのまにか自分の知らないものになっているという、世界観をグラリと揺さぶるような物語。ラストがちょっと安易に感じられてしまうのは惜しまれるが、非常にトリッキーな物語で俺はかなり好き。

「裂け目」も実にいい。主人公の女性は、学生のころから非常に存在感の薄い影のような男につきまとわれていた。彼は、彼女のことをずっといやらしい目で見つめつづけ、ついには彼女の影の中に溶け込んでしまう。そして影のできる場所では常に彼女にいやらしい行為をし続ける……という話。幻想的でまた妖しい作品だ。

 表題作「澱」はさらに実用性もある作品。病弱な弟が、淫乱でしなやかで強靭な肢体を持つ姉に憧れるうちに魂を肉体から離脱させることができるようになり、その状態で姉の繰り広げるさまざまな痴態を見つめ日記に記録し続ける。姉に夫ができてからもそれは続くが、弟の魂の離脱を目撃した夫が、弟の日記を読み姉を澱に監禁して男をあてがい続けるという話。薄暗く、そしてはかない雰囲気が全体に漂う。俺的には、姉の荒淫ぶりも非常にいやらしくて好きだ。

「猫娘−ムスメネコ−」は「PICTURES」収録の「EYES OF THEM」を彷彿とさせる作品。獣の本性むき出しにさかるネコの交尾に自分の姿を見てしまい、しだいにホンモノの猫と化していってしまう少女の話。ちょっとした契機でもろくも崩れ去る、少女の自我が巧みに描かれている。こちらは「EYES OF THEM」との併読をオススメする。デビューしてしばらく経ってからのリメイクであり、「EYES OF THEM」には初期の異様な陰鬱さが、「猫娘−ムスメネコ−」には時を経て洗練された技量を見ることができる。


●収録
タイトル初出
裂け目描き下ろし
他人の顔ホットミルク95年1月号
熟柿ホットミルク94年12月号
澱(前編)ホットミルク94年10月号
澱(後編)ホットミルク95年11月号
散歩道ホットミルク96年2月号
お客さまホットミルク95年4月号
猫娘−ムスメネコ−ネコまっしぐら(ビデオ出版。95年1/10第一刷)