SFおしかけ女房その4

「SFおしかけ女房」もくじに戻る
「SFおしかけ女房その3」
「SFおしかけ女房その5」
一気に下まで行きたい

・「Otogi Story P.E.T.S. コミック版」(2001、学研)
・「ぶっとび!! CPU」全3巻 新谷かおる(1995〜97、白泉社)
・「ぶらでぃ魔鈴」全1巻 佐藤丸美(2000、双葉社)
・「コットンプレイ」(2)(完結) 矢野健太郎(2001、リイド社)
・「花右京メイド隊」(3) もりしげ(2001、秋田書店)
・「ちょびっツ」(1) CLAMP(2001、講談社)
・「弁天様には言わないで」(5)(完結) 鶴田洋久(2001、集英社)
・「さらくーる」(1)〜(2) みた森たつや(1999〜2000、コスミックインターナショナル)
・「まもって守護月天!」(2)〜(5) 桜野みねね(1997〜98、エニックス)
・「ナズミ@」(1) 岸みきお(2001、小学館)



・「Otogi Story P.E.T.S. コミック版」(2001、学研)

P.E.T.S.

アニメ&ゲーム美少女キャラクター情報誌「メガミマガジン」の企画のコミック版アンソロジー。この「企画」ってのがどういうのものか、雑誌を確認してないんでよくわかりません。すいません。
執筆者は秋本シゲル、あさぎ桜、KAZZ、小林多加志、さとうたみ、佐藤よしひろ、しのざきあきら、しんかおり、南志安永、長谷川光司、別府ちづ子、宮尾岳、夕雅紅葉、ゆうきあずさ。

自分の飼っていたペットや関わった動物が12匹、美少女守護天使として生まれ変わってやってきた……! という設定。金魚、ネコ、犬、カエル、キツネ、サル、カメ、ハムスター、インコ、タヌキ、ウサギ、ヘビがそれぞれタイプの違う美少女に変身してつくしてくれる。彼女たちは全員が非業の死を遂げており(それってやたら主人公の男がペットを死なせてるってコトか!?)、ぞれぞれ溺死、交通事故、衰弱死、凍死、銃殺、感電死、餓死などの暗い前世を持つ。このため今生でもそれぞれが車が恐かったり電気製品が恐かったりとトラウマを抱えている。

「メガミマガジン」という雑誌のコンセプトにも驚いたが、本作の設定にも度肝を抜かれた。おそらくギャルゲー製作を想定した企画だと思うので、コミカライズだけを読んで設定の過剰さにいちいち驚いていても仕方ないのかもしれないが。とにかく、ギャルゲーの登場&定着によって、美少女マンガ(正確に言えばアニメ・ゲームも含めた「二次元美少女メディア」ということなのだろうけど)は今までと完全に違った局面を迎えたといっていいだろう。

今までもキャラクター中心だった美少女マンガ&アニメだが、おそらく主眼はゲームに移るのだろう。ゲーム上では不自然ながらも、その構造が要求する設定がマンガに投げられて、10人以上の女の子が入り乱れるというマンガのみのバランスでは考えられないことになった。メディアミックスは今に始まったことではないが、設定の変化ということで言えばもはやマンガやアニメといった、旧来の物語の範疇で語ることのできたシナリオとはまったく別の価値観が導入され、主導権を握っている。マンガということにかぎって言えば、まさしく新世紀型の設定と言える。

ところで秋本シゲルってあの秋本シゲルなんだよね本当に(違ってたらゴメン)。70年代からSF劇画やコミカライズを描いてきたヒト。「スーパーレディ」とか「キャシャーン」とか、「サイボーグ・ブルース」とか……。当時としては洗練された肉感的な女の人を描くヒトだったけど。今回はセクシーな「ウサギのみか」を描いてます。
(01.0507、滑川)



・「ぶっとび!! CPU」全3巻 新谷かおる(1995〜97、白泉社)

ぶっとび!! CPU

ヤングアニマル連載。高岡章はごく普通の高校生。学校では電脳研究会というパソコン同好会のようなものに所属していたが、まだ自分のパソコンを持っていなかった。ある日、目当ての安売りパソコンが売りきれてしまい気落ちしているところに、謎の男が現れて破格の値段でパソコンを売ってくれるという。章が買って家に持ち帰り、開けてみるとそれは美少女アンドロイドだった……というお話。

美少女アンドロイドは自分をNBCのPC−2198型パーソナルコンピューターだと言う。そしてオーナーである章の精液からデータを採取し、初期化、一度リセットして立ち上げ、章専用のパソコンとして起動する。
メモリの増設にはオーナーとの性交によって活性細胞(要するに精液)を採取しなければならない。だが72時間しか保存ができないため、一週間に1回以上は性交しないと増設したメモリを維持してアプリケーションソフトを使うことができない。
ちなみにアプリケーションカードは女性器部分のドライブに挿入することによって、パソコン本体(つまり美少女型パソコン)の能力は増大する。「パソコン」は章によって「ミミ」と名付けられるが、これはインストールした活性細胞のディレクトリをつくった際の名前。

……とまあ、徹底して「パソコン」のたとえを美少女アンドロイドに使っているマンガ。「なぜオーナーをご主人様と呼ぶのか」、「なぜ常にオーナーとHしていないといけないのか」などがパソコンのたとえによって説明されるところが、本作のキモと言えようか。ナナ(イプソンのPC864GR)やレミ(サードパーティの周辺機器)、クアドラセントリスパフォーマ(Nac三姉妹)、アプティバ(M・B・I)など、さまざまな機種の美少女「パソコン」が登場する。
また章に密かに思いを寄せているクラスメイトの島田加奈子(そういえば人間で重要なキャラクターって、この子の他は電脳研のメンバーくらいだな)もかわいい。こういう秀才タイプのめがねっ娘って、最近見ないような気がするなあ。

最終的には「なぜ人間型パソコンが存在するのか」、「それがなぜぜんぶ女性型なのか」にも答えを出そうとしていたみたいだけれど、意外にも(?)中途半端な謎の解明のまま終わってしまう。しかし不思議とガッカリ感はないんだよね。それは「人間型パソコン」の概念が物語内でけっこうしっかりしていたので、その設定の中にいるかぎりはあまり矛盾がないからだと思う(パソコンマニアの人にとってはどうだかわからないけど)。
CLAMPの「ちょびっツ」がはじまったときにその設定の類似から本作の名前をネット上でもチラホラ発見したんだけれど、まあ勝負する部分が違うとはいえ、「パソコンを擬人化した」という面白さから言えばこちらの方が段違いにイイ。……というか、「SFおしかけ女房カテゴリ」でもベストテンには入る佳品だろう。……とか言って、今まで読んでなかった私はいかにもモグリって感じで参ったね、って思った。
(01.0413、滑川)



・「ぶらでぃ魔鈴」全1巻 佐藤丸美(2000、双葉社)

ぶらでぃ魔鈴

メンズアクション連載。ヴァンパイアの魔鈴(まりん)は精力が強すぎるため、人間とのセックスで一度もエクスタシーを感じたことがない。そこでウブだがコーフンしただけで鼻血を出すほど精力の強い体育教師・一本気男(いっぽんぎ・ますら)を追いかけ回すことになる。

男(ますら)がヒソカに恋している清楚な同僚教師・清川碧(きよかわ・みどり)、ふだんはビジュアル系ロッカー風だが正体は巨大なマントヒヒの外見を持つ魔界の王子・魔道日比彦(まどう・ひひひこ)などが出そろうとこのテのマンガの定型パターンとなる。お話は「十字架もニンニクもきかない魔鈴を『愛』だけが退けることができる」というような伏線はあるものの、結末らしい結末もないまま終わる。徹底的にノーテンキなエロコメ。

(01.0408、滑川)




・「コットンプレイ」(2)(完結) 矢野健太郎(2001、リイド社)

コットンプレイ

コミックボナンザ、リイドコミック連載。片思いの男性を思い出しながらオナニーにふけっている最中事故に遭い、記憶喪失の霊体となってしまった水野琴美。彼女の姿(しかも全裸)が見えるのは松田武彦だけ、このため彼はなりゆきで琴美と同居することに……という設定の第2巻、完結編。

2巻からは、琴美の姿がデジタル媒体であれば見えることなどを解明してベタ惚れするようになるオタク・下田辺、松田の新しい勤務先の社員で松田に惚れてしまい、琴美との仲を裂こうとする霊能者・梅近麗美が活躍。話をどんどんややこしくする。

下田辺は霊体である琴美にどうすれば触れることができるか研究。琴美ソックリの1分の1ドール、コットンシリーズ人造ボディを開発、コレに乗り移ってもらえればHさえ可能だと主張。で、人形に乗り移った琴美とHするところをえんえんと妄想する。

「白く濁った淫らな牝汁の濃厚な味と香り、……と同時にシリコンラバーの清々しいケミカル臭が混ざり合って」「ああ、最高!」……と言ったりする。

……今まで、「人形が美少女に変貌する」、あるいは「美少女アンドロイドとHする」というマンガはたくさんあっただろうが、ここまで詳細に「人形とのH」について描いた作品があったであろうか??? いや多分ない。
たいていは徹底したプラトニックラブだったり、そのときだけ人間に変身したり、「セックスは人間そっくり」という機能が都合よくついていたりして、その「人間っぽさ」は強調されても「人形っぽさ」は強調されないものだ(せいぜいギャグっぽく首がとれちゃうとかそんな感じ)。

掲載誌の休刊によって打ち切りになってしまったようだが、このまま続けば「人間と人形のH」を実に細密に描くエロコメ、という未知の領域に到達したかもしれないのに、非常に残念な作品。
主人公以外のキャラクターも立っていて、2巻で終わらせるには実に惜しいマンガだったと思う。なお突然のラストは、作者お得意(?)のマルチエンディング方式(に近い)であった。

なお、琴美のライバル・麗美は「リイドコミック爆」において、「パート退魔 麗」という作品の主人公として再登場している。

「コットンプレイ」(1) 矢野健太郎(2000、リイド社)感想

「パート退魔(タイマー) 麗」全1巻 (2002、リイド社)感想

「セルロイドナイト」全1巻 矢野健太郎(1986、1995、集英社)感想

「シーラント」全1巻 矢野健太郎(2003、リイド社)感想

矢野健太郎感想ページ

(01.0405、滑川)



・「花右京メイド隊」(3) もりしげ(2001、秋田書店)

月刊少年チャンピオン連載。花右京家の家督をすべて譲られた太郎は、当主として屋敷で大勢のメイドに囲まれて暮らすことに……の第3巻。
ここまで来るともはや「SFおしかけ女房モノ」でも何でもなく、むしろ「ラブひな」などの昨今流行のギャルゲー的ラブコメの要素の方が強い。が、まあ固いこと言わずに。

この巻から褐色の肌に真っ赤な瞳、きれいな銀髪という美少女メイド・早苗八島が登場。ヒソカに警備部最高責任者(むろんメイド)の(つるぎ)を慕っている。また、太郎が恋するメイド長・マリエルの謎もチラリと登場している。今まで出てきたその他のキャラクターも、どんどん立ってきています。アニメ化もされるんですね。

・「花右京メイド隊」(2)

(01.0402、滑川)



・「ちょびっツ」(1) CLAMP(2001、講談社)

ちょびっツ

週刊ヤングマガジン連載。パソコンが人型になっている時代。バイトに明け暮れる浪人生・本須和秀樹は、パソコンが欲しいと思いつつ万年金欠で手が出ない。しかし、ゴミ捨て場である美少女型パソコンを拾うことになる。
機種が不明で「自作ではないか」というそのパソコンは「ちぃ」としか言わないので「ちぃ」と名付けられるが、パソコンに詳しいヤツに聞いてもその身元は不明。しかも都市伝説である謎のパソコン「chobits」ではないかという可能性も出てくる。

まあそれはそれで、「ちぃ」のかわいさにドキドキしつつ、「これは人間じゃない、パソコンなんだ」と自分に言い聞かせる秀樹なのであった。

みんなー、モエてますかー? マウスパッド付きの限定版の単行本を買いましたかー?(ちなみに私は普通の方を買いました)。連載当初からインターネットを覗いても、本作には並々ならぬモエエネルギーが集結していると見た。しかしまあ個人的には、いまひとつのりきれない部分があることも否めない。

それは、この作品世界の中で、人型パソコンがいったいどういう位置を占めているのかが今ひとつ明瞭ではないからだろう。単に「かわいいから」とか機能的な面のみの意味合いで美少女型なのだろうか。セックスまで代用することはできるのだろうか。人間に近いからといって、パソコンに恋をしてしまうことはタブーではないのだろうか……。

そこら辺がはっきりしていないので、秀樹がちぃの下着を買わなければならないときの葛藤などがスンナリ共有できない。通常のパソコンのオプションのようなものであればあそこまで恥ずかしがる必要はないわけだし、逆に何らかのタブーをおかしているのだとすればそれなりの説明がなければならないし。

もっともそうした問い自体が野暮であることは、本作の単行本の一部が「マウスパッド付き」として売り出されたことからもあきらかだ。ファンである読者は、連載第1回目から、作者や主人公の秀樹とまったくの説明なしに共犯関係にあるといっていい。
秀樹自身の口から「女ド○えもん」という言葉が出たように、彼自身がそうした物語の主人公であることを自覚しているのである。したがって、この第1巻にかぎっては、ちぃがいかにカワイイかという演出に力を入れればいいワケだ。

「人間はパソコンを擬人化して好きになってはいけない」というたぐいの言葉も出てきているので今後変わってくるかもしれないが、少なくともこの巻では読者はちぃのかわいらしさに身をゆだねていればよいのである。
(01.0226、滑川)



・「弁天様には言わないで」(5)(完結) 鶴田洋久(2001、集英社)

ビジネスジャンプ、ビジネスジャンプ増刊連載。第1巻はバンドのヴォーカルで作家の桧川亮(本名:花山大吉)の土瓶の中から、とつじょ弁天様が現れ、騒動を起こすという話。第2巻からは、悪役仙人として大黒屋懸巣(だいこくや・かけす)(男)が復活。弁天との過去の因縁が明らかになりそうなところで、話はいじめられっ子少年・橘未稀(たちばな・みき)へとさしたる前フリもなく移動。

未稀はもう一人の仙人・天門毘沙奈(あまと・ひさな、女)を復活させてしまう。弁天と彼女のご主人様である桧川亮はまったく出てこなくなり、同級生のイジメに耐える未稀が、毘沙奈の力を借りながら凶暴なイジメっ子・坂口青司と戦うという展開に。4巻のラストではひさしぶりに弁天も登場、ふたつに分離した話をどうまとめるのか? に期待を持たせるヒキとなった。

最終巻・5巻では、毘沙奈の力ですごいテクのギタリストとなった未稀が、亮のバンドに加入。世界を目指すコトとなる。しかしこの計画にはさまざまな人間や仙人の思惑がからんでいた……。

ダメ男に超常能力を持った美女がくっつくというパターンの「SFおしかけ女房モノ」だが、主人公格のダメ男が二人出てきて、しかも手を組むというのは珍しい。亮の「バンドで天下を取る」という野望はとどまるところを知らず、起死回生を狙うダメ男の焦りとルサンチマンを周囲にまき散らしつつ、お話はクライマックスの5千万人が見るという大コンサートへとなだれこんでいく。

未稀の人間的成長もなんとか描けたし、単行本化の際の描き足しで大団円を迎えることができたと思う。仙人との恋愛よりも、むしろ仙人との契約にすべてをかける人間の哀しさみたいなものが最終的にはテーマになっていた点で、「おしかけ女房モノ」というよりは悪魔と契約してどうのこうのみたいな話に近い作品。

・「弁天様には言わないで」(1)〜(2)

・「弁天様には言わないで」(3)〜(4)

(01.0122、滑川)



・「さらくーる」(1)〜(2) みた森たつや(1999〜2000、コスミックインターナショナル)

さらくーる

YOUNGキュン! 連載。A5。成年コミック。一人暮らしの大学生・要沢春巻(かなめざわ・はるまき、通称ハルマキ)のところに送られてきた怪しげな壺の中から、魔法使いのサラクールが出現。しかしハルマキが壺をあやまって割ってしまったため、もとの世界・エルキスに帰れなくなったばかりか、魔力をハルマキに吸い取られてしまうサラクール。
魔力をハルマキから少しずつ返してもらうため、やたらとHするサラクールであったが(魔力を返してもらうにはその方法がいちばんいいらしい)、魔法の国「エルキス」に帰る方法がわからずに、部屋に居候することになる。

第1回目はあまりに典型的な「SFおしかけ女房モノ」だが、回を追うごとにキャラクターがきっちり描かれていく。
異国で頼る者もいないサラクール(愛称サラ)の不安、そんな彼女を思いやるハルマキ。彼らの関係が次第にラブラブになっていく過程が実にイイ。また典型的な「ちょっとおねーさま系」な美少女魔法使い(名前は不詳?)と、ロリコンチックな子供の魔法使いさらだの出現が、何かの伏線になっているらしい。
そして暗い陰を背負っているハルマキの忌まわしい過去と、サラの国「エルキス」の様子。ドラマとしてはありふれている、しかし不幸なハルマキの境遇を真っ正面から描ききっているところや、このテのマンガではあまり問題とはならない「なぜサラはこちら側の世界にやってきたのか?」や「なぜエルキスに帰らなければならないのか?」が物語の太い骨になっているところなど、見所は多い。エルキスはハルマキたちの世界とまったく別の次元にあったのではないところが、物語の重要なポイントになっているのだ。

実はパラパラッと読み返して、「もしや……?」とラストについて予想してみたのだが、何にしろ続きを読むのが楽しみな作品である。オススメ。
(01.0116、滑川)



・「まもって守護月天!」(2)〜(5) 桜野みねね(1997〜98、エニックス)

守護月天2

少年ガンガン連載。中国に古くから伝わる「支天輪」という不思議な輪の中から、あらゆる災難をはねつける「守護月天」シャオリンが登場。中学生で一人暮らしをしている七梨太助のもとにやってくる。
シャオはむかーしの中国風コスチュームの美少女で、太助を「ご主人様」と呼んで仕える。さまざまな中国風超能力を使うことができ、「星神」という精霊をいくつもひき連れている。本来災難から人間を守る女神であること、現代日本についての知識がないこと、性格が無垢で無防備なことなどから、いろいろな災難?  が逆に太助にふりかかる。

2巻からは慶幸日天・ルーアンが登場。主人を災厄から守るシャオリンに対し、主人に幸福をもたらす女神と言われている。物に命を吹き込む「陽天心」という術を使うことができ、典型的なタカビーおねーさまキャラで、太助にまとわりついてむしろ迷惑を振りまく。ここにシャオの星神の一人である離珠(りしゅ)を合わせると、「天然ボケ」、「タカビーお嬢様」、「ロリっ子美少女」という王道パターンが成立する。

5巻まで読了。アニメも終わったし、どうなんでしょうか。人気的には一段落なのかな? 1巻を読んだ感想についてはここに長々書いたんですけど、読み進むうちになんだかハマってきてしまった。作者の描く女の子はかわいく、少しエロチックな感じ。チラリズムのなんたるかを心得ているような気もするし、女の子の足の描き方にこだわりを感じるんだよね。
お話はシャオリンや太助を巡る恋愛バトルが中心なんだが、シャオリン、ルーアン、美形の神主・宮内出雲(シャオが好き)、太助の後輩・愛原花織(太助が好き)、太助の友人・野村たかし(シャオが好き)、同じく友人・遠藤乎一郎(ルーアンが好き)もきっちり描き分けられていてなかなか面白い。

何より、5巻まででは展開にひとつの大きな柱がある。それは守護月天としての役割でしか太助を見ることができなかったシャオが、だんだん太助を恋愛の対象として見るようになってきてそれによって「個」を確立しつつあるというような、定番ではあるけどせつない描写である。
最初は「平安な世の中に主人を災厄から守る守護月天は必要ないのでは」という疎外感があり、それが解消されると今度は「太助を好きになってしまったために守護月天の役割をうまく果たすことができない」というジレンマが来る。この辺の描写がすごくいい。太助の方は年相応の女の子に対する反応の仕方なのは1巻から変わらないんだけど、シャオの方が変わっていく。

そうしたシャオの心の動きと、他のキャラクターをからませて学園モノとしての面白さを出した回の傑作としては、第5巻 第27話、28話「月から来た少女(前後編)」がある。

文化祭で太助たちのクラスが演劇「竹取物語」をやることになる。生徒としてシャオ、先生としてルーアン、購買部の売り子として宮内出雲も学校に来ているので、みんなが役をもらって練習する。ところが、みんなバラバラでなかなかうまくいかない。比較的目立たない存在だった乎一郎(ルーアンが好き)は帝(みかど)役をやることになり、かぐや姫役がルーアンであることもあり大いにはりきる。そしてやる気のないみんなを叱咤したり、学校に遅くまで残って練習したりする。

そんな乎一郎の姿を見て、シャオは「わかるようなわからないような」不思議な感覚にとらわれる。
わからないのは乎一郎とルーアンは主従関係にないからで、わかるのは乎一郎がルーアンをとても好きだということをシャオは知っているから。つまりシャオは「女神と主人」という太助との関係とは別に、太助に対し自分に恋愛感情が目覚めてきていることを、乎一郎の行動を通しておぼろげながら自覚していくことになる。この辺がうまい。
また、文化祭当日の演劇を通して乎一郎、ルーアン、そしてシャオの関係を描いているのも面白い。「いちばんコドモ」と思われていた乎一郎が、実は「意外にオトナ」ではないかと匂わせるところなんかも、脇役がキャラ立ちしていく過程を表現していてとてもイイ。

本作のストレートな読者対象は中学生くらいの男子だと思うが、コレを読んで見果てぬ夢を抱いてください。そしてトシをとってからザセツしたり恥ずかしくなったりしてください(笑)。ボクは黙って見ています。でもホント、本作はイイです。
(00.1219、滑川)



・「ナズミ@」(1) 岸みきお(2001、小学館)

ナズミ

週刊少年サンデー2000年46〜50号、2001年1月増刊号掲載。河津郭志(かわづ・ひろし)はボクシングをやっているが、メール友達のウサギさん(もちろんハンドルネーム。メールのやりとりのみで顔も見たことがない少女)に誘いのeメールを出そうか出すまいか悩んだりする、ちょっとウジウジした少年。
ある日、パソコンから謎のプログラムが届き、それが美少女NAZMIに実体化。彼女は、どうやら「キス」によって個人データを採取するプログラムらしい……。

読んだ最初の感想は……15年くらい前のマンガかと正直なところ、思ってしまった。絵柄が北沢拓をちょい古めかしくしたような感じなのと、ナズミが自分のことを「僕」というところなど……。またナズミのコスチュームもなんつーか、もうちょっとなんとかならんもんかとも思うし……。もしこれをメール云々の設定を取り除き「85年の作品」といったとしてもわからないのではないかと思う。

しかし、回を追うごとになかなかよく考えられたシチュエーションコメディーになっていく。
実はSFおしかけ女房モノには、シチュエーションコメディーとして機能しているものは大変に少ないのだ(実はそれ自体が重要な問題ではないところが、「SFおしかけ云々」を含めた少年・青年ラブコメのマカフシギなところなのだが)。

ナズミの性格や能力(無邪気、好奇心旺盛、郭志をサポートしようとしている、プログラムを操る、電線を伝ってどこへでも移動できるなど)が次第に詳しく描かれ、郭志の顔も見たことがないメル友・ウサギさんへの彼の思慕、ナズミの能力を使ってウサギさんの正体をつきとめようと考える郭志のようすが描かれていく。

郭志、ウサギさん、ナズミの関係もバランスよく描かれていて、ウサギさん=宇崎さん(郭志のクラスメート)、だとバレそうになってバレないとか。いまだ顔も見たことがないウサギさんと会うには、郭志はボクシングの試合に1回でも勝って自信をつけたいとか。ダサイメージの宇崎さんは、実はめがねとってめかしこむとキレイだとか。
宇崎さんが自分を好きだとは知らず、ただ「好きな人がいる」ということだけはナズミから聞かされていて、宇崎さんにズバリと「好きな人がいるから自分と同じ仲間」と言っちゃう鈍感な郭志とか。いい。

そして週刊での最終回。「ボクシングの試合で勝ったらメル友のウサギさんと会う」と決心した郭志、だが試合当日ガチガチに固くなってしまう。それを何とかしようと考えるナズミ。
果たして彼はウサギさん=宇崎さんに会うことができるのか!?

……実は短期連載を通して読んでみて、意外なほど面白かった。ヘンに未完にせず(最近はそういうことも多いので……)ちゃんとまとめていたし、イイ意味で裏切ってくれたし、郭志とウサギさん=宇崎さんとのラブラブ関係の中にちゃんとナズミを入れているし。言い方は悪いけれど、何かすごく拾いモノをした気がして楽しい全5回だった。

このマンガの作者は着実に読者との距離を詰めていくようなタイプだと思う。派手さはないけれど、とても懐かしい感触がある。連想するのは、昔のマンガ家だとあや秀夫とか。
いや、サンデーだから中高生に受けねばならんのだろうけど。

なお、増刊サンデー超(スーパー)の12月売りの号で連載が再開。おそらくその第1回も本書に収録されている。

・「ナズミ@」(2)(完結) 岸みきお(2001、小学館)

(00.1122、01.0405、滑川)

ここがいちばん下です
「SFおしかけ女房その7」
「SFおしかけ女房」もくじに戻る
「ぶっとびマンガ」電子版その2
「ぶっとびマンガ」電子版
トップに戻る