越境

〜ジョン・ゾーンの前衛性

 

 ジャンルを超えた人の交流の中に、前衛が現れる。それを体現しているのがジョン・ゾーンである。今でもフリージャズの文脈で語られることが非常に多い人ではあるが、その活動はもはやそうした狭いジャンル分けに当てはめる事が出来ない。自ら越境し、その活動に他のミュージシャンを巻きこむことによって更なる越境を推進する。それが昨今のゾーンの活動の特徴である。

 それが最もよく現れるのが「コブラ」である。「コブラ」は、曲名ではないし、バンド名、ユニット名でもない。即興演奏を統御するルール、ゲームのルールに当たるものが「コブラ」なのである。「コブラ」には決まった旋律、テンポ、ハーモニーはなく、即興演奏の構成体であるため、同じ演奏が二度繰り返されることはない。演奏の流れはプロンプターと呼ばれる指揮者のような存在によって決められていくが、演奏者側が次の演奏者を指定したり、次の演奏に立候補したり、プロンプターの要求を拒否できたりするので、多層的・多元的な構造を持っている。指揮者という中心の存在が演奏を大きく左右する「クラシック」が、今や現代的でないことは皆さんも承知のことだろう。「コブラ」はそうした画一性から自由になった、極めて現代的な「構造」なのである。

 そして「コブラ」の演奏者は、初期においてはフリージャズの演奏者が多かったものの、現在においては越境の固まりになっている。ヴァイオリン、チェロといったクラシックからの参加者もあれば、筝、能管、笙といった和楽器、ジャンク、ターンテーブル、サンプラー、マッキントッシュといった現代的マテリアルからの参加もある。そうしたジャンルからの越境の中に、極めて高度な前衛性と、「濃さ」が現れているのである。

 

 

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 ところで「コブラ」の名前は、アヴァロン・ヒル社のシミュレーション・ウォーゲームから来ている。これは、ノルマンディーに上陸後の連合軍の突破作戦をシミュレートしたもので、Panzer Lehrとはその際に連合軍の重爆撃機の直接爆撃を受けて完膚無きまでに壊滅したドイツ軍のエリート装甲師団の名前である(装甲教導師団と訳す)。ちなみにヨーロッパシリーズでは第1SS装甲師団"LSSAH"と並ぶ最強の師団である。平均的アメリカ軍の歩兵師団の2倍強の戦力を持つ。